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モンスター協奏曲  作者: 東京小町
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ゲスト解説


「特別ゲストの冬川杏子さん、よろしくお願いします!」

「はい、よろしくお願いします!めっちゃ緊張してます」


「またまたぁ、そんな柄じゃないですよね」

「いや、羽堂さん、さすがに緊張しますよ、初ですから」


「そうですか、ご自身でも球団公式チャンネルで生配信実況されてるじゃないですか、評価もかなり高いです、自信持っていきましょう」


「いやいや、配信の方は好き勝手喋ってるだけですから、それにこれは夢だったんです、夫と夢見た東京でのゲスト解説なんです」


「ほう、春樹選手と夢見てたことだったんですね」


「私達は学生の頃に、いくつかの夢を語り合いました、夫はみんな叶えてくれて、最後はこのゲスト解説でした」


「そうですか、それは素晴らしいですね」


「はい、ここに今いれるのは、夫の活躍あってこそです、本当に夫には感謝してます」


「なるほどです、では、その夢見たゲスト解説の方を勧めていきましょうか」


「はい、よろしくお願いします!」


「今回の東京シリーズ、MLB公式戦、サンフランシスコ対アリゾナの二連戦、両チームとも日本の選手が多いので実現されました、その辺り冬川さんはどうお考えですか?」


「はい、両チームとも日本の方が素晴らしい活躍をしています、日本のファンの皆様の前で、日本人対決とかを見ていただける、貴重なシリーズだと思います、私もワクワクしてます」


「サンフランシスコは今年からセットアッパーの林を獲得しました、彼のメジャーデビュー戦にもなります、冬川さん、林の仕上がり等を教えていただけますか?」


「はい、林投手は身長二メートル近い高身長から投げ下ろすのが持ち味です、球種はフォーシーム、スライダー、スプリットのみのスリーピッチに絞って調整してきました、それでも充分勝負できると首脳陣は見てます、おそらく日本にいた時より、スピードコントロール共に精度は上がってます、彼が八回をピシャリと抑えてくれれば、クローザーの春樹までの勝ちパターンが確立されますので、チームのみんなが期待しています」


「なるほど、林は甲子園の時に春樹と対戦しましたよね、覚えてますか?」


「もちろん、初戦です、リリーフで出場してましたね、背高いなぁって見てました、羽堂さんは三振してました」


「えー、その通りです」

「あ、ごめんなさい」


「いえいえ、そして、去年サンフランシスコに加入した二戦目の先発予定の中村はどうでしょう」


「はい、去年は好成績を残して貢献してくれました、仕上がりは順調です、左腕から繰り出す速い伸びのあるストレートで押していくピッチングが、今年も変わりなく見れると思います」


「ありがとうございます、中村も春樹と甲子園で対戦してますね」


「はい、春樹は中村投手から全然打ててません、その投手が今度は味方なので、大変喜んでましたね」


「大事な情報忘れてますよ」


「あ、羽堂さんは、中村投手から二安打しました、苦手の右打席で」


「うーん、まぁいいでしょう、中村は当時カルテットの一人として君臨してましたからね、打った自分は素晴らしいと思います」


「そうですね、ふふふ」


「この日本の二人もそうですが、春樹と一緒のチームでプレーしたいと、サンフランシスコに移籍する選手が多いですね、チームはどんどん強くなって、去年はワールドシリーズ制覇、今年も狙えそうですか?」


「はい、もちろん連覇を狙ってます、戦力は整ってます、みんな役割を把握してますので、凄く期待してます」


「はい、次は対戦相手のアリゾナなんですが…」




 竜斗の活躍、そして竜斗に集まってくる選手達のおかげで、チームは強くなった。


 そう、昔のノブさんみたいに、カブトムシが集まる木になってきてる竜斗


 日本人も、ノッポ君と神奈川カルテットの一人が加入して三人になった、これも凄いよね


 相手アリゾナも日本人三人が在籍

 実はそのうちの一人…

 あの、竜斗の高校デビュー戦相手の三年生左腕がいる


 そう、都立出身のメジャーリーガーが二人ってことになる


 その左腕、高橋さんは、竜斗にあの度肝を抜かれたホームランを打たれて、一気に改心


 アホみたいにトレーニング


 竜斗同様に、マイナーから這い上がった

 最初は、ボルチモア


 トレードで、アリゾナ

 そう、同地区に都立出身が二人いる


 凄い


 もちろん、ネタバレして大注目


 おかげで、日本で公式戦が開催されることになった


 その壮行試合の特別ゲスト解説として、私は放送席にいる


 しかも対戦相手はノブさんのチーム


 夢がまた叶った。


 もうすぐ私は二十七歳になる三月の末

 竜斗はメジャー五年目


 これまでの四年間の成績は凄いことになってる

 球団側は十年六億八千万ドルは安かったと発言する始末


 姉の言う通りウインウインだ




「では、注目の佐藤と打者春樹の対戦、冬川さんどう見てますか?」


「はい、楽しみです、高校時代では、練習中に二度対戦してます、当時佐藤投手は腰を痛めてましたから、軍配は春樹が二度ともホームランで勝ってます、ですが今は佐藤投手は腰も癒えて、去年の成績見ても好調です、佐藤投手のリベンジにかける思いは相当強いかなと思います」


「私、羽堂も当然覚えています、春樹が人生で初めてホームラン打った相手がこの佐藤です、あの時の再現が見れると思うと、私達同窓生は楽しみで仕方ありませんね」


「はい、とても楽しみです」


「佐藤は去年19勝をマークしてます、さぞリベンジに燃えてるでしょう」


「ですね」


「冬川さん、ズバリこの勝負どちらが勝ちますかね」


「そうですね、まず佐藤投手の初球の入り方ですね、ここ間違えると春樹の勝ちです」


「具体的にお願い出来ますか?」


「ストレートでストライクを取りに行ったら、おそらく春樹はかっ飛ばします、外のスライダーでボールからストライクに入れてきたら、まだ勝負はわかりません」


「ほほう、それはデータからきてるんですか」


「いえ、単純なことです、壮行試合で相手は佐藤投手、うちのチームはこの演出を盛り上げるために、普段二番の春樹を一番にもってきてます、なので春樹は単純に、いきなりの初球を思いっきり叩こうと思ってるだけです、それが得意な人ですから、佐藤投手もそれをわかってます、ここは佐藤投手がどの様に考えてるかです、おそらくもう決めてるんじゃないんでしょうか」


「どう決めてますか?」


「インハイにストレートを投げ込んでくると思います、それがストライクゾーンにきたら…ですね」


「わかりました、ではまずは初球に注目しましょう、試合が始まります、春樹がバッターボックスに向かいます、そして、はい、いつもの最初の打席の儀式、冬川さんにヘルメットを上げて合図を送ります、そして、横の冬川さんは笑顔で手を振り返します、いつもどこにいるかわかってるんですね」


「はい、試合前に確認し合いますから」


「ごちそう様です、高校時代もやってましたよね」


「あ、はい、周りにわからない程度に、頷くとかです、すいません、あ、羽堂さん、すぐ打っちゃいますから注目しましょう、春樹はこちらに隙を与えません」


「はい、わかりました、では注目の初球、佐藤がいつもの綺麗なフォームで振りかぶります」



 クァーーーン!



「やっぱり…男だなぁノブさん」


「ライトにものすごい勢いで打球が上がる!これはもう文句ないでしょう!あ、あれ?」



 バコン!


「ライト上段の看板に当たりました!ホームランです!春樹!日本のファンの皆さんと同級生佐藤への挨拶の一発!挨拶にしてはデカすぎるホームランです、ってあれ?天井に当たりませんでした?」


「たぶん当たりましたね」


「当たって…看板?こ、これはもうあれですね、杏子ちゃん」


「はい、つい当時の名前で私を呼びましたね」


「羽堂さん、せーーのっ」

「テニスコート弾!」



 

 壮行試合も終わり


 アリゾナとの開幕戦の竜斗は二本ホームランを打ち、セーブシチュエーションではなかったが、日本のファンのために登板、最後しっかり締めた


 いつもの映画エンディング曲もしっかりかかり、ビジョンにも映画のシーンが流れ、みんな盛り上がってくれた





 アリゾナDバックス戦二戦目試合前


「キョーコ、相手は予定通りブルペンデー、しかし、スターターが変わってる、チェックしてくれるか?」


「はーい、ロスター変更はないですか?」


「うん、そのままだ変わりない」

「オーケー、相手は左に変えましたね、うちの打順、少し入れ替えした方がいいかも」


「オーケー、わかった」


 相手投手の去年のデータを探る


 なるほど、一番の左のマックスさんと、二番を打つ竜斗目当てか…ここを抑えるためだ、オープナーか…


「オリーと、マックスを入れ替えましょう!」

「オーケー、相手は、一番二番は右だ、こっちも、右のオープナーにするか?まだ間に合うぞ」


「いや、中村さんにそれはいらないです、立ち上がりがいいのは、私が一番わかってますから」


「オーケー監督に打診する」


 オープナーとは!

 本来先発する投手の前に、初回の1イニングだけ、リリーフ投手に投げさせるメジャー独特の作戦


 初回は当然、打順は一番二番三番

 メジャーは調子の良い選手から置いていく

 日本みたいに、足の速い選手、送ったり右打ちが上手い選手、好打者、強打者みたいな順番の役割分担はしない


 なので、初回にいきなり調子が良く、更に、強打者ズラリと対戦する


 そう、日本で言うクリーンナップ三人といきなり対戦するようなもん


 そこに、セットアッパーを当てて1イニングフルパワーでしのぎ、2回から打順が下位にむかっていく所に本来の先発投手を投げさせ、ペースを掴んでもらう

 これだと、初回にいきなり上位打線に掴まり、ペースを掴めないまま、短いイニングでノックアウトというリスクから少し逃げれる


 流れをいかせない意味合いもある


 特に立ち上がりの悪いピッチャーだと、これが効果的


 思い出してほしい、甲子園の初戦

 アソコでノッポ君がオープナーを務めて、二回からあの立ち上がりは悪いが、それを抜けたら無双の左にこられたら、おそらく桜水は一点も取れてない

 


 ワーーー


「春樹〜」


 ん?竜斗がグラウンドに出たか


 声援でわかるわ


 うーん、おっし、私も行くか



 私もベンチから自慢のグローブとミットとタブレット入りのリュックをしょって、グラウンド内に出る


「冬川京子だ」

「冬川さーん」


 私にも声援が飛ぶ、あざす!


 竜斗はいつものセンター付近でアップ中かな?


 どれどれ、あ、いた、ノッポ君とオリーとアップしてるな


 オリーもいるからちょうどいい、今日は先頭バッチだよって伝えないと


 テクテク 


「冬川さーん」


 あ、ども、ペコリ


 声援に軽い会釈をしながら、スタンドに沿って歩いていく、目指すはセンター付近でゴムチューブをグイグイやってる旦那様


「冬川京子、生で見てもかわいいなぁ」


 エヘヘへ、は!いかん、平常心平常心

 アメリカでは、こんな言われ方しないので舞い上がっちゃう


「キョウちゃん!キョウちゃん!」


 んあ?聞き覚えのある声


「わっ、マリさん!」


 慌ててネットに張り付くマリさんの元へ


「わぁ、久しぶり〜マリさん」


 ネット越しの会話が始まる

 何かの面会みたい


「キョウちゃん、何ニヤつきながら歩いてんの?」


「えっ!ニヤついてない!」


「キョーーコ、ちゃーーん!」


 アイドルに送る声援みたいな呼び方をしてくる奴がいる


「わっ!ガブさんも久しぶり!てか、なにそのサングラス、似合ってないよ、プロゴルファー猿はサングラスかけないよ」


「うるせー!一応変装」


 そう、ガブさんは今はトッププロゴルファーになり、そして面白いトーク力で、スポーツバラエティ番組によく出演している、ちなみにこの二人しれっと復縁してる


 マリさんが、「私の元カレ共がみんな出世していくー、ありえなくなーい?もういいや、カズとより戻そ!」って言って、まんまと復縁した


「キョウちゃん、今夜の飲み会楽しみだね、あとでね」


「うん、居酒屋ドリさん集合ね、じゃ」


 私とネット越しで、仲良く会話してたマリさんとガブさんが、周りから不思議な目で見られてる


 ま、しゃあない




 今日のゲームが終わると、チームはアメリカに戻り、本国開催までの間、少し時間が空く


 チームのチャーター機は三日後に出発


 家族を連れて来てるチームのみんなは、出発まで日本観光を楽しむ


 私と竜斗は、今夜は居酒屋ドリさんで飲み会


 明日の昼間はきっと死んでる



 テクテク


 改めて、旦那様の元へ向かう


 グラウンドにせり出しているエキサイトシートを避けるように歩いていく


「杏子ちゃん!」


 今度は誰よ!


「ん?あ!ドリさん!え?なんで?」


「おー、杏子ちゃん久しぶり!」


 エキサイトシートは、ほぼ対面で喋れる


「久しぶり!じゃないよ、今夜の仕込みとか大丈夫なの?行っておつまみ無しは、さすがに竜斗もキレるよ」


 そう、今回は居酒屋ドリさん貸切、竜斗主催で全額負担、ポンっとドリさんに事務所経由で支払ってる、前金だからかなり多めに払ってる、これでしくじりは許されない


「あー大丈夫だよ、おやじとおふくろと、嫁さんとあと弟が助っ人で来て、一生懸命支度してるよ」


「ふぅ〜ん…え!嫁さん?嫁?え!いつ?リアル嫁?二次元?」


「おいー、俺をなんだと思ってんだよ、もう今年で二十九だぞぉ、嫁さんくらいもらうわ」


「いやいや、ドリさん、簡単にもらえるもんじゃないよ、その辺で売ってないよ、落ちてないよ」


「あのさ、前から思ってたけど、俺のことなんだと思ってるの?」


「ガブさんの女」

「アホかっ!」


「お見合い?」

「昭和か!」


「マッチングアプリで騙した?」


「杏子ちゃん、うちの店でさ、竜斗〜竜斗〜って泣きながら泥酔してたのバラすよ」


「さ、サーセン」


「ちゃんと恋愛して結婚しました、こんなでも恋愛してました」


「ま、マジか、ドリさんは恋愛から一番遠い人類かと思ってた」


「このやろぉ、って、ま、いいや、杏子ちゃんにいくら毒吐かれても幸せだから、なんも響かないよ」


「ほほう、どんな子」


「いやいや、全然ボール球の子だよ、俺のキャッチングでストライクにした」


「ウケる、ドリさんフレーミングうまいもんね」


「その通り!ま、後で来た時に挨拶させるよ」


「うわぁ、挨拶させるなんて、一丁前〜このこの〜」


 ポムポム


 ドリさんの腹をポムポムする


「や、やめろ」


「あれ、ドリさんミット持ってきてるの?」


「おー、ファールボールが飛んできた時ようにな」


「ウケる、ミットでやってる人あんまりいないよ」


「ミットしか持ってねーもん、ほら、せっかく春樹パワーでここ取ってもらったから、楽しまないとな」


 今日は、他にも野球部のみんなや、私達の家族など春樹パワーで招待してる


「おい、いつまで喋ってんだよ」


 ん?あ


「竜斗〜!ドリさんだよ、太っちゃったけどわかる?」


「わかるわっ!」

「えへへ」


 ドリさんと仲良くしゃべってたから、妬いて、慌てて来たね、かわいいやん



「ハル久しぶりだなぁ、オフの時にでも来てくれればいいのに」


「わりぃ、わりぃ、なんか迷惑かけちゃうかなってさ、それにここんとこは、オフも向こうで過ごしたりしてたからさ、勘弁な」


「ははは、なんか立派になったな、まあ今夜楽しみにしてるよ」


「杏子ボール持ってる?」


「うん、あるよ」

 リュックをガサゴゾして、グローブに挟まってたボールを渡す


 サインボールでも書くのかな、後であげればいいのに


「ドリ、ミットはめなキャッチボールしよう」


「え!」私、ドリさん


「なんだよ、嫌なのか?」

「嫌ってお前…」


 ドリさんが周りを見渡す、まぁまぁ人いる、てか竜斗が来たから群がってきた


「あ、すんません、少しでいいんで離れてもらえますか?後でサイン会やるんで、ご協力お願いします」ペコリ


 すると、ススっとドリさんの周りにスペースが出来た


 このくらいなら、竜斗のコントロールなら大丈夫


「いくぞ」


「お、おう」


 パシーン


「おい、速すぎるよ」


「は?なまってんなぁ、甲子園優勝キャッチャーが何言ってんだよ」


「なんだと」


 パシッ


「お、肩はまだ少し面影あるな」


 バシーン


「おい、こっちはもう十年以上中華屋だぞ、もう少し手加減しろ」


パシッ


「ははは」


 スパァーン

 オー


 近く見てた人から歓声が上がる


 これは、竜斗に向けてより、ジーンズ姿の少しおデブな素人さんがいい音させてることに向けての、オーだ


 パシャパシャパシャパシャ


 エキサイトシートの人と言葉を交えながらのキャッチボールに、慌ててカメラマン数人が近づいてきた

 テレビクルーも来てる


 周りの人は、スマホで撮影してる


 でも、そんなのお構い無しで甲子園優勝バッテリーの十年以上ぶりのキャッチボールが続く


 なんか、いいよね、泣けてくる


 パシャパシャ

 ついでに私撮るな!




 ズバン!


「おし、あったまったサンキュー」

「イッテー」


 ドリさんが、ミットから手を抜いてヒラヒラさせてる


「ご協力ありがとうございました、自分達のでよかったらサイン会しますんで、並んでください」


 ん?自分達?


 すると、どっと詰め寄ってくる、エキサイトシートなので、ペンや色紙、ボールなど自分で持ってる人が多い


「ほら、杏子もお願い」

「へ?」


「ジミー!ペンとボール持ってきて」


 近くにいた、トレーナーさんがボール何個かとペンを持ってくる


 何も持ってない子供がいたからだ


「おいで、ボールあるからおいで」


 子供数人が目をキラキラして集まってくる


 一生の宝物になるだろう


 竜斗の優しさはメジャーリーガーになっても変わらない


 そして、世にも珍しい夫婦のサイン会が始まった


 警備員さん達が慌ててすっ飛んできて、私達を見張る


 サーセン


 ウケるのが、ドリさんもキッチリ私達両方のサインをもらってた



 終わると、竜斗は余ったボールを数個スタンドに投げ込み、またセンター方向に向かう


 うーん、竜斗はメジャーリーガーなんだよなぁ

 補欠だったのに


 日本に来ると実感する


 センター方向に向かう竜斗の背中を見て、お母さんみたいな気持ちになる



 じゃねーわ



 今日の情報!


 慌てて、竜斗を追いかけて隣りに並ぶ


「楽しかった?ドリさんとのキャッチボール」

「うん、杏子の次にね」


 ドキッ


 そう、この人はたまぁに、無意識にキザな言葉を吐く


「う、うん、ありがとう」


「今日のデータ見せて」

「うん、ちょっと待って」


 タブレットをリュックから出す、すると立ちながら私に寄り添って覗き込んでくる、顔が私の真横にくる」


 ドキドキ


 なんだろ、いつもの事なのになぜかドキドキ


 こ、これは東京パワーってやつか?


 私はシチュエーションに弱いことを思い出した


「杏子」

「ん?」


「チューする?」

「へ!へ?へ?…する」


「するわけねーだろ!やばいぞそれ」

「もう!」


「いい加減大人になりましょう」

「はい」


「先発変わったのか、グランか」

「そう、オープナーだね」


「今日は外のスライダー、一辺倒かな?」

「うん、去年シンカーをホームランにしてるからね」


「じゃあ、甘めのやつ来るまで我慢だな」

「うん、去年のデータみると、外のスライダーの50%はボール球、ゾーンに来るのは甘め、竜斗なら打てるよ」


「オーケー、さっ、早くキャッチボールしよ」


 いつものルーティン、私とのキャッチボールをしようとしてくる


「え、ドリさんとやってたから、肩あったまったんじゃないの?」


「いやいや、あんな遊びの数球じゃ無理でしょ、それに…杏子がいる時は必ずするんだよ!オーケー?」


「うん!オーケー!」

 慌ててリュックからミットを取り出して、リュックをぶん投げ、タブレットはそっと置く


 センター付近で始まる、私と竜斗のキャッチボールに、報道陣が詰めかけてパシャパシャと写真を撮る


 スタンドのファンも一目見ようとスマホ片手に集まってくる

 

 アメリカでは見慣れたこの光景も、東京では新鮮なのかな


 スッ

「はい、ここー」


 スパァン!


「ナイスボール!」



 その後竜斗は、そのままセンター付近でノッポ君と本気モードのキャッチボール

 ビンビンのキャッチボール


 同時にフリーバッティングが始まってる


 竜斗とノッポ君を守るように、私はフリーの打球を自慢の内野グローブで捌く


 これがいつものルーティン



 そして…


 竜斗のフリーバッティングが始まる


「春樹選手がバッティング練習中です、ボールの行方にはご注意ください」


 ふふふ、桜水高校の校内注意報みたい


 って、逆か、うちが真似したんだ



 クァーーーン!



 ピーーーー



 ガァーーン!


 まだ、空席があるスタンドのベンチにボールが当たり弾む、ドーム球場なので音が響き渡る


 笛ウケる、懐かしい



 その後もバチコン打ち込んで終了




 二戦目も終了


 竜斗はまたホームランを打ち、そして最後をまた投げ、日本のファン達を魅力した


 おそらく最初で最後かな東京シリーズ


 日本のファンはともかく、友達や家族達に生で見てもらったのはとても良かった


 竜斗の成長を見てもらえて嬉しい。


 

 今回の東京シリーズで、竜斗は私の学生時代の夢を全て叶えてくれた

 

 有言実行のモンスター

 なぜ、この人は補欠だったのか

 打撃はともかく、出会った頃には既にレーザービームビンビン、足クソ速い


 なのに、補欠、しかもガッツリ補欠

 名取監督のせい?工藤さんの空気入れ?


 少年野球も、中学野球も万年補欠

 運動神経の塊なのに、補欠


 指導者に恵まれなかったから?

 

 確かにそうかもだけど、本当にそれだけかな


 私と出会うのを待っててくれた気がする

 いや、竜斗は待たされたと思う


 竜斗に前に聞いたことがある、本当は野球を中学で辞めるつもりだったって


 でも、タカちゃんって子が、夢に出てきて励ましてくれたからだって


 野球続ければ、きっといい事あるよ的なやつ


 ハタから見たら、アホかレベル

 でも、私はアホかなんて思わない



 もしかして、私の願いを少し違った角度でいつも叶えてくれる神様はタカちゃん?


 神風で竜斗を救ったのは、本当にタカちゃん?

 

 ずっと私達を応援しててくれてたの?


 ねぇ、もしかして、私の事知ってるの?


 だってさ、竜斗の願いを叶えるのはわかるけど、なんで、私の願いを聞いてくれたの?

 なんで、私の夢に出てきてくれてたの?


 体育祭の時の笑い声

 なんで、竜斗に聞こえなくて、私だけ聞こえたの?


 私ずっとアメリカだよ?

 タカちゃんが、私の事知ってるわけないよ

 

 存在だけは知ってたの?





 本当にお兄ちゃん?…なの?



 タカちゃん

 竜斗に野球続けろって言ってくれてありがとうね

 素敵すぎるご褒美だよ


 おかげで、幸せいっばいで楽しい人生だよ


 いつかまた声聞かせてね。


 

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