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モンスター協奏曲  作者: 東京小町
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36/55

大事な名刺


「フンッ!」ブンッ

「フンッ!」ブンッ

 素振りに力が入る


 小雪とみぞれが混じり降る中、黙々とバットを振る。


 自分のバットではない、おそらく杏子のお兄さんのだ、いつもの自分のバットより少し重いはずなのに、なんだか軽く感じる。


 そろそろバットを重くしようかな


 チームバットではなく、そろそろ自分専用のを買うか


 アンソニーさんと杏子と相談しよう

 いくらするんだっけ、硬式バット

 また、バイトしないと無理だな


「フンッ!」ブン


 力は入るが、全然身になってないのがわかる

 それは考え事してるから


 ただ振ってるだけ、意識もなにもなく考え事しながら振ってるだけ


 でも、今日は無理だ、集中なんて出来ない


 でも、バットを一心不乱に振りたくなる

 その理由は諸々ある


 まず、ここ、今バットを振ってる場所は星川家

 昨日の夕方まで、こんなことまず想像出来なかった。


 そりゃそう


 振られるつもりで告白した


 年末に、年明け告白すると覚悟を決めた


 年明け、久しぶりに合う杏子にいつ告白するかタイミングを図ろうとしてた、平静を装いチャンスを待とうとした


 が、杏子がいきなり謝罪してきたと思ったら、急に前みたいに俺に近づいて来てくれるようになった


 最初は、おっ!これはイケるかもと思ったが


 やはりヨソヨソしい


 あ、これは気まずい関係が良くないと思っただけか、と解釈して、もうこれは告白して散ろうと決心した。



 が!告白成功、いや、なんなら向こうからも告白してくれた。


 本当よかった!本当によかった!本当に嬉しい

 おかしかった態度の真実も聞けた


 一瞬、清水先生を恨みかけたが、この杏子の性格だ、清水先生が教えなかったら、どうにかして誰かから情報を入手したに違いない


 そうなると、捻じ曲がった情報は聞いた杏子はもっとおかしくなったかもしれない


 清水先生の話は、ほぼほぼ正解だ。


 それを勝手に勘違いして、得意の妄想をしていった杏子が悪い


 でも、そこを小野がフォローしてくれた

 マジで感謝


 あいつ、小野は後輩ウケがいい

 今のバレー部の後輩も桜水ラインが多い

 それは、小野が慕われてるからだ


 ようは、面倒見がいい


 普通だったら、元カレの話なんかどうでもいい

 でも、それで悩んでる杏子の話を聞いたから動いてくれたんだ


 小野は今、ガブと付き合ってる、本当、本当に祝福した


 俺のせいで、変な呪いにかけかられ、苦しかったと思う


 ガブなら安心、あいつ本当バカだけどやる時はやる男だ、あと、普通にお似合いだ。


 みんなでディズニー、楽しみ


 とにかく!過去は吹っ切れたし、杏子の勘違い遠回りとかどうでもいい

 これからの未来の嬉しさを考えると、楽しくて仕方がない。



 んで、告白成功からの、二度目の星川家招待

 そして、まさかの川口さんって人に送ってもらったことがバレた。


 杏子不思議案件その一


 ポンコツのくせに、みょーに鋭いところだ

 そこが摩訶不思議

 久しぶりに怒られた嬉しかった

 久しぶりに説教された嬉しかった


 ってことがあったのは

 もうね、ぜーーーんぶ吹っ飛んだ


 いや、告白よかったよ、うん、幸せだ、でも…


 それを越えてきた


 いや、越えちゃいけないのか

 いや、杏子には悪いが越えた


 そりゃ越える


 杏子、いや、星川家がとんでもない隠し球を持ってた


 うんにゃ、隠し球どころの騒ぎじゃない

 超メガトン級の爆弾を俺に落としてきた


 いや、ぶん投げてきた

 いや、爆弾が自ら歩いて来た


 玄関に入って来た瞬間、目を擦らなくてもわかった


 あの格好にあの髪型、すぐにわかる


 極め付けは声だ


「葉山翔子」まんま


 テレビからそのまま出て来たのかと錯覚する


 部屋に貼ってあるポスターのご本人葉山翔子登場


 今まで神格化してきた葉山翔子降臨


 なんで、葉山翔子がここでブーツ脱いでるの?


 意味不明だった


 でも、杏子の「お姉ちゃん」って言葉で全てが繋がった


 前に来た時に感じた星川家が何か隠してる案件


 ジムの帰りに家族のカミングアウトするぞ宣言


 そして、そして、この姉妹、顔が似てる

 歳が離れてるから、気づきにくいが普通に似てる


 一番最初に会った時から似てると思ってた


 あとは、その声、声が杏子のとあるスイッチが入るともうそっくり、多分電話だと聞き分けできない


 普段はちょっと似てるかなぁ…レベル

 それはおそらくまだ、杏子が子供だからかもしれない


 あどけなさの声質がまだ残ってる


 でも、本気になった時の声


 初日暴れた時の声

 工藤に俺がキレた時に説教してきた声

 デビュー戦の時の、監督と工藤を詰めた時の声

 自分の感情とセリフをしっかりと乗せた時の声は、葉山翔子そっくりだ


 そりゃ似てる、姉妹だもん、納得いった


 で、あの夢に出てきた声


 あれ、じゃあどっちが神様なんだ?


 葉山翔子ではなくて、葉山翔子の妹の方?


 まぁ、この際どっちでもいいや


 どっちにも拝めるし、なんならもうどっちにも会えるし


 もっと言うと、どっちの下着姿も拝めた



 とまぁ、度肝を抜かれた爆弾投下事件


 全て繋がり納得はいったものの、びびるのは当たり前


 まさかのまさか、自分が好きになった人の姉が葉山翔子


 葉山翔子の妹が自分が好きになった人


 そりゃもう…人生でブッチギリでビックリした


 まだ十七年しか生きてないが、この先これほどビックリすることはないと思う


 エキストラのバイトしてたり、住んでる土地柄的に、芸能人には免疫がある


 なんなら、葉山翔子と少しだけ合って共演みたいなこともしてる


 なのに!「杏子の姉は葉山翔子」はその免疫を軽々越えてきた、マジでビックリした。



 葉山翔子こと星川祥子

 実に面白い人だ

 最初はあったまきてしまった

 いくら葉山翔子でも、杏子の悪口は許さん!

 と、思った


 ここでふと思ったこと

 こんな有名人葉山翔子を前にしても、杏子を一番に守りたいと思った。


 これ、自分で言うのも恥ずかしいが、凄いことじゃないか?


 俺、本気なんだ


 十七歳の恋

 普通に考えれば、ただの学生恋愛だ


 でも、それでも超有名人をも敵にできちゃう恋、しかもその人は杏子の姉


 この先、これ以上の恋は杏子以外の相手でも出来るんだろうか…

 

 いや、なんか想像出来ない

 杏子は全部俺の好みにマッチしている

 これ以上の相手はまずいないと思う


 なんかやばいな

 この先、杏子と別れることがあったら…

 次の恋愛はまともに出来そうもない気がする

 いちいち比べそう



 話を元に戻す


 祥子さんの最初の立ち振る舞い

 葉山翔子はこんな人なのか?

 横暴すぎないか?

 

 だが…

 途中で、祥子さんの意図はなんとなくわかっていった


 真実は聞けてないので本当に正解かはわからないが、俺達の「知り合い」「彼氏じゃありません」発言に、いい加減おまえら関係進めろよ的なことだ


 推測するに、涼子さんから祥子さんにある程度の情報はいってる、しかもここにきて、低空飛行だったうちらの関係も知ってたはず


 なぜ俺は気づいたか


 まず、涼子さん

 葉山翔子だろうが、なんだろうが親だ

 普段ニコニコしてるけど、しっかりしてる涼子さん


 しっかりしてるのは、家を、家の中を見ればわかる


 あの振る舞いを親が黙って見てるわけがない


 俺と杏子の恋愛を少なからず見て来ているのにだ


 確かに、最初は祥子さんの帰宅に俺と杏子同様にビックリしてた


 なので、本当に祥子さんのサプライズ帰宅だったのはわかる


 でも、途中で涼子さんは一切コメントを控えた

 最初は有名人娘に対して何も言えないのかなと思ったが、途中でニコニコ、からの祥子任したって顔になった


 これは、祥子さんの「彼氏ならまだわかるけど」発言に涼子さんは乗っかった気がする


 そう、この彼氏ならまだわかるけど発言をした祥子さん、この時に髪をかきあげながら杏子に気づかれないように俺にウインクを二回してきた


 でも涼子さんもこれを見逃してないと思う

 俺にウインクしたあと、すぐに祥子さんが涼子さんの方に顔を向いたから


 もうこれは確定演出


 それから、祥子さんは、どことなく俺に向ける顔が本気で怒ってない…


 しかも


「祥子、星川祥子」と名乗った時にもまた髪をかきあげウインクをしてきた


 気づけよ確定演出


 ただ、この涼子さんと祥子さん、俺と杏子がジムで甘い告白タイムをしてきたのを知らない


 しかも、俺が告白時に交際申し込みを忘れてたからの、彼氏じゃありません発言だったことにも気づいてない


 でも、涼子さんは、俺と杏子が仲良く家に来たことで、何かを察していた


 だけどまだ聞けてない、どうせだから祥子さんの振る舞いに乗っかり、確証を得たかった感じかな


 まとめる


 前の杏子の異変は涼子さんは絶対気づく、祥子さんに話す、お互い好きなのにダラダラなにやってんだお前ら!


 からの祥子さんの傍若無人振る舞い


 からの、男だろお前がなんとかしろメッセージ

 で、正解かな


 それに、俺は答えた


 杏子には恥ずかしい思いをさせて悪かったが、自分なりに最善の答えを出せたと思う


 まぁ、「チューして」はビックリしたが、もう杏子のポンコツには慣れた


 おかげで祥子さんとは仲良くなれたから

 オーケー

 

 そして、まだビックリは終わらない


 下着姿合戦

 普通にありえない


 まず、妹の彼氏、いや彼氏に今なったばかりの男の前に黒の下着姿で出てくるか?


 涼子さんの反応的に、いつものルーティンなんだろうけど、ありえないでしょ


 でも、なんだか祥子さんなら許せる


 人徳?キャラ得?


 生で見るスッピン葉山翔子の下着姿はエロさは感じなく芸術的に思えてくる


 からの、それに対抗するかのように杏子


 脱衣所の扉バーン、私の下着姿はどうよ!的な立ち姿


 えっと、この子、頭おかしいの?


 まぁ、でも杏子が考えそうなことだ


 その堂々とした立ち姿に感動する覚える


 堂々としすぎてて、エロい目で見れない


 ただ、目にはくっきり焼き付いてるけど!

 水色、フリフリ



 でも、この似てる姉妹、スッピンは杏子の方がが綺麗な気がする


 祥子さんもじゅうぶん綺麗、でもやはりバッチリメイクの印象が強すぎて、威力が落ちる


 一方、杏子は基本スッピン


 まぁ中三だし、野球やるし、そりゃわかる

 カラオケ行った時にうっすら化粧してたかな


 その基本スッピンだが、中三には絶対見えないルックス


 これで、バッチリメイクしたらどうなるのかな、やばいような気がする、もちろんいい意味で


 ちょっと想像してみた


 うん、なんか派手そう


 派手顔…嫌いではない!


 んで、そんなスッピン良しの杏子が、髪を乾かしてる姿には…


 えっと、マジでドキドキした、恥ずかしながら興奮した


 顔を傾けて、髪をブラシで伸ばして乾かしてる姿


 モコモコのパジャマなんだが、胸元が開いてるやつなので、体が少し傾くと肩が出る


 正直、下着姿ドーン、より心打たれた


 髪をを乾かせながら、「なぁに?」って言われた時は襲ってやろうかと思った


 俺は髪乾かしフェチかもしれない



「フンッ」ブンッ


 そんなこんな楽しかった昨夜だが

 本当に悩んでるのは、この先の野球人生だ

 この先、野球を続けるのか問題


 まだ、早い?いやあと半年ちょっとで高校野球は終わる。


 そろそろ考え始めないと遅いくらいだ


 当然、去年までの将来の夢は新幹線の運転手一本だった


 でも、最近はだいぶ変わってきてる

 野球を続けたいと思い始めてる


 野球に自信がついてきたのと、せっかくここまで作った身体がここで終わらすのがもったいなく思えてきた。


 但し、大学で野球はやりたくない


 もう、学生野球は嫌だ、学生指導者に正直いいイメージがなさすぎる


 それに先輩後輩が面倒くさい


 あと、おそらく親がさすがに反対する

 やるなら、大ちゃんと同じで社会人野球をやりたい


 そこからプロを目指せるなら目指したい


 ただそうなると、野球を選んだ時点で新幹線の運転手は無理だ


 新幹線の運転手には簡単になれるわけではない


 当然だがJRに入社しなければならない


 入社したら、まず駅員からの在来線運転手を数年


 その後、在来線特急の運転手を数年やって、それから試験などをパスしてからの、晴れて新幹線を転がすことが出来る


 もちろん、野球を辞めるタイミングによっては取り返しつくかもしれないが、現実的ではない


 じゃあ野球で上手くいかなかったらどうなるの?


 何もない…


 去年、アンソニーさんとの面談の後、この件は脳裏から離れることはなかった


 野球を選択する怖さが抜けなかった


 でも、昨夜祥子さんがモデルや俳優やれよって言ってくれた


 その言葉が本当に刺さった、まさに今の俺にはバッチリ刺さる


 他の可能性が見えてきた


 モデルはともかく

 俳優には、興味あるかも


 母親のすすめで中三の時にエキストラデビュー、最初は河原でサッカーする学生の軍団の一人だった


 そこからは何度かエキストラで出た


 高校に入ってからはお金目当てでエキストラをやってるが、このバイト全然嫌ではない、楽しい


 なので、他のバイトはしたことない


 俳優の道も残されるなら、一気に野球に傾けることが出来る!


 桃鉄やりながら、祥子さんが三十過ぎてから俳優になった人もけっこういるぞって、ボンビーから逃げながら教えてくれた


 それを聞いた瞬間、俺は新幹線の運転手ではなく、新幹線のグリーン車に迷いなく乗れる夢にシフトし始めた


 この数ヶ月で、俺の人生が変わり始めてる


 人生少ないチャンスが、今、一気に訪れてる気がする



「フンッ」ブンッ!パチン

 ハァハァ


「おはよう」

 杏子のあどけないバージョンの声が背中から聞こえる。


 振り返ると、まだ自慢の目が開ききってない杏子が、パジャマの上からジャンパーを着た姿で出てきた。


 うん、かわいい


 結婚したら、毎日こんな感じになるのかな

 早く結婚してー


 俺が寝る予定のソファーで先に寝落ちした杏子

 ど真ん中で寝始めたので、俺の寝る場所がなくなった。


 一応、コロコロ転がして端に寄せたが、全く起きない


 子供かよ


 祥子さんが、毛布を持ってきて

 今日は隣りで寝てやれ、でもさすがにおっ始めるなよって言われた。


 あ、はい、と言うしかないが、おっぱじめるわけないだろ


 にしても可愛い寝顔だった


 ソファーは何気に広かったので、一応距離を取って寝ることに


 すぐに寝落ちした



 朝、目覚める、窪みに何か触れて飛び起きた、恐る恐る見てみると、なんでか杏子の頭が俺の胸の中に収まってる、しかも抱き合ってた!


 ふぅー、誰も起きてこなくてよかった


 そっと引き剥がして、また距離を取るがそこからはもうドキドキして寝れない


 からの、素振りを始めた経緯になる

 そんな俺の苦労も知らずに杏子は呑気かましてる。


 まぁ、いっか


 またこれ、なんか言うと逆ギレされそう


 素振りを再開すると、杏子から指摘が入る

 かなり的確なアドバイス

 本当よく見てくれてる


 その指摘っぷりはかっこよくすら見えてくる


 昨日の下着姿からは想像できないカッコ良さ


 そのギャップがたまらない



 みぞれもやみ、空は晴れ間が見えてきてる

 午後は杏子と出かけるかな



 家に戻って、昼ご飯をいただく

 杏子特製野菜炒め


 めっちゃ美味い!


 正直、杏子が料理が出来ると思わなかった。


 勝手に杏子は家事全く出来ないと勘違いしてた

 もしかしたら、部屋も凄い綺麗なのかもしれない。

 散らかってるにしか思えんとか決めつけてた俺


 少し懺悔してみる。



 その後、祥子さんからお祝いの他に名刺と置き手紙をもらった


 名刺の社名


「スターリバープロモーション」


 なるほど…星、川、か…


 

 当然、書き殴りの置き手紙と名刺は俺の宝箱にしまうことになる


 杏子と出会ってから、宝箱にどんどん物が入っていく


 すぐにパンパンになりそうだ。


 杏子と出会てよかった

 杏子のこと好きになってよかった

 杏子と付き合えてよかった



 もちろんミサンガの願い事は…



「杏子と結婚出来ますように」

 

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