グランクラスの旅
トゥルルルルー
プッ
『はい、あ、竜斗〜』
「母さんあの…」
『昨日ハウスメーカー?来たわよーありがとうねー、杏子さんによろしく言っておいてね、お父さんがね、息子に家を建て直してもらうなんて恥ずかしい!とか言って、一回ムクレちゃってねー、めんどくさっ!とか思ってね、いやいや、これは杏子ちゃんからのプレゼントよって言ったら、今度は大喜びしちゃってね、ほら、お父さん、冬川京子ちゃんの大ファンだから、そしたらお父さん、今度は前のドラマ見出したの、何見たと思う?杏子ちゃんが不動産屋になって、家売りまくるやつ、それ見てニタニタしてるの、いやね、確かに家買ったよ、あ、買ってもらったか、だからってそれ見てどうすんのよ!ってね…』
「母さん!」
『なあに?あ、そうそう、去年いっぱい書いてくれたサイン色紙がもうないのよぉ、また書いてもらいたいんだけどね、あ、杏子ちゃんのもね、杏子ちゃん凄い人気よね、色んな顔見せるからかしら、でもやっぱりあの映画の涙は素敵よね、私何回見ても泣いちゃう、それにこの前野球教室みたいのもやってたわね、凄いわよねぇ、あの綺麗なお顔で野球も教えられちゃうんだもの、竜斗は無理ね、教えられるような感じじゃないもんね、あとだめよ、この前試合中にボール追っかけてファンとちょっとぶつかったでしょ、その時女の子にデレデレしてたでしょ、あの時杏子ちゃんカンカンだったわよ、これでもかってくらい鬼のような顔、またアナウンサーさんになんか言われてたわよ、かわいそうに、ちゃんと謝った?あとね、あなた達が行ってたジム…』
「母さん!聞いて!」
『聞いてるわよ?』
「あのさ、俺、中三の時から何回かエキストラ行ったじゃん、覚えてる?」
『覚えてるわよ、私が紹介したんだから』
「うん、母さんはどこから紹介してもらったの?確か知り合いって言ってたよね」
『そうよ、知り合い』
「その知り合いって、もしかして俺の知ってる人?」
『…………』
母さんが珍しく黙った、ビンゴか?
『そうね、もう言ってもいいわよね、本人からは伏せておいてって言われてたから黙ってたけど…』
「俺からは言わないから教えて」
『ごーちゃんのお母さんよ、高瀬さん、あの人、実は昔から芸能のお仕事してるの、周りに知られると面倒くさいから内緒ごとなの、おしゃべりの私もさすがに誰にも言ってないからね、誰にも言わないこと、あなたがほら、中学の時に問題起こしたでしょ?あの時にね高瀬さんが気を使ってくれて、竜ちゃん、かわいい顔してるからどう?みたいな感じで誘われたのよ、私もね竜斗はかわいい顔してると思っててね、なんか嬉しくなっちゃって、高瀬さんとこは上のケイちゃんもさおりと一緒でしょ、だから仲良くなって…』
「母さんー忙しいから切るよー」
『あらそうなの?スターは違うわね、スターは杏子さんもよね、今年のオールスター?レッドカーペット?杏子さん凄い綺麗だった、ドレス姿も似合うわよねぇ、もう本当うっとり、あ、竜斗も格好よかったわ、うーん、でも格好いいとゆうより、私はかわいいって感じな…』
ポチ
ふぅ〜、やっぱりそうか
この前から杏子がうるさい
杏子が迷探偵杏子をしている
ゴー君がスパイだ!ゴー君はエージェントだ!
と、うるさい
考察好きの杏子
何かあるとすぐ考察する
あったま悪いのに下手な考察をする
昔、そのバカな考察のせいで、勘違いしまくり、俺と距離を取ったこと忘れたのか?
忘れたな、自分の都合が悪い事はすぐ忘れる
そして、俺に都合が悪いことは、キッチリ覚えてる
素晴らしい
でも…今回の考察は当たりかなぁ
俺と祥子さんが飲んだ時、酔っ払った祥子さんが、ぽろっとしゃべった話の内容を噛み合わせると、しっくり合うもんな
杏子の言う、俺達の物語
俺と葉山翔子の出会いは偶然?奇跡?かと思ってた
その奇跡の出会いからこの物語は始まったのかと、杏子の考察を聞いて思った
でも、そこも絵が描かれてたのかな?
ゴーのお母さんは、俺を葉山翔子と共演させようとして紹介してない
ただのエキストラとして紹介しただけ
実際俺に目をつけたのは、スタッフの山岸さんだ
まぁ、目をつけたとゆうか、他に人がいなかっただけ
そう、山岸さんが、緊急で声を掛けてきただけ
ここ、なんで、俺だったんだろ
他にも劇団員とか探せばいるだろ
何か色んな事情があって、俺に出演依頼がきた
なので、この出会いの奇跡を感じた
当時めっちゃビックリしたし
俺が絵を描いたと言ってるのは、祥子さんのことではない
その他にも、この狭い桜水界隈でいろいろ偶然が重なる
その偶然と奇跡が俺達を押し上げだと思ってる
祥子さんも凄いけど、それだけじゃない
その偶然と奇跡を引き起こしてるやつが、他にいる
もう一人いるんだよ、迷探偵杏子さんにはわからないと思うけど
そいつの目的とゆうか、やりたかったことがわかってきた
完全に騙された気分
俺に野球をもう少しやれと言った奴
最初は葉山翔子が降りてきた!とはしゃいだ
でも、それは違った、騙された
本人の声がバレたくないのか、声を変えてきた
葉山翔子ではなく、祥子さんに変えてきた
俺はそう思ってる
杏子は祥子さんに踊らされた、とか言ってるけど、俺は踊らせてもらったと思う
でも、もうなんでもいい
こうして、大好きな野球を仕事にでき、大好きな人を嫁さんにでき、そして毎日のように一緒に行動している
幸せすぎる
乗り鉄や城巡りを気軽に出来ないのは、少し寂しいが、それは野球を引退して、ほとぼりが冷めた後、杏子と存分に楽しめばいい
引退後が楽しみ
お金と暇はあるからな
「むにゃにゃ、エヘヘヘ」
どんな夢を見てんだ
ふぅ〜、出かけっかな
あっちこっちに脱ぎ散らかしてある、服や下着を拾って回る
もちろん俺のではない、そこでマッパで爆睡かましてる杏子のやつ
この裸族にはもう慣れました
まぁ、しゃあない、このまま寝かせておいてあげよう
昨日は野球教室だったから、クタクタなんだろう
てか、教室とかのレベルじゃない、ガチの指導だ
横浜の中学クラブチームからオファーがきた
えっと、俺じゃなくて冬川京子にきた
なので、俺は付き添いでお邪魔した
おかしくない?
普通は俺じゃない?
一応メジャーリーガーなんですけど…
今回のオフはこれで二回目、冬川京子野球教室
二回とも、俺は付き添い
俺にはオファーこない
おかしくない?
ことの発端は、シーズン中にスタジアム内で、たまに行われた杏子の教室だ
早い時間に、選手やコーチ達が子供を連れてグラウンドで野球をやらせてる。
そこに、杏子が混じって野球を一緒にやり出したのが始まり
最初は軽く子供達にボールを投げて打たせ
軽くノックを打って楽しませてた
すると、段々教室ぽくなってきた
それがさ、杏子はうまいのよ教えるの
いや知ってたよ、高校の時に俺が教えてもらってたんだから
でも、改めて見ると本当上手い
杏子はまず基本のプレーがしっかりしてる
メジャーは、派手なプレーも多いが、そこは基本がしっかりしてるから、派手なプレーが出来る
オリーも動きが派手だが、やはり基本はしっかりしてる
その基本プレーを子供達に教えるのが上手い
子供達、みんな目をキラキラさせて聞いてる
あとね、やっぱり杏子に褒められるとみんな喜ぶ
杏子は野球は面白いんだよ、楽しいんだよって、教えていく
本当大好評
子供達はもちろん、連れて来た選手やコーチ、それから奥様軍団にまで大好評だ
それを日本のテレビが取り上げてから、オファーが多くなった
スケジュールもあるので、何件も断ってる
で、昨日のクラブチームの指導よ
相手は中学生のクラブチーム
もちろんガチ
杏子はバッティングピッチャーでバンバン投げて指導していく
その間、俺は外野で玉拾い
まぁ、体動かしたかったからね
その後、内野ノックを自慢のノックバットでカンカン打ってる
俺はその間、することないのでボーっとしてる
誰も俺に寄ってこないで、みんな杏子のノックと指導に見惚れてる
俺ほったらかし、おかしくない?
気の毒に思ったのか、お母様軍団がお茶を用意してくれた
お母様軍団とティータイム
ついつい話が盛り上がる
すると、中学生の選手に、春樹選手、春樹選手やばいです、後ろ見て後ろ
言われて振り返ると、杏子がノックをやめてこっちを睨んでる
ほっぺパンパン
ドリフかよ
えっと、こんくらい良くない?
心狭くない?
嫌ではないけど
杏子のやきもちやっきーは、今や世界中が知っている
試合中、俺の女性対応がいけないらしいが、テレビに抜かれるのをわかってるのに、ブチキレてる、我慢できないみたい
そして、実況にいじられる
もうこれがデフォになってる
なので、俺に声をかけてきた中学生も、それを察して、注意を呼び掛けてくれた
どんなだよ
「ちゃっと来て」
「はい」
「何やってるの?」
「いや、お母様がお茶を出してくれたから」
「いやそれはいいよ、飲みな」
「う、うん飲んだ」
「何をデレデレしてるの、こっちはひたすら打ってるのに」
「デレデレしてません」
「なんなら、お母さん達の方がもっとデレデレしてる」
「いや、してないと思いますけど」
「してる、もうお茶禁止」
「えーーー!」
「なに!」
「なんでもないです」
「竜斗は昔からそうだよね、ちゃんと鏡見てる?」
「ええ?」
「もういい、ほっとくとだめだ、竜斗は私にボール渡す係」
「はい」
なんてことがあった
杏子は、立派な鬼嫁に成長した
あれ?昔からか?
でも、確実に迫力は増してきてる
嫌ではないけど
でも、最後には杏子のバッピ相手に打撃を披露することが出来た、一応顔は立ててくれる
許す!
グローブメーカーも大変
冬川京子モデルグローブがバカ売れ
プロでもない、女優のモデルがガンガン売れてる
俺のグローブとセットで作った、杏子の小さめのグラブ
これがマジでセンスいいのよ
草野球から、学生野球まで幅広く売れてる
てか、俺の春樹モデルより売れてる
おかしくない?デザインは一緒だよ
冬川杏子モデルキャッチャーミットもバカ売れ
ミットのことはよくわからないが、高校生にバカ売れらしい
なんでだよ!
そして、ノックバット
冬川京子モデルノックバットが売れまくってる
いやいや、ノックバットにモデル?しかも女優モデル
さすがにおかしいだろっ!
でも、売れる、お父さんコーチに大人気
野球が出来る女優には、メジャーリーガーも勝てないことがわかった
ん?一応、俺、俳優も出来るメジャーリーガーなんですけど…
さてと、出掛けるか
「杏子」
「クークー」
「杏子!」
「んあ、なぁに?」
「出掛けてくる」
「わかったぁ、いってら」
寝ぼけてる隙に許可を取る
杏子からは、気軽に出掛けるなと言われてる
パニックになったらどうするんだと
でもね、これ俺一人だと全然へーきなんだよ
素顔はさすがにまずいので、メガネをかける
いつものスウェットだとバレるから、逆にカチッとした服を着る
メガネにカチッとだと、全然イケる
俺は溶け込めるのかな、オーラないのかな
甲子園で優勝した時もそう、全然へーきだった
杏子はだめ、杏子いると絶対バレる
あのうるさい顔立ちは絶対バレる
スルスルっと部屋を出て、東京駅へ向かう
日本に帰ってきたら鉄道でしょ!
N700のSを見に行く、隙あれば乗る
地下鉄に乗る!
全然バレない!
東京駅に着いて、新幹線ホームへ
とりあえず、狙うのはこだまのS!
のぞみだと遠く行きすぎちゃう
来た
普通自由席に乗車
とりあえず小田原
発車、Sの車内に大興奮
新横浜過ぎたあたりでスマホがブブッと鳴る
ラインがきた、杏子だ
うわぁ、もう起きたかぁ
(今どこ?)
(新横浜発車)
(は?何してんの?)
(え?出掛けるって言ったよ、許可取ったよ)
(アホか、覚えてない、覚えてないのは無効です)
(えー)
(戻っておいで)
(はい)
(私も一緒に出掛ける、どこか連れてって)
(え!うん、車借りる?)
(電車でいい、寝ないから)
ま、マジか、大丈夫か?
(騒ぎにならないかな?)
(変装する)
(どこ行きたい?)
(チュー新幹線乗りたい)
ん?あー、はやぶさこまちか、やまびこにも運用されるから近場にするか…いや、せっかくだからグランクラスで遠く行くか
(グランクラス乗っちゃう?)
(それ知ってるよ、ファーストクラスみたいなやつでしょ?)
(そそ)
(乗る!寝ないよ)
(オーケー、いっそのこと函館行っちゃう?夜景見ようか)
(見たい!一泊しちゃお、ん?函館って何県だっけ)
………
(北海道だよ!寒いから暖かい格好ね)
(わーお、あれ北海道初かも、オッケー準備する)
(東京駅行けばいい?)
うーん東京駅は目立つな
(上野から乗ってきて、今からチケット取って杏子のスイカに入れるから、タッチで入ってきて、ホテルも取るわ)
(オケ!上野?タクる!)
うん、その方が安心
(あ、俺の代えの下着と靴下求む)
(かしこまり)
とは、言ったものの、大丈夫かなぁ、事務所にも止められてんだよなぁ
ま、いっか、やばかったら、サーセンってことで
小田原でUターンして、東京に戻る
杏子の準備に合わせて、新幹線のチケットを取る
東京駅発車
初グランクラス
やべー、グランクラス最高、てかガラガラ
平日の変な時間だからか?ラッキー
すぐ上野駅到着
振り返って待っていると、ジーンズにブルーのコート姿の杏子が来る。
変装用のどでかいサングラスとマスクをつけてる。
冬川京子とはわからないが、怪しさは満載だ
「やっぱりチューしてるよねこの新幹線、しかもこの車両じゃんキス顔車両…ん?はうっ!」
「どした?なぜメガネ?」
「あ、うん、一応変装」
「外して!」
「え?」
「早く!」
「わ、わかったよ」
メガネ外す
「私といる時以外、メガネ禁止」
「はいー?てか、じゃあ、今はつけててよくない?」
「あ、そか」
いつも通りの杏子さんです
「窓側、早く座んな」
「うん」
ストンって座る、そしてシートに背中を何回も押しつける
「やばくない?このシート、めっちゃ凄いんですけど、これ新幹線だよね?やばい!」
相変わらずのはしゃぎ具合、まぁ空いてるから良しとする
「バレなかった?」
「うーん、どうだろ、みんなに振り返られたけどね」
と、言いながら、サングラスとマスクを外す
綺麗な顔立ち、髪は少し茶髪でストレート
昨日、バンバンバッピしてた人間とは思えない
うちの妻はめっちゃ綺麗です
「騒ぎにならない事を願うしかないな」
「ま、そん時はそん時、どんとこいだよ、でもさ、経験上、撮影!ってなると騒ぎになるけど、プライベートだと意外と平気だったよ、気を使ってくれてるのかな、そっとしといてくれるよ」
「そっか、ならいいけどな」
「ご利用ありがとうござ…キャッ!」
アテンダントさんがビクつく
「シーーー」俺、杏子
って、誰も他にいないけど
「なんか、テンション上がるね」
「急にどうした、どっか連れてけなんて」
「んー、なんかね、竜斗が新幹線乗ってるって聞いたら、私も出掛けたくなっちゃった」
「そっか」
「なんかさぁ、昔思い出してね、アメリカのバカンスも楽しかったけどぉ、竜斗と一緒に行った学生の頃のお出かけ思い出しちゃって」
「うん、楽しかった」
「私も!めっちゃ楽しかった!フフフ」
いつもの、俺にしか見せない笑顔をする杏子
出会った日を思い出す、今でも覚えてる
九年前のあの日
黒のジャージにグレーのパーカー、キャップからポニーテールを出して、スポーツバッグを担いで外人とグラウンドに現れたあの日
大好きになったあの日
そして、初めて見せてくれたこの笑顔
今も顔は大人になっても、この笑顔は変わらない
この笑顔が大好きだ
「ねえ、見せたいの物があるの」
「え?なに?」
スマホをいじって何か見せようとしてる
「ほら、凄いでしょ?」
………!
「後部展望!」
「そう!」
「これ、あれだ、特急しなのだ!」
「ピンポン」
「いつ?いつ撮ったの?すげえー」
「んと、まだ離れ離れの時だよ、たまたま乗ってさ、竜斗が見たら喜ぶかなぁって、いつ会えるかわからないのにウケるよね」
「う、ウケないよ…」
前に杏子に言われた「竜斗はアメリカで大変な生活をしてたんだね、それに比べて私は自由でリッチな生活、同じ待つでも全然違う、本当竜斗は凄いよ」って…
確かにそうかもしれない
でも、俺からしたら、杏子の方が凄い
華やかな芸能界の世界を、十代の後半から二十代の前半の多感な時期を一人身で過ごしてる、いくらでも遊ぶチャンスはあったし、誘いも沢山あったはず、それなのに、それなのに、ひたすら、ひたすら、それらを拒み、俺を待ち続けてくれた、こうして動画とかを撮って、俺が見たら喜ぶかなとか考えて、言う通りいつ会えるかわからないのに、一旦は別れてたのに、俺だけを思っててくれた
本当に凄い
ここまで俺を愛してくれる人は他に絶対いない
もし、杏子と出会ってなかったら、他の人と付き合ったり結婚してたかもしれない、でも絶対にここまで愛してくれる人はいない
俺は笑顔よりも、俺に対する愛し方が一番好きなのかもしれない
だから、やきもち焼かれてガミガミ言われても、なんら苦にならない
俺らの出会いは作られたかもしれない
でも、この二人の愛は作られたわけではない
出会いを作った人達は、俺達がこんなに愛し合うのは想像出来たのであろうか?
出来てたのなら凄い、マジで褒める
もしかしたら、祥子さんは途中で脚本変更をしてるかもしれない、俺らの愛し方を見て…
「本当はねぇ、しなのに乗るまで秘密にしようと思ってたんだけどさっ、もう無理そうじゃん、気軽に出掛けられないもん」
「……」
「二人で久しぶりに新幹線乗ったし、いい機会だからね、後で送ってあげる」
「出掛けられるよ、今は無理かもだけど、将来出掛けよう、俺が引退してほとぼり冷めたら出掛けまくろう、お城スタンプ集めよう」
「え!う、うん、集めたい!」
「そうだよ、松本だけで止まってるからね」
「あ!ねぇ、聞いてね、オホン、まつもとぉ〜まつもとぉ〜まつもとぉ〜、どう?上手い?」
「上手い!上手い!」
「この放送はね、1985年から始まった名物放送でね、声の主はハイジの声優さんなんだよ!」
「す、凄いやん、ググった?」
「違うもん!覚えてたもん!」
「ハハ、凄い凄い」
「私ね、正直言うとね、一回諦めかけたことあるの、竜斗の事、もう竜斗はアメリカで新しい生活をしてるかもしれない、私も未練タラタラしてないで、前を向かないといけないかもって…」
「うん」
「でもね、そんな時にこの放送聞いたの、仕事で松本行った時に…したらね竜斗のうんちく思い出したの、思い出したどころか、ぼんやり聞いてはずのこのハイジの件をスラスラ言えちゃったの、凄くない?で、思った、やっぱりダメだ、私、竜斗じゃなきゃダメだって、だからこの放送は私にとって神放送なんだ…あ、ガッカリした?」
「う、うん、全然大丈夫、その放送なくても、杏子はきっと待っててくれてたよ」
「え?うん、自分でもそう思う、だって私、竜斗が大好きだもん、それにね、竜斗以外を好きになれる自信もない、竜斗しか愛せないんだ」
「そっか、ありがとう」
一度は前を向こうとしたのに、向かなかった方が凄いじゃないか、何もなく待てたより、よっぽど凄いと思う
本当におばあちゃんになるまで待ってたかもしれない
俺なんて、何度前を向こうとしたことか…
ま、でも、無理だったけどね
余裕が無かったからとかではない
壁にあの絵を貼り続けたってことは、一度も忘れようとしたことがないってことを、俺自身に教えてくれる
「ねえ、私って重い?うざい?」
「ううん」
「本当?いつもギャーギャーうるさくて嫌にならない?」
「自覚あるんだ」
「一応あります」
「いーんだよ、杏子はそれで、そのままがいい、前にも言ったろ」
「え、うん、竜斗、私のこと好き?愛してる?」
「もちのロン」
「ちゃんと言って!」
「愛してるよ」
「私も愛してる、ねぇ、チューして」
「はい?」
「新幹線チューしたことかないから、チューして」
「マジで?」
普通は新幹線でチューしない
「いいじゃん、新幹線だってチューしてるんだから」
チューじゃない、連結だ、ま、誰もいないしいっか
ストン
窓のブラインドをしめる
「愛してるよ」
少し濃厚にしてやる
「ンンンンンン、ンンンンンン」
「キャッ!」
え?あ、アテンダントさん
「さ、サーセン」俺、杏子
「ねえ、この新幹線には硬いアイス売ってないの?」
「あるよ、ちょっと待ってね」
「すいません!」
チューをガン見したアテンダントさんが、まだ近くにいたので、ボタンを押さず声をかける
「キャッ!はい」
今はなんもしてねーよ
「シンカンセンスゴイカタイアイス、ください」
「かしこまりました」
「わお!ネーミング!」
「だろ?」
アイス到着
「はい、どうぞ」
「どうぞじゃない!魔法かけてよ」
「え?魔法?」
「そ、魔法」
「あー、揉むやつね」
「そ、揉んじゃうやーつ」
ギュッ、ギュッ、ギュッ、ギュッ、
ギュッギュッギュッギュッギュッ
「こんなもんかな、どうぞ」
「もう!どうぞじゃない!味見して!柔らかくなってるかチェックして!」
「はいはい」ペロリ
「うん、もう少し待てば、イケるよ」
「ありがとう、エヘヘヘヘ」
「あ!」
「ん?」
「アメリカで揉んでない?、離れ離れの時に揉んでない?まだ専属マネになる前の別居の時に揉んでない?」
「え?このアイスねーよ、いや、あんのかな、とにかく揉んでないよ、魔法かけてない」
「違う!女のおっぱい」
ガクッ
もうね、この類の質問は死ぬほどされてるので慣れました
「揉んでません」
「じゃ、じゃあ間接チューは?」
「間接チューも、直接チューも、連結チューも、してません」
「そっか、良かった、エヘヘヘ」
「良かったね」
「やっぱり私重いよね」
「ううん、俺には丁度いい重さだよ」
「あ、そ、合格、チュッ」
ご機嫌マルマルで軽いキスをしてくる
「またパクってる、その合格ワード気に入ってるよね」
「もう!いい雰囲気だったのに!台無しにしないの!そうゆうとこだぞ!」
「竜斗〜、いい加減大人になってよ」
この人、ブーメランって言葉知らないのかな?
「そろそろ、女心わかるようになってね」
「そっか、じゃあ、アイス食べれるようになるまで、チューして待とうか?」
「え!」コクコクコクコクコクコク
目力パンパンで頷きまくる杏子
「嘘」
「もう!おこっ…」
「ンンンッ、ンンンンー、ンンンン」
「合格?」
「もっかい!そしたら合格にしてあげ…」
「ンン!ンンンッ、ンンンン」
「キャッ!」
あ…
「サーセン」俺
「ワタシタチハンブンアメリカジンネ」杏子
「でた!」
「なによ!」
認める、俺もなかなかだわ
リナに変態夫婦って言われても、何も言い返せない
「そういえば、お城スタンプって何個あるの?」
「今は二百、名城スタンプ百個と続名城百個」
「えぐいね、全部回るのにどんだけかかるのよ」
「そうだな、杏子はおばあちゃんになっちゃうかもな」
「え?なんで私だけ?なんで私だけおばあちゃん?」
「杏子老け顔だから」
「もう!今は違う、追いついた!」
「じゃあさ、俺らの将来の夢、引退後に二百個スタンプ制覇!どう?」
「うん!制覇する!」
「その前に、まだ叶えてない夢あるよな」
「ゲスト解説!」
「そう、でもこの前話出てたよね」
「うん、数年後計画してるみたい、東京シリーズだって」
「実現できるように、引き続き頑張るから、頼むよマネージャーさん」
「オーケー、任せて!」
「あ、函館にもお城あるよ、明日行くか?」
「行く行く、行きたい」
「よし、五稜郭行くぞ」
「ごりようきゃく?」
「うーん、うんそれでいい」
「ご利用客行くぞー!」
「フフフ、楽しいー!」
テンション上がる杏子さん
からの
「グランクラスのシートって気持ちいいね…」
で、杏子はいつも通り寝た
祥子さんは昔言った
新幹線の運転手の夢もいいけど
新幹線のグリーン車にいつでも乗れる夢も悪くないよ、って言ってくれた
グリーン車どころか、グランクラスにヒョイっと乗れるようになった
そして、横には最愛のちょっとおバカな妻がいる
うん、悪くない
「クークー」
即爆睡してる杏子
もう夢の中で男の子の声は聞こえないだろう
ミッションは終了したから
自転車で転んだ日、祥子さんの誕生日、杏子がもう何も気にすることなく渡米した日、タカちゃんは自分の住むべきところに、旅立った
そう、狙ったかのように、その日に旅立った
その日が先に決まってて、そこから逆算して、物語を作ったかのように…
タカちゃんがやりそうなことだ
引退したら、お盆に杏子連れて墓参りいくか
お盆なら杏子はまた聞こえたりして
俺が聞こえたのは、一度だけ、祥子さんの声で野球続けろと言われただけ
それ以降聞こえてない
俺に降りてこなかったのは、俺が野球を続けてくれれば、心配いらないから、悪く言うともう用が無いから
タカちゃん、祥子さんの事、大好きだったんだな
小さい頃によく遊んでくれた大好きなお姉ちゃん
「本当の」お姉ちゃんだもんな
もう仮説じゃないぞ、俺は確信してるからな
お前に星川家の血が流れてることをな
昔を思い出したよ、小学校五年生くらいかな
俺に言ってた
「ハル、みんなに内緒ね、葉山翔子は俺のお姉ちゃんかも、だってね、この前聞いちゃったんだ、夜トイレに起きた時に、お母さんがテレビに向かって一人で喋ってたんだ、翔子、弟の直鷹は元気だよって」
当時の俺はなんのこっちゃで、アホかってツッコンでた
タカちゃんは葉山翔子の大ファンだったから、妄想が過ぎたのかと思ってた
ははは、本当だったんだ…
ん?そうか、小学生で葉山翔子の大ファン…
今考えると普通にありえない
小さい頃に会ってたお姉ちゃんは、葉山翔子だ、って早い段階から気づいてたんだな
ま、タカちゃんが祥子さんの弟ってことが、明るみに出ると大変なことになる
安心しろ、誰にも言わない
俺も墓場まで持っていくよ。
ん?あーーー!
アイス…
コイツ、せっかく魔法かけてやったのに!
食わねーで寝やがった
自分で魔法かけて、自分で食うとか
ありえない
これ、逆だったら、杏子は絶対にブチギレてる
もう怒った!
起きたら文句言ってやる!
い、言えるかな…




