再スタート
ホケーーーー
真っ白な灰、まじで真っ白な灰になっちまった、ってやつ
燃え尽きてしまった
新学期が始まり、私は高校生二年生になった。
けど、何もやる気が起きない
なんとか、授業をこなしているだけ
予想以上にダメージでかい
大恋愛からの別れ
キツイ
クラスが変わってるけど、全然顔が覚えられない、覚える気がない
授業受けて、休み時間突っ伏して、お弁当を静かに食べ、授業終わったら、とっとと帰る
この繰り返し
みんな話しかけてこない
私と竜斗は学校では色んな意味で有名人
取り残された私をそっとしててくれる
ずっと、そっとしててほしい
リナさんとは、週一ぐらいでお弁当を一緒に食べるだけ
リナさんも私に気を使ってくれてる
にしても、時間の流れが遅い、遅く感じる
一日一日が長い!
竜斗と過ごした最後の半年は、あんなにマッハだったのに…
このペースで五年?六年?
しかも、ただ勝手に待ってるだけ
こりゃキツイ
第二グラウンドは取り壊しの工事が進んでる
見るのが辛いので、視界に入れないように過ごしてる。
ベコベコのあずまやは、竜斗の卒業に伴い、修復された
もう、当てる人がいないから
外された、ベコベコの屋根は、校舎裏にひっそり置いてある。
噂によると、竜斗がメジャーリーガーになったら、どっかに飾るらしい。
ベコベコの屋根と私は、ひっそりと竜斗がメジャーで活躍するのを待つ
竜斗がメディカルチェックをパスして、球団と契約したと報道が入った。
慌てて、スポーツ新聞を買いに行き、その記事を切り抜き、スクラップブックに貼り付ける。
ゴールデンウィークも引きこもり、体育祭も欠席
体育祭なんて行くわけない
去年が楽しすぎた
親に怒られたが、断固拒否した
夏休みも当然引きこもり
そして夏の甲子園大会が始まる
見ないようにしてる
家にいるのに見れない
去年のフラッシュバックが怖い
でも、決勝だけはなんとか見た
去年、うちの初戦で当たった関西の高校が圧巻の優勝を決めていた
てか、ノッポ君がエースで投げてた
そっか、去年は二年生だったよね
プツッとテレビを消す
♫ ♫ ♫
携帯が鳴った
機種変したが、なーんもいじってないので、初期設定の着信音
最近はまったく鳴らない私の携帯が鳴る
久しぶり過ぎてビックリした
もしかして!竜斗?
帰ってきちゃった?
なんて、思いを馳せて電話を見る
なぁんだ、姉だ
「もしもし」
「杏子ー、どうせ家だろ、いまからうちの事務所来い、命令」
「なにいきなり!なんでよ」
「うっさい、迎えの車行かせたから、よろしく〜プツッ」
なんだよ、なんで事務所?
何気に行ったことないや
うーん…姉のことだ、何かたくらんでる。
ピンポーン
来たか
何も楽しみではないので、ダッシュではなくスタスタ玄関に向かう
「こんにちはー、葉山翔子の事務所の長谷川っていいますー」
あ、前にクッキーを取りに来た人だ
「支度できてます」
「じゃあ行きましょうか」
黒のプリウスの後部座席に座らされた
「首都高空いてるみたいだから、三十分ちょっと位で着くからね」
同じ女性なのに母と運転スキルが違う
首都高乗れるだけでそう思う
姉の事務所は渋谷のちょっと外れにある
「去年の甲子園凄かったよねぇ、春樹君が泣いてる時にさ、杏子ちゃんが横でちょこんって座ってる姿は日本中が泣いたね、いや、世界中が泣いたかも」
世界中はないと思う
「あとさ、杏子ちゃんが一生懸命バッターの真似してたやつ、あれはウケたよ、何やってんのこの子?とか思ってたらさぁ、夜の番組でアドバイス送ってたって、やっててさぁビックリしたよ、それで伝わんのかよ!ってテレビにツッこんだ」
悪かったなぁ、伝わったんだからいいだろ
てか、一年も前の話なのに、よく覚えてるな
事務所に到着
綺麗なビル
もちろん、全部姉の事務所じゃないだろうけど、立派だ
「翔子さーん、お連れしましたよー」
「おー、こっちこーい」
応接室みたいなところに通される
ソファーにドカッって座る姉
有り余る足を組む
「ぼーっとしてないで座んな」
「う、うん」
「失礼しまーす」
長谷川さんがオレンジジュースを持ってきてくれた。
姉の前にはペットボトルの水が最初から置いてある
「しっかし、ひでー顔、やばいね杏子」
姉と会うのは久しぶりだ、家に何回か来てたけど、私は最近すぐ寝ちゃうので、顔を合わせてない
「ほっといてよ!」
「まぁ、太ってないだけマシか」
「用件はなに?」
「あんたさぁ、そのままでいいの?そんなやさぐれた人生送ってて楽しい?」
「しょうがないじゃん、大失恋したんだもん」
「いやさ、もう何ヶ月経ってんのよ、いい加減前に進みなよ、アホみたい、情け無い」
「うるさいなっ!どうせお姉ちゃんなんてロクな恋愛してきてないんでしょ!私の気持ちなんかわかるわけないじゃん!」
ガン!
机を蹴る姉に一瞬ビクッとなった
そして姉は立ち上がる
ガバッ!
ギュッ!
胸ぐらを掴まれ、目の前に目力パンパンの姉の顔が近づく
「おい、てめえいい加減にしろよ、いつまでもウジウジウジウジ、そんな顔ずっと続けんのか?あ?そんな顔で竜ちゃん迎えれるのか?まぁ、竜ちゃん前にしたら笑顔になるとか言うんだろうけど、だけどな、お前、このままだと本当にダメになるぞ、竜ちゃんの嫁になるんだろ?だったらこうして待ってるだけの間も自分磨けよ!」
「中身がブスだと、顔にも出るんだぞ、そんなブスを竜ちゃん見たらどー思うんだよ、マジで捨てられるぞ、したらお前一生引きこもりだ、ビックになって帰ってくる男を待つ良い女になれよ!このクソチビ!」
「そ、そんなことわかってるもん!わかってる、このままじゃいけないって、でもどうしていいかわからない、どうしていいかわからない!」
「そっか、じゃあいいこと教えてやるよ」
「えっ?」
胸ぐらを解放して、またドカッと座る
「その前に謝れ」
「はい?」
「ロクな恋愛してきてないだと?お前に何がわかる?私の何がわかるんだよ!あ?」
マジギレしてる
「ご、ごめんなさい」
「お前より十五年長く女やってんだぞ、舐めんなよ」
「ごめんなさい」
「お前、仕事しろ」
「はい?」
「モデルやれ」
「はい?」
「とりあえずモデルやれ、どうせ学校で浮いてるから、友達いなくて、やることないんだろ、だったら仕事しろ、仕事して暇つぶせ」
「え、え、モデルなんて私無理だよ、お姉ちゃんみたいに背高くないし」
「アホか、ランウェイ歩くだけがモデルじゃねっつーの」
「そうなの?」
「ティーン雑誌とかのアイテム紹介とかなら出来んだろ」
「え、何言ってるかわからない、日本語しゃべって、英語でもいいけど」
「はぁ〜、本当野球バカだわ、現役JKなのにひでーな」
「しょうがないじゃん!」
「洋服とか、帽子とか、小物とか、あと髪型アレンジとかのモデルやれって言ってんの、十代の子達が読む雑誌に載るの!チビでも務まるよ」
「そ、そうなの?私なんかが出来るの?」
少し興味が湧いてきた
「まあ、杏子はメイク映えする顔してるから、私からみてもイケると思うよ」
「ほ、ほんとに?」
「やってみるか?やってみて、性に合わなかったらやめればいいよ」
「う、うんそれなら、とりあえずやってみようかな」
なんか、引きこもりの人生から少し光が見えてきた気がする
「モデル上手くやれたら、竜斗も喜ぶかなぁ」
「うーん、大事なのはスレないこと、あんたがスレたらダメかもね」
「す、すれる?どっか、こするの?」
「あー、もういいや、大丈夫、杏子は私の妹なんだから大丈夫、しっかり自分磨け!」
「わ、わかった」
「ねえ!」
「あんだよ!」
「お姉ちゃん、なんでこのタイミングなの?もっと早く誘ってくれればよかったのに…」
「あー、甲子園終わったから…杏子嫌だろ、この前甲子園に出てた子だ!って思われるの嫌だろ?」
「あ、うん、嫌だ」
確かに嫌だ、あの思い出はまだそっとしていてほしいし、それをネタにされるのは勘弁
「今年の甲子園で上書きされるだろ、去年の甲子園は過去のもの、竜ちゃんはともかく、記録員のことは忘れる、人間そんなもん、だからきっと気づく奴いない、メイクもバッチリ決めるからわからない、だからだよ」
「な、なるほど」
やはり、姉はさすがだ
「長谷川ちゃーん、ナベどこ行ってるんだっけー?もう帰ってくるかなぁ」
ツカツカツカ
長谷川さんが入ってきた
「渡辺さんは、大久保ですよ」
「あ、そっか大久保か」
「そうです、例のお墓参り」
「うん、そっか、そっか、どうりでいないと思ったわ」
「…うーん、次回は私が行かなきゃだな…」
「まぁ、一回は行ってくれって言ってましたからね」
「うん、あ、じゃあナベいないなら、ごめん長谷川ちゃん頼める?」
「あ、メイクですね、了解です、じゃあその後スタジオ連れて行きますね」
「じゃあ杏子、早速メイクとヘアメイクしてもらって、んで、スタジオで衣装借りて、宣材撮ってきな」
「洗剤?」
「あーもういい、長谷川ちゃんの後ついてけばパリっとなるから、ほら行ってこい」
メイクさんとか予約入れてたのか…
私が断らないってわかってたんだ
「うわー、やっぱり翔子さんの妹さんね、めっちゃ綺麗よ、スッピンがいいから、メイクやりやすい!どう?髪もいい感じでしょ?」
メイクさんの言う通り、凄くいい
なんか、違う私みたい
その後、洗剤写真撮ってもらった。
すると、早速モデルの仕事が入った
カメラマンさんの前でポーズを決めてパシャパシャ
街中でパシャパシャ
なんか、こっ恥ずかしいけど
発売された雑誌を見ると、凄く嬉しかった。
なんかやっていけそうな気がする!
その後はモデルの仕事がけっこうな頻度で入ってきた。
仕事に慣れてくると、恥ずかしいから楽しいに変わってきた。
飛躍的に、私の生活態度が改まっていく
学校生活は相変わらずだけど、野球をやってた時みたいに、放課後や土日に楽しみが増えたことで、学校に行くのも苦ではなくなってきた。
そして、オーディションに受かり
とうとう、テレビドラマに出演することになった。
美少女戦士の一員になる!
美少女五人が、変身して可愛い格好になり悪を倒していくやつ
コスプレ嫌いじゃないから、いいかもこれ
女優デビューになるので、芸名を使うことになった。
「冬川京子」
として、私は第二の人生を送ることになった
自分で考えた芸名だ
まるで別人になったかのようになる
女優デビューにつき、姉にNG希望を出した
ラブシーンやキスシーンはNG
年齢的にまだ、そんな仕事は入らないと思うが、先に出しておく
自分自身が嫌なのもあるが、竜斗がどっかで見たりしたら嫌だからだ
まぁ、手を繋いだり、ハグくらいはOKにした
それまでダメだと、さすがに仕事がこないから
女優の仕事にも、興味を持ち始めてたので、続けるために最低限はOKにしとかないとね
あとは、野球関係一切NG
野球に関するドラマや、スポーツ番組等はダメ
甲子園の件がバレたくないのと、あとは…
子供ぽいかもしれないけど、前に、竜斗と指切りゲンマンしたから、知らないところでキャッチボールしちゃダメってやつ
それを守るためにも、野球関係は出ないでおきたい
じゃないと針千本の刑だ
で、冬川京子デビュー作の美少女戦士は、なかなかの視聴率が取れた
私自身が心配だったポンコツ具合は、なんだか全然出てこない、よかった、大人になってきたからかな?
泣くシーンもすんなり出来る
竜斗との空港お別れシーンを思い出すと、いくらでも泣ける
これはなかなかの武器になるかと思う
笑うシーンも得意、営業スマイルには元々自信あったからね
ドラマの反響のおかげで、お菓子のCMが決まった
コミカルな演技が必要だったが、なんとか上手く出来た
そしたら、このCMが大好評
私の顔と名前が全国区になっていく
「杏ちゃん、やばいよ、有名になっても私のこと蹴らないでね」
と、リナさんに褒められた。
そして、リナさん達は卒業した
今後はバイトを続けながら、ボイトレに通うらしい
更に、ゴー君と家を出て同棲を始めるとのこと、まぁ今までも同棲みたいなもんだけど、親から離れるってことは大きいよね
マッキーさんとコバさんは、何か二人でやりたいことがあるらしいが、教えてくれない
竜斗とお別れして一年
なんだかんだ、あっという間だった
野球部員は全員卒業して、とうとう私一人桜水高校に残されて、三年生になった
三年生になると、いよいよ、学業に支障が出てきた
ドラマやCMで忙しい
でも、なんとか高校は卒業したい
みんなが卒業した学校
私だけ中退は嫌だ
将来、みんなで集まって、思い出話する時に私だけ中退じゃ仲間外れだ
それに、竜斗と同じ高校を卒業した!っていう肩書きが欲しい
姉に頼み、仕事を調整してもらい
先生達に補習などをお願いして、なんとかしのいでいく
撮影と授業でパンパンに忙しい日々を過ごしていく
夏休みも先生達が協力してくれて、補習をこなしていく
甲子園なんて見る暇も余裕もない
たまに車の中で流れてるのを見るぐらい
今年はどこが優勝したとか知らず、だいぶ後になって知った
なんと!あの神奈川のカルテット高校
懐かしい
となると、やっぱり桜水高校野球部は凄いことをやってのけたんだなと、思い知る
そして、なんとか私は卒業できた
スケジュールを空けてもらい
しっかり卒業式にも参列した
中学の時の胴上げ卒業式とは違い、誰ももう仲間はいない
でも、みんなと同じ高校を卒業できたのは、嬉しい
本当に嬉しい
そして、制服のまま事務所の黒のアルファードに乗り、撮影場所に向かう
私、すんごい人生送ってるな
甲子園に連れてってもらい、優勝して
今は女優やってる
こんなのアメリカ時代は予想もしなかったわ
竜斗とお別れして二年
本当にあっと言う間だった
これだったら、五年なんて余裕かもしれない
でも、竜斗の契約報道以降、なにも情報が入ってこない
スクラップブックのページは止まったまま
果たして上手くいってるんだろうか…
「京子ちゃん、変なスーツ着たら美人になっちゃったって、映画が決まりましたよ」
「なんすかそれ?私、美人になっちゃった方ですか?」
「もちろんです」
「良かったぁ、頑張りまーす」




