思い出回収
二十二歳の夏
ドラマで共演した俳優さんから、食事に誘われた。
まだ、いつかは決めてないがOKした。
打ち上げを建前にして、OKにした
男性と二人っきりで会うのは初めて
今まで、散々あちこちから誘われてきたが、問答無用で断ってきた私
だけど、今回の人はいいかなと思った。
とりあえず食事して、今後を考えようと思った。
ドラマでの雰囲気も良かったし、誠実な人、優しい人、顔もどことなく竜斗に似てる気がする、要は顔はタイプかも
歳は五歳上、ちょうどいいかも
SNSでも、お似合い!結婚すればいいのに!
なんて、騒がれてる
もう、前に進もうと思ってOKした。
食事する日が決まったら、姉に報告しないといけない
この業界をやる事になって、姉から言われたルール
男性と二人っきりで会う時は必ず報告すること
おそらく、撮られたりした時の対応があるからかな
もう、撮られて竜斗に見られてもいーや、って思い始めてる。
「京子ちゃん、明日は松本で番宣ロケだから、前乗りするよ」
と、マネージャーの丸山さんから言われた。
「あれ、そうでしたっけ、全然忘れてました、で?なんで松本…」
松本?あ、昔、竜斗とお城を見に行った場所だ、懐かしい
なんて、もう遠い記憶になってきており、微笑ましくも思えてきた。
これはもう大丈夫だな、前に進もう
「なんで松本なんですか?ドラマと関係ないような…」
「松永さんが松本出身なの、それで故郷に帰ってブラ旅しながら番宣、仲良いのアピールしてね」
「なるほど」
松永さんってのが、例の食事を誘ってきてくれた俳優さん
松永優馬、もしかしたらこの人と付き合うのかな?
「車で行くんですか?」
「いや、電車よ、次の日京都で撮影あるから、そのまま松本から向かうから」
「はーい」
新宿駅から、マネージャーの丸山さんとあずさ号に乗車
車両が変わってる、新しくなってる
スーパーあずさでもない、てかスーパー無くなったらしい
一般席じゃなく、グリーン車
何もかも変わってしまった。
アハハ、確かここであずさ二号歌って怒られたわ
外はもう暗くなり始めてる
これじゃあ、富士山見えないや
懐かしい
これはヘーキだな私、なんとも思わない
で、寝た
そこは昔と変わってない
「京子ちゃん着いたよ」
「うーーーん、はーい」
伸びをする
よく寝た、これ、ホテルで寝れるのか?
いや、寝れるね、寝るの大好き
車両から出る
「まつもとぉ〜まつもとぉ〜まつもとぉ〜」
松本駅独特の到着アナウンス、女性の声がホームにこだまする
ピタッ
ドクンドクン
思わず立ち止まってしまった。
「どうしたの京子ちゃん?」
「こ、こ、この放送はね、1985年から続く名物放送でね、声の主はあのハイジの声優さんな、な、んだよ」
竜斗のうんちくが普通に出てきた、聞き流してたはずなのに、しっかり私の頭の中に記憶されてたんだ、普通にスラスラ出てきたよ、竜斗の声が聞こえてきたかのように…
自然と涙が溢れてくる
楽しかった旅の思い出がフラッシュバックする
「ど、どうしたの!京子ちゃん?大丈夫?」
あれ…私やっぱりダメかも
松本ロケが始まった
一晩寝たら落ち着いた…かな?
お笑い芸人さんの上手いMCで、和やかに街ブラロケがスタート
マッキーもこんくらい回せるようになるかな
無理か、あいつだと街中全員敵になりかねない
松永さんの地元の友達とかも出てきて盛り上がる
が!私は盛り上がらない
仕事だからしょうがないんだけど、全く持ってつまらない
勝手に内輪で盛り上がってる
しらねーよ、どうでもいーわ、お前らの昔話
でも、番宣番宣
一生懸命冬川京子を演じる
あ、この辺でナガノって何県?って聞いて呆れられたわ
前を歩くカップルに失笑された ふふ
なんか、逆に吹っ切れてきて、エンジンかかってきた
ダブル主演なので、仲良しをアピール
そして、一旦休憩
「京子ちゃん、俺ら良い感じだよね、めっちゃ気が合うよね、なんか素も出してきてくれてるし、嬉しいよ」
プッチーン
松永さんに言われた言葉にあったまきた
もう子供ではないので、キレずに愛想笑いで返した
愛想笑いしてる時点で終了
竜斗相手に愛想笑いなんてしたことない
こいつ本当めでたい奴だな
気が合う?合わせてんだよ
素なんかみせてねーよ!演じてんだよ、冬川京子演じてんだよ!
あーれー?
どうしたこれ、一気に冷めた
竜斗は気が合う、うん、素でいける
久しぶりに会ったとしてもいける、うん、絶対いける
体育祭の時の竜斗が引いたカードを思い出す
「素でいられる人」
この人がこのカード引いて迎えにきたら、拒否るわ
前に進めそう、私進める、ってこの人に対して思ったんだよね、私
じゃあ、この人に蹴り入れられるか?ブルマ履けるか?
アホ面ぶら下げて寝れるか?ポンコツでたか?本気で笑ったことあるか?
いやさ、いきなりそう思えないのはわかるよ
でも、それらが出来る未来が全く想像できない
なぜならば、気が合いそうもないから
この先も、素を出せそうにないから
今の時点で波長が合わないから
一緒にいても楽しくないから
じゃあ私、どこに惹かれた?
いや、惹かれてないわ
寂しさ埋めようとしただけだわ
アホすぎる
なにやってんだ私
本気で好きになる人、竜斗を越える人をみつけるまではダメだろ
この人、冷静に見ると、なに一つ越えてない
絶対、一生後悔するわ
私はマリさんみたいにはなれない!
あ、マリさん、サーセン
ロケ再開
ドラマのために一生懸命演じる
松本城のロケが始まる
「見たくださいこのお城、黒でかっこいいでしょう」
プッチーン
松永さんのセリフにまたイライラした
台本にはなく、ここはアドリブシーン
イライライライラ
無理
「天守です!天守ですよ、お城とは城郭一体を表す言葉です!気をつけてください!」
竜斗のうんちくを思い出した
あ、やば、少し強めに言っちゃった
「えっとぉ、ふ、冬川さんお詳しいですねぇ、お、お城にこだわりあるのかなぁ」
MCの芸人さんがうろたえる
「あ、いえ、昔そうお聞きしたものですから」
「はい、冬川さんの言う通りです、お城とはですね…」
松本市の案内人の方が賛同してくれたけど…
地元の松永さんの顔を潰してしまった
ま、いっか
どうせカットだろ
てか、地元なら知ってろよ
現存天守なんだから!
あ、これも覚えてたわ
ロケが終わり、京都に向かう
「どうしたの?京子ちゃん、昨日から変よ」
マネージャーの丸山さんに軽くキレられる
「サー、すいません」
「ここから、特急に乗ってとりあえず名古屋向かうからね」
「はーい」
松本駅に特急が滑り込んでくる
特急しなの名古屋と表示されてる
わっ、しなの君だ!
しかも、前見た時と同じ車両!
グリーン車に乗車、グリーン車は最後尾の展望車、一番後ろの席からの展望が素晴らしい
竜斗だったら絶対喜んだだろうなぁ、この眺め
スマホで後部展望を撮影する
いつの日か竜斗に見せるために
あ!そうだ!スイッチバック!
どこだ、確かこの特急はスイッチバックしないから、普通?に乗ったんだ
だから目を凝らして見てないと!
あれ?それらしいのない!
車掌さんが来たので聞いてみた
「あ、あのスイッチバックの駅ってまだですか?」
「はい?あー、逆方向ですよ、松本駅から長野方面の姨捨駅ですよ」
ガーン
「よくご存知ですね、冬川京子さん」
ガーン
身バレしてアホバレた
「ちょっと、本当にどうしたの?京子ちゃん!もう社長案件になるわよ」
「はーい」
そして、松永さんにお断りのラインをした
わかりましたと返ってきた瞬間、速攻ブロックした
私、サイテーだわ
京都の撮影が終わり、東京に戻る。
テレビ番組の打ち合わせに向かう
京都駅から、のぞみちゃんのグリーン車に乗車
新幹線は既に何度も乗ってるが、だいたい寝てる
けど、今回は寝ない
こうなったらアイツ食う
車内販売キタ
「すいません、シャープペンありますか?」
「はい、こちらになります」
うーん、違う、でも言った手前
「あ、ください、あとアイスください、丸山さんも食べる?」
「いらないわよ、硬いやつ食べたら歯が折れるわよ」
さすがよくご存知
ペンはなんかデザインが違うので、逆に竜斗にプレゼントしよう
前に竜斗に買ってもらったやつは、今も桜水高校でスコアブックと共に眠ってる、いや、強引に保管された
だから、また欲しかった
そして、アイス、変わらず硬い
硬い、あの時竜斗は魔法をかけてた
でも、私には出来ない、柔らかくならない
ねぇ竜斗、魔法かけてよ…硬くて食べれないよ
あれ、何してんの私…
お土産買ったり、動画撮ったり、意味なくかっっったいアイス頼んだりして…
バカみたい…
涙が溢れてきた
「あらぁ、これもうだめね、社長に電話してくる」
東京駅に到着
テレビ局にタクシーで向かう
途中、東京タワーの近くを通った
綺麗にライトアップされた東京タワー
竜斗と一緒に見に来た。
初めての日本の電車にテンションぶち上げだった
ここで、初めてチュープリ撮った
実家の私の部屋にまだある
宝箱にまだある
ねえ、竜斗、あなたは今どこで何してんの?
私のこと、もう忘れた?
私は、私は、今でも竜斗のこと大好きだよ
ねえ、早く迎えに来てよ
壊れそうだよ、限界きてるよ
また涙が溢れてきた
「社長!京子ちゃんダメです!」
とうとう恐れてたことがおこった
数日後の竹下通りのロケ
これも番宣
私一人のロケだったんだが…
竹下通り、意外と竜斗とスイーツぶらりデートしてから来たことなかった
そして、フラッシュバック
アーンをしながら歩いたこの街
竜斗がふざけて、鼻にクリームをつけてきて怒った
けど、楽しかった
あの時の、竜斗の笑顔が飛び込んでくる
竜斗の…笑顔が…飛び込んでくる
ロケ中号泣してしまった
当然ロケ中止、お蔵入り
後日、違うキャストで撮り直しになった
私、この仕事、楽しくやってたつもりが、ただの竜斗と会うまでの繋ぎだったのかな
限界を越えた、竜斗と一緒に行った場所にイチイチ反応してしまう
もう五年、なのに全然忘れられない
覚悟を決めた、信じて待つしかない
私…竜斗しか愛せない。
もう大人になってきてるのに
初恋が忘れられない。
「あー、とうとうきたか、まぁ頑張ったよ、よくここまで頑張った」
怒られると思ったのに、まさかの珍しい姉の優しい言葉にまた号泣
「まっ、とりあえずさ、来月からハリウッドだから、日本離れるから、リフレッシュしてこい」
そうだった、出たいハリウッド映画に出るんだった
竜斗とは思い出のない土地だ、一回リセット出来るよね
撮り直しになった竹下通りロケは、別の共演者の女優さんが務めてくれたんだが…
その方と、松永さんのお泊まりデートが撮られた
あぶねーー
誰でもよかったんかーい
あれ?それとも二股狙い?
マジで危なかった
誠実そうに見えたのに…
もう、誰も信用できない
いや、信用しなくて良かった
マジで、一生後悔するとこだった
私、渡米
ハリウッド映画
カーアクション映画の大ヒットシリーズ
脚本を飛行機の中で見る
ふむふむ
いつもの主人公チームはCIAのミッションに挑む
だが、途中、主人公は元カノに生ませた赤ちゃんが敵の人質に取られてしまい、主人公は身動きが出来なくなる
そこで、私が演じる女の出番
天才ハッカーでドライビングテクニックピカイチの女に一通のメールが届く、助けてくれ、赤ちゃんの場所はここだとゆう内容、敵に気づかられないように、暗号化して送られてくる
女はなんとか解読する
主人公に昔ピンチを助けてもらった恩を返すべく、人質の赤ちゃんの救出に向かう
途中、一人では無理だと悟り、ドライビングテクニックやばすぎの兄を刑務所から、得意のハッキングで脱獄させる
そして、兄妹が赤ちゃんを救う
その連絡を受けた主人公が、一気に敵を叩いてハッピーエンド
なるほどね
でも、相手の兄役がまだ決まってない
韓国籍の俳優になると書いてある
無理クリ兄妹にするのかな?
設定は一回り以上違うのか…
なんだか、私と姉みたい
ん?まさか、姉がやっぱり私でまーす、姉妹ってことでお願いしまーす、とかやりかねないような
さすがにハリウッド相手にそれはないか
でも、相手役決まってないと、イメージ掴めないな
撮影スケジュールを見ると、最初は私の一人シーンの撮影からスタートだから、後から合流って感じか
韓国籍の人、英語話せるのか?
色々不安
で、当然寝た
『辛かったね、あともう少しだよ』
カバッ!
飛び起きた!
え、なに!なに?なんか聞き覚えのある子供の声!
ふあぁ、ねみ
寝た。




