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モンスター協奏曲  作者: 東京小町
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49/65

奇跡のタイム

 

 準決勝


 我が校応援団も昨夜は泊まった。


 宿泊先を、昨日戦った神奈川の高校とシェアしてたみたい


 勝った方が泊まる的なやつ


 さすが小田急ライン



 暑い夏もあともう少し

 応援の方よろしくお願いします

 確実に選手の力になっています。


 昨日の工藤さんのホームランは、そんな応援がスタンドまで運んでくれたような打球だった。



 昨日の準々決勝からうちの学校は、体育館を一般開放

 パブリックビューイングを開催してるらしい

 そりゃあ、地元では大騒ぎ


 いや、日本中で大騒ぎ


 思い出作りに来たような学校が、優勝候補二校をすでに破っている


 人数ギリギリ、廃部確定のチームが大躍進!


 奇跡のチーム、ミラクル桜水の最後の夏は終わらない!


 涙の背番号4のエースが、延長13回の最後のアウトを三振で斬った時の瞬間視聴率うんパーセント!


 などなど騒がれている


 昨夜の甲子園特集番組を見た


 164キロを叩き出した瞬間の球場の盛り上がり方、世間の反応は半端なかった


 最後のアウトを竜斗が三振に斬った瞬間、アルプスにいるみんなが泣いて抱き合って喜びあっている姿なんかも見れた


 そして、当然、竜斗の横で黙って座る私の姿も注目された


 その番組がうまく作ってくれて、私の行動は美化された


 だが、そんな、何かと騒がれてる竜斗は、今日の準決勝のラインナップには名前を連ねてない


 昨日の延長13回の死闘で133球を投じた


 そして、翌日すぐに試合


 キツイって、いくらピチピチの高校生だってキツイ


 どうにかならんのか、このシステム


 父に言うと、それも夏の甲子園の醍醐味、そのキツイ日程だからこそ、ドラマや感動が起こるなんて言ってる


 やってるこっちからしたら、いい迷惑


 まぁ、人間はそうゆうノンフィクション大好きだからね


 にしてもキツイ、野手も疲れは出てるかもしれない


 うちはキャッチャーも、ドリさんから松山さんにスイッチしてる


 竜斗は、チャンスの時の代打要員になる



 相手高校は、九州の名門

 数年前、若い監督に代わってる


 お爺さんと孫の監督対決!みたいな感じ?


 相手チームの簡単な分析をすると打力のチーム

 投手力はもちろん昨日のカルテットよりは数段落ちる


 そして、うちは竜斗が投げない


 昨日と真逆の乱打戦になるかもしれない



 先発は腰に大型爆弾を抱えるノブさん


 ノブさんがどこまで投げれるかが、鍵になる


 完投は絶対無理


 残り託されたリリーフ陣がどこまで粘れるか


 また、打線でも竜斗を欠く


 不安材料だらけだが、やるしかない


 それこそ当たって砕けろだ!



 ジャンケンに勝って後攻


 ノブさんは甲子園初登板、先に先取点を取りに行く先攻も考えたが、当の本人のノブさんが後攻を望んだ



 超満員の甲子園球場

 初戦で慣れてはいるが、やはり凄い




 試合開始


 さすがノブさん、初回を三者凡退で切り抜ける


 その裏、ガブさんのタイムリーで先制!


 幸先良い


 竜斗も一生懸命応援してる


「控えは慣れてる!応援は任せろ!」なんて言ってる




 その後、一点づつ加点して六回までに三点を取った


 正直、もう少し点を取れる展開があったが、あともう一本が出ない


 打力のチームとは言え、ここまで勝ち上がってくる学校相手だ、そう簡単にはいかない


 そして、こちらノブさん


 圧巻の投球、いや、粘りの投球


 ランナーを出しつつも抑えていく


 初登板とは思えない、しっかりとしたマウンド捌き


 キャプテンがマウンドに上がると、チーム全体が引き締まる


 打たせて取ってるが、ノーエラー、好守も連発する


 羽堂さんとゴー君のゲッツーは、もはや芸術的


 うちのチームは奇跡だけで、ここまで来てるチームではない!



 だが、やはりノブさんの限界が来る


 6回102球

 もう、ここが限界


 無失点投球だが、継投に入る


 得点は3対0

 3点差での継投、いけるだろうか…



 継投に入ると、向こうに流れが行き始める

 野球ってそんなもん


 同点にサクッと追い付かれ


 八回にとうとう逆転を許した


 さすが打のチーム

 流れが完全に向こうに行く


 八回を終わって5対3

 残り1回で二点差


 いいところで竜斗を代打で出せば、まだチャンスはある!

 が、ここで竜斗が動き出す


「ブルペン行くわ」

「え!」


 そう、トニーからは投球ストップがかかってる

 当然だ


「これ以上離されたらアウト、ダテちゃん調子悪そうだから、ブルペン行くよ」


「ちょ、ちょっと」

「ブルペン行く!ここで点を取られたくない!」


「でも、そしたらチャンスで代打が!」


 そう、投手で出ちゃったら、おいしいところで代打を出せない、入った打順にチャンスで回ってくることを祈るしかなくなる


「ここで点を取られたら意味ないじゃん!」


「そ、そうだけど、身体は?身体は大丈夫?」


「わかんね、でも壊れてもいい、ここまで来たんだ、悔いのないようにやりたい」


「で、でも」


「大丈夫、壊れたら新幹線の運転手を目指すよ、それも立派な夢だから」


「う、うん」


「杏子、投げさせてくれ」

「わかった!もうわかった!行ってこい!」

 ここで止めたら嫁ではない



 竜斗がブルペンに向かうと、大歓声が湧き起きる



 ドリさん相手の投球練習が始まる


 ブルペン前に人だかりが出来て、係員の注意が飛ぶ


 竜斗の言う通り、大舘さんの調子が悪い

 いや、研究されてる、球種が読まれてる感じもする


 七色の変化球を簡単に打ち返してくる




 九回表 二点差

 ノーアウトランナー二塁一塁


 もう限界だ


 伝令を飛ばして時間を稼ぐ


 竜斗が出来上がる時間を稼ぐ


 トニーすまない、約束破るぞ


 試合が再開すると、大舘さんが二塁に牽制をする

 そして、明らかなボール球をわざと投げる


 時間を稼ぐ!



 バン!


 ズバン!


 ズバァン!


 ブルペンの方から声援の音を掻き分けながら聞こえてくるミット音が、段々と何かを破壊するかのような音に変化していく


 その音がうちのチーム、うちのアルプスに安心と期待感を運んでくる


 普段、竜斗はブルペンでここまで威力を上げない


 でも、今回はいきなりピンチからの登板

 いきなり全開で飛ばすぞ、との合図に思えてくる



 そして、ブルペンで受けてたドリさんが、こちらに向かって、大きな丸を作る、竜斗が出来上がったサインだ!


「監督!竜斗準備オッケーです!」

 私が張り切った声で監督に進言


「タイム!」


 投手交代を告げる




「桜水高校、選手の交代をお知らせします」



「ピッチャーの大舘君に代わりまして、春樹君」



「ピッチャーは、春樹君」



「八番、ピッチャー、春樹君」


 

 甲子園の電光掲示板の打順表が、八番大舘から春樹に白く点滅して変わる


 すると、球場全体が大歓声に変わる


 この大歓声が後押しをして、一気に流れをこちらに傾ける気がしてくる


 そう、魔物が動き出そうとしている、モンスターと魔物がタッグを組みそうな気がしてくる、そんな期待をしてしまう



 マウンドでの投球練習が始まる


 それを見て、もう大丈夫だと感じた


 ビハインドゲームの最終回


 フルパワーで何も考えずに1イニング乗り切るだけ


 アホの竜斗には打ってつけ


 元々性格的に、ノブさんとは真逆のピッチャー性格


 組み立てよりも、オリャ!のが向いてる

 ストッパー気質だ


 昨日の疲れなんて、1イニングならへーきと言わんばかりにズバンズバン投げ込む




 試合再開


 初球


 ズバァン!


 いきなり160キロのストレートがアウトローにビタビタに決まる


 試合では初めて受ける松山さんも、かまえるミットにそのまま収まるから、なんら苦にならない


 もう、次元が違う



 そして、二球目は高速スライダーがうなりを上げて曲がっていく

 空振りストライク

 バットに当たるわけがないと思えてくる


 ここまで球威抜群のスライダーをプロでも投げれる人はいるのかな…


 146キロを表示している


 大舘さんのストレートより全然速いスライダーが、曲がり幅いくつよ?と言いたくなるぐらいに曲がっていく


 打てるわけがない


 そのスライダーを頭に入れつつ、打たなきゃいけない相手バッターを気の毒に思う



 三球目インハイストレート

 162キロ

 見逃し三振


 手が出るわけがない



 その後の二人も三振に斬る


 ピンチに出てきて、三者三球三振で抑えて、小走りで帰ってくる


 まさにストッパー


 球場全体が湧く

 そりゃ湧く


 でも、二点取らないと負ける


 が、球場全体の雰囲気は一気に桜水頑張れになる


 魔物を動かすモンスターのピッチング



 最終回、九回の裏の攻撃が始まる


 先頭の四番大さんがヒットで出る

 これで一気にムードがあがる

 イケるイケる


 次の五番、ファーストの守備についていたノブさんが四球で出塁


 すかさず代走福山さんを送る


 そう、得意の代走牧野は既に使ってしまいそのまま九番の打順の位置にいる


 なので、ノブさんの腰の具合を考えただけの代走


 ノーアウトランナー二塁一塁


 球場全体は大興奮




 六番松山さん、三振


 そう、今日はここからあと1本が出ない



 七番厚本さん


 ネクストに竜斗


 ゲッツー打たなければ竜斗に回る


 バンドはダメ、塁が空いたら竜斗は歩かされる

 ゲッツーはもっとダメ、終わる



 カキン 


 うわ、サードゴロ!

 やばい!


 サードがサードベースを踏む、そして一塁に投げる!


 厚本さん走る!一塁にヘッドスライディング!


「セーフ!」


 あぶねー


 球場全体もあぶねーって言う雰囲気


 当たりがそこまで強くなかったのが幸いした


 相手のサードが竜斗だったらアウトだった



 ツーアウトランナー二塁一塁



「八番、ピッチャー、春樹君」


 ウォーーーーー!


 球場全体が歓声の地響きを起こす


 相手チームが伝令を出す


 うわ、これ歩かされるかも


 次打者は、マッキー


 代走と守備固めでは出場してるが、予選を通して打席には立ってない


 それは相手もわかってるはず


 でも、歩かせると満塁になる


 万が一、次のマッキーにも四球を出すと大変なことになる


 うちはマッキーに代打は出さない、その足の速さにかけてる


 セーフティバントを仕掛けるつもり



 伝令が帰ってくる、若い相手監督が選んだのはどっち?


 キャッチャーが座る

 勝負だ!



 うちのブラスバンドが竜斗のテーマソング

「モンスター行進曲」を奏でる!


 そう、ゴー君が作った楽曲

 これを頼んで、テーマソングにしてもらった

 これが大好評!


 ネットでは騒がれて、スポーツニュースでも取り上げられた

 さぁ、ボルテージは最高潮だ!イケ竜斗!



 初球ファール!


 ん?あれ?なんで今の仕留められない?

 右の投手でタイプ的に大好物なピッチャーなのに…


 何かがおかしい…そうだった、ここのところ打球が上がらない


 昨日なんかはミスショットが目立った

 

 

 二球目ボール

 三球目ファール!

 四球目ファール!



 今日はもっと酷い

 いつもなら余裕で打てる球がファールになる


 おかしい、やはり絶対おかしい


 疲れが原因じゃない、おかしい


 本人も首をかしげてる


 なんだ、どこがおかしい?


 いつもの疲れた時に出る癖、グリップの位置の高さは変わらない


 どこだ!見つけろ私!

 竜斗の異変を見つけろ!

 リナさんを差し置いてここに座ってんだろ!

 イチャイチャするために座ってるんじゃない!


 竜斗の近くで散々見てきただろ!

 見つけろ!見つけなきゃ嫁失格だ失格!


 ボール!

 ツーツー


 やばい、次ボールになったら、もう歩かされる

 きっとそうゆう指示だ


 かまえる竜斗


 あ!わかった…

 メガホンを掴む

「竜斗ー!竜斗ー!」


 ダメだ声援で聞こえてない


 クッソーやばい、せっかく気づいたのに!


 神様お願い!竜斗のグリップの位置が前に来てるの、戻してあげて!


 お願い!また少しだけ、少しだけ力ちょうだい!あのグリップの位置を元に戻して!そうすれば、あとは竜斗が勝手に打つから!お願い神様!ご褒美カモン!



「タイム!」


 へ?


 あれ?


 相手ブルペンのボールがテンテンとグラウンド内に転がってる

 投球練習のボールがそれたんだ


 それを見て審判がタイムをかけた

 

 甲子園アルアルだ


 まぁまぁテンテンとしてるので、慌てて相手選手がボールを追いかける

 それを見てブラスバンドの演奏も止まり、球場全体が静かになる


 チャーーンス!


「竜斗ー!竜斗ー!竜斗ー!」

 気合いで叫ぶ


 竜斗がこっちを見る


 き、気づいた!


 こっちの伝令タイムはもう使い切ってる


 今、このタイミングでわかってもらうしかない!


 メガホンをバット代わりにして、ジェスチャーで教える!


 メガホンを立てて、竜斗のバッティングフォームの真似をして、ここだよ、ここでかまえるんだよ、とジェスチャーする


 二人で作り上げてきた、バッティングフォームのわずかなズレ、やっと私は気づいた



 竜斗がヘルメットを触って、いつもの了解の合図を送ってきた


 おっっっし、伝わった!


 投手をやってる影響かな、右腕の感覚が狂ったのかグリップの位置が少し、いや、けっこうピッチャー方向にきていた

 その分、タイミングがズレてたんだ


 おそらく、初戦から徐々にかまえる位置がおかしくなっていった

 だから、本人も私もトニーも気づかない


 グリップの高さだけを気にして見てた私の管理ミス


 ごめんね竜斗、もっと早く気づいてれば…昨日はもっと楽に勝てたかもしれない


 ホントごめんなさい


 嫁失格だわ


 いや、失格は嫌だ

 減点にしてください



 試合が再開する


 モンスター行進曲が流れ始める


 竜斗がかまえる

 一瞬こっちを見た

 私は頷いて返す


 うん、よし、それ、それだよ

 オッケー


 これでストライクがきたら、もう、うちの勝ち


 

 クァキーーーーン!


「ピー」


 打球が放たれた瞬間すぐわかったので、思わず笛のマネをする私


 左バッターから放たれたと思えないような打球が、左中間方向に鋭く空高く舞い上がる


 球場全体がその打球方向に顔が向く


 みんなの後押し、みんなの想いを乗せてボールは飛んで行く


 散々見てきたあずまや弾

 いや、それより飛んでるかも


 モンスター行進曲の演奏が止まるが、モンスター本人はダイヤモンドを走っている


 球場全体が静まり返ってる


 どこまで飛ぶんだこの打球と言わんばかりに


 相手センターは追うのを諦めてガックリきてる


 やっとボールが落ちてくる


 左中間スタンド上段に着弾した


 逆転サヨナラスリーランホームラン!


 ウォーーーーー!

 ワァーーーーー!


 球場全体が大歓声に包まれる


 アルプスは歓喜乱舞


 私は涙が出てきた

 号泣してしまった


 打つのはわかってたよ、うんわかってた


 でも、本当に凄い


 こんな大舞台で、フォーム戻したら簡単に打っちゃうんだもん


 ミスったら終わり、追い込まれてる


 でも、迷うことなくフルスイングする

 私のアドバイスを信じてフルスイングしてくれる


 素晴らしすぎる


 ねぇ、竜斗、なんでそこまで私を信じてくれるの?


 ねぇ、竜斗、私の方が楽しいよ

 私の方が野球楽しんでるよ


 だって、こんな近くにすんごい選手がいるんだから

 

 

 あ、スクラップブック買わないと


 もうパンパン


 この辺はどこで売ってるんだろ…







 決勝戦


 桜水高校野球部創部、えっと何年だっけ?


 わかんね、とりあえず最後、本当に最後の試合


 この試合を終えた時点で、長い歴史に幕を閉じる


 相手は同じ関東の群馬の学校


 もちろん、甲子園常連校


 でも、バッティングの調子を戻した竜斗には、もはや敵ではなかった。


 3ホーマーかっ飛ばした


 投げては先発


 力は五分程度で投げていく


 ストレートは145キロくらい

 疲れてるから?


 もちろん疲れは残ってるが、昨日一日寝てたらだいぶ回復したっぽい


 でも、力をピンチになるまで上げない


 いや、そのスピードでもコーナービタビタなので抑えていく


 そりゃそう、高校生のスピードは。このくらいでも速い方


 でも、決勝に残ってくる相手、どんどん振ってきて当てていく


 そう、打たせて取ってる


 なにか、チームのみんなと最後の試合を楽しむかのように打たせて楽しんでる


 ゴー君が珍しくエラーした

 すると

「へいへいへいへいー」

 と、竜斗が満面の笑みでイジる


 羽堂さんがファインプレーをすると、ポンポンポンとグラブを叩く


 クリーンヒットを打たれると、悔しい表情を見せる


 ベンチにいる私達も一緒になって楽しんで声を出す


「へい、セカンドー!切り替えろー次だ次ー」


「ナイッショー!かっこつけ過ぎだぞー」


 豪速球を楽しみに見に来てた観衆は、物足りなさそうにしてたが、全力でプレーする私達桜水高校に段々と心を奪われていく


 この試合、勝っても負けても廃部

 この試合がラストゲーム


 廃部関係なく、どの高校も三年生は最後の大会

 そのまま後輩に受け継がれていく


 でも、最後の野球部とゆうのはやはり違う


 もう終わり


 本来高校を卒業しても、その野球部は存在し続けて、大人になったらOBとして応援できる


 でも、うちの高校は少子化の波に飲まれ、グラウンドの老朽化も重なり消滅する


 その最後の時間を、甲子園の決勝戦を使って楽しんでる私達野球部を、球場全体が暖かく見守ってくれる


 竜斗のアホみたいなホームランで大差がついてるのに、相手はしっかり全力で試合してくれる


 私達の雰囲気に合わせ、こっちがファインプレーすると相手ベンチ、相手アルプスからも拍手が起こる


 私達も相手がいいプレーしたら拍手する


 凄くいい時間を過ごさせてくれてる


 甲子園に出てくるチームはみんな紳士

 本当に素晴らしいチームばっかりだった


 その中の頂点を掴もうとしてる、我が桜水高校野球部


 本当に通訳として来てよかった


 母の「トニーにコーチやらせればいいじゃない」

「杏子、通訳やりなさいよ」

 から始まった、私の第二の野球人生


 辞めたはずの野球をまたやる事ができた、携わることが出来た


 竜斗と出会えた

 リナさんと出会えた

 チームのみんなと出会えた


 確実に人生の宝物になる出会い


 母のあの時の閃きに感謝するしかない





 九回裏 ツーアウトランナー無し

 ツーストライク


 ズバァン!


「ストライーク!バッターアウッ!ゲームセット!」


 スピードガンは160キロを表示した


 私はスコアブックにKの文字を記入し、二本の斜線を入れスコアブックを閉じた、そして新幹線の柄の入ったペンの芯をカチッとしまう


 このスコアブックはもう使うことはない

 この瞬間からただの思い出日記帳となる




 校歌を歌い終わり

 選手一同礼


 ありがとうございました、そう呟いて、私もベンチ前で長く礼をする



 歓喜のアルプスへ挨拶に向かう



「感動をありがとう!」

「最後の野球部ありがとう!」

「お疲れ様!」


 こっちこそだよ、みんな大事な夏休みを潰して、ここまで応援に来てくれて本当ありがとう

 どんだけ励みになったことか


 私達と違って、何度もバスで行ったり来たりしてた


 ある意味、私達以上に過酷だったかもしれない

 尊敬する


「ありがとうございました!」


 ノブさんの号令と共に礼をする私達



 ベンチの前に帰ろうとした瞬間だった


「星川杏子さん!」

 ノブさんが大きな声で私を呼ぶ


「へ?」


 みんなそのまま私の前で一列になる、名取監督も部長も並んでる


「通訳さんなのに、今までバッピーにノッカー、お疲れ様でした、ありがとうございました!」


 ノブさんが大きな声でそうゆうと、みんなに礼をされた


 我慢してた涙が溢れ出す


「こちらこそありがとうございました!」

 ペコリ


 それを見たアルプスから大きな拍手が届いた


「チュー!お疲れ様ー」

「チューして、お疲れー」


 や、やめろ

 カメラが今、感動の瞬間を捉えてんだろうがっ!

 音声拾われるだろうがっ!



 星川杏子十六歳

 これで、本当に野球を卒業することになります

 ありがとうございました。



 えっと、卒業するのかな?

 竜斗が卒業するまでは、まだキャッチボールくらいはやるのかな。


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