別れ
「キョウちゃんの気持ちもわかるけどさぁ、今回はハルちゃんの言ってることが正解だよ、高校卒業して日本を出て、ただ嫁になるためだけに追いかけるのはちょっとなぁ、やり過ぎとゆうか、脅迫とゆうか…」
「リナさん、脅迫って?なんも脅かしてないよ」
「無言の脅迫だよ、そんなことしたらさ、ハルちゃん何も出来ないよ、もしだよ、もしね、キョウちゃんの事を嫌いになっても言えなくなるよ、嫌いでも付き合うしかないの、だって相手は全てを投げ打って来てるんだから、それってお互いキツくない?」
「竜斗は私のこと嫌いにならないもん!」
「そんなのわかんねーよ、それに他に好きな奴出来るかもよ、てか、そんな重たいこと考えまくってたら、本当に嫌われるぞ、他に好きな人出来るぞ、でもそんなこと言ったらキョウちゃんに刺されるかもしれない、キツイわ〜ナームー」
うぐぐぐ
「そうねぇ、それに杏子が春樹君と離れてる間にやりたいこと見つかったらどうするの?今までは野球あったからいいけど、もう野球ないのよ、他にやりたい仕事とか出来て、その仕事続けたいのに、それを捨ててまで行くの?」
「行くよ!」
「じゃあ、それを聞いた春樹君はどう思うかしら、それこそリナちゃんの言ってることにならない?まだ若いんだから、これからたくさんやりたいこと出てくるわよ」
「じゃあお母さんはどうだったの?十九歳でデキ婚なんでしょ!高校卒業してすぐじゃん!」
「………」
「祥子〜〜〜」
「しーらなーい」
「私は料理が好きで、それは結婚しても続けられる、だから喜んで祥子を産んだわ、もちろんデキた時はまさかと思ったわよ、でもその時はお父さんは仕事が起動に乗ってたから、結婚の道を選んだ、悔いはないわよ」
「おかけで、お父さんに働いてもらって、逆に料理の研究いっぱいできたから」
「あのね杏子、私が十九でどうのこーのなんていいの、人は人、あなたはまだやりたいこと見つかってない、結局見つからないかもしれない、でも今すぐに追いかけるって決断をするだけで、全ての可能性がなくなるわ」
「キョウちゃん!この前の水着セクシーだったね!お尻けっこう見えるタイプだったね、ウッフーン、攻めたね」
マリさん、あんた何しに来た
今は緊急女子サミットをうちで開いている
そう、いつものB型軍団、私だけO型
母、姉、リナさん、マリさん
この前の竜斗に言われた、お前と別れるから!発言の相談に乗ってもらってる
「でも、待つことすら出来ないなんて…だってさ、じゃあやりたい事見つかってさ、大人になってても、私会えないんだよ、もう会えないんだよ」
「ん?ハルちゃんそんなこと言ったの?、もう二度と会わないって言ったの?」リナさん
「え、うん、うん?あれ?」
「おい、はっきりしろよ、ハルちゃんはメジャーに上がるまでは集中したいだけで、成功した後も会わない、なんて言ってないんじゃないか?」リナさん
「うん、言ってない」
「この梨めっちゃ甘ーい」マリさん
「杏子あんたはさぁ、竜ちゃんはメジャーに上がれると思ってるの?」姉
「うん、好きだからとか抜きで、あのポテンシャルとトニーの指導があれば、絶対に行けると思う」
「じゃあ、話は簡単、竜ちゃんがメジャーに上がった時、それこそ杏子を迎えられる準備が整った時にさ、杏子がその時もまだ竜ちゃんのお嫁さんになりたーいって気持ちが変わらなかったら、飛び込めば?」姉
「あ、うん」
「もしかしたら、杏子に他に好きな人が出来るかもしれない、既に幸せな家庭を築いてるかもしれない、その時は元カノとしてテレビで応援してやる、そうゆことよ」姉
「うーん…」
「但し、他に好きな人が出来る時は、もう竜ちゃんのことはキッパリ諦める方が懸命かな、じゃないと相手に失礼、あんたずっと比べそうだからね」姉
「それはそうかも、竜斗とは違うなぁとか、竜斗のがよかったなぁ、ってなりそう」
「まぁ、女なんてそんなもんよ、でも相手が春樹君なら、ちょっと私でも引きずるわね」母
「メジャーでプレーする頃は、キョウちゃんも大人じゃん、その時の場面で考えればいいじゃん、飛び込むのか飛び込まないのか、ハルちゃんのことが忘れられないなら、無理に忘れなくたっていいじゃん、嫌いになってくれって言われたわけじゃないんだから」リナさん
「う、うん、でも竜斗が向こうで、誰か好きな人出来たら意味ないよね」
「それはないかな」リナさん、姉
「なんで?」
「だって、他に女作るくらいだったら、女作る余裕が出来たなら、杏子を呼ぶだろ、探すだろ」姉
「うん、私もそう思う、たぶんメジャーリーガーになったらすぐにキョウちゃんのこと探すと思うよ、だから少し信じてみたら?悲観的に考えるんじゃなくて」リナさん
「そうそう、とりあえず杏子は自分の人生歩め、あとは竜ちゃんが頑張ってくれるのを待てばよろし」姉
「でも、でもでも、待つなって言われてるもん」
「そんなの勝手に待てばぁ?言わなきゃわかんないんだからぁ、はーい待ちませーん、でも実は待ってまーす、あ、他に好きな人出来ちゃった、バイバーイで良くない?」
「な、なるほど」
マリさんたまに、ほんとーに、たまーに、いいこと言う
「あ、でも竜ちゃんは年頃だからなぁ、向こうでヤリ友とか作ったり、ムラっときたらその辺でナンパしてお持ちかえりしまくりそうだよね、外人にモテそうな顔してんもんな」
「う、う、ウエーーーーン」
「こら!祥子、せっかく話がまとまりかけてたのに、煽るんじゃないの!」
「はーい、だってこいつウジウジキモいんだもん、お母さんそっくり」
「は?私は杏子みたいにウジウジなんてしてませんけど!したことありませんけど!」
「お姉ちゃんもお母さんもひどい!」
「はいはい、ほら杏子、ウジウジしててもしょうがないでしょ、あと半年もすれば春樹君いなくなっちゃうんだから、ウジウジしてないでしっかりその間、愛しなさい、ある程度は大目に見てあげるから…ね」
「うん、お母さんありがとう、でもウジウジって二回言ったね」
「ははは、お母さん、それヤリまくれって言ってるよーなもんじゃん!」
「祥子〜〜」
「そうだよ、キョウちゃん、いっぱいブルマ履いてあげな」
「うん、リナさんありがとう!…ん?」
「ブルマ?」母、姉
「梨うまっ!」
まあ、なんか吹っ切れた、あと半年、しっかり愛す!
あとは、どうなるかわからん、当たって砕けろだ!
いや、砕けたくはない
竜斗は全日本に当然選ばれた、でも辞退
理由は渡米する理由と一緒
辞退理由は報道されてはない
そして、チームは国体に選出されるのだが、これも辞退
グラウンドはまだ使えるし、名取監督もどうせ暇してるので出てもいいのだが、部員のモチベーションが保てない
もう、夏の甲子園で切れてる、ほとんどの人が別の道を歩み始めてる
なので、廃部理由で辞退
リナさんとゴー君は二人で同じカラオケボックスでバイトを始め、ゴー君はバンド活動を活発化させ始めた
ノブさんは九月末に腰の手術、その後大学で野球を続ける
大さんは、早々に社会人野球の入社入部が内定した、高校から社会人野球はけっこう異例みたい、でも甲子園の活躍と大さんの家庭事情を考慮された結果、内定をもらえた
さほど遠くない所にグラウンドがあるので、既に練習に参加している、学校終わったら速攻向かってる
ガブさんは、バットをゴルフクラブに持ち替え、打ちっ放しにゴルフ場にと駆け回ってる、名門ゴルフ部のある大学を目指すみたい
羽堂さんはガリ勉に目覚めた!少しでも良い大学に入るんだと意気込んでる、おそらく自分のステータスを上げ、合コンで活躍するためだ!
ドリさんは、実家の中華料理屋さんを手伝い始めた…なんか、まんまだよね、未来が想像できるわ
工藤さんは、家系ラーメン屋さんでバイト、将来ラーメン屋を開きたいって言ってる
ビックリしたのがマリさん、バレーはもうやらないらしい
「もういいよ、この先やっても上には上がれないよ、私、幼稚園の先生になる!」
とか、言い出した、とりあえず短大を狙ってるらしい
そうだよね、スポーツで将来やってこうって大変だよね
そして、竜斗は三月末に渡米
二月まではグラウンドを使っていいみたいなので、練習を続ける
平日のみ、照明を使っていいよとのことなのでありがたい
まぁ、甲子園のスターだからね
でも、練習相手は私だけ
そう、まだ私は野球から卒業出来ない
そして、本当に夫婦だけの練習が始まった
毎日ではないが、グラウンド練習はトスバッティングにいつもの投球練習、それからノック
金曜日の放課後だけ、元野球部が交代で玉拾いに来てくれるので、フリーバッティングをする
交代だけど、来てくれるのは工藤さんと厚本さんばっかり、他の人はバイトで忙しいみたい
ジムは週二、三回
そして、空いた時間に英会話を叩き込む
土日のどっちかは完全オフにした
うちのお泊り五百円は継続、朝食無料も夕飯もお弁当も継続
竜斗は、ほぼお泊まりする、二人で決めた、私達に残された時間は少ない、それまで出来るだけ一緒にいることにした
本当にいつも一緒、授業中以外は一緒
はるきホテルで散々愛し合い
とうとう、うちでもスルようになった
もう、綺麗事なんて言ってられない、母の言葉に甘える
声を殺して励む!
なんか興奮する!
そして、姉のドラマ収録に何回か二人でエキストラで呼ばれて、バイト代を稼いだ
けっこう出演した
甲子園のスターなのに、意外とバレない
ほとぼり冷めたのかな
いや、チラッと映るぐらいじゃ、さすがにバレないか。
他のロケとかも紹介してもらい、二人で稼いだバイト代と、姉が以前に竜斗にくれたお祝いの残りを駆使してあちこち出かけた
そう、花嫁修行の財布を使って
嫁になれるかわからないけど…
思い出をいっぱい作る!
なんか、竜斗は三月末が余命なのか?って思えるくらい、いっぱい思い出を作った
ゆっくり時間が過ぎてくれれば良いのに、こんな時は無情にもあっという間に月日が流れる
出会って一年をあっという間に過ぎて
クリスマスを迎えた
去年はやらかして、クリぼっち
今年は二人、イルミネーションを見に行った
お互いプレゼントは無し、お金の使い道を考えるとプレゼントは無しと二人で決めた
年末年始は、もちろん一緒に年越し
初詣にタスキ物語、おせちお雑煮を食い散らかし、楽しく過ごした
そして、付き合って一年記念日
もうね、ここまで一緒にいると記念日とかあまり意味ない
これ以上どうすんの?ってくらい、二人は愛し合いまくりの生活だから
とりあえず、二人で向き合ってペコリとしただけ
それでいいの、そうゆうところも気を使わなくいい仲だから
その関係性が好きなんだから
バレンタイン
今年は頑張って手作り作った!でも、竜斗にも手伝わせたのであまり意味がない
とうとう、三月に入った
刻々と迫るタイムリミット
私は今にも泣き出しそうだが、いつか迎えに来てくれるんだ!と、言い聞かせ、なんとか自分のメンタルを保つ
グラウンドはもう使えない
最後に二人でキャッチボールをして締めた
二人でグラウンドに礼をする
さすがに涙がこぼれた
竜斗は野球道具の荷造りを始めた
金属バットはもう用無しなので、記念にうちの物置きにしまいつつ、ギリギリまで素振りをする
私も野球道具一式を段ボールに詰めた
もう使うことはない、もしかしたら子供が出来たりしたら使うかもしれないけど…
これで、本当に本当に野球から卒業
ありがとうございました。
フタを閉めて、クローゼットの奥へしまう
竜斗達三年生の卒業式
これで、みんなとお別れ
楽しかった学校生活が私にも終わりを告げる気がした
野球部みんなで、ゴー君とリナさんがバイトするカラオケボックスに行き
一番デカい部屋を借りてみんなで歌いまくった
私は現実逃避するかのように歌いまくった
卒業式が終わると、カウントダウンが一気に加速する
竜斗は、荷造りを終えて空輸便で荷物を送った
フライトは三月二十九日
もう、時間がない
私は親に頼み、春休みまでまだ少しあったが、学校を休ませてもらった
そして、最後の一週間は、はるきホテルで過ごした
最初で最後かも知れない、一週間だけの同棲生活
もう、ここまで来るとどこにも出かけない
二人で引きこもる
二人で手を繋いでスーパーで買い物をして、二人で料理をする
本当に本当に幸せな一週間をもらえた
それを許してくれた、うちの両親と竜斗の両親に感謝
旅立ちの日
昨夜は、両家の家族がうちに集まり送別会をした
竜斗の家族は当然、うちの姉にビックリしてたが、なんか竜斗のあの母と姉はウマがあってた
二人っきりで成田に向かう
誰も来ない、みんな気を使ってくれてる
二人だけで向かう、私一人が見送る
上野からスカイライナーで、あっという間に成田
さすがに寝なかった
特急は寝ちゃう病の私もさすがに寝れない
成田に着いて、出発ロビーで二人横に並んで座る
二人でじっと搭乗案内を待つ
私は自分のバックから二つの時計を出した
ペアタイプの黒の腕時計
本当は白のかわいいのがあって悩んだが、すぐに汚れそうなので、長く使えそうな黒いやつにした
カタログで時計を選んで、姉に注文してもらった
私が隠れて買いに行く時間も、もったいなかったから
「はい、最後のプレゼント、向こうでも使えるから、使ってね」
「どうしたの!これ、高いやつじゃん」
「うん、お母さんがね、竜斗のお父さんから頂いてたお金を貯めててくれてたの、で、このお金で二人の何か記念になるような物買いなさいって」
「りょ、涼子さん…」
「色々考えたんだけど…違う国にいても時間の経ち方は一緒でしょ、それに、これ世界時計も入ってるから、お互いの国の時間がわかるの…あ、なんか未練タラタラでごめんなさい」
「ううん、ありがとう」
んん、んんん
最後のキスをする
搭乗案内が始まった
私は首をもたれかけて、無言で最後の甘えをする
ギリギリまで待ってくれる竜斗
そして、立ち上がった
「じゃあ、行ってくるね、杏子も頑張ってな」
「うん!竜斗!夢を掴んでね!行ってらっしゃい!」
一生懸命強がりの言葉を放って、涙を我慢する、笑顔で送り出したい
最後にハグをする
ギュッとギューーッとハグをする
この感触を忘れないように
周りの人は空港だからか、何も気にとめてない
「じゃ」
竜斗がカバンを担ぎ歩き出す
「りゅ、竜斗ー!」
竜斗が振り向く
「もし、もし!また再会出来たら!また会うことが出来たら!その時、お互いフリーだったら!結婚して!」
「もちのロンだー!」
その言葉を残して、竜斗の姿は見えなくなった
私は一人ポツンと出発ロビーに取り残された
椅子に座りぼーっとする
まだ、実感がわかない
竜斗がちょっと買い物に行ったのかな?みたいな感じ
飛行機のフライト時刻が迫ってきた
慌てて、展望デッキに行く
少し待つと、竜斗の乗ったJAL機がプッシュバックを始めた
そして、トロトロと滑走路に向かう
滑走路に到着
ゴーーー!
ジェットエンジンの爆音がここまで届く
飛行機が加速する!
離陸を開始し、タイヤをパタッとしまう
そのまま一気に上空へ
そう、竜斗のテニスコート弾のように…
行っちゃった、行っちゃたよ、行っちゃった
「竜斗…竜斗…りゅうとぉ、りゅうとぉー」
「りゅうとぉーーーー!りゅうとぉーーーー!」
叫びまくり、金網にしがみつき号泣した
さすがに周りの人にどん引きされるが、抑えが効かない
泣きじゃくった
展望台デッキの室内の椅子に座り、しばらく泣いた
星川杏子十六歳、もうすぐ十七歳
おそらく人生で一番号泣してる
この先、ここまで泣くようなことはないと思う
ピコン
メールの着信が鳴る
泣きながら携帯を開く
母からだ
(空港のどこにいるの?)
(展望デッキ)
(やっぱりね)
と、返ってきたらすぐ母が隣りに座ってきた
「お母さん!お母さん!竜斗行っちゃった!行っちゃったよぉ…」
今度は年甲斐もなく、母の胸で泣いた
「よしよし、どんどん泣きなさい、泣いて泣いてそして前に進むの」
やっと泣き止み、母と帰る
「お母さん、後から来てくれたんだ」
「そうよぉ、どうせ泣きじゃくってると思ってね、終電逃したら大変でしょ」
「うん、あれ駐車場に行かないの?」
母が駅のホームの方にスタスタ向かう
「そんなわけないじゃない、こんな遠くまで来れるわけないでしょ、二日はかかるわよ」
ナビがまだ機能してないミニちゃん、かわいそう
もう、免許返納してしまえ!
私は車でも泣きたかったのに
電車じゃ泣けないじゃん
ん?駅をスルーしてタクシー乗り場へ
わお!リッチ!
すると、タクシーもスルーして
バス乗り場へ
「お母さんもしかしてバス?特急のが早いよ」
「え?特急の乗り方なんてわからないし、切符の買い方わからないわよ」
えーっと、もう出歩くな!
「バスじゃないわよ、この車よ」
高そうなアルファード君が止まってる
ん?は、ハイヤーじゃん!
「そう、祥子が用意してくれたの、泣き虫迎えに行ってあげてって、あとでお礼言っておきなさい」
ハイヤーで泣こうかと思ったら、さすがに涙はもう出ない
で、寝た。




