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モンスター協奏曲  作者: 東京小町
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50/65

星川祥子と葉山翔子の夢


「さぁ、ここで一発出れば逆転サヨナラです!」

「期待に応えられるか、バッター春樹」

「本当に最後の桜水を決勝まで連れて行けるのか、それとも、ここで桜水の歴史は幕を閉じるのか!」


「春樹君は初戦に一本打ってますけど、それ以降は長打は出てませんからねぇ、どうでしょう」


 そうなんだよ、誰がどう見ても、竜ちゃんはバッティングが不調だ

 予選大会から見てる人は余計にそう思うはず


 相手チームも、それをわかってるから勝負してくる

 もし、竜ちゃんが打撃絶好調なら、間違いなく敬遠される

 その後の、私一推しの牧野君との勝負を選んだはず


 不調の竜ちゃんを歩かせて、同点のランナーを得点圏に置いての満塁よりも、勝負を選んだ。

 


 にしても、甲子園に来てなぜバッティングが不調?

 

 甲子園のレベルが高いから?


 もちろん、それもあると思う

 でも、初戦にプロ注の左から、クソデカいの打ってる

 だけど、それはまだ投げる前だったから、ピッチャーやる前だったから


 明らかに投手の影響が出てる

 メンタルの問題か、それとも技術的な問題なのか


 アンソニーに聞いた

 メンタルではない、疲れでもない

 でも、理由がわからないとのこと


 まぁ、わかってれば、とっくに修正してるか


 親父にも聞いた

 親父は技術的なことは大したことない、でも、所属しているチームに、神のような打撃コーチがいるから

 もしかしたら、なんか気づいてるかなと…


 結果、わからない


「ファール!三塁側にキレていきました」


 今のなんか、全然打てそうなんだけどなぁ


 竜ちゃんの顔も険しい

 疲れとかじゃない、自信を失ってる顔

 やはり、ぶっつけで、投手、バッターのツーウェイは厳しかったか


 まぁ、ここまでよくやった

 甲子園最速を叩き出した

 当面破られないようなスピードで

 うん、こんだけ、名前が売れてくれれば全然オーケー


 胸張って帰ってこい



「おっと、ここでタイムがかかります」

「投球練習のボールが、グラウンド内に入ってきてしまったようです」


 相手チームの選手が慌てて、ボールを取りに行く


 なんだよ、水指すなよ


「竜斗ー!竜斗ー!竜斗ー!」

 ん?中継映像が杏子の声をかすかに拾った

 それに釣られるかのように、画面は杏子のアップに切り替わる

 今大会、杏子の動きも少し注目されてるので、当然アップに映す


 え?何してんのこいつ?

 踊ってる?

 メガホンを両手に持って、何か踊ってる

 ええ?マジで何してんの?

 

 すると、杏子の顔が笑顔になった、竜ちゃんだけに向けるいつもの満面の笑顔


 マジでなんなの?


 試合再開

 画面は竜ちゃんのアップに切り替わった


 あ…表情が明らかに変わった

 打席に入り、バットをかまえる

 チラッとベンチを見た、軽く微笑んだ

 そして、自信たっぷりの表情に変わる


 え、ま、まさか…



 クァキーーーーン!

 


 これでもかってくらいのフルスイングから放たれた打球が空高く舞い上がった

 途中、中継映像は打球を見失う、追えてない

 左中間方向にとんでもない打球が放たれた

 そりゃ、見失うよ

 

 でも、すぐにわかった

 あの日の弾道と一緒

 いや、今回は体勢を崩されてないし、何かを信じるかのように綺麗なフルスイングで打った

 飛距離はあの時と変わらないかもだが、今回は打球の勢いが凄い

 

 文句なし


「ぎゃ、ぎゃ、逆転サヨナラスリーランホームラン!」

「ここで出た!ここで春樹が打ちました!」

「まだ終わらない!最後の桜水は終わらない!決勝も戦います!奇跡のチームは、最後の最後まで戦います!」


 もしかしてだけど、さっきの杏子はアドバイス?

 ジェスチャー?

 だよな…そうとしか考えられない

 

 この土壇場で気づいた?

 竜ちゃんの異変に気づいた?


 マジかよ


 アンソニーでさえ気づかないのに、杏子は気づいた

 やはり、この妹は凄い

 それに、その下手くそなジェスチャーを解読して、それを信じて、フルスイングを決めてくる竜ちゃんも凄すぎる


 この二人、私の予想を遥かに超えてきてる


 ブハハハハ

 もうやべえよ、こいつら

 いつも、期待以上のことをしてくれる

 なんで、あのへんてこな踊りで伝わるんだよ

 なんで、それを信じて思いっきりフルスイング出来んだよ

 


 この二人には、お互いを愛す強い信念、力がある


 まず杏子

 こいつは、竜ちゃんの為ならなんでもする

 周りにどう思われるとか、関係ない

 だから、テレビに映されてるのは予想できるのに、恥ずかしい踊りが出来る、まぁ本人は恥ずかしい踊りの認識はないかもだけど

 でも、必死に伝えようとする

 周りの目なんか気にせず、伝えようとして、伝わった


 昨日もそう、泣いてる竜ちゃんの横に堂々と座る、試合中にそんなことする記録員はいない

 

 竜ちゃんの母親とも、ダメ元で鉢合わせさせた

 リナっちとゴー助から、竜ちゃんの家庭事情は聞いていた

 もしかしたら、杏子が上手く取り入るんじゃないかと

 ダメだったら、私が道具を買ってあげるつもりだった

 でも、それだと威力半減


 したら、杏子の満点解答

 母親と話をつけ、父親まで引っ張り出せた

 これがデカかった

 中学生が、交際相手の母親に、初対面の母親に、道具どうにかしろとか言えるんだからすげえよ

 一歩間違うと、一生嫌われるかもしれないんだぞ

 でも、そこも勇気を振り絞って、竜ちゃんのためになんとかしようとした


 杏子は、いつも竜ちゃんのことだけを考えてる

 これは、普通に重い、重いんだけど

 それを、竜ちゃんは喜んで受け止めてる


 その竜ちゃんは、そんな杏子を信じて行動を起こす

 杏子が言うなら間違いないと、信じて行動を起こす

 竜ちゃんの野球スキルは、杏子を愛して、信じることによってどんどん上がった

 だから、土壇場のこのタイミングでも、愛の力を発揮する


 杏子は言う、竜ちゃんはモンスターだと

 それはそうだ

 こんなモンスターみたいな高校球児、他にはいない

 

 でも、私からしたら、杏子、お前もじゅうぶんモンスターだよ

 竜ちゃん大好きモンスター、竜ちゃんしか愛せないモンスター


 ネーミングださっ!


 でも、この杏子のモンスターっぷりは、私の思い描くシナリオの根底を強くガッチリと固める


 そして、こいつらのこの愛の力は、私の予想を大きく超えてきた

 おかげで、シナリオがどんどんグレードアップしてる


 だけど、この先、この二人の愛の力は一旦邪魔になる

 そこを、切り抜けないと、この二人に明るい未来はない


 大丈夫、この二人なら大丈夫

 


 さっ、決勝戦はどうせ桜水の勝ち

 竜ちゃんは今日九球しか投げてない

 明日は休養日

 明後日の決勝戦はそこそこ投げれんだろ

 それに打撃復活した竜ちゃんは、もう敵なし


 桜水優勝間違いない


 このチーム、打撃と竜ちゃんの豪速球がクローズアップされがちだけど、実は守りも凄い

 派手なプレーがないので、あまり注目されてないが、ここまで、ノーエラー

 高校生なのに凄いよ

 

 そんな守りが鉄壁のチームで、竜ちゃんが投げて、打てば、もう優勝だよ


 東東京大会は全部見に行った

 負けた時点で、竜ちゃんを拉致って事務所で説き伏せるつもりだった

 予選大会で下手な負け方をすると、野球を諦めるかもと思ったから

 本人は投手の可能性に気づいてないから、簡単に辞めちゃうかもと心配だったから


 そしたら、甲子園出場

 正直、まさかと思った、この激戦区で都立は厳しい

 野球はチームスポーツ

 竜ちゃんがいくら凄くても、他がダメなら勝てるわけがない


 チームの内容はトニーから詳しく聞いて、リナっちにどんな部員が集まってるのか聞いた


 本当、奇跡かよって思った


 打線の主軸とエースは、超高校級、その他も粒揃い


 だから、また賭けに出た

 このチームなら、竜ちゃんをまず野球で有名に出来るんではないか?って

 賭けに出て、少しずつ私は動き出した


 で、甲子園に出てくれたから、また私は賭けに勝った

 これで、竜ちゃんは全国に名前が知れ渡る

 

 甲子園には一切見に行ってない

 暇もあった、席も確保出来る

 でも、行かない

 それは、テレビで見て視聴者の気分で見たかったから

 今後の事に役立てるため


 甲子園優勝、いや、決勝まで残るとは正直思ってもみなかった

 奇跡を起こしてくれる二人、それをサポートする奇跡のチーム

 もう、シナリオが完璧になってきて、笑いが止まらない

 これで、今回の賭けも大勝ち


 なんか、竜ちゃんと杏子もそうだけど…


 私、ついてるよ

 もちろん、竜ちゃんの活躍あってこそなんだけど


 私、日頃の行いがいいのかな…

 んなわけねーか


 それとも…あの声、たまに聞こえる声…


 やめた、アホくさ


 

 テレビ画面は、桜水がアルプスに向かって礼をしてるところを映してる


 礼が終わり、みんながベンチに引き上げる

 その集団の最後を、竜ちゃんと杏子が隣り合わせで仲良く歩いてる


 今日は、この後試合がない、係員に急かされることなく、ゆっくり歩いてる


 竜ちゃんが、少しかがんで、杏子に話かける

 それを、満面の笑顔で杏子が竜ちゃんの顔を見つめて返答してる

 

 幸せそうだ


 うん、実に絵になる

 この二人のもう一つの武器

 絵面えづらがいい

 画面越しだと、尚いい


 美男美女だからもある

 でも、それ以上に二人の幸せそうな表情がいい


 この二人は甲子園でちょいちょいベタついてる

 神聖なる甲子園で、普通そんなことしたら叩かれる

 でも、この二人は叩かれない、炎上しない

 それは、絵面がいいから

 ほっこりするから

 それと、杏子のサポートで竜ちゃんが成り立ってるのが、部外者にも多少伝わるから


 この絵面良しは、前から私は感じてた

 今は、更に良くなってる

 リナっちに見せてもらった体育祭の動画は、さすがの私も心打たれた

 セット販売が楽しみでしょうがない


 まぁ、でもちょっと、二人やり過ぎかなぁ

 杏子目立ち過ぎかなぁ

 この先タイミング考えないとな


 

「翔子さーん、アメリカから電話入ってますよー」

「オッケー、ん?どっち?」

「あ、球団の方でーす」

「了解〜、あ、長谷川ちゃん、小山さんに連絡して、明後日事務所に来いって言って」

「了解でーす、カフェのオフィスに電話すればいますかね?」

「あー、うん、そうだね」


 さっ、ここからは私の出番だ

 忙しくなるぞぉ

 こいつらの未来のため、こいつらの永遠の幸せのために一丁やったる


 さっ、ガッポガッポ目指すよ〜

 とんでもない額引っ張り出すぞぉ


 こいつらならやれる、出来るよ


 二人幸せ、ガッポガッポ

 私もガッポガッポ


 ウィンウィンだね



 星川祥子の夢は二人の幸せ

 葉山翔子の夢はガッポガッポ


 両方叶えてみせる


 そして、葉山翔子はその先の夢に向かう

 そして、それも叶える!

 

 いやあ、こりゃ壮大だ

 何年もかかる


 ババアにならないように頑張ろっと。

 

 

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