番外編 工藤の末路
「じゃあ、俺行きますね、お疲れ様でした」
「ああ、ありがとな、今までありがとう、あ、ちょっと待って」
レジに入れといた封筒を出す、中身は16万円
半端な金額だけど、レジ金の残りと現金仕入れ用のお金を合わせた金額だ、しかも千円札も混じってる格好の悪さ
「これ、持ってけ」
「え?」中身を確認する宮杉
「ヤス君、俺、給料未払いありませんよ」
「それは退職金代わりだ、次の繋ぎの足しにでもしてくれ」
「そんな、ヤス君のが必要ですよね?」
「ははは、今更そんくらいの金額じゃあ、もうどうにもなんねーよ、いいから持ってけ、俺の事は心配いらねーから、出した金は引っ込めない、恥かかせるなよ」
「わ、わかりました、じゃあ遠慮なくいただきます」
「おう、じゃあな宮杉、元気でな」
「はい、ヤス君も、あ、また次何かやる時は、また声をかけてください」
「わかったよ、ありがとな」
宮杉が店から出ていった
もう、次何かやる時なんて絶対にない、出来ない、アイツもわかってるはず、なのに優しい言葉をかけてくれた
宮杉とは小学生からの付き合い
幼馴染ってとこか
歳は一つ下
小、中、高と一緒
少年野球チームも、中学高校も同じ野球部
なんでか、こんな俺に懐いてくれて、俺の後を追っかけてくるような人生を歩んできてる
ただ、俺は酷かった、中三くらいからそんな宮杉を舎弟?奴隷?そんな扱いをしてきた
周りのみんなに、俺には舎弟がいるんだぞ、凄いだろ?的なやつ
ヤンチャな両親の影響からか、自分は偉いんだぞ、強いんだぞ、って虚勢を張りまくってた
喧嘩も強くない、根性ない、不良になりきれるわけでもない
最低だった
高校生の時に、俺のやらかしでとうとう宮杉に愛想を尽かされた
ハルの優しさで野球部に戻れたが、当然俺は浮く、孤立した
でも、宮杉はまた戻ってきてくれた
キャッチボールの相手や、二人セットの練習等は付き合ってくれた
改心して、真面目にやってたが、やはり浮いていた
でも、当の本人のハルや、宮杉のおかげで、段々チームに溶け込めるようになった
本当に感謝してる
おかげで甲子園にまで行けて、優勝メンバーに名前を残すことが出来た。
高校卒業して、宮杉とは一旦離れたが、俺がラーメン屋をオープンする時にまた来てくれた
俺の右腕となって働いてくれた
元々、宮杉は家電量販店の配送、設置をやっていたが、俺がラーメン屋を開業する際に声を掛けたら、その仕事をやめて来てくれた。
なのに、申し訳ない
中学の時に、親父が連れて行ってくれた横浜にある家系ラーメン
初めて食べた豚骨醤油ラーメン、マジで美味くて感動
そこから、将来ラーメン屋になりたいと思うようになった。
高校の野球部引退後、すぐに環八沿いにあるラーメン屋でバイトを始めた
卒業後は、横浜市にある家系ラーメン屋にバイトとして入った
就職せずに、バイトの道を選んだ
ファミリー向けの家系ラーメン店にバイトとして入った俺は、その店のラーメンの作り方等の勉強もしたが、そこは本来の目的ではない
この店の味を盗むとかではなくて、バイトの身分を活かして、ちょくちょく休みを取り、あちこち家系ラーメンを食べ歩いて、自分がどんなラーメンを作りたいかを模索した
道具も買って、家で実際に作ってみたりもした
ファミリーチェーンの店にしたのは、スタッフの人数がそれなりにいて休みが適度に取れるし、ラーメンを作らせてもらうまでに、あまり時間がかからないから
こだわりのラーメン屋だと、修行みたいなことをやらされそうだったから
早くラーメン屋を出したかった
結果、それがダメになった原因かも
バイトを続けて、二十二歳になった時、金もある程度貯まり、いい物件を見つけたので、千葉県野田市にラーメン屋をオープンさせた
が、一年持たずに閉店
味には自信あった
でも、客足は伸びない
若すぎたから、原因を追究しないまま、ただ運がなかったと処理した
借金はなく、いや、借金しそうになったので辞めた
規模も小さく、ほぼ一人でやってたので、それが幸いした
その後、実家に戻り、ひたすらまたラーメン研究
人材派遣に登録して、適度にバイトをしつつ、次のチャンスを伺った
そして、チャンスが来た
いい物件を見つけた
だが、今度は規模がそこそこデカい
神奈川県大和市
店舗大きめ
駐車場もそれなりの台数を止めらる
一人じゃ絶対に無理
準備と運転資金、経営するのにかなりの金がいる
勝負に出た
銀行から、ある程度金を借りることが出来て、他にも金を借り、宮杉が来てくれることになった
アルバイトの学生や、パートのおばちゃん等、それなりに集まり、いざオープン!
最初の二年位はよかった、笑いが止まらないこともあった
でも、段々経営が傾いていく
従業員の出入りが激しく、教えて育ったら辞められるが続く
そうなると、味が安定しない
規模がデカいから、俺と宮杉だけが作るのは無理
暇な時はいいけど、忙しいと無理
従業員が続かない原因は俺
昔の悪い癖が出てきた
人の上に立つとどうもだめだ
怒鳴りちらし、コケにする
宮杉にも辛く当たってしまったこともある
経営が傾き始めると、余計にイライラして悪化
こんな若造にキレられたら、そりゃ辞める
金がやばくなると、俺は金策に走るので、店にいない
宮杉と慣れてないバイトのみで店を回す
上手くいくわけない
店がまた盛り返すわけがない
負の連鎖
あっという間に、借金まみれ
借りれるところは全て借り尽くした
銀行、消費者金融、全て
カードを作りまくり、キャッシングを食い尽くし、ショッピング枠を現金化にしてくれるところにも行った
借金を借金して返す流れ
でも、やめれない、引っ込みたくても引っ込めない
やめたら、若くして人生が終わると思ったから
とうとう、闇金にまで手を出そうとした時だった
「ヤス君、もう辞めよう、無理だよ、そこまでしたらダメだよ」
初めて宮杉に意見を言われて、諦めがやっとついた
昨日、借りてたアパートをなんとか処分した
ここは、保証人が母親になってるので迷惑をかけれない
家の中の物は全て捨てて、滞納分も払い、なんとか、ほんとなんとか処分
母親に迷惑は絶対かけれない
夫を亡くしいる母親に、大人になってる俺が更に迷惑をかけたら本当に最低だ
そこだけは、まだプライドが残っていてなんとかした
数年前、親父が死んだ
あの、俺から見てもかっこいい親父が死んだ
ハルも慕ってた、でも連絡してない
アメリカで頑張ってるハルに伝えたら、試合そっちのけで帰国しそうだったから、そうゆう奴だから
帰国して、会った時にでも伝えようと思ってた
それこそ、ラーメン屋に杏子ちゃんと招待しようなんて思ってたりもした
でも、もう無理だ
ラーメン屋はともかく、伝えることもできない…
親父の死因は交通事故
猛スピードで壁に激突した
でも、それは工作
おそらく自殺、間違いなく自殺
ブレーキ痕があったため、事故と処理されたが、絶対に違う
親父は車大好きで、そんな無茶はしない
昔、ラリードライバーもやってたから、ブレーキ痕なんてつけるのは簡単だったはず
親父の中古車屋が、俺が高校生くらいの時から落ち目になってきてたのは気づいていた
時代の流れ
親父の店が扱う車の種類の需要が減っていったから
俺が成人する頃になると、車の在庫だらけ
全く売れない状態
高級外車の中古車専門なので、仕入れの値段がそもそも高い、なのに売れずに在庫として残る
その在庫軍団を捌きたいから、値段をどんどん下げていって、仕入れ値を軽く下回っていく
都内のバカ高い所での場所代、車のバカ高い仕入れ代、からの在庫だらけ、やっと売れても大赤字
親父の店が火の車になっていく
親父も俺同様にあがいた
俺とは比べ物にならない位の額の借金を背負った
そして、二つの生命保険で借金完済
実家のマンションのローンも、購入と同時に入らされる生命保険で完済
そう、親父は自分の死で家族を守った、母親を守った
事故工作したのは、保険のため
自殺だと支払われない
で、俺も同じ道を歩む
血は争えないのか
俺の部屋のアパート以外は処分できない
でも、全て俺の名義なので、飛んでも誰にも迷惑をかけない、まぁ、債務者には大迷惑をかけるが…
なので、店も放置して飛ぶ
夜逃げ
携帯は明日止まる
所持金はほぼゼロ
スイカに少し入ってるだけ
三日前から、店を改装中にして、宮杉と二人で店の中の臭いが出そうな生物、食べ物関係を処分した
その際、宮杉に自己破産を勧められたが、俺からしたら「とて」だ
最後まで通ってくれた常連さんが、うちに来ないか?と、言ってくれた
デリヘルのスタッフ
寮もあるし、携帯も貸してくれる
車も社用車があるとのこと
でも、断った
もうそんな気力ない
新たな仕事にチャレンジする気力がわかないし、また慣れてきたら、やらかして、紹介してくれた人の顔に泥を塗るかもしれない
借金からの逃亡生活
いい歳こいて、携帯借り物?
もういいよ
こんなダメダメな人生、そして俺自身にマジで嫌気がさした。
さっ、行くか
ん?あ、今日ワールドシリーズやってるな
確か今日勝てば制覇か
最後に見るか、今日勝ってくれよ、俺に明日はない
ポチ
店の休憩室にあるテレビをつけた
電気はまだ通っている
『今日は何を作ってくれるの〜』
『豚肉とインゲンの炒めもの〜』
『え、またぁ?』
『まぁまぁ、今日は一工夫加えたから楽しみにしてて』
『はぁい』
『わっ、美味しい、凄い美味しい、どんな魔法をかけたの?』
『ふふ、魔法の素はこれだよ、これを炒める時にサッとかけるだけ』
『え、それだけでこんなに美味しくなるの〜?すごーい』
はは、あいつらのCMだ
にしても、この二人を見るとほっこりする
ハルはともかく、杏子ちゃんのこの幸せそうな笑顔はこっちまで笑顔になる
過去の冬川京子の笑顔とはまるで別人
良かったな杏子ちゃん
って、このチャンネルじゃなさそうだな
ポチ
『あれ、なんかいい匂い〜、それに落ちなくて困ってたシミが落ちてる〜』
『お、気づいてくれた?洗剤変えたんだ』
『え〜洗剤変えただけぇ?それだけぇ?』
『奥さん、これは今までの洗剤と一緒にされては困りますよ、これはね…』
って、またこの二人か
うーん、なんでいつも家事をしてるのがハルなんだ?
普通逆だろ
まぁ、杏子ちゃんが家事をしっかり出来るイメージはまるでない
ハルの方がキッチリやりそうなイメージ
世間もそうゆう目で見てんだな
昔、甲子園宿舎で、杏子ちゃんが同部屋だったリナにガチギレされてた
「あのさ、どうやったら、今日一日だけでこんなに散らかるのよ!」
「てへ、サーセン」
「ある意味天才だわ、このポンコツ娘!脱いだら脱ぎっぱなし、お菓子食い散らかす、読んだスポーツ新聞そのまんま、マジあったまくる!ハルちゃんナームーだわ、お母さんもかわいそう」
「へーきだもん、お嫁さんになったら、ちゃんとやるもん」
「あとでやろうは馬鹿やろうってしってっか?」
「知りません」
「お前さ、将来、お前の汚ったないシミ付きパンツをハルちゃんに拾わすのか?」
「シミ付いてない!」
「そこじゃねーよ!今からでも片す癖をつけとけって言ってんの!」
「はぁい」
あの頃から進歩してなさそう
ポチ
『あなたは一日何回時計を見ますか?』
『私はしょっちゅう、スタジアムにいる時も、データを見てる時も』
『私達が離れ離れの時も、国が違っても、私達はこのペアの時計を見て時間を確認してた、時計を見るたびにお互いを思い出していました』
『離れていても二人の時計は止まらなかった、恋の時計を止めなかったこのペアの腕時計、あなた達の記念にいかがですか?きっと、素敵な恋の時間をプレゼントしてくれますよ』
『ハァハァ京子、バッティング練習あと何分?』
『あと、二分二十七秒』
『オーケー』
『こんな使い方も出来ますよ ウフ』
CMかぶりがひどすぎる
どのチャンネル回しても、この二人だらけ
どうなってんだよ
二人合わせての年間総収入170億とか言われてるけど、これなら頷ける
もちろんハルに金を借りることも考えた
俺の借金の値段なんて、今のハルの日給にもならない
でも…返す当てがないのに、借りるのは詐欺と一緒
友人にそんなことは出来ない
ポチ
『3勝2敗で、本拠地に戻ってきました、サンフランシスコジャイアンツ、あと一勝すればワールドシリーズ制覇です、対するニューヨークヤンキースは…』
お、ここか
『先発は今期加入、春樹と同世代の28歳、左腕中村です』
『中村は第2戦で先発して好投しています、そこから中5日での先発となります』
中村か、高校の時に対戦した神奈川のやつだ
はえーんだよな、あのストレート
高めの球なんてカスリもしなかった
『中村はシーズン序盤は苦しみましたけど、段々調子が上がってきて、結果12勝をマーク…』
ふぅーん、金策に走ってて全然見てなかった
『この前、取材の時に聞いたんですよ、冬川さんのアドバイスで、マウンドの歩幅を半歩狭くしたみたいで、そこから調子上がってきたと言ってましたね、メジャーのマウンドは日本より硬いですから、冬川さんのアドバイスは適格だったと思います』
もうそれ、ピッチングコーチだろ
『昨夜の会見で、ブレイリー監督はヤンキースの1、2番の右バッターが調子が良いので、オープナーで相性の良い右のブルペン投手、ベイティを起用して、二回から中村に託すプランを示唆してましたが、結局そのまま中村を先発させてきましたね』
『はい、先程の駆け込み取材で監督が明かしてましたが、それも冬川さんのアドバイスで決まったみたいですね、中村は立ち上がりに問題の無い投手です、雰囲気作りが上手い投手、右に弱いどころか左よりも抑えてるデータもありますから、これにより、ベイティを大事な後ろの方で起用できます、なので、やはり冬川さんのアドバイスは適格かと思います』
もうそれ、監督だろ
『初回、中村素晴らしいピッチング!三者凡退、ワンツースリーのスタートです!』
適格だ
『クァーーーン!』
『こ、これはー!もう間違いないでしょー!いつものスプラッシュヒットでしょう!春樹先制のホームラン!カヌーの大群が慌ててます!』
『ははは、スタンドのキョーコシートで、冬川さんが飛び跳ねて喜んでますね』
なんだよそのシート
喜びかた子供かよ
カヌー大渋滞、まぁハルのボールはとんでもない値段がつくからな、俺も行きたいぐらいだ
『あっと、今のはまずいんではないでしょうか、現地映像もしっかり捉えてました、春樹大丈夫で…あー、やっぱり、冬川さん怒ってます、めちゃくちゃ怒ってますよ、春樹とスタンドの女性ファンとのやり取りに問題がありました』
『春樹も凝りませんね、普通の奥様ならこんなことにはならないんですけど、冬川さんは別格ですから、あっ、ちょっと暴れてますね、心配です』
ワールドシリーズまで来て何やってんだよ
『さぁ、春樹、悲願のワールドシリーズ制覇まであとストライク、一球です、スタンドのファンはみんな総立ちです!』
『決まったーーーー!最後は今年を締めくくるかのような、104マイルで空振り三振を奪いました!凄い!素晴らしい!見事です!』
『マウンドにみんな駆け寄り揉みくちゃです!みんな喜びを分かち合っています!抱き合って喜んでます、春樹もオリバーと抱き合って喜んでます!』
104マイルって、とんでもねーな
ハル凄いぞ、小三の時に一緒に始めた野球
まさか、こんなことになると思わなかった
ハル、色々邪魔して悪かった
前にも謝ったけど、最後にもう一度だけ謝っておく
泣けてきた
感動してるんではない
幸せそうなハルを妬んでるのではない
自分が情け無くなったからだ
俺もハルみたいな性格だったら…
昔、ゴーに言われた、人間そんな簡単に変われるかな、って
その通り、変われてなかった
そして、結果どん底に落ちた
『グラウンド内では、選手と家族が喜びをわかち合っています、春樹も大号泣の冬川さんと、抱き合って喜んで…あ…えっとキスして…よよよ喜びを分かち合ってます、良かったです、はい』
『冬川さんは、さっきの激高はもう忘れたみたいですね、良かったです』
いや、おそらく覚えてる、シーズン終わったし、たぶん蹴りをもらうと思う
昔からそうだったから
つか、カメラの前でキスするかね
にしても良かった良かった
ポチ
さっ、行くか
そうだ、タカちゃんのお墓参りしてから行くか
親父のとこにも…
無理だ、親父に会わす顔がない
墓二件をはしごする余裕もないし
タカちゃんのとこだけ行こう
親父、申し訳ない
スイカにはまだ少し入ってる、線香くらい買えるな
店の鍵は開けっぱなしで出かける
鍵は、テーブルの上
面倒はかけない、それ以上に面倒かけるけど…
しばらくすれば、土地の地主、債権者が押し掛けてくる
すぐに店に入れるようにしとく
空き巣に入られても、大したものはない
タカちゃんのお墓は渋谷にある
大久保から移したと、タカちゃんのお母さんから手紙が実家に届いてた
なんで移したんだろ…
スマホに入れといて良かった
最後のスイカを振り絞り渋谷に向かう
中央林間で乗り換えて、田園都市線で向かう
渋谷到着
駅から歩くとけっこうあるが、仕方ない歩く
バス代をケチって、線香代にする
途中コンビニで線香とライターを購入
これでほんとカラケツ
持ってきていた小さな紙袋に、電源を落としたスマホと財布を入れて包み、コンビニの燃えるゴミコーナーに捨てた
もう必要ない
身元が割れるのは、出来るだけ遅くなって欲しい
防犯カメラでこのコンビニが発覚する頃には、燃えるゴミは焼却されている
頭に入れた脳内地図で墓地へ向かう
到着
敷地内を歩いていると、反対側から歩いてきた、すんごい派手な女性とすれ違った
黒のジャケットの袖を捲り、その裏側の生地も派手
真っ赤なタイトスカート
ド派手なインナー
デカいサングラス
墓地に来る格好かぁ?
色んな人もいるもんだ
タカちゃんのお墓の前に到着
綺麗な花が供えられてる
線香から、まだ煙が出てる
誰か来たばっかりか
親は確か京都だよな
この墓にはタカちゃんしか入ってないはず
と、なると、小学校の時の同級生か
ってことは、俺も知ってる人ってことだ
あ、あれだ、ハルのワールドシリーズの結果を報告しに来たのか
じゃあ、ゆっくりしてられない
また、誰か来るかも
誰とも再会したくない
今の俺の姿を見せたくない
言わなきゃわからないどん底だが
たぶん、どん底オーラ出てると思う
線香に火をつけて、先に置いてある線香の隣りに追いかけで置く
手を合わす
タカちゃん、もう知ってると思うけどハルがやったぞ
凄いよな、海にホームラン打って、投げては104マイルだってよ、104マイルって何キロだよ、スマホねーから調べらんねーや、ごめん
三人でよくガキの頃、運動公園で野球やったよな、楽しかったな
そんなハルは今は一流メジャーリーガーだ
俺か?俺は…
クソみたいな人間になっちまったよ
嘘ばっかりついてきた
虚勢を張って威張りちらし
弱いのがバレないように嘘ばっかりついて
嘘を嘘でごまして
結果みんなに嫌われて
やっと更生できたのに
社会に出たら、また同じ事の繰り返し
大人になっても一緒
このクソみたいな性格のせいで、大人になっても嫌われ者
当然、こんな俺だから彼女なんて出来たことない
素人童貞
金なし、ろくでなし、取り柄何もなし
とんでもない大人になっちまったよ
ま、でも、ここまで最低だと悔いないよ
疲れた
いや、嫌になった
覚悟できたよ
向こうで会おうな
あ、無理か、俺は地獄か
タカちゃんは、間違いなく天国だろ
『ショコ姉ちゃん!』
つか、友人顔するなってか?
今まで、全然来てねーもんな、俺
あんだけ仲良かったのに、中学入ったら、さっぱり来てないもんな
ハルは定期的に来てたんだろ?
そうゆうとこだよな、俺とハルの差は…
俺はいつも自分ばっかり
ハルは他人を思いやる
はぁ、ま、ありがとよ、愚痴聞いてくれて
宮杉にも言えなかった、誰にも言えなかった、言える友人が出来たことない
そんな友人なんて、俺に出来るわけないか
じゃっ、行くわ、サイナラ
墓を後にする…ん?
「こんにちは、あ!君!桜水の子だよね?えっと、その四角い顔!工藤君でしょ!」
えっ!さっきの派手な女性が話しかけてきた
戻ってきたのか?
つか、知らないぞこんな人
「は、はい、工藤です、どちら様ですか?」
「あー、ごめんね、ビックリさせちゃったね」
スチャッ
女性がサングラスを外す
ま、まじかよ!
「ははははは葉山翔子!……さん」
「こと、星川祥子です」
「本名!」
「うん、プライベートの時は本名を名乗らないと、竜ちゃんに怒られちゃうからね」
え?どうゆうこと?
葉山翔子、もちろん知ってる
杏子ちゃんのお姉さんなのも、当然知ってる
でも、なんでタカちゃんのお墓に来てる?
それとも、別の人のお墓に来てた?
なんで戻ってきた?
「あの、どうして俺なんかのこと知ってるんですか?」
「そりゃ、知ってるよー、竜ちゃんを泣かせた奇跡のホームラン!」
スイングの真似をしておどけてみせる、葉山翔子
「あ、甲子園見てくれたんですね」
「もちろん、あとねぇ、工藤君がネチネチしてたのも知ってるよ」
「そ、そうですか、すみません」
「それより工藤君!」
顎に手を当てられ、グイッと持ち上げられた
すんげぇ、目力で睨んでくる
杏子ちゃんにも睨まれたことあるが、数倍やばい
なんなんだ、この姉妹の目力
「は、はい」
「あんた死相出てるね」
「え?」
「うーん、やばいね」
顎グイッが解放された
「手ぶらで来たの?」
「あ、すんません、花とか気が利かなくて」
「そうゆう意味じゃない!手荷物ないのか、って聞いてるの」
「あ、はい」
「ふぅーん、青年が手ぶらかい、携帯や財布は?ポッケ?」
「いや、その」
パンパン
ボディチェックされた
「ライターだけ?」
「どうした、携帯!財布!」
「いや、忘れてしまいまして」
「は?じゃあ、このお線香どうやって買った?」
「あ、家から持ってきたので」
「家の鍵も、持ってないみたいだけど?」
「お前、家、大和だろ?どうやって来た?」
「え、どうしてそれ…あ、そっか」
「そう、あの杏子の騒動の時、みんなのとこ廻ったの!その時、先に宮杉君の所に行ったら、工藤さんはおやじさん亡くなって、落ち込んでますし、店の経営もあるから、ちょっと今はそっとしといてあげたいので、俺が責任もって伝えますって、言われたんだよ、で、色々工藤君のことを教えてくれたんだよ!」
キレてる
「はい、自分も後から聞きました」
「で?お父さんのお墓には行ったの?」
「いや、行ってません」
「じゃあなんで直鷹の所に来た?」
「え、タカちゃんとどうゆう関係なんすか?」
「んなの後!先に質問に答えろ」
「いや、挨拶をしに」
「お父さんには挨拶なしか?」
「いや、その」
「直鷹に挨拶?なんの?」
「す、すいません、特になにも」
パァン!
引っぱたかれた
首がもげるかと思ったくらい、思いっきりビンタされた
「おい、クソ野郎、死ぬのは勝手だけど、なんでそれなら直鷹のとこに来た?お前の親父には報告できないようなこと、これからするのに、なんで直鷹の所には来れるんだ?」
「え…」
「今から行くよー!向こうで会おうなぁ!ってか?」
「そ、それは…」
パァン!
また、ビンタされた
「ふざけんなこの野郎、直鷹はなぁ、死にたくて死んだんじゃねーんだぞ!自分のミスで死んだけど、まだまだ生きたかったんだぞ!やりたいこといっぱいあったんだぞ!それをなんだ、一緒にしやがって!まだまだ生きられるのに、自ら死を選ぶような奴に、なんで死ぬ前に手を合わせられなきゃいけねーんだよ!」
バンバン!
墓石を叩く葉山翔子
「直鷹は生きたかったんだよ!一ヶ月ももがいて生きようとしたの!無念残して死んだの!そんで私達を見守ってくれてたの!」
「なのに、まだ生きられるのに、だったら直鷹と代わってくれよ、その命くれよ!」
「ふ、ふざけんじゃねぇよ」
「すみません」
「生きろ、何があったかは知らない、でも逃げちゃだめ、生きてれば良いことも悪いこともある、悪いことだらけかも知れない、それでも生きるの!生かされてると思って生きろ!」
「は、はい」
「私の弟なんだよ」
「え?」
「直鷹は私の弟!」
「え?えーーーーー、ご冗談…」
冗談なわけないか
「私の弟だし、杏子の兄!」
「うわーーー」
「ビックリして死ぬ気失せたろ?」
「はい…正直そうです」
「おし、じゃあついてこい」
「え?」
「話聞いてやるし、なぜ私が直鷹の姉なのか説明してやる」
「は、はぁ…」
「行くぞ!」
「はい」
ポチ
葉山翔子が電話をかける
「なっち〜、車回して〜、あとスケ変更、エクサキャンよろ〜、あ、うん、ちょっと大事な野暮用、よろしく〜」
電話を切り、ツカツカとモデル歩きをする葉山翔子の後を追うことになった。




