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モンスター協奏曲  作者: 東京小町
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涙のエース


 二年生メインのシートノックが終わると、今度はサポートしてた一年生達が守備につく

 モチベーションが高くない一年生でも、そこそこは守れる。


 高校硬式野球部に入るだけあって、それなりのスキルはある

 が、やはり当たり前だが二年生と比べると、見劣りしてしまう。


 正直、私と同じレベル…いやセカンドだったら私のが上手いかもしれない。


 みんな軟式上がりなのでしょうがないのかな


 本当はこれからレベルが上がってくるのだけど、廃部予定の部活だからそれは期待出来ない


 ただ、センターを守ってたドMの牧野さんがなかなか上手い!


 これは侮れないぞぉ




 監督は一年生にもしっかりノックを打つ、楽しそうにプレーしている一年生を見るとホッコリする。



 シートノックが全て終わり、いよいよ期待のエースの投球を拝む

 その間、他の部員達は、レギュラーからトスバッティングを始めている。



 ブルペンから小走りで、佐藤さん登場


 プロ野球の抑え投手が登場する時みたいだ。


 トニーは、スピードガンの設定をしている。



「アントニー?アントニオ?どいて!邪魔」

 リナさんがネットをキャッチャーの後ろに設置する。


 トニーは何を言われてるかわからないので、ネットを設置してくれてるのをただ横目にみているだけ


 っておい、アントニーじゃなくてアンソニーだ!

 お辞儀の時にしゃくれるからと言って、アントニオでもない


 これはさすがに言わないと


「あの、リナさんアンソニーです、ちゃんと呼ばないと多分、本人気づかないので…」

「アンソニーのスペルを短縮して、私達はトニーって呼んでます、ニックネーム好きなリナさんもトニーって呼んであげればすぐ気づくのでよろしくお願いします」


「え?トニー?チョッパーかよ!」 


 頼むからトナカイにしないでくれ


「まぁ、いいや、オーケー」

 すると、トニーの元へまた行き


「トニオ!ミーリナ!リナね、よろしくサンクス」と、背中を叩く

 トニーは目をパチクリしてるが、「オーケーリナ」と握手を求めリナさんも応じた。


 トニオって…ま、いっか、コミュニケーションとれたし

 てか、リナさん、コミュ力高っ


 さっ、防球ネットもあるので真後ろから近くで見れる。


 佐藤さんが、マウンドに穴を掘りながら準備投球をしている。



 父が、プチスタンドから降りてきてこっちに来た

 やはり、父も近くで見たいんだな


 でも、なんか父の顔が冴えない


 こっちに向かって歩きながら、トニーになんかジャスチャーを送ってる

 トニーも、小刻みにうなずいて納得してる。


 なんだよこら、ハッキリ言え!




 監督、トニー、私、父で、ネット裏に貼り付く


 トニーはスピードガンを構える。


 いよいよ佐藤さんのピッチングスタート!



 ズバァン!


 速い!スピードガンを横から覗く

 いきなり145キロ!


 その後、ストレートを続ける

 平均140キロ台中盤

 ボールもなんだか、ズドーンってくる。いわゆるボールが重そう


 なんだけど、なんかなぁ


 フォームに躍動感がないとゆうか、全力で投げてないとゆうか…


 なんか物足りない



 変化球も投げた、コントロールもキレも抜群

 カクン!ストン!って感じ


 でも、やっぱり置きに行ってる感じがする。


 これだと、強豪校相手だと序盤はよくても、慣れてきたら打たれるんじゃ…



 慌ててファイルをめくる


 直近の大会は九月中旬の秋季大会のブロック予選

 初戦で強豪と当たり、敗退

 終盤に5点を取られて逆転負け


 予感的中だわ、私凄いかも



 15球位で、父が監督から了解を得て、投球をストップさせた。


 予定では、25球を投手陣4人で2セットの予定

 どした?父が絡んでるからなんか嫌な予感がする、とゆうか、確定演出じゃん


 父が、佐藤さんを呼ぶ


 佐藤さんは、マウンドから小走りで駆け寄り帽子をとり高校球児らしく姿勢良く立つが、顔は険しいとゆうか苦悶の表情


「どこか痛めてるよね?」


 ほらキタ確定演出、当たりだ。




 しばらく、沈黙が続くが佐藤さん覚悟を決めたらしく

 佐藤さんが、話出そうとする。


「ちょっと待ってください佐藤さん、私訳しますので、途中途中区切りながらでお願いします」


 トニーにも聞かせなきゃなので、私が割って入る。


「どうぞ佐藤さん」

「背中を痛めてます」

「いつから?」

 などの父の問診が始まる。


 詳細


 中学三年の頃に初めて痛みが走った


 当時は投げ終わった後に痛みが出て、熱い風呂とかに入ると治ってたから、とりあえずはごまかして投げてた


 投げ込みすると必ず痛くなってきた

 私立の厳しい練習は難しいと判断して、この高校を選択した


 なるほど


 高校入ってからは、練習は任されてたので無理な投げ込みをしなかった成果か、痛みは和らいでいた


 でも、この前の夏の大会の試合で激痛が走った

 それからは、少しピッチングするだけで痛みが走るようになった


 全力で投げなければなんとか耐えることが出来てたが、最近はそれもキツくなってきた


 バッティングにも影響出てきた


 まだ病院には行ってない


 佐藤さんの聴き取りが終わると

 今度は名取監督から補足が入る


 佐藤さんは、桜水ラインだけど中学は部活ではなく、硬式クラブチームに所属

 そこは全国優勝も狙えるチームで、佐藤さんは中三の時そこのエースだった


 そんな投手が桜水高校に来たもんだから、監督は大いに喜んだと言う


 能天気だなぁ、なんかあると思うだろ普通

 と、きっと聞いてるみんなが思ったはず


 佐藤さんには、高一の夏の大会から公式戦全てほとんど一人で投げ抜いてもらってきた

 結果からすると、私立の激しい練習は避けたがそこまで強くない公立高校に来てしまったため、負担が余計にかかってしまった


 名取監督は、異変はなんとなく気づいていたが、本人が何も言ってこないため任せていたと言う。



 うーん、なんかシビアな話だ。


 父が、佐藤さんの身体を触り

 どの当たりが痛いかチェックする

 さすが、コンディショニングコーチ

 おそらくもうブルペンの時に父は気付いてたんだな。



「こりゃ背中じゃない、腰だ」


 痛みの原因はおそらく腰だ、と判断した父はすぐ知り合いの病院に電話をかけ始めた



 電話を切り


「月曜日空いてるかい?とりあえず病院紹介するから行ってきな、そこはプロ選手も行くから信用できるよ」

「とりあえずは、検査してもらってその結果次第、それまでは練習一切禁止だよ!」



 一呼吸置いてから佐藤さんが

「月曜日行かせていただきます!」

 すると、佐藤さんが泣き出した


 ガン泣きだ、甲子園で負けて土を集めてるかのように


 辛かったんだな、色々背負ってたのかな


 過度の周りからの期待、それからプレッシャー

 俺が投げないと!の責任感


 しかも、佐藤さんはキャプテン 

 打線も中軸を打つ


 誰にも相談出来なかったのは、容易に想像がつく 


 大人ぽく見えてもまだ高校二年生、子供だ


 このプレッシャーからの解放


 また、この悩みに気づいてくれたことへの感謝


 全て溢れてきたと思う


 もらい泣きしそうになった


 周りのみんなも、異変に気づき固まってる。



 が!春樹さんがタタタっと佐藤さんの横に駆け寄ってきた。


 佐藤さんは話が終わって、左手にグラブ、帽子を持ってる右手で涙を拭ってる

 春樹さんが、肩を抱き抱えながら


「辛かったな、気づかなかったわすまん」


 と言い、私達に会釈して佐藤さんをベンチ前に連れて行き、佐藤さんのクールダウンの相手を始めた。


 我慢してたが、私も目に涙が溜まった


 グラウンドに沈黙が流れる


 でも春樹さん、会話聞こえてたんだな、名取監督が声でかいから聞こえるか

 佐藤さんが途中で投げるのやめて泣き出す、あそこは固まって当たり前のシーン


 やはりあの人、優しいな


 私が絡まれてて、来てくれたのは女だからか?とも思ったが、関係なかった


 男女関係なく、本質的に優しいんだ


 沈黙流れる中、私だけが何故かうっとりもしてる


 はっ、これは違うよ優しいなぁと本当に思っただけ!


「キョーちゃん!英語うまっ!天才?」

「わたしー弟子入りできますか?」


 リナさんが場の空気を変えにきたが、またぶっ込まれるかと思ってビクッとした。


「ほら、みんな固まってないで練習再開!」

「チャンスだと思ってサボってませんかー?」


 リナさんがみんなに声をかけると、固まりを解除して練習を再開させた。


 あれ、なんも言ってこなかったぞ


 うっとりしてたの、リナさんならバレたと思ったのに


 あ、空気読んだのか

 そんなことも出来るんだな、とゆうことは後で言われるのか


 怖くなってきた


 

 控え投手の投球練習が始まった

 まずは二年生二人

 うーん、しっかり投げてるけど、これだと勝ち上がっていくのは正直キツそう。


 まぁ、今後の伸びに期待だが、どのみち佐藤さん抜きでの甲子園は無理だ。


 最後一年生でチームでただ一人のサウスポー小林さん

 身体が小さい、多分一番小さいかも

 私160センチ位だが、見た感じあまり変わらない気がする。


 データは167センチ


 これ、盛ってるだろ


 とりあえずサウスポーって理由だけで、ピッチャーをやらされてるような気がする。


「お、コバの番じゃーん」


 リナさん再び登場


「あいつの顔見て、眠そうじゃね?うちのチーム眠たそうな顔のやつ多いけど、コバはレベチだよ」

「まつ毛がさぁ、ラクダみたいじゃん?しかもぉ、眉毛ぶっといから、もう寝てるようにしか見えなくね?」


 あまりにも誇張してるが、似てる部分もあって吹き出した。


「でも、あいつさぁ、眠そうな顔してるじゃん?」

「だけどね、投げる時の表情がね…」


 リナさんの顔が真面目になる


 私も、うん…と、唾を飲む ゴクリ


 小林さんの投球が始まる…


 投げた!


「結局眠そうに投げるの!」


 ウケた

 二人でケラケラ笑う


「コラ!練習中になにふざけてるんだ!」


 名取監督がノックバットの先でリナさんの頭をコツン

 ついでに私もコツンされた!


 マジ飛び火


「痛いなー!傷害で訴えるぞ!残りの人生刑務所にしてやる!」


 さっきのロジンの件を思い出したかのように逆ギレするリナさん

 んで、近くにあったボールを持って投げつける真似をする

 監督はノックバットで打つ真似をする


 みんな、笑いだす


 さっき泣いてた佐藤さんも笑ってる


 マウンドの小林さんもグローブを口元に添えて笑ってる

「コバー!何笑っっってんだよ!オメーのせいでうちらセクハラされたんだからな!責任取れや!」


 セクハラではないし、小林さんは何もしてません、それにうちらって…


 飛び火やめろ


 まあ、でも重い空気を一瞬で変えたりすることが出来るこの人


 私は一生仲良くしたいと思った。


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