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モンスター協奏曲  作者: 東京小町
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出会い

 

 今日は初日なので、父が同行してくれる

 監督との繋ぎ役


 プロ野球はオフシーズンだけど、コンディショニングコーチは結構やることあるので暇ではない

 明日からはトニーと二人だけ、ちゃんとやれるか、かなり不安


 父の車で現場の高校へ向かう


 私の通う中学の横を通り、バス通りを渡る


 で、着いた

 

 ちかっ! 


 って知ってたけどね

 高校は中学の通り挟んで反対側、お隣さん!

 都内では珍しいのかな?


 区立桜水中学校、都立桜水高校


 同名だが、公立なのでもちろん一貫校ではない

 そして、編入試験をパスしていて、来春から通う高校が、この桜水(さくらみず)高校であーる!


 高校入学する前に、先にお邪魔することになる。


 事の発端は父が、娘が桜水高校に入学するからと監督に挨拶の一報入れたのが始まりだ


 んで、私の通う桜水中から、隣の桜水高に進学することを地元では、「桜水ライン」というらしい、クラスメートに教えてもらった。


 桜水高校は都内でも人気の高校


 部活に力を入れていて、施設も充実

 校風は結構自由だが、治安は悪くない

 入試レベルも真ん中くらい


 そりゃ、良い学校だ!


 なので、近くに人気高校があるので、桜水ラインは毎年結構な人数になる。


 ちなみに、父も桜水ライン

 なんなら、中学の反対隣に原塚小学校があり、父はこの学校トライアングルを制覇している。




 車から降りたら、眼鏡をかけたちょっと薄毛の真面目そうな人が待っていた。


 三十才くらいかな


「お待ちしておりました、野球部部長の石川です!」

 綺麗なお辞儀でお出迎えされた。


 訳す前に慌てて私がお辞儀をしてしまったので、トニーも釣られてお辞儀した…

 うーん、お辞儀ヘタ

 お辞儀文化ないからわかるけども、さすがに初見じゃないだろう、練習しとけや


 あとで特訓だな


「どうも星川です」

「こちらコーチになりますアンソニークラインと、私の娘でクラインの通訳を務めます杏子です」


 と、父が紹介すると


 石川部長は「えっ?」って感じで私を見た。


 まぁ、そのリアクションになりますよね



「じゃ、グラウンドの方にご案内しますね」

 部長はまだ戸惑いつつも、先を歩き出す


「データあれで大丈夫でしたか?一応あるだけ揃えたんですが…」


 歩きながら、部長が話しかけてくる


 私がネイティブな発音で訳す


 部長、綺麗に私を二度見


 もういいから!めんどくさいなぁ


 てか、データ揃えたの部長か…

 だよね、おじいちゃん監督には無理だわ



 校舎のアーチを抜け、サッカーグラウンドの脇を抜ける



 第二グラウンドが見えてきた


 真っ白な練習着を着た部員達が、綺麗に揃ってランニングしてる

 これよこれ!高校野球!


 ん、なんか遠くて見えづらいが、変な格好してるやつが一人いるなぁ

 あと、なんか奇声みたいのも聞こえる…


 いや、気のせい気のせい




 グラウンドに入ると、ノックバットを杖代わり

 いやいや、ノックバットを両手で支える監督さんがお出迎え


 父の挨拶と紹介からの、監督も私を二度見

 おじいちゃんだから許す!


 挨拶が終わると父だけは、わきまえてグラウンドの脇にあるプチスタンドみたいな所で見学することになった。



 部員達がランニングを終えたので、監督が集合をかける

 みんなベンチ前に向かって走ってくる!のだが…

 やはり一人変なやつがいる

「ワショーイ」と奇声をあげて走ってくる

 しかも、練習着はちゃんと着てるんだが、肩からカラフルな太めのタスキみたいのをかけてる。


 なんの意味が!ファション?てか、どこで売ってっんだよ!


 野球にうるさい私からすると、野球を舐めてるようで少しイラッとしてくる


 ま、初日だからね、ただの通訳だからね

 我慢しよ



 監督と私達の前で、円陣ぽく部員達が整列する


 さっきの変なやつ、ちゃんと帽子を取って姿勢正しく立っている

 よく見ると、顔はなかなかのイケメン

 なんか、色々ギャップすぎて今度は笑えてきた


 ん?その隣にいつの間にか金髪で前髪を赤いヘアゴムでちょんまげにしてる女子がいる。


 マネージャーか?顔は可愛い、でもなんかこっちを睨んでる気がする。


 てか、みんな良く見ると、ゴリゴリ坊主じゃないなぁ

 二歳上だけど、そんな上には感じないなぁ

 二学年差は、結構な差なはずなんだけどなぁ


 そんな感じで、みんなの顔をトニーの挨拶を聞きながら眺めていると


 あの変なタスキのやつの隣、ちょんまげマネージャーの方じゃなくて、逆隣の部員の顔の前で思わず私の視線が止まる。


 はうっ!


 めっちゃイケメン!


 いや、イケメンって表現が正しいのかな

 アイドルみたいな顔ってわけでもない、目鼻立ちが整いまくってる感じでもない

 なんだろ、優しくて綺麗な顔!

 目が少しとろんとしてる


 背が高い

 

 すらっとしてる!シュッとしてる!


 なんだろ、この初めての感覚


 ズキューン!なのか?


 あ、目が合った、あ、先に向こうがそらした

 なによ、もー!可愛いじゃない!


 は!何してんだ私! 

 遊びに来てんじゃないぞ!

 

 てか、やばい途中からトニーの話聞いてねー


 適当に訳しとこ


 1フレーズ位づつ、訳するのが普通だが

 途中、私が訳さないもんだから3フレーズ位いった。


 母譲りの、頭の回転の速さをフル回転させ乗り切る!



 トニーが挨拶を終えると


「ヨロシクオネガイシマース、アリガトーゴザイマース」

 

 そこは練習してきてんのかい


 ありがとうございますは、今いらん


 そしてまたヘタクソなお辞儀でしめる。


 なんだ、そのお辞儀は!

 背中は倒れてるが、顔は上向きで少ししゃくれてる

 ヤンキーの喧嘩前の睨み合いみたいになってるわ


 もういーわ、そのお辞儀やめろ!


 途中、浮ついて仕事がおろそかになったイライラを心の中でトニーに八つ当たりする。


 私自身も挨拶、自己紹介をして

 次は、部員達の自己紹介になった。



 トニーのリクエストで、現時点でのレギュラーメンバーを打順付きで名取監督に紹介してもらう


 レギュラー終わったら控え、って流れで


 その際、事前に頼んでたゼッケン付きポンチョみたいのを配り、着てもらう

 トニーが顔を覚えるためだ、私も助かる。


 さっきの家での会議で決まり、急遽ポンチョを用意してもらった

 おそらく、石川部長がバスケ部かサッカー部から借りて来たんだろう。




 監督が紹介を始める


 トニーはタブレットに落としたデータを見る

 私は、データを紙に起こしたファイルを見る


「1番サード高瀬(ゴウ)


 さっきの変なタスキ野郎が返事をしてゼッケンを取りに来る

 

 え、まじ?変なやつがトップバッター?しかもサード


 ま、ある意味ありか…

 サードなので5番を渡す


 発表は続いていき


「5番ピッチャー佐藤信幸(ノブユキ)


 目がクリクリとしてるが、大柄ないかにもエース感あるのが返事をする


 3番4番5番は大柄

 3人ともデータを見ると180センチオーバー

 これは期待できる!


 ピッチャーの佐藤さんは、さらに下半身が立派

 昔見た、ガンダムのザクみたいな下半身してる!

 こりゃ、いい球投げるぞぉ



 さらに発表は続くが、あの私好み?の人は全然呼ばれない


 とうとうレギュラーは終わり、控え選手になっていく。


 えーー、まさかの補欠なの?


 背が高くて、シュッとしててイケメンだよ?

 普通、中心選手でしょ!

 あれ、怪我してるのかな?


「15番、あれえっと、あ、春樹竜斗」


 2年生最後の番号15番で呼ばれた…

しかも監督、少し忘れかけてた


 慌ててデータを見る

 確かに、試合に出た形跡なし練習試合も出てない

 身長は180センチ、ん?あ、この人高校入学時は169センチ


 めっちゃ伸びてるやん


 てか、「ハルキ リュウト」って、下の名前が2個あるみたいでかわいいし、かっこいい名前だ。


 でも、正直スンってなった。


 3番ショートとか勝手に期待してた。



 全て終わり、アップを始めることになり部員達が散っていく。


 トニーは、タブレット片手に父のいるプチスタンドに歩き始めた

 父には通訳いらないので、ベンチに行こうとしたら

 さっきのちょんまげマネージャーが駆け寄ってきた。


「私もそれ着た〜い」と、余ってた30番をひったくっていく


 部長が、「あ、それ、名取監督の」

「は?これをナトっちゃんに着させるの?アホかよ!」


 確かに!

 こちらも監督には着させるつもりはないので余ってる


 てか、監督をナトっちゃんって…


「30番青山里奈ぴょん行きマース」

「キーーン」


 と、言って、ポンチョを着たら両手をTの字に広げ走り去るが、

 すぐUターンして、そのままTの字で私の元に来た。


「コラ!星川杏子!さっき私のゴーくん見てニンヤリしたでしょ!その後しばらく見とれてたよね?」


 ゴー君て、あの変なタスキのサードだよな…


 見とれてたのは隣の春樹さんの方だ、しかしよく見てるなこいつ


「私、ゴーくんの嫁だから!」

「横から不倫仕掛けるなら、ぶっとばすよ!」

「あなた、かわいいからってすぐゲット出来ると思ってるでしょ?」

「言っておくけど、ゴーくんは私のこと大好きだから無理だからね!」


 ちょんまげ畳みかけてくる


 は?

 さすがにキレた


「変な言いががりやめてもらいます?こっちは遊びじゃないんですが?」

「あなたの旦那?誰だってあの格好見たらクスってなりますし、見ちゃいますよ!」

「嫌だったら、あの格好やめさせてもらいます?」

「そもそも!まっっっったくタイプではないのでご安心ください、ノーサンキューです!」


 春樹さんに見とれてたのは誤魔化しつつ、中三らしからぬセリフでキレた

 一応、年上なので敬語は守った、来年から先輩だし


 すると、ちょんまげの顔がパアァァと明るくなった


「なぁんだ、ゴーくんのこと好きになっちゃたかと思ったよー」

「ごめーんちゃい、ウチはゴーくんの虫よけ係なの」

「虫じゃないならオケ、仲良くしよ!」

「アオヤマリナって言うんだ、一年生だよ!よろしくね」

「ウチのが一個上だけど、星川ちゃん大人ぽっくて年上みたいだから」

「リナぴょんって呼んでいいよー」


 いきなり呼べるかっ


「あ、いえ、誤解が解けたなら全然オーケーです、よろしくお願いします」

「星川杏子ちゃん、ホッシーかキョウちゃんだね!」

「うーん、かわいいからキョウちゃんね!今日からキョウちゃん!あれ?なんかラップみたい!」


 な〜んかこの人憎めないなぁ、仲良くはなれそう。


「で、リナさんはマネージャーさんなんですか?」

「ううん、違うよー、ゴーくん専用マネージャー!」

「野球部の手伝いはしてるけど、マネージャーって肩書き貰っちゃうと、部員みんなに平等にしなきゃじゃん?」

「でも、いつでも私はゴーくんファーストでいたいからさっ」


 なるほどね、ある意味、たいしたもんだわ


「コラ!リナ!オメェまたなんか、やってるな!」


 旦那キタ


 旦那…ゴー君ってのが、リナさんの頭をグローブでポンと叩く


「イタ〜い、ディ〜ブイ〜」


 リナさんがちょんまげをさする


「通訳ちゃんごめんね、こいつ変なこと言わなかった?」

「いえ、大丈夫ですよ、仲良くさせていただきます」

 

 私、神対応!


「通訳ちゃんじゃなくて〜キョウちゃんだよぉ」


「リナうるせー」

「そっか、キョウちゃんありがとうね、よろしくね!」


 なんだかんだ、言うこと聞くのね

 しかも、まともじゃん

 なのにその変な格好はなんだ!


 ゴー君は「オッシャー」と軽く奇声をあげながら走り去った


「じゃっまた後でね!」

 と、リナさんも「キーン」とゴー君の後をついて行く


 まぁ、よく出来た夫婦だわ


 周りの部員は、私が絡まられてても何も言わない、虫除け駆除はいつものことなのかな…すげえな


 なんて、感心してると背後から


 「星川さん大丈夫?」と、聞き心地の良いちょっと低音の声がしてきた。


 振り返る


 はうっっ!

 春樹さんだ!


 さっきの眠たそうな顔ではなく、今度はキリッとしてる!

 こっちの顔もいいー!しかもイケボ!


「あいつらおかしいでしょ?リナは特にすぐ女子に絡むからさぁ、ごめんね、大丈夫だったかな?」

「あ、はい、で、でも、面白くていい人達です」


 モジモジしつつも、自分の顔が一気に緩んで笑顔になってくのがわかる


「う、うん、ふ、二人ともいいやつだよ、ゴ、ゴーとはつつつ、付き合い長いからさっ」


 なんだ?

 急に噛みまくりやん?

 でも、かわいいから許す!



「あれれ?何を話してるの〜?」と、急に私の後ろから背後霊のように、ヌッとリナさんが現れた


「おや?」 

「さっきのキツイ顔はどうしたん?ん?」

 リナさんが至近距離で私の顔を覗き込む


 や、やばい、デレ顔バレた


「んん?あ!あーー!ハルちゃん、さっきゴーくんの隣にいたよね?」

「え?整列の時?うん、いたよ」


 今度は噛まずに返してる


「あーなんだ!キョウちゃん見とれてたのハル…モゴモゴ」

 慌てて、私はリナさんの口を塞ぐ!


 コロス! 

 リナさんに殺意湧く!


 まぁ、口を塞いだ時点でリナさんにはバレた!

 言い訳できない


 春樹さんを見る……

 

 はにゃ?ってなってる


 バレてないな、やばかった〜


「そろそろシートノック始まりますんで…じゃっ!」

 

 春樹さんに雑な挨拶をして、小柄なリナさんを、反則レスラーをレフリーがとめるように、後ろから抱っこして引きずっていく。



 まだ、来たばっかりなのに


 これはやばい、マジで前途多難!


 最近覚えた四字熟語を心の中で叫んだ。


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