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モンスター協奏曲  作者: 東京小町
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77/86

番外編 工藤再生


 スタスタスタスタ


 生、葉山翔子の後ろ姿を拝みながら後を歩く


 確かこの人、四十越えてるよな

 すげぇな、このスタイル

 どうゆう生活送ってるんだろ


 少し茶髪のショートボブヘアー

 うなじが見えそうな後ろ髪とは対照的に、頬が隠れそうな長めの横の髪の毛が、少しカーブを描いている


 葉山翔子カットってやつ


 普通に綺麗、さすが杏子ちゃんの姉って感じ

 人気女優だもんな

 で、確か社長だっけか、この前ニュースで会長になったとか言ってたか


 しかもお飾り社長じゃなくて、経営手腕、プロデュース手腕が凄い

 情熱大陸で、密着されてたのを見た


 上司にしたいランキング、殿堂入り


 で、独身、色恋ネタ一切なし


 まぁ、なんとなくわかる

 こんな人にアタック出来る猛者は、芸能界やIT社長でもいないと思う



 墓地の敷地内から外に出ると、目の前に色鮮やかなゴールドとブラックのツートンカラーの重厚感溢れる高級車がハザードランプを付けて止まってる


 すぐにわかった、これが葉山翔子の車だろう


 凄い車


 ベントレーセダン

 超〜高級車


 マジかよ、幾らすんだよこれ

 って、余裕で買えるか


 近づくと運転手が出てきた


 背が高めの短髪のゴツい男性

 茶色い色眼鏡をかけている

 もう、ヤクザにしか見えない

 ベントレーからこの風貌が出てきたら、どう見てもヤクザ


「会長、そちらの方もご一緒でよろしい…え!四角い顔…ヤス?ヤスかよ!」


 は?


 こんな風貌の人にヤスと呼ばれるような知り合いなんていないぞ


「え?どちら様ですか?」


「ははは、俺だよ、梨田」

 と、言って色眼鏡を外した


「……!え?ナチ?」


「そうだよ、久しぶりヤス、元気にして…は、なさそうだな」


「ナチか!久しぶりだ!」

「お〜、高校以来か、ヤスは成人式来てなかったもんな」

 

 ナチこと、梨田

 桜水ライン出身

 中学も高校も同じ野球部

 中学の時は、ノブはクラブチームだったのでナチがエース

 高校の時は控えピッチャーだった

 ハルが追い越すまでは、このナチがチーム1の高身長

 それに、昔から筋トレが好きで、なかなかのゴツさだった


 体格とは反比例して、球はそんなに速くない

 でも、ブルペンに置いとくだけで、威圧感を放ち、充分ハッタリは、かませた


 それと、忘れてはならない

 このナチの最大の武器

 甲子園宿舎の男子大浴場を、パニックに落とし入れたあの大きさ


 そう、アソコがデカい!

 馬並み!

 それから、ビックナチスと呼ばれるようになっていた


 


「みんなどうしたの?梨田さんに拝んだりして、最近毎朝やってるよね」

「そ、そそそれは、あれだよ、うーん、杏子ちゃんにはまだ早いかな」

「ん?早いってなに!ドリさんなんか隠してんでしょ、私に隠し事なんて許さない!ハゲ!間違えた吐け!」


「私知ってるよ〜」

「え、リナさん!教えて!梨田さん宝クジ当たった?」


「耳かせ、腰抜かすぞぉ」

「うん!」


「梨田さんのおちゴニョゴニョがぁ、通常時でもぉ、ゴニョゴニョでぇ、クソ太くてクソ長えんだって」

「わ〜お〜」


「見たい!梨田さん見せて!竜斗とどっちが大きいか比べる!」

「杏子!」

「あ、そか、竜斗、サーセン、でも、エロい目じゃなくてぇ、竜斗とのブツとどう違うか見比べたいの!」

「杏子!」

「うるさい、早く!梨田さん見せて!竜斗だってそこそこ大きい…あれ?他の人の見たことないから、大きいのかな?いや、きっと大きいもん!負けないもん!」

 

「杏子!」

「なに!」

 

「キョウちゃ〜ん、溜まってんのかなぁ、しょうがないか、甲子園にいる間は、ヤルどころか見れないもんねぇ、ハルちゃんの大きさ教えてくれてサンキュー!ってマジポンコツ女、バカキョン、ウケる」


「は?…ん?…あ」

「杏子、もうここまでくると病気だよ、病院で見てもらお」

「前向きに検討します」





 つか、なんでナチが葉山翔子の運転手?

 事務所の社員ってことか


 いや、コイツなかなかの秀才だったぞ

 良い大学行ったよな


「ナチ、どうした、油を通す海底トンネルを作るんだ、って言ってただろ、なのになんで?」


「私が引っこ抜いたの、杏子の騒動の時に会いに行ったら、アンタほどじゃないけど、なっち悩んでたから、んで、話を聞いて、交渉してうちに来てくれたんだよ」


「うん、俺さ、入った会社で社内恋愛しちゃって、子供出来て結婚したんだよ、でも、入った会社は海外専門だから、俺も設計のスキルが上がったら海外赴任が待ってる、もちろん単身赴任、悩んだよ、子供かわいいし、奥さんと離れたくないし、で、誘われて来たんだよ、この身体活かせるとも言ってくれたしな」


「なるほど」


「そ、なっちは今〜、車両部ね、うちけっこうデカくなっちゃったから、車も増えたからね、なので〜、社用車の管理!兼、私の運転手君!兼、私のボディーガード!兼、マネ補佐!だよ」


 兼、多いな


「マジでここ来て良かったと思ってる、畑が違い過ぎて最初は大変だったけど、給料良いし、会長がこうゆう人だから、事務所の人間関係めっちゃ良いしな、ヤス、何か悩んでるのは俺でも見てわかるぞ、会長が話聞いてくれるんだろ?しっかり聞いてくれるから、ブチまけな、ブチまけてスッキリしな」


「わかった、ありがとう」

 


 パタ、カチャ


 葉山翔子と後部座席に座ると、ビックナチスがドアをそっと閉めてくれて、最後はイージークローザーで静かにドアが完全に閉まる


 うわ、車内すご、かっこいい


「で?線香どこで買ったの?家から持ってきてねーだろ、ライターにシール貼ってあるし」

「え?あ、はい、駅から、ここに向かう途中のコンビニです」


「じゃあ、そこだな、そこに捨てたんだろ」

「え!はい」


「なっち〜246の角にあるファミマに向かってー」

「了解です」

「で、合ってるよね?工藤君」

「はい、その通りです」

「オッケ、まだ捨てられてないだろ、拾いに行くぞ」

「はい」


 

 コンビニ前に到着

 車を降りると、葉山翔子も降りてくる

「は、葉山さん、俺一人で行きますから、大丈夫ですよ」

「うっさい、ついて来い」

「わかりました」


 店内に入る

 店員が葉山翔子を見てビビってる

 サングラスしろよ、頭に乗っけたまんま、レジ前にツカツカ

 

 この辺なら、普通に芸能人なんてチョコチョコ見るはず、それなのにビビってる、でもそれは納得できる


「すいません、この子が間違えて大事なものを捨てちゃったみたいで、ゴミ箱漁らせてくださーい」


「……」店員


「あ、そか、いきなりゴミ箱漁らせろは、ビックリだよね、ごめんなさい、防犯カメラ見て、たぶんこの子が捨てちゃってるの映ってるから、お願い、大事なもんなんだ」


 はぁ、店員さんが固まってるのは、葉山翔子だからですよ

 だから、一人で行くって言ったのに

 大丈夫だよ、もうとっくに死ぬ気なんて失せてるよ


「あのっ!」

「は、はい!ごごごご自由にどうぞ」

「あ、そ?あ、でも、どう開けていいかわからないから教えてくれます?」


 店員さん立ち会いの元、ゴミを漁る

 すぐにスマホと財布が入ってる紙袋が出てきたので、取り出す


「ありました」


「オッケ〜、工藤ちゃん、カゴに飲み物適当に10本くらい入れてきて」

「了解です」

 

 なんだろ、この人に命令されると、身体がスッと動き出す、気持ちいい、ドMとかじゃない、ほんとに気持ちいい


 ジュースをカゴに入れて持っていく

 葉山翔子がレジを済ます

「店員さん、ご迷惑をおかけしました」

 葉山翔子が礼をするので、俺も慌てて礼をする

「いえいえ」

「これ、みんなで飲んでください、迷惑料!」

「え?」

 ツカツカツカツカ


 困惑する店員を後にとっとと店を出る

 かっこいい

 しかも、学生ぽいアルバイト相手でも、上から目線はしない、芸能人ぶらない

 さすが上司にしたい殿堂入りだ

 俺も付いて行きたくなる


 車に戻る


「うーん、なっち、新館は、今日コバッキーいるよな」

「はい、リナも赤ちゃん連れて来てますよ、避けた方が良いですね」

「オッケ〜じゃあ、旧館の私の部屋にするわ、なっちよろしく」

「了解です」


 俺との遭遇を避けてくれたんだな

 ん?って、あとゴーもそうだし、もちろんハルも杏子ちゃんも、んでナチ

 この事務所、桜水多い



 会長室とやらに二人で入る


 テーブルを挟んでソファーが向かい合ってる


 バフッ


 葉山翔子が勢いよく、ソファーに座る

 そして、なっっがい足を組む

 でた、世に有名な葉山翔子座りだ

 

「そこの冷蔵庫から、水取って、あと色々あるから好きなの取りな」

「了解です、ありがとうございます」


 水と午後ティーを取る


「座んな」

「はい」

 対面に座る

 

「だいぶ顔色良くなってきたね、少しは落ち着いたか?」

「はい、だいぶ冷静になってきました」

「そっか、良かった、じゃあ先に、直鷹と私の関係の話をするよ」

「はい」


 タカちゃんの出生の秘密等を細かく教えてくれた



「ビックリしました、話聞けて良かったです」


 驚いた

 でも、少し納得が行く所もあった

 あの日、杏子ちゃんが初めて桜水に来た日だ

 最後、突然ハルを相手にバッティングピッチャーを始めた

 みんな、女子がしっかり投げてることにビックリしてた


 もちろん俺もそうだったが、俺は違うところにもビックリした

 コントロールが良いのと、あの綺麗なフォーム

 誰かに似てると思ったから、見惚れた

 その後、みんなが守備についたが、俺はムカついて帰った


 その後も、杏子ちゃんのバッピ姿をけっこう見てきたが、誰かに似てるんだよなぁ、特に左手のグラブの使い方…って思ってた

 段々、杏子ちゃんのバッピ姿は当たり前になってきたので、その謎は薄れ、忘れていった


 でも、今繋がった

 あのフォーム、タカちゃんにそっくりだ

 そっか、兄妹だもんな、知らず知らずに似るのもうなずける


 俺とタカちゃんとハルは、小三、小四は同じクラス

 五年六年は、俺だけ別になった、そのタイミングでゴーが転校してきて、ゴーはハルやタカちゃんと一緒のクラスになった


 そこから、うちのクラスとタカちゃん達のクラス対抗で、運動公園でよく野球をしてた

 タカちゃんのクラスのライトは、よくはづきが守ってた

 あいつもなかなか上手かった、ハルよりはづきのが打ってたかもしれない

 タカちゃんはピッチャーをやってた

 めちゃくちゃコントロール良いし、綺麗なフォーム

 遊びの野球なのに、ボール球がほとんどなかった


 当然、俺とハルは自分達の少年野球チームに誘った、鬼のように誘った


 別のチームのゴーも誘ってた


 ダイ(大沢)は俺と同じクラスだった、今はプロ入りしてるダイもタカちゃんのことを認めてた


 なのに、遊びでしか野球をやらなかった


 でも、葉山翔子の話を聞いてなんとなく納得出来た

 優しいタカちゃん、新しいお父さんの手前、野球大好きなのを隠してたんだ

 新しいお父さんとお母さんが、上手く行くようにそっと我慢してたんだ

 あとは、あれかな、野球も金かかるから気を使ったか


「工藤ちゃん、この話はみんな当然知らない、知ってるのは私と直鷹と直鷹のお母さんだけ、直鷹の新しいお父さんも知らないと思うし、杏子も知らない、竜ちゃんはヌボーってしてるけど、察しはいいからたぶん気づいてる、でも知らないフリをしてくれてる」


「はい」


「工藤ちゃんに、こんな内緒話を流れとはいえ、してしまった、まずは口外は絶対にしないで」


「もちろんしません」


「うん、ありがとう、私はしっかり腹割ったよ、だから、ね、工藤ちゃんも腹割って、私に話をして、死ぬなんて尋常じゃないよ、洗いざらい話をして、スッキリしな、話をすることで、自分を見つめ直すことも出来るよ」


「ありがとうございます」

 優しい言葉が心に響く



 自分の現況、自分が今まで何をしてきたのかを話した

 

 ハルをコケにしてきたり、杏子ちゃんを置き去りで逃げたり、監督に嘘つきまくったり、ハルにボコボコにされたり、それから親父の話、今の借金まみれの話を全て包み隠さず話をした


 全部話をするのに一時間以上かかったかも

 午後ティーは半分になってる


「以上です、ありがとうございます、つっかえが取れました、自己破産でもなんでもして、実家に帰って母親に話をします」


「まぁ、それが一番かな」

「はい」


「借金の金額わかってる?全て把握してる?なんぼ?」

「端数切り上げて1780です」

「ん?ちゃんと把握出来てるんだ、普通そんだけごちゃごちゃしてると、わけわかんなくなるんだけどね、滞納分乗っけるとなんぼ?」

「滞納してるのは、携帯だけです、店の家賃は絶対に待ってくれないので、払ってあります」


「そっか、竜ちゃんとはラインとか繋がってるの?」

「はい、繋がってはいます、滅多にラインはしませんけど、メジャーデビューや、オールスター出場の時、あとさっきワールドシリーズ制覇おめでとうって、節目の時になんかしらお祝いメッセ送って、ありがとうって返ってくるワンターンのやりとりをするぐらいです」


「ふぅーん、竜ちゃんが大富豪なのはもちらん知ってるよね」

「あ、まぁ、報道見てですけど」

「なのに、なんで竜ちゃんに無心しなかったの?おそらく何も言わずに貸すぞアイツ」


「もちろんそれも考えました、でも返せるアテがないんですよ、まとめて借りて一本化にしたとて、また足りなくなるのが目に見えてました、そうするとまたハルを頼る、返せないのに借りるは、詐欺です、ハルを利用してしまいます、そこだけは、ノミのプライドで踏み止まりました」


「そっか、うん、うん、アンタまだ大丈夫、死んでない、立ち直れるよ、ハート活きてるよ、直鷹のお墓参りに来てよかったね、首の皮一枚つながったよ、それから…」

 

「あ、はい」


「さっきは言い過ぎた、すまない、謝る、ごめんなさい」

「いえいえいえいえいえ、こちらこそありがとうございます」


「で、あなたの再生プラン立ててあげる」

「え?」

「借金は私が一旦、まとめて返してやる、二千渡すから、綺麗にして残りは、自分の新しいスタートの準備金にしな」

 

「はい?いやいやいやいや、ありがたい話でけど、この先返すアテがないんです、どんな仕事するかも決めてないですから、月々の返済にしても微々たるもんしか返せません、それこそ完済がいつになるかわかりません」


「工藤ちゃん、変な言い方するね、気を悪くしないでね、私が竜ちゃんと杏子の成長、プロデュースに関わってるのは知ってる?」


「はい、テレビ見てですけど」


「うん、考えてごらん、工藤ちゃんは、竜ちゃんがビックになった事に大きく関わってる」

 

「はい?」


「まず、竜ちゃんを野球に誘ってくれた、そしてネチネチ竜ちゃんをイジメてくれたおかげで、竜ちゃんは補欠で冷凍保存されてた、そして、甲子園で竜ちゃんを助けて、竜ちゃん泣かせて、感動の涙のエースに仕立ててくれた、おかげで今でもあのシーンはショート動画が多く上がってる、んで、あのホームランが無いと勝ててない、そう桜水は優勝出来てない」


「いやいやいや、それはちょっと色々こじつけですよ」


「そうだね、ホームランは奇跡として、他の行動は工藤ちゃんだからこそ、起こした行動、良いことも悪いことも、でもね、その行動が一つでも無かったら、もしかしたら、竜ちゃんは世に出てないかもしれない、出てても、こんなに価値は絶対に上がってない、そしたら私は並のまんまだった、会社はこんなに大きくなってない、二千をポンと渡せてない」


「は、はぁ、自分の悪態が少しは役に立ってたってことですか?」

「まあ、そんなところ、だから、信用貸し、工藤ちゃんの再生プランも思いついた、聞いて」

「わ、わかりました」


「ラーメンは諦められる?味はともかく、経営はもうやめた方がいい、飲食は難しいよ、個人店はほとんど十年持たないんだから」


「はい、キッパリ諦めます、もうこんな思いしたくありません」


「オケ、じゃあまず、二年!そのデリヘルのスタッフやりな、報酬とか気にしないで受けな、その間は返済はしなくていい、二年その世界見てきな、せっかく声をかけてくれたんでしょ、二年限定になるけど、働かせてくれってお願いしてきな」


「は、はい、でもなんで二年なんですか?」

「私はもう少しすると渡米する、二年くらいアメリカにいるからだよ、私が帰国するタイミングで、工藤ちゃんもデリヘル奉公やめて、うちに入りな」


「え!いいんですか?いや、是非やりたいです」

「オケ、今すぐ雇ってあげたいけど、工藤ちゃんは私が再生させたいからさ」

「はい、是非葉山翔子さんの教育受けたいです」

 

「それに、デリヘルだって立派な仕事、良い経験になるよ、色んな女の子がいるはず、杏子みたいにメンヘラの子、すぐ怒る子、ホストを彼氏と呼んでる子、その子達を管理してくんだから大変だよ、でもそれが出来るようになれば、一皮ムケるから」


「はい、でも、自分、また下手な癖が出ないか心配です、紹介してくれた人の顔に泥を塗りそうで…」

「甘ったれるな!もうこれしか道ないんだぞ、そこは自分で解決しろ、もう大人だろ、しっかりやれ」


「わかりました!」

 その通りだ、俺に残された道はこれのみ

 しかも、二年後にはこの人の下に付いて働ける、やってやる、恩を返すんだ


「よし、まとまったね、よくここまで一人で悩んで頑張った、よく耐えた、でももう大丈夫、うちらは仲間だよ、他の桜水のやつらもきっと仲間だと思ってくれる、だから一緒にやるぞ!」

 

「はい、ありがとうございます、ほんとありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます」

 久しぶりに泣いた

 親父が死んだ時も泣かなかったのに


 俺は誓う、この人に一生ついていく

 一度死んだ命

 その命を拾ってくれた葉山翔子のために、ガムシャラになって尽くす!

 スターリバーだっけか、俺はこの会社に骨を埋める


「工藤ちゃん、給料天引きね、くれてやってもいいけど、他の社員の事もあるから、しっかり返してもらうよ」

「もちろんです!」

「ラーメン手当つけてやるよ、道具を新館旧館に用意してあげるから、暇な時さ、新館の社員や、旧館の若手にラーメン振る舞ってあげて」


「はい!ありがとうございます!」

 この人は凄い、やる気にさせる天才か?

 ナチも喜んで働くわけだ


「じゃあお金のやり取りやるぞ、まずお母さんには黙っておきな、ラーメン屋辞めるのは言っていい、借金のことは言うな、今はお母さんに下手な不安は煽らない方がいいから、でも将来、話してあげな、自分はどん底から這い上がったってね」


「了解です」


「寝るとこはあんの?」

「あ、ラーメン屋の休憩室があります、風呂はないですけど、近くの瀬谷に安いスパ銭あるので、デリヘルの寮に入るまではそこで凌ぎます」


「ん?支度金で部屋借りたら?」

「いや、本来なら、会長がいなかったら、寮住まいだったはずです、なのでそれを経験しておきたいです、車も借りれるので買いません、買っても足用のクソ安い原チャリをヤフオクで落とします、しっかりその生活を経験したいのと、少しでもお金残して返済にあてます」


「オッケーーー!気に入った、しっかり奉公してこい!」

「あざすっ!」


「葉山…会長、あのダメ元で最後にもう一つお願いを聞いてもらってもいいですか?ほんとに無理だったらいいので」


「なんじゃい、かかってこい」


「あの、宮杉も雇ってくれませんか?アイツこんな俺にずっと付いてきてくれました、安い給料なのに仕事辞めてまで付いてきてくれました、なのにこんな形で…アイツ仕事出来ます、器用でなんでもこなします、今仕事探してるんで、どうか雇ってあげてもらえないでしょうか?」


「オッケ〜宮杉君には、給料全て払ってあるの?」

「はい、そこはなんとか、遅れたことは何度もありますけど…」


「わかった!任せて、頼まれなくても欲しい人材だよ、だから安心しな、宮杉君には副社長の長谷川から連絡いくから履歴書用意して待っとけって言っておきな」


「ありがとうございます!良かった本当良かった」

「うん、よかったよかった、みんなハッピーだね、うちも良い人材ゲット、工藤ちゃんも宮杉君に恩を返せた、ウインウインだよ!」


「はい!」





「お電話ありがとうございます、デリバリーヘルスバツグンガールズ厚木店です、お電話番号からナイトウ様でよろしいですか?」

 

「ありがとうございます、本日お遊びのご予定でしょうか?」

 

「はい、レンさんですね、ご移動時間だけでお伺いできます、ナイトウ様のご予定はいかがでしょうか?」

 

「かしこまりました、では支度が終わり次第向かいます、本日も海老名のご自宅でよろしいですかね」

 

「ご利用コースはいかがなさいますか?レンさんは、後にご予約を頂いてるので、120分までのご案内となり…かしこまりました、90分ですと交通費込みで、二万六千円ですが、例えばお客様、レンさんとお会いするのは今日初めてなので、ネット指名になります、お得なネット指名込みの100分コースですと、千円しか変わらず二万七千円でお伺いできちゃいます…はい、ありがとうございます、では、100分で、到着まで20分ほどかかります、お待ちください」


「上手いねぇ、工藤ちゃーん、ここ90だと残り半端だし、アップ被るからねぇ、ファインプレー!」

「ありがとうございます店長」


「田中さん、今詳細送ったんですけど、レンさん入れて、20時の駅迎え間に合います?」

 

「マジすか、さすが俊足!じゃあよろしくお願いします」


「レンさんご準備お願いします」

「はぁーい、工藤ちゃん、このお客さんどんなひとぉ?」

「はい、履歴は三十件くらいで、キャストNGは無しです、部屋は綺麗で、キャストアンケートには責められ好きのイチャイチャ好きって情報が載ってます」

「ふぁーい、じゃっ、行ってきまぁす、あ、工藤ちゃん、オキニトークからの釣れたかも、後で相談よろしくぅ、ってあれ?車だれ?」

「レンさん行きますよ!」

「おっ、スーパードライバー田中さんだ、んじゃ」

「行ってらっしゃい!」



「お、妻の方の新規だ、工藤ちゃんよろっ」

「お電話ありがとうございます、ラブ妻厚木店です」

「ご新規様で宜しかったでしょうか?」


「はい、ご指名ございますか?特に無い場合は、フリーでのご案内も可能でございます、はい、ええ、それだとそうですね、だいたいの好み言ってくれれば、合わせますよ、まずはフリーでうちのお店を見て頂くのもアリだと思います」


「かしこまりました、え?180分ですね、か、かしこまりました、新規割り適用しますので、三万七千円でのご案内になります、別途ホテル代はお客様のご負担になりますので、

はい、ありがとうございます、では20分後ですね、ホテルとお部屋番号決まりましたら、またご連絡よろしくお願いします」


「おーー、まじか、新規ドフリーで180かよ」

「はい、胸大きめのお酒飲める子がいいみたいです、どうします店長」

「うん、だったら、椿ちゃん一択だろ」

「ですよね」


「椿さーん、新規よろしくお願いします」

「はーい、え?なにこれ、新規フリーで180?バカなのこの客」

「まぁまぁ、なんか一緒にお酒飲みたいみたいですよ」

「なる!じゃあ飲んだくれてくる!んで、パパッと抜いてくるわ〜」

「よろしくお願いします!」

「あ、椿さん、これで終わりにします?」

「うーん、続いたら行く、取っちゃって、からの〜送りよろしくぅ」

「了解です!」

「あと、次回の予定よろしくお願いします」

「うんとね…」




「うわちゃっ!」

「どうしました店長」

「七瀬さん休みだって、うわー参ったな」

「まじすか、今日予約で埋まってますよ、断りますか?」

「そうだなぁ、四件のうちの三件はガッツリ本指だから、俺が断りの連絡するよ、工藤ちゃんは二本目のネット指、振り替えできないかお客さんと相談して、二千円値引きチラつかせて誘ってみて」

「了解です!」



「ユズさんお帰りなさい!お客様どうでしたか?」

「うん、優しくて良い人だった、野球好きみたいで盛り上がっちゃった、次も指名してくれるって、工藤ちゃん、私勧めてくれたんだ、お客から聞いたよ、ありがとうね」

「いえ、こちらこそです、時間オーバーなのに行ってくれてありがとうございます」


「い〜え〜、あれ、そろそろ色葉ちゃん来るよね、東京シリーズどうだったのかなぁ、春樹様見れたのかなぁ、あーあ、私も行きたかったなぁ」


「おはよー!お、ユズちゃーん、見て見て、ほら!春樹のサインボール!」

「凄っ、え!どうしたんですか?買った?え、まさか本物?」

「うん、あとこれ、ほら、冬川京子のもゲッチュ」


「えーー!メンヘラ冬川京子のも?なんで?エキサイトシートパワー?」


 杏子ちゃんってメンヘラか?

 うーん、メンヘラか…

 

「そ、マジビックリ、最初さぁ、冬川京子が近くにいた変なデブと仲良く喋り出したのよ、そしたら!旦那も来たわけさぁ、目の前に春樹竜斗、一瞬で濡れたわ」


「ウケる」


 変なデブ、ドリのことか、かわいそすぎる


「で、目の前でその変なデブとキャチボール始めたの」

「あ、それテレビで見ましたよ、変なデブ、それ甲子園の時のバッテリー組んでた人ですよ!」


「そうなの?だからか、素人そうなのに上手かったもん、でさ、春樹がまたかっこいいし凄いのよ、肩を小さく回してシュルルルルルルって、スピンの効いたボールがくるのよ」


 色葉さんもユズさんも野球通だ


「キャッチボール終わったら、まさかの二人のサイン会、んで春樹に握手してもらったんだよ、でね、大好きです、かっこいいです、って言ったら、ありがとう、こんなかわいい人にそう言っていただけると光栄です、だって、もう死ぬかと思った」


「え?近くに冬川京子いたんですよね?修羅場になりませんでした?」

「あ、うん、後で覚えておけよって感じで春樹のこと睨んでた」

「ウケる」


「でもさぁ、冬川京子、あれはかわいいわ、サインしてもらった時も、ニコニコニコニコ、応援ありがとうございまーすって、めちゃくちゃかわいい笑顔、まあ、春樹がゾッコンなのもわかるよ」

 

「あのメンヘラ具合も結局はかわいいですからね、いいなぁ」


「サイン会終わって、仲良く寄り添って歩いていく姿見ると、うわぁやべぇ、お似合いすぎると思った、この二人、学生の頃からじゃん、もう出会いが神だよね」


「うん、はぁ、メンヘラでもいいから、冬川京子に産まれたかった、あの顔は反則だよ」


 メンヘラしつこいな


「その後、二人でキャッチボール、デブに投げてたボールよりも、全然速いボールを冬川京子が涼しい顔して、パンパン良い音鳴らして取ってるわけさ、あのかわいい顔で、もうずるいよ、神はいないね、不公平だね」


「ですよね、美人で野球上手いは反則です」


「で、今度は、春樹を守るように、バッティング練習のボールを華麗に捌いてるし、もうなにそれって感じ、でさ、途中、春樹の近くにフライが飛んできて、冬川京子がキャッチしたら、勢い余って春樹とぶつかりそうになって、それを春樹が冬川京子を抱くように支えたの、そんで二人とも笑顔で見つめ合ってんの、もうさ、そのままキスしちゃえ!って思った」


「ウケる」


「春樹の試合前のバッティング練習も凄かった、ホームランが当たり前のように、ポンポンポンポン飛んでいくのよ、ゲージの後ろに冬川京子がいたんだけど、一球一球、冬川京子となにか会話しててさ、冬川京子がアドバイスを送ってるんだよ、あのほら、甲子園の時のへんてこダンスだっけ?すると頷いてまたホームランポンポン、やばいよあの二人、あれ?これメジャーの試合だよね?そんな下手なダンスで通用する世界?って感じ」

 

 もうそれ、バッティングコーチだろ


「ウケる、バッティングコーチみたい、あーね、ショートにへんてこダンスで流れてきますもんね」


「オリバーもかっこいいよ、目の前通った時にオリバーー!って手を振ったら、ウインクされた、一瞬で濡れたわ」


「色葉さん濡れすぎ!」


「オリバーは、オリバーで冬川京子と元チームメイトでしょ、すげえよなぁ」


「そう、メンヘラずるい!」


「試合やばかった、春樹のスイング凄いよ、生で見るとマジでやばい、ホームラン打ったけど、もう凄い音、ありゃやばい」

「いいなぁ、生で見たかったぁ、今年頑張ってサンフランシスコ行こうかなぁ」

 

「サードもやばい、ファールフライを上とこっち見ながら向かってきてさぁ、そんで目の前で軽くスライディングしながらキャッチ!立ち上がった時に私と目が合ったね、即濡れたわ」


「色葉さん大洪水!」


「で、で、で、ピッチャー、マジやばい、登場曲もやばい、ほら、アメリカでは女の子が曲に合わせて腰振ってダンスしてるのよく見るじゃん、だからメッチャ腰振った、腰痛くなった、仕事出来ねーってなった」

 

「ウケる」


「スピードやばいよ、この時期でも102マイル出てた、もうね、ズドーーーーンって感じ、からの〜ストーーーーンって感じ、スプリットやばいって、遠目の横からでもわかるよ、ストーーーーンって、もうねイッた」


「昇天!」


「色葉さん、もうその位にして行きましょう、お客様入室されましたよ」

「あ、ごめんごめん、またね、ユズちゃん」

 

「はい、また野球話しましょう、来週福岡行ってくるんで、大沢見て来ます」

「ホークスファンだもんね」

 


「ドライバーさん出きってるんで、自分が行きますよ、色葉さんよろしくお願いします」

 

「ういー、あれ、工藤ちゃんて、私の三個下だよね?」

「ですね」

「ってことは、春樹と同い年?」

「えっと、そうかな、うんそうですね、すんません、野球あまり知らないんで、ルールくらいはわかりますよ」


「そっか、マジでかっこいいから今度試合見てみなよ、チャンスに強いし、ホームラン打つし、応援したくなるよ」


「ははは、俺は冬川京子のがいいかな」

「えーー、王道行くねえ」

「いや、本当はお姉ちゃんの方がファンすね」

「あー、葉山翔子か、なるほどぉ、工藤ちゃんはそっち系か」

「え?」

「調教されたい、ドM君」

「えーー、いや、かっこいい女性だなって、それだけです」

「焦ってるぅ、工藤ちゃん、気が効くし、優しいから、そのうち彼女出来るよ、あ、店の子に手を出すなよ」

「出しませんよ!尊敬してる人との約束ありますからね」

「へぇ〜気になる」


「ほら、色葉さん着きましたよ、頑張ってきてください」

「はいよー、行ってきまーす、あれ?何号室だっけ?」

「306です」

「ういー」



「お電話ありがとうございます…」




「春名さん、10分前になります」

「え、はい、ご延長大丈夫ですよ、お客様から追加で、一万円いただいてください、終了時間変わりまして…」


「臼井さん、変更お願いします、春名さん延長になったので一旦忘れてください、事務所戻ってシズカさん精算終わったら駅送り、からの、さっきの愛川の自宅のアップに向かってください」

 



「店長日計合わないんですけど、これ、ここ、入力間違ってませんか?」

「あ、やべ、そうだ、カード払いだから忘れてた!」



 デリヘル奉公が続いた

 自分なりにしっかり働いた

 



 葉山翔子帰国


「お帰りなさい会長、これからよろしくお願いします」

「お、工藤ちゃん、良い顔してるよぉ、三皮くらいムケたね、ズルムケだ!ははは」


「はい、なんとかここまで復活出来ました、会長のおかげです、大変感謝しております」

「堅い!堅いよ工藤ちゃん、リラ〜ックスだよリラックス、肩の力抜いて、これからは仲間、ファミリーなんだからね」


「わかりました、ありがとうございます」


「お店の女の子に手出さなかった?」

「出してませんよ!」

「じゃあ、他のお店に遊びに行った?」

 ギクッ


「うわあ、行ったんだ、工藤ちゃんも男だねぇ」

「いやそのあのその、敵情視察です」

「へぇ、でも抜いたんでしょ?」


「それはその、はい、すんません」

「おっぱい大きかったの?」

 ギクッ


「うわぁ、キモ、近寄るな、シッシ、あ、リナっちに言うべ」


「そりゃないっすよ会長〜」


 


 ファミリーか、良い響きだ。

 


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