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モンスター協奏曲  作者: 東京小町
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十五歳の通訳

 

 帰国して間もなく、父に泣きの連絡が来た。


 父の高校時代の恩師、名取(ナトリ)監督からだ

 現在も高校野球の監督で、助けて欲しいとの事

 

 高校時代の恩師?高校時代の監督?

 父の年齢…軽く逆算しても……おじいちゃん監督やん!

 

 名将?名将ってやつ?

 

 長年、都立高校の監督をしている七十歳

 

 名門私立が盛り盛りの東東京地区は激戦地区

 そんな中で、公立で甲子園に出るのは奇跡に近い。

 

 監督歴四十数年で、まだその奇跡は起きてない

 ただ、今度の新チームは一番奇跡に近づいているみたい。

 

 過去最高の夏の予選最高順位は準決勝まで

 ベスト4は大健闘、ちなみに父の代だ!

 熊なのにショートだって、嘘だー!

 

 あ、昔のイケメン写真思い出した

 

 イケメンショート?うーん…ないわ

 ま、いいや


 その新チームを更に良い方向に伸ばして欲しい!

 

 が、今回の依頼

 

 ベテラン監督なんでしょ?戦力揃ってるなら依頼しなくても……

 父の話だと、選手の采配はうまいけど育成は正直上手くないらしい

 

 年齢的にもキツイところもあるとか…


 たぶん、名取監督自身が一番その辺を全部分かってて、プライドを捨て教え子に泣きついてきたんだろう

 監督とは渡米するまで交流があったので、父のスキルは良く分かっているからからかな。

 

 依頼期間は一年

 

 実は、監督は次の夏の大会での勇退が決まってる。

 

 最後にひと花咲かせたい?

 

 いや、最後の最後にチャンスが巡ってきた!が、正解かな

 

 更に厳しい条件がある

 引退理由は年齢だけではない

 その高校は、都立校では珍しく専用グラウンドを保有している

 第二グラウンドと称して野球場がある。

 

 その第二グラウンドの取り壊しが決まってしまったのだ。


 近年の少子化問題もあり、グラウンドをリニューアルすることはない

 それに伴い野球部の入部も止めてる。

 

 名取監督には年齢的にもタイミングが良いから、これを機に引退してもらい、そして野球部は廃部になる。


 なので、今の二年生が現状最後


 一年生は最後の夏が無し確定なので、極端に人数が少ない。


 来春の新一年生の入部はもちろん取らない

 部員人数は、現在二年生は十五人


 まず普通に二年生だけでも少ない

 甲子園に出てくるような高校は公立校であっても、もっといるはず。


 一年生は七人だが、最後の夏が無いのがわかってて入部してきてるので、戦力になるようなスキルは無いだろう


 それどころか、他の文化部と掛け持ちしてるのもいる。

 

 二年の夏で、部活は終わるので大学受験に専念できるし、野球部員の肩書きは残るので推薦入試にも有利に働く


 そんなモチベーションなので、練習にも来たり来なかったり。

 

 それじゃあ、紅白戦もギリギリじゃないか…

 日本の高校野球がうとい私でも人数が少ないのが分かる。


 逆に言うと、それでも期待出来るとゆうことは現二年生の十五人が良い選手だらけってことか……


 状況は分かったが、問題は父の立場だ

 プロコーチとして契約している、これを受けるには契約を破棄するしかない

 そしたら、そのチームは理由がどうであれ二度と契約はしてくれないだろう。


 公立高校の外部コーチと、プロのコーチ

 報酬の差は明白

 

 しかも、高校の状況は泥舟にも感じる。

 

 中学生の私と、アメリカの大学に通う兄もいる

 父には現状この依頼を受けるのは難しい、恩師の頼みであってもこれは……


 

 帰国後、リビングで父と母が相談してたのを私もチョコンと座って聞いていた。


 

「やっぱりどう考えても無理だ断る」

 父が机をパンと叩いて話を終わらそうとしたら


「あれ、トニーじゃだめなの?トニー来週辺りから日本に来るんでしょ?」

 

 母が、首を傾けて父にカウンターを入れる


 父、ちょっと固まる


 確かに、トニーはプロではなく施設の従業員って(てい)だ!


 しかも一年休職中


 こっちでは、父の付き人みたいな立ち位置なので高野連の方はパス出来るかもしれない

 しかも!トニーは育成のプロフェッショナル


「それはいい考えだ!」


 父乗り気


 あとは、高野連がOK出してもトニーが報酬に納得するか…

 とにかく、トニーに聞いてみよう


「あら、でもトニー、日本語しゃべれないわねぇ」


 母が父と目を合わせてからの私をチラッと見ながら言う

 

 おまけにもう一回チラッ

 二度チラ

 

 はい?ええ?


「杏子、トニーの通訳やりなさいよ」


 なぬ?


「将来通訳になりたいなんて言ってたじゃない?」

「いい練習になるんじゃない?」


 母はもしかして、全部見越してトニーが良いと言ったんだな、サスガ!

 確かに将来通訳になりたいと思っているけどもぉ


 マジかぁ


 まぁ、通訳は普通に小学生の頃からやってきた

 トニーなら気心知れてるし、平気かな


 てか、全然遊べなくなるやん

 あ、まだ友達少ないしいっか。

 野球大好きだし




 高野連OK、トニーもOK、名取監督はアメリカ人にビビってるけどなんとかOK


 トニーはむしろ、是非やらせてくれとのこと

 滅多にないチャンス!アンビリバボー!だって

 

 


 で、トニーが家に来て久しぶりの再会を果たした現在に至る。


 トニーは母にエスコートされたダイニングテーブルのイスに座り、父はその対面に座る。


 二人は早速ノートパソコンを開いた

 トニーのパソコンのフタにはシールがベタベタ賑やか


 私は、トニーの横にチョコンと座る

 もう通訳気取り…とゆう訳ではなく

 父の横には母がくると思ったから。

 

 私も少し小さめのノートパソコンを開く

 小学生の頃、アメリカでの授業で使うのに買ってもらったやつ

 子供なので、軽い小さめのやつ

 でも、スペックは変わらないから今でも使ってる

 フタにはボストンならではの赤い靴下のロゴのシールが一枚だけ貼ってある。


 母が何も言わずに、カウンターキッチンの中に入りコーヒーを作り始めた。


「杏子はオレンジジュースね?」


 うーん


「私もコーヒー」


 母は、手にとってたジュースのグラスをしまって、コーヒーカップをもう1セットやれやれと言った感じで出した。


 コーヒーが出来上がり、私の前に置きながら


「もう立派な通訳さんみたいね」

 

 と、コロコロ笑ってる。


 そりゃ確かに、ノートパソコン開いて会議みたいになってるから背伸びしてコーヒー頼んだよ

 でも、そもそもオメーが言い出しっぺで私がやる事になってんだろーが!


 心の中で反抗期を迎えつつも

 自慢の目力でキッと軽く睨んだだけにした。


「おーこわっ」


 両手をクロスさせてブルブルさせながら、母はキッチンカウンターの中に消えていく。


 さっ、会議会議


 トニーが外部コーチを承諾した時に、チームのデータが先に欲しいと言ってきた

 戦歴、個人成績、あれば試合の動画、身体測定の結果

 身体測定は、過去の分も欲しいと


 へぇー身体測定、しかも過去も


 父の話だと、今のサイズはもちろん、過去もわかればその選手がどのくらいの成長期かわかるから欲しいのだろうと言っていた。




 三日前位に高校からデータがあるだけ届いた

 そこから、英訳してトニーに送るのだが…


 父は、英会話は問題なくても英訳からの文字起こしは苦手

 出来なくはないが、英辞書片手にもなるので時間がかかる。


 当然、私に振ってきた。


 いやいや、こっちは本業の学業がチーンな状態なのにそれ頼むかね


 一度、お断りをした


「タダでとは言わん!」


 なぬ?


「キョウコ、なんかポケモンの新しいの出るみたいよ、しかも二種類だって」


 母がタイミングよくぶっ込んでくる

 テレビにゲームのCMが流れてる


「お、じゃあそれ買ってやる!」


 ウェーイ!マジか


「二個とも?」


 二種類買って意味あるのか、まだわからないがとりあえずおねだりしてみた。


「しゃあないな、いいよ」


 クゥ〜


 中学生無職、少ないお小遣いでのやりくり

 そりゃアンタ、物で釣られりゃ食いつきますよ

 しかも、友達まだいないからゲームが親友


「英訳やらせていただきます!」


 ただ、やってみると人数が少ないせいか瞬殺で終わった。


 これで、ポケモンゲットは熱い!


 父には大変だったアピールしといた。

 

 で、そのデータのすり合わせを今やってる

 訳したのが私なので、私も会議参加になったわけ。




「そろそろ時間よ、杏子支度しなさい」


 まだ時間あるが、母が女子は支度にしっかり時間を掛けなさいと言わんばかりに私を煽る。


 部屋に行こうとしたら


「キョーコ動ける格好で頼む」


 トニーの意図がわかり


「オーケー」と返す



 部屋に入りまずクタクタの2軍部屋着ジャージから、1軍トップのオキニジャージに着替える

 ジャージというよりは可愛めのセットアップだ、でも充分動ける。


 髪をポニーテールで縛り、オキニのキャップの後ろから尻尾を出す。


 軽く眉毛とまつ毛を整え、薄めのグロスをリップ代わりに塗る

 高校生のお兄さん達に会うから少し頑張ってみる。


 そして、クローゼットの奥からミズノのスポーツバッグを取り出す


 バッグの中身をチェック!


 タオル、手袋類、リストバンド、一応スパイク、グローブにキャッチャーミット

 オーケー!


 これ全部自分の道具ね

 そう、私自身野球経験者


 六才から始めて、帰国寸前まで現地のクラブチームでプレー

 兄が先にやってたので、その影響で…ってわけではなく


 その頃、母は事情で日本とアメリカのいったりきたりの生活していた。


 クラブチームは、学校にバスで迎えにきてくれて、終わったら家まで送ってくれる神チーム

 私一人家に残せないので、保育園代わりに兄のチームにぶち込まれた感じ。


 でも、やってみると楽しく才能も開花!


 男子に混ざってだったが、年齢別でレギュラー

から外れたことはない

 小学生の時はキャッチャー、中学生になったらセカンドだった。


 しかし、大きくなるにつれ男子との体格差に限界を感じ、帰国を機に辞めることにした

 スポーツ女子は引退、日本ではお洒落女子で生きて行くと決心!


 トニーはよく私のチームにも来て世話してくれてたので、もちろん私が野球ができるのは知っている。


 私には通訳だけではなく、指導する時にキャチボールの相手とかをさせるつもりで「動ける格好」って言ったと思う。


 野球したくて、ウズウズしてるのもあるのでもちろん「オーケー」


 支度が終わって部屋を出たら、父とトニーが準備万端で待ってた



「行ってきまーす!」


 ワクワクと緊張がゴチャ混ざる中、家を出た。


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