東東京大会
とうとう夏の大会が始まる
ここまでの一番の収穫は、ノブさん以外怪我人が出なかったこと
元々、打線の主軸は、強豪私立でもレギュラーを張れる人達
打線は強豪私立にも引けを取らない
でも、怪我人が出たらそれを補う人がいない、いや、いるけど数段にレベルが落ちる。
選手層の薄さがうちの弱点、そこさえ乗り切れば強豪私立と渡り合える。
トニーのコーチング、練習メニュー、父の怪我防止メニュー、全てが役に立った
そして、課題の投手陣
頼りのキャプテン、ノブさんが間に合った!
あの涙の投球以来、ノブさんの投球は見たことなかった
どっかで、竜斗と比べて舐めてたかもしれない
でも、復活の投球を見て、自分の愚かさを知る
この人は、いくつもの高校が欲しがった逸材
投手としてのモノが違う
凄い、やはりさすが有名人!
投球の迫力とオーラが違う
もちろん、竜斗よりはスピードは落ちる
でも、それでも竜斗より風格がある
長年、エースを張ってきた風格とマウンド捌き
そして、投球技術が素晴らしい
変化球の持ち球は、カーブ、スライダー、縦スラ、フォーク、シュート
これぞ投手!の身体を持つノブさん
上から投げ下ろされる綺麗なフォーム
まさに、本格派右腕
直球のスピードは140後半まで戻ってる
そして、コントロールがいい
で、最大の武器
ピッチトンネルの抜けが素晴らしい
ようは、どの球種もボールが同じ起動でくる、そしてバッターギリギリのところで曲がったり落ちたり、そのまま真っ直ぐきたりする
バッターボックスに立たせてもらったことがある
マジで、わからない
直球とフォークがわからない
ワンバンするようなフォークに、つい空振りを喫してしまう
これは凄い!
が、この凄さの上をいく奴が、うちのチームにいた
打者竜斗だ
シート打撃で、このノブさんから鬼のように鋭く曲がるスライダーを、いつものテニスコートに軽々持っていった。
ノブさんはガックリしない
「こいつは別格、打たれてもなんら気にならん」
とか、言ってる
確かにそう、竜斗にホームラン打たれても、気にする方がアホだ
そして、ノブさんと竜斗以外の投手陣
コバさん、大舘さん、梨田さん
トニーは春の大会以降、徹底的に指導し、しごきまくった
アメリカ人にしては珍しい、マジで特訓祭り
この三人は、野球を高校で辞める
なので、ピークを一気に夏に持ってきたのだ
言い方悪いが、この夏で壊れてもいいのだから
この三人はしっかりついてきた
本人達も、最後の夏に全力で照準を合わす
ノブさんが復活しても、完投はもう無理
絶対にこの三人の力が必要だからね
で、秘密兵器投手春樹
打者も一応は秘密兵器だったのだが、春の大会と練習試合でバチコン打ちまくったので、噂が立ち始めてる
その投手春樹
調整が遅れてる
今はやっと変化球をマスターしたくらい
投内連携や、サインプレーを一切してない
大会を進めながらの調整になる
なぜ、調整が遅れた?
打者春樹の弱点が発覚した!
左投手の内角が苦手
春の大会からここまでの数々の練習試合
右投手はほぼ無双
左投手の外角は打てる、が、内角ダメ
モンスターにも弱点はあったか…
本人に聞くと
「見づらい、外側は見えてからバット出しても、なんとか左中間に持っていける、でも内角は差し込まれる」
気持ちは分かる、左打者は左投手との対戦経験の少なさから、左を苦にしやすい、だからプロでもワンポイントリリーフが存在する
私も左だが、それなりの年数打ってきたし、リトルリーグレベルなので、さほど苦手ではなかったが、それでも、サイド気味の左には手を焼いた
その時、編み出したのは、スタンスを広げてオープン気味に構えて、ボールをよく見えるように工夫した
その経験を活かして、トニーに了解を得て
竜斗の対左投手用のバッティングフォームを二人で思案し完成させた
そう、左投手の時だけ、私みたいにスタンスを少しオープンにする
そこから猛特訓
いつもの位置から、少し一塁側にズレて私が投げる、わざと見えづらくして投げて、打撃練習をした
つい、先日の練習試合
神奈川の高校の左の速球派から内角をホームラン!
これで克服!
なので、打者春樹は完璧
その代償が、投手春樹の調整遅れになった
これが、どう響くか…
ノブさんの指導の元、急ピッチで調整を進める。
背番号が渡された
竜斗は4番
え?サードなのに4?5じゃくなくて?
が、当然の意見
高校野球は、守備位置で背番号をつけるのが、坊主頭並に常識
で、その空いた5番はゴー君が付ける
そう、二人の背番号が交換された形になってる
おじいちゃん監督が登録間違えた?
ノンノン、登録は石川部長がやってます
それこそ、名取監督にやらせたら危なっかしいわ
理由は他にある
ゴー君は、小学校からずっと今まで5番
中学も一年からレギュラー
高校も一年からレギュラー
ずっとサードだったから5番
この前の春の大会は4番をつけてたが、どうも嫌みたい
これで人生最後の野球、最後くらい5番つけさせてくれと、竜斗に頼んだ
竜斗はもちろん快諾
名取監督はなんでもいいみたい、なので竜斗は4番をつける。
メンバー表
監督 名取邦広
部長 石川賢治
1番 佐藤信幸 主将
2番 有村翔
3番 小林博明
4番 春樹竜斗
5番 高瀬剛
6番 羽堂一善
7番 工藤康也
8番 三沢一正
9番 大沢祐介
10番 大舘勘一
11番 梨田宗大
12番 松山慎介
13番 福山透
14番 平山修二
15番 厚本幸広
16番 牧野周平
17番 小沼凛太郎
十八番 小林慶太
十九番 宮杉瑠偉
二十番 加藤雅紀
記録員 星川杏子
これにボールボーイ二人
うちの部員数は二十二人
そう、ギリギリの部員数で挑む
私は記録員、スコアラーとしてベンチに入る
リナさんは拒んだ
スコア書きに自信がないと
でも、たぶんそれだけじゃない、野球に詳しい私に譲った感じだ
チームのために尽くしてきたリナさんがベンチに入れないのは辛い
「気にすんな、スタンドから別角度で見て、気づいたこと言うから!」
と、心強い言葉をくれる
よって、影のキャプテンリナさんは、トニーと一緒にスタンドから応援することになる
全国高校野球選手権大会 東東京大会が始まった
うちはもちろんノーシード
トーナメント表を見ながら、情報屋のリナさんを中心にトニーと監督と私が作戦を練る
くじ運がいいらしい
決勝入れて合計七試合
日程を見ながら、投手陣の起用法、練習メニューの作成に入る
三回戦まで、無難に行けそう
問題はそこからだ、いかにノブさんを温存しつつ、勝ち抜くか
幸い、日程的に連日試合になることはない
今のところは、必ず中一日空く
敵は雨天中止だ!
えっと、なんて言うんだっけ
そだ、暑い夏が始まる!
てか、マジで日本の夏暑い、暑すぎる
その暑い七月の丸一ヶ月をかけて甲子園を目指す!
桜水高校は順調に駒を進める
予想通り三回戦までは、ノブさん抜きで勝てた!
毎試合三人の投手リレー
タイプがみんな違うから、的を絞れない
そして、四回戦からノブさん登場
圧巻の投球
球数を気にして打たせて取るピッチング
さすがだ!
そこからは、ノブさん中心に勝ち上がっていく
準決勝まできた!
ここまで打線が活発
面白いように点が入る
一番バッター竜斗がハマってる
長打力あり、チャンスでも打ちまくる竜斗は、三番四番が良さそうなのだが、トニーのメジャー方式で、一番出塁率の高い竜斗を一番に置く
竜斗の出塁で一番多いのは四球
もちろん相手が逃げての四球もあるが、鬼の目の選球眼による四球も多い
絶対って言っていいほど、ボール球を振らない
竜斗を四球で出してかき回され、相手投手が崩れるパターンが多い
もう、四球かホームランみたいになってきてる
ただぁし!それが、準決勝からはどうなるか…
でも、準決勝の相手も甲子園未出場
てか、ここまで優勝候補!みたいなとこと当たってない
四回戦で当たりそうだったんだが、その前でコロっと負けてた
くじ運、神
えっと準決勝、圧勝だった
エース一人任せで勝ち上がってきた相手チーム
投手の疲労が出てるのが一目瞭然だった
こっちは、ノブさんが六回まで投げて、あとは小刻みに継投する
これが、ずっとハマってる
桜水高校野球部、初の決勝進出!
相手は、プロ選手を輩出したことある高校だが、甲子園常連ってわけではない
てっきり、決勝に勝ち上がってくるのは、その相手の甲子園常連高かと思った
これは、もしかしたらもしかするぞ!
そして、もう一個朗報が
投手春樹が完成した
やはりえげつない
くそ早いストレート系が三種類
カッター、ツーシーム、フォーシーム
このスピードは規格外
カッターなんて、150キロを軽く超えてくるボールがベース手前でカクン!と動く
ツーシームは、もはやシュート、動くとゆうよりは、グイーンと曲がっていく、んで150キロ超え
これだけでも、高校生は打てなさそうだが
相手竜斗だったら、わからない
投手竜斗対打者竜斗だったら、打者のが勝つかも
そんな規格外のバッターが他にもいるかもしれない
そして、竜斗本人はこのスピードをまだ知らない
トニーが、その都度計ってるのに聞いてこない
会議で140と聞いて満足したのか、興味を持ってない
やっぱりアホだ
このスピードを知ってるのは、私とトニーと父以外は、ノブさんだけ
ノブさんは、しっかり黙っててくれてる
変化球習得
ノブさん直伝のスライダー二種類を習得、フォークは覚えてる暇なかったので、代わりにチェンジアップを覚えた
このスピードと、ノブ流スライダーがあれば、短いイニングなら無双できるはず
ノブさんの後の三回ならイケる
不安材料は、実践経験ほぼ0
あと、スタミナ
投手経験がまるでない竜斗
マジで未知数
登板させる時は本当に祈るしかない。
決勝当日
スポーツ新聞各社が一斉に報じる
都立高校甲子園出場なるか!
廃部目前の桜水高校最後の奇跡を叶えるか!
好投手佐藤!プロ向きのピッチングで甲子園を狙う!
隠れてたスラッガー春樹!ホームラン記録を塗り替えチームを甲子園に導けるか!
部員人数ギリギリのチームが挑む本当に最後の夏!
などなど、まあ、凄いことになってる
竜斗の記事を切り抜き、スクラップブックに貼る
準決勝前に初めて新聞に竜斗が載った
「せっかくだから、切り抜いて残したら?」
と、母に言われ、ナイスアイデア!と思い、スクラップブックを買った
一生の宝物にすべく、ノリでペタペタと貼っていく
このスクラップブックがいっぱいになる事を願う
外野席は空席だらけだが、それ以外は超満員の神宮球場
実質超満員
その中で桜水高校は決勝を戦う
試合開始
両チームのブラスバンドが存在感をアピールする
試合は投手戦
相手投手は左の好投手、魔球シンカーを操る
背番号10番をつけてるが、おそらくそれは二年生だから
実質エースはこの二年生だろう
白熱した投手戦になった
スコアは1対1
こっちの1点は竜斗のホームラン
しかも、相手得意球、シンカーを捉えた
甘いコースじゃないよ、なんで打てるのよ!
左のシンカーなんて初めてだろ…
同点の緊迫したゲーム
さすがにこっちも継投に入れない
ここまで継投の時には点差は必ず3点以上ついていた
初めての領域
チームに張り詰めた空気が漂う
ドリさんとガブさんが笑いを取るが、それは上辺だけの笑い
私も、気軽に声をかけれない
結局九回までノブさんが投げ抜いた
ここまで球数127球
もう限界だろう
竜斗は七回から、守備交代のタイミングを使い、ショートの羽堂さんと強めのキャッチボール
ブルペンにはいかない
これもトニーの教え
ここで、私と竜斗の夫婦の共同作業、夫婦の投球練習の意味がわかった
竜斗のルーティンを強制的に作ってたのだ
トニーは今も将来も含めて、竜斗は野手で出場しながら登板することを予想している
ブルペンなんて行く暇ないかもしれない、メジャーはベンチ前でキャッチボールが出来ない、じゃあどこで?
そう、イニング間の守備練習でキャッチボールをしながら肩を作る
ちょうどその距離とボールの速度は、私と竜斗の軽い投球練習そのもの
そして、登板したら投球練習で肩を仕上げるのだ!
そもそも守備をしてるので、ある程度肩は出来てる
なので、これでじゅうぶんと、トニーは判断する
下手にブルペンで肩を消耗させない意味合いもある
竜斗がキャッチボールしてる…
それは九回の裏にサヨナラを決められなかったら、延長の十回から竜斗が登板することを意味してる
私が緊張してきた、大丈夫か
大事な決勝の延長戦
救いはうちの攻撃が裏だったこと
サヨナラ負けはない
この大会の組み合わせ抽選、そして今日のジャンケンに勝って後攻をゲット
キャプテンノブさんの右手は別のところでも大活躍している
九回の裏、ツーアウトランナー無し
やばい、緊張してきた
竜斗本人は、ノブさんからアドバイスをもらってる
「あ、プレートをこう使って回転するんだぁ、わかった」
すると、クルッ、クルッとバレリーナのように体を回転させてる
え?打者の情報貰ってるんじなくて…?
もしかして…牽制のやり方を今教わってる?
あれ、サインプレーやったよな
あ、あれセカンドか
あー!もしかして一塁のターン知らなかったの?
う、嘘でしょ
てか、やった、私の責任だ、全然忘れてた
トニーは投手上がりじゃないため、技術的な事はノブさんに丸投げしてた、それを聞いて私が見て管理してた
セカンドの牽制とサインプレーやって、ほっとしてた
一塁のターンやってない…
てか、竜斗!お前からも聞いてこいよ!
延長の試合にこれから登板をする投手が、今牽制のやり方を教わってる
それも、目を輝かせてクルッとクルッと回ってる
なんか、緊張してる私がアホらしくなってきた
そうこうしてると
ツーアウトから七番ドリさんがヒットを打った
小太りの体が一塁上で、無駄な肉をプルプル震わせて喜んでいる、気がする
ここで、試合中だけは名将名取監督が動く!
リナさんのおじいちゃんが動く!
「代走牧野!」
これで、捕手はドリさんから、松山さんに切り替わる
大丈夫、松山さんも竜斗の球を受けてきてる
ツーアウト、当然盗塁をさせるための代走Bダッシュ
相手は左、牽制も上手そう
そろりそろりとマッキーさんがリードを取る
「バック!」ザザァ
一塁コーチャーの福山さんの言葉と共にマッキーが頭から戻る
そりゃ、相手警戒するわ
もう一球くるよ
「バック!」ザザァ
二球牽制球がきた
「タイム!」
このタイミングで名取監督がタイムをかける
え?
「代打松山!」
なぜに、このタイミング?
確かに打力は、小林(猿兄)さんよりは松山さんのが上だ
ならなんで、最初から代打を送らないんだ?
でも、その意味はすぐわかった
一塁ランナーマッキーに送られる名取監督のドリフサインの内容が少し変わった
行けたら行っていいよ、のサインが
絶対行け!行かなきゃ殺す!のサインに変わる
相手投手は二球牽制をした後、タイムをかけられ、ノソノソ出てくる代打に変な間を入れられた
相手は捕手も二年生
これは、次は絶対に牽制球は…こない!
相手投手モーションに入る
「逃げた!」
相手一塁が喚く!
Bダッシュで一気に二塁へ向かう!
相手捕手が、捕球してすぐに矢のような送球を送る!
さすがの送球、二年生ながらレギュラー取るわけだ
Bダッシュ中のマリオと競争
「セーーフ!」
「おーーーー!」球場が沸く
「よっっっっしゃーーー!」
私も吠える!
九回裏で得点圏にランナー置けた
サヨナラのチャンス
でも下位打線
代打松山さんは一塁が空いたので、敬遠される
次は九番バッターなので、当然の策
ツーアウト二塁一塁で
バッターは!
あの工藤さん!
元問題児工藤さん
でも、これで名取監督のやりたかったことがわかった
これで工藤さんが凡退しても、次の回はトップの竜斗からになる、そう、無理クリ九番まで回したのだ
さすが名将、相手の隙をつく見えないファインプレー
ちょっと尊敬した
さぁ、工藤さんアウトでもいいから思いっきりいこう!
カキーン
え?
初球からいった!
三遊間をしぶとく抜けた!
レフトは前進守備
三塁コーチャーは止める
そう、無理しなくても満塁で竜斗に回る
にしても、ナイス工藤さん!
竜斗の優しさで、野球が出来てる工藤さん!
よし!
みんなでなんとか繋げたチャンス!
竜斗が打席に向かう、こっちの応援スタンドは個々に声援を送る
「ハルーー!
「ハルキーー!」
「春樹ーーー!」
「チューパワーーー!」
ん?
ブラスバンドも一時演奏を止め、あえて雰囲気を作る
みんな、ここで決めてくれると信じてる
そりゃそう、ホームラン注意報が校内に響きわたるうちの学校、応援しに来てる人に竜斗の存在を知らない人はいない
「一番、サード、春樹君」
ウグイス嬢のアナウンスが球場内に響き渡ると、大歓声が湧き起こる
ブラスバンドの応援が始まり、ボルテージを上げていく
約九ヶ月前からは、全く想像できなかったこの光景
私の彼氏はみんなの期待を背負って打席に立つ
うちの母も見に来てる、父も見に来てる
竜斗のお父さんとさおりさんも見に来てる、お母さんはテレビ中継をみている
お忍びで姉も見に来てる、芸能人パワーを使い、良いところで見てる、そして、たぶん周りの人にバレてる
頼むぞ竜斗!
四球かヒットでいい
無理しないで軽打いいからね
「タイム!」
慌てて相手チームが待ったをかける
その間、竜斗はマン振りして待っている
おいおい、デカいのいらないってば!
九回裏同点
ツーアウト満塁でうちのサヨナラのチャンス
試合が再開する
「ボール!」
際どいボール球を平然と見逃す、手を出してくれない相手投手が首をかしげる
相手投手の球数は122球
暑い中でのこの場面、二年生ながらに頑張る姿を見て尊敬する
でも、疲れは隠せない
「ボール」
竜斗がクイッと腰を引かせて避ける
ツーボール
さぁ、相手はもうボールを投げたくない
甘く入ってくるよ
すると、竜斗が一旦打席を外す
一塁側のこっちを振り返る
なんだ?
この場面サインなんかないぞ
ん?
監督じゃなくて、私を見てる
ニッ
私に微笑む竜斗
(必ず打つから)
以心伝心で伝わってきた
ふっ、この状況で楽しんでるわ
「オーケー」満面の笑みで口パク
声には出さないで口パク
どうせ声に出しても、応援にかき消される
すると、竜斗はコクッと頷き、ヘルメットを触って了解のポーズ
打席に入りかまえる、私と作った左用のオープンスタンス
いけっ!竜斗!
投げた!
クァキーーーン!
ブラスバンドの演奏にも負けない金属音
苦手だった左投手の内角を思いっきり叩いた
ライト方向にすっ飛んでいく
いつものようにすっ飛んで行くミサイル弾
散々、近くで見てきたからすぐわかる
いつものテニスコート弾だ
思わず笛を探した
ボールはライトフェンスを軽々越えていく
打球は神宮球場のライトスタンド最上段に突き刺さった
サヨナラ満塁ホームラン
ウォークオフ、グラウンドスラム
その瞬間、神宮球場は地響きのような歓声に包まれる
泣き虫の私は不思議と泣かなかった
なんか、この決勝はただの通過点にしか見えなくなってきた
九回ツーアウトから、みんなで必死で繋いで竜斗に回した
最後ホームランを打って、念願の甲子園出場を決めたのは竜斗だが、ここまでこれたのは少ない人数での全員野球があってこそだ
だけど、決勝でホームラン二本
全打点が竜斗に付く
これはやはり常人ではない
もう覚悟を決めた
おそらくこの人と私は、一旦離れ離れになるかもしれない
そう、父の言ってた通り、トニーが連れてっちゃうかも
おそらく日本の大学野球や、プロ野球には馴染めなさそうな竜斗
それが一番ベストな選択だと思い始めてた
でも、私が高校を卒業すればすぐに追いかけられる
それまでの少しの辛抱なんて…
へっちゃらだよ!
あれ?あ…
竜斗投げてない
甲子園が投手デビュー?
マジかよ




