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第34話「ヒヤヒヤの文化祭」

 


 9月。


 学校は文化祭の準備で慌ただしかった。


 君野(きみの)堀田(ほった)のいる1年2組の出し物はお化け屋敷。しかし準備は順調とは言えない。


 女子はSNS映えするお化け屋敷、男子は昔ながらの王道のお化け屋敷を主張し、意見が真っ向から対立していた。


 結局、女子側の案が押し切られそうになり、不満を募らせる男子も出始めている。


 そんな中、女子から比較的協力的な男子が集められた。


 俺や君野、そしてイエスともノーとも言わない白黒(しろくろ)たちも、その輪に加わっていた。


 今はコスプレ衣装用の古着を囲み、それぞれ物色している。


「お前はこれでもいいんじゃないか?」


 堀田はふざけて、女児向けの魔法少女の衣装を君野に当ててみせた。


「これ? こんなの着たら、おばけじゃなくて不審者じゃない?」


「はは! うまいな!」


 そのやり取りを聞いていた女子が声を上げる。


「それならさー、君野くんプリンセスでいいんじゃない? ほら、高野(たかの)さん男装したいって言ってたじゃーん!」


 古着を囲む女子たちが一気に盛り上がる。


 肝心の本人は置いてけぼりのまま、君野があわあわしている間にも話はどんどん進んでいった。


「ねえ、コンセプトをそろえようよ」


「いいね! 呪いの屋敷なら舞踏会とかどう? 貴族と執事で分けたら映えそう!」


 あれよあれよという間に話がまとまり、ひそひそ相談していた女子たちがこちらを向く。


「君野くんはさ、シンデレラがいいんじゃない?」


「シ、シンデレラ?」


「そうそう! でも今回はおばけだから、お姫様になれないの。魔法使いにも会えないまま、未練を残して死んじゃったシンデレラ! どう?」


「……ああ、うん」


 穏やかに受け止めようとした。


 それでも、喉はうまく鳴らなかった。




「いや、ひどい目にあったな、ほんと」


 文化祭準備が終わり、作った物を空き教室へ運ぶ途中。


 廊下を歩きながら、堀田がため息をつく。


「君野は良かったのか?」


「なにが?」


「願いが叶わないシンデレラなんて言われてさ。屈辱的だったろ?」


「ううん。別に、お化け屋敷で目立ちたいわけじゃないし。これ以上波を立てても仕方ないよ」


「まあ、そうだな……」


 女子に押し切られた結果、堀田も舞踏会で女子と踊る幽霊役の1人になっていた。


 花形の役ではある。


 だが、それが余計に引っかかった。


 もし君野が本当にシンデレラなら、俺が魔法をかけてやれるのに――。


「安心しろ君野。お前はシンデレラになれる!」


「え? 僕、シンデレラじゃないよ」


「俺にとってはシンデレラだ! 間違いなく!」


「……でも、ボロ切れだもん」


 君野は唇を噛む。


 本当は少し、不貞腐れていた。


 そうだよな……!


 でも俺はタキシードを着た王子様だ。


「当日、楽しみにしてろ。絶対に俺が魔法をかける」


「本当に?」


「ああ! それに、俺にとってはどんな格好でもご褒美だ」


「ボロ切れでも?」


「ああ。なんていうか、すっぴんでもメイクでも二度おいしいだろ?」


「ふん」


 君野は鼻で笑う。


 その時だった。


 2人の横を、きいろが段ボールを抱えて通り過ぎる。


 一瞬だけ視線が合った――気がした。


「なんだよ!」


 堀田が声を荒らげても、きいろは振り向かない。


 そのまま移動教室へ消えていった。


「けっ!」


 当日、怖いのはおばけでもなんでもない。


 タキシードを着たあいつだ。


 近づけさせるかよ。


「どうしたの? 堀田くん」


 堀田は君野を取られまいと、その手をぎゅっと握った。




 そして数日後。


 学校は文化祭当日を迎え、校舎は浮き立つような空気に包まれていた。


 廊下にはさまざまな出店が並び、色とりどりの飾り付けがお祭りムードを演出している。


 生徒たちも、それぞれの役に合わせた衣装に身を包み、校内はいつもとは別世界のようだった。


 一方、1年2組のお化け屋敷では、堀田が受付を担当していた。


 当日に欠勤者が出たため、午前中の1時間だけ受付を任されたのだ。


 とはいえ、クラス内のわだかまりは、お化け屋敷にもそのまま残っていた。


 前半は舞踏会風、後半は和風――。


 男女それぞれの案を無理やりつなぎ合わせた、どこかちぐはぐなお化け屋敷になっている。


 それでも当日になれば、そんな空気など気にならないほど、みんな文化祭を楽しんでいた。


「堀田くん、カッコいい!」


 ここ数日ですっかり俺の恋人になった君野は、古着をつぎはぎしたロングエプロン付きのドレス姿だった。


 昔の西洋の召使いを思わせる衣装に、頭には三角巾。顔には泥と血のメイクが施されている。


 どこか、本当に誰かの"残り物"みたいだった。


 可愛い。


 むしろ保護欲しか湧かない。


「俺、受付なんだと」


「え! じゃあ、一緒に中へ入れないの?」


「交代制だから。なあ、あとで一緒に写真撮ろうな」


「うん!」


 本当なら、暗がりで怖がる君野の手を握る予定だった。


 あわよくばキス。


 2人きりの秘密の場所で、俺だけのシンデレラにしたかったのに……!


「はあ……」


 受付からは、しばらく動けない。


 君野、一人で大丈夫か?


 そう思っていた時だった。


「ねえ、あれ見て! かっこよくない?」


 おばけ役の女子たちが、なにやら黄色い声を上げている。


 視線の先には、タキシード姿の白黒きいろが立っていた。


 結構似合ってる……。


 いつものアウトローな雰囲気は消え、着慣れない服を着せられた犬みたいに、おとなしい。


 ……不安が募る。


 堀田は慌てて近くにいたドレス姿の女子へ声をかけた。


「なあ、白黒ってどっちなんだ? 俺と同じ受付?」


「おばけ役! 中で私と踊るの!」


「そ、そうか……。君野とは離れてるよな?」


「うん! きいろくんと私は前半! 君野くんはその先!」


 大丈夫だよな……?


 あいつが中で君野を襲って、暗がりで何かしようなんて思ってないよな……。


 堀田は、ごくりとつばを飲み込んだ。


 そして、いよいよ文化祭が始まった。


 学校は生徒や保護者でにぎわい、1年2組のお化け屋敷にも次々と客が訪れる。


「いらっしゃいませー! 摩訶不思議なお化け屋敷、どうですかー!」


 堀田の鮮魚店さながらの呼び込みが、1年生の廊下に響き渡った。



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