通訳のピンチ
ピピピピピピー
うざったい目覚ましの音が鳴る
バシッ!バシッバシッバシッ
止まったあとも、イライラをぶつけるように目覚まし時計を叩く
このまま二度寝かますと、母がユサユサしてくる
そうすると、親子喧嘩に発展する
なので、ムクっと起きる
少しの間、放心状態のあと、右肩をグルッ、グルッ、とゆっくり回す
おっも!重たすぎる
そして立ち上がると、下半身が少しワラワラしてる、笑っちゃってる
私、たぶん、日本、いや世界で一番疲れてる女子中学生だと思う
イチロー様、私にユンケルください
支度を済ませ家を出る
目はまだコバさん状態
自転車をなんとか漕ぐ、右に左にゆらーりゆらーり傾けてなんとか高校に向けて走らせる。
まるでゾンビ
高校の駐輪場にフラフラ〜と着陸
カゴから、バッグを出す
そう、最近軽くなったのバッグ
この前、監督詰める時に煽ったファイルパフォーマンス
意外と刺さったのがトニーだった。
元々、ペーパーは保管用、でも私も資料を見ながら練習を見たいので持参してた。
まぁ、ペーパーを自分のミニパソコンに落として持ってくれば重さは半減出来たんだが、めんどくさかったので…
ファイルをそのまま持ってくるという力技に出てた私
さすがに悪いなと思ったのか、トニーがタブレットを用意してくれた!
秋葉原産の中古
中古かい!
しかも、同期させるので、私がこのタブレットで変なことしようもんなら、同期するたびにバレる
逆にトニーがやらかしたら、私にバレる
ま、今のところ何もない
そう、お互い何も出来ない
野球部専用タブレット
ゲームくらいなら平気かな、だめか
ま、重いのよりはいっか
てか、トニー、秋葉原自分で行けたの?
私ですら、一人で行けるか微妙だぞ
すげえな
練習前のミーティング
トニーはなんか朝から清々しい
こいつのせいで、私がゾンビ化してるのに!
なんかムカつく、ローキック入れてやろうかな
ダメだ、今の私のローキックは蚊に刺された程度だ
竜斗の凄すぎるデビュー戦と、あまーーい瞬間を過ごした先週の土曜日から一週間が経った。
今日、日曜日も練習試合が行われる
今日は遠征だー ワッショイ♫
みんなでバスで移動!
遠足みたい
テンション上がる!
はずだったが…
今のところ疲れが勝ってる
今日は、今シーズン最終戦
なので、春までバス旅行はない
なので、なので!
今日のミッション!
是が非でも、竜斗のサイドシートを狙う!
今日、這いつくばってでも来たのはこのためだ!
と、言っても過言ではない。
公私混同?
ノンノン
今週の私の頑張りを見てほしい
このくらいの願望を持っても、バチは当たらないよね
って言っても、みんな気を使って竜斗の横はあけてくれる気がする。
バスバス騒いでいるが、実際はちょっとダサいマイクロバス
補助席倒しても、三十人弱しか乗れないので、三年生がいない今なら全員乗れるが、そうじゃないと電車組に別れたり、試合に出ない一年生は居残りになったりするらしい。
ただ、野球部はもう新一年生が入ってこないので、廃部まで全員乗れることが出来る。
但し!このマイクロさん、野球部専用ではない
学校に一台しかないレアキャラだ
なので、シーズンが重なると他の部との争奪戦になる。
今回はゲットできたので、バス旅行…いやバス移動になる
って言っても四十分位で着いちゃうみたいなんだけどね。
相手は中堅私立高校、ノブさん抜きでどこまで通用するか
先週は圧勝したが、個々の課題がかなり見つかった。
既に、トニーが個々のメニューに手を加え、課題克服のため、日々練習してきている。
大活躍の竜斗にも課題があった。
竜斗がトニーから指導されたのは、ストライクゾーンの見極め
選球眼が桁外れに良いのに?
そう、それが故にらしい
思い出すと、竜斗が自信満々に見逃したボールをノブさんにストライクとコールされた
竜斗はエッ?みたいな態度を取ってしまったので、竜斗の選球眼をよくわかってるノブさんは、それ以降、竜斗が際どい球を見逃すとボールと判断し続けた。
なので、竜斗はツーストライクからでも、際どい球でも「ボール」と判断したら、自信もって見逃してた
これでは、派遣された審判の時には危ない
審判によって、ストライクゾーンはまちまち
下手な審判は同じコースを取ったり取らなかったりなんかもある。
このまま何もしないでいると、竜斗は見逃し三振の嵐になるかもしれない。
ようは、自分でストライクゾーンを決めるなってこと
指導されてから今日までの一週間、ツーストライク想定にして、際どい球はカットして逃げるか、打てる球なら弾き返す練習をしてきた。
そう、際どいボールを投げるのが得意な私は、トニーの鬼畜司令の元、散々バッティングピッチャーをやらされた。
私思う、たぶん、いや、絶対に!世界一こき使われてる通訳だと思う!
あの甘い一日を、忘れちゃいそうになっちゃったよトニー!
まあ、おかげで一週間竜斗に付きっきりでしたから、それはそれで良いですけども!
あ、竜斗の連絡先聞けてない
甘いメールのラリーをしたいのに、土曜日アクシデントチューのおかげで聞くの忘れた。
その後、奴隷のような毎日を送ったので聞けてない
まっ、その甲斐あってか、竜斗が更に進化
ツーストライクからのバッティングが向上したので、もう隙がないんじゃないかな
今の竜斗には一週間あれば、サラッと克服してくる。
マジ習得モンスター
あとは実戦でどうか?
なので、今日の試合も楽しみだ!
私の疲れを吹っ飛ばしてくれ!
午後からの試合なので、午前中軽く練習して、早めの昼食を取り、マイクロさんで移動をかける。
当然だけど工藤さんは練習に来ていない。
このまま辞めるんだな、正直言うと、あの人間性がちゃんとしてれば貴重な戦力だった。
練習を真面目にやれば、現状で言うとレフトのレギュラーになれたと思う。
控え選手の中ではバッティングが一番良さそうだったからだ
良いものは持ってた、トニーもそれはわかっている。
まぁ、あんだけのことしたんだから、どうしようもないけどね
後は、ヤケになって復讐してこないか心配
学校は来てるのであろうか
あとでリナさんに聞くか
それに関連して気になることがある。
先週の土曜日の清水先生とバッタリ案件から、明けたすぐ月曜日の放課後に、その清水先生から呼び出しを受けた。
てっきり、竜斗の事を聞かれるのかと思った
実際聞かれたが、もちろんごまかした。
だが、本題はそれではなかった
「工藤君はどうしてる?野球部やってるって聞いたけど」
「春樹君とは上手くやってる?」
など、工藤さんのことを根掘り葉掘り聞かれた
私が答えていいものなのか判断がつかなかったため、知らない、わかりません、で通した。
なんか、清水先生は心配してる感じだったな
やっぱり、あの二人には何かあったんだ
とりあえず、私に出来ることは竜斗がキレた時に暴走を止めるだけ
あと、工藤さん、お願いだから竜斗の邪魔しないで
早めのランチタイム
最近人気でランチタイムはなかなか座れないと言われている、ホームランあずまやでリナさんとランチ!
今日は日曜日でしかも、早めなので座れたらしい
屋根はへこんだまま
リナさんメモによると、あの伝説的な試合の噂は学校中を駆け巡り、この今座ってる着弾点あすまやでお弁当を食べるといいことあるとかないとか…
なので平日は、ほぼ空いて無かったらしい
私も違った意味で伝説入りしてないか心配になる。
ちなみに、竜斗の二本目のいちょうの木ガサガサ弾のおかげで、いちょうの木を触りに来る人がいるとかいないとか…
にしても、箸が進まん
ユンケルくれユンケル
「キョウちゃん!顔が死んでる!ババア化進んじゃてるよ!」
パッパラパーの頭の中の私は、いったい今はいくつ設定なんだ
「もう、なんとでも言ってください、こっちはHP尽きそうなんですから、あ、宿屋に連れてってください」
「宿屋はないけどいい事教えてあげる、野球部ゴシップネタだよ」
なぬ!
女子にゴシップネタはユンケル以上の効果がある!
「是非教えてくらはい!」
「ふふふ、おぬしも悪よのう」
「ええ」
「トニオ、あいつ今日試合終わったら直帰するって言ってたじゃん」
「あー言ってましたね」
確かに、さっきのミーティング終わった後に私を通して監督に報告した。
今日は試合終わったらそのまま終了なので、他にも家の場所的に直帰する人もいる
でも、トニーはこの近所だ
自転車はどうするの?明日は月曜日で練習休みだよ、と尋ねると
今日自転車は置いてきたと言っていた。
なるほど、どこか出掛けるんだな、くらいしか思ってなかった。
って、まさかのトニーネタ?
「続きカモン!」
目が冴えてくる私
「で、トニオ、どこ行くと思う?」
「え?ど、どこですか?」
「んとね」
「はい」ゴクリ
「メイド喫茶だって!」
「マジーーーー?」
やばっ、トニーどうした
あ、でもそうだ、あのメイド野郎女好きだったわ
そこそこイケオジなのに独身
結婚出来ないのではない、しない方の独身
趣味はバーでナンパ!みたいな人だった…気がする。
せっかく期限付きで日本来てるんだから、日本文化を楽しむのはいいが、そっちいったかー
あ、で、秋葉原か
私のタブレットはついでか?
「でも、なんで知ったんですか?」
当然の質問
「実はさ、先週の土曜日に聞かれたんだよね、メイド喫茶ってどうゆうとこ?って」
ふむふむ
「私もあんまりわからないからさ、適当に、モエモエキュンキュンラブ注入!するとこだよって、フリ付きで教えてあげたのよ」
ふむふむ、合ってんのかそれ?ま、いっか
「私さ、トニオがテレビかなんかで見たのかなって思っただけだったのよ」
うん、なるほどね
「したら、さっきね」
「うんうん」
「先週行ったら楽しかった、ありがとーだって、今日も行くんだ!とか張り切って私に言ってきてんの」
「えーーーー!ハマってるやん」
「そそ、どハマり」
トニーがメイド喫茶で張り切ってる姿は想像したくない
「ってあれ、そこまで会話出来てるのリナさん?凄くないですか?」
「え、そう?でも、みんなもだいたいわかるようになってきてない?」
「あ、確かに、ちょっとした事だと、私が訳す前にオーケーって言われる時増えました!」
ふと思った
このまま行くと、そのうち私は通訳としては用無しになり、バッティングピッチャー杏子として生きていくしかないのかもしれない。
いやいや、にしてもリナさん、ここまで会話できるって凄すぎ
「んでよ」
まだあるんかい
「キャバクラってどう?女の子はどんな感じ?って聞いてきたんよ」
「えーーー」
普通に考えると、大人が女子高生に聞く質問ではない、いや質問してはいけない
とりま、外国人だから許されるか…
「私さ、さすがに説明するのむずいじゃん」
「確かに」
「だからよ、キョウコがフルメイクばっちり決めてドレス着てるのイメージしてって」
「は?」
「したら、トニオが難しい顔してるからさ」
「は?」
「そんな感じの女の子が、横に座って仲良くしてくれる店だよって、言ったんよ」
「おい」
「したら、やめとくだって、ククク、マジ失礼」
失礼はお前だ、トニーもだ!
「変なこと、トニーに吹き込まないでください!」
「いや、私も想像したんよ、キョウちゃんのキャバ嬢姿」
やめろ
「マジ、ケバそう、それで接客ポンコツ、ケバいのに接客ポンコツ、ウケる!」
「ちょっと!ゴシップの着地、私になってるじゃないですか!」
「源氏名、キョドコ」
「もう怒った!、ゴー君にバラしてきます!」
「え、なにを?」
「おっしこちびったこと」
「ち、ちち、ちびってねーし!」
「あれ?怪しいなぁ?あん時ほんとにちびってたねコイツ、きたなっ!」
「汚いのはお前のエロケバ顔だろ!」
「源氏名、ニョーモレル」
「おい、私、外人じゃん!」
キャハハハハハ
あれ、なんか疑問が残る
名探偵杏子の血が騒ぐ
どう考えても、トニーが一人で秋葉原まで行って、タブレット買ってメイド喫茶とか無理じゃないか?
しかも、夕方からの限られた時間内でしょ〜
頑張れば行けるかもだけど、トニーは現在も日本語チンプンカンプン、いやぁ絶対無理な気がする。
で、今日はキャバクラにも行くつもりだった…
これ、誰かトニーを誘い出してる人間がいる気がする!
でも、トニーは日本に知り合いはいない…父だけだ…ん?
あ!あの日、私と竜斗で家に帰った時、父はいなかった
母が言ってた通り、てっきりお酒飲んで寝てると思ってた、でもいなかった!
そして、今日は確か遅くなるって母が言ってた
「お父さんいないから、マックにしちゃう〜?」
なんて言ってた!
父、確定か?
これはまずい、大変なゴシップだ!
母が知ったら…
あれ、でも浮気ってわけじゃないし、大人の付き合い、トニーの観光の付き合い?
母の許容範囲なのかな
でも、実の父がメイド通いとキャバ通いは、ちとキツイ
将来、竜斗が付き合いでも行ったら、私はキレる!許さん!
疲れとモヤモヤの中、マイクロ君に荷物が積み終わった。
運転席を見ると
わお、用務員の村田さん!
ドライバーもやるのか!すごっ
私も乗り込む!
あ、やば、竜斗のサイド確保のこと忘れてた!メイドで忘れてた。
ま、みんなわかってるよね!
どこかな竜斗君は…
いた!あ、え、え?えー、隣にマッキーのクソ野郎が座ってる
しまった!コイツの存在忘れてたわ!
スーパー空気読めないコイツをだ
竜斗は耳にイヤホンを入れリラックスモード
いやいや、リラックスしてんじゃねーよ
とりあえず横に荷物置いて、誰も座らせないでさぁ、私が来たらスッと荷物どかすとか思いつかないわけ?
さすがのリナさんだって、今回はゴー君サイドゲットしてるのよ
全くのノープランですか?アホ竜斗
試しにマッキーの野郎を睨んでみる
「え?なになんか用?」
いやいや、オメーに用わねーのよ、その座席に用があんのよ!って目をしてみる
「あー補助席?後ろからじゃないとだめだよ、通れなくなるじゃん?」
バカかコイツ、んなのわかるわ
あ、ここ座りな、俺後ろの補助席向かうね、だろ!
だめだこりゃ
前がまだ少し空いてたから、そっちにするか
すごすごUターンする
あれ、なんか埋まってきてる
「おい、あとは補助席だからここ座れ」
えーーー、まさかの監督の横だ
うわー、これ一番やっちゃダメなやつやったわ!
「はい」シクシク
最悪だ
今週、おそらく三百球以上は投げてる私への仕打ちがこれなんて
酷すぎる
隣で老眼鏡をかけ、新聞を満員電車読みする監督
通路挟んで反対側にはトニー
トニーは一生懸命タブレットを叩いている
この横並び、そうね、これが正解なんだよね
シクシク
後ろを振り返る
一番後ろでは、ガブさんとドリさんがじゃれてる
マイクロ君なので、この一番前のVIP席から一番後ろまで大して離れてない、会話の内容も聞こえる
そして、この広くない空間に収まってしまう総部員数
この人数で、来年の夏に向けて戦っていかないといけない
マジで、人手不足
そりゃ、私が酷使されるわけだ、なんなら野球ド素人のリナさんでさえ、トス上げや球拾いもやってる。
私は疲れて文句言ってるけど、実際は嬉しい悲鳴だ
また、野球に携わることができている、人数少ないけど少数精鋭
やり甲斐がありまくり!
工藤さんがいなくなってみんなの雰囲気もいい
人数少ないからこそ、練習密度も濃くなり、一体感も出来始めている。
そ、人手不足でもいいとこはある
ただ、心配なのは…私の身体のラインだ
このまま、馬車馬のように働いてたらゴツくなってしまうかも
そしたら、女子アナに太刀打ちできなくなる
私も、竜斗と同じジム通うかな、あれ、余計にゴツくなるのか?
ちゃうわ、竜斗のことばっか見ちゃってお金の無駄だわ
水泳は?だめだ!ちっぱいがバレる
ん?付き合い始めたら、そのうちバレるか、バレるとゆうか…
妄想する、しまくってみる
キャッ、やだ、エロいぞ私!エヘヘヘへ
「おい、なにニヤニヤしてんだ、だらしないな」
その声で、妄想内の竜斗の顔が名取監督に切り替わる
オエッ
相手高校に到着
死のロードがやっと終わりを告げた
救いは、予定より早く着いたことだ
三十分位かな、グッジョブ村田さん!
ワイルドスピードに出れるぞ!
グラウンドに着いて、準備を始める
バス内で、メンバー発表は済んでいる
竜斗は、今日も一番サード
今日は、派遣審判が来てるので、試合の雰囲気が盛り上がる。
選手が審判だと、どうも草野球感が出てくる気がする。
竜斗も際どいコースの判定に文句は言えないので、存分に練習の成果を発揮してもらおう
準備も進み、監督がメンバー表片手に相手監督に挨拶に向かった。
相手監督若いな、三十歳前後
握手を交わして、監督が戻ってきた
ん?なんか怒ってる?
プンスカしてベンチにどかっと座った
「クソガキ監督め生意気な!」
ベンチに戻ってきてたみんながビックリしてる
「どうしたんですか?」
私が尋ねる
「こっちのメンバー表見て腹立つこと言ってきやがった」
ここから、名取監督の相手監督のモノマネしながらの説明が始まる
「あれ、佐藤君投げないんですかぁ?なんだぁ残念だなぁ」
「こっちの先発はうちのエースですよぉ」
「そうだなぁ、コールドゲームルール採用してもいいですかぁ?」
「うちは、午前も試合してるんですよ、あんま長引くと選手に負担がかかるんで」
「だってよ!」
両手で目を引っ張りながら喋るモノマネが終了
相手監督、目が細いんだな、てか名取監督も細いんだから、その手はいらないだろ
じゃねーわ
なにそれ、ムカつく!
最初から、ノブさん抜きだと激弱だと決めつけてる!
みんなも、ムカついている目してる
てか、ノブさんマジで有名人!すご
「おい、ハル!いきなりあの校舎にブチ当ててやれ!」
おいおい、先週審判に抜擢してた人がよう言ったわ
みんなも同じ目をしてる
「はい、わかりました、やってみます」
竜斗が従順に返事する
やってみますって…
グラウンドを見渡す
ライト後方がすぐ校舎
うちより、狭いくらいのグラウンドなので、距離的には伝説のテニスコート弾より楽ちん
でも、校舎を守るための高く張り巡らしてあるネットを、越えなければならない
全く無理ではなさそうだが、相当角度つけないと無理
「おう!ブチ当てて窓ガラス割ってこい!弁償は俺がしてやるから遠慮はいらん」
まだまだプンスカしてる名取監督
すると、トニーが話し始める
「みんな、どうだろ、今日は公式戦のつもりで本気でやらないか?リスペクトが足らないチームを相手に調整試合はしたくない!どうだろ」
すると、みんなが連呼する
「よし、やろう!」
「逆にコールド喰らわせてやろう!」
控え選手や一年生達はガチ試合だと出場できない可能性があるのに、一緒になって奮い立つ!
いいよ、いい雰囲気だ!
「ナトリどうだろ、公式戦のつもりで指揮してくれないか?」
トニーが最後の仕上げに入る
「おーよ!当たり前だのクラッカーだ!」
さぁ、これで今のうちのチームが中堅私立相手にどこまでやれるのか!
ワクワクする
ただ、その輪に入っていない選手が一人、竜斗だ
相手ブルペンを静かにみている
今日は、落ち着いていて、しっかり集中している!いい感じだよ
試合が始まる
ビジター先攻をもらったので、今日もいきなり竜斗の打席から始まる。
さて、いきなり飛び出すか、さすがに二試合連続先頭打者ホームランは…ないかな
でも、やっぱり期待してしまう
相手投手の投球練習が始まる
右の本格派だ
見ていると、縦に割れるカーブと、チェンジアップに自信があるみたい。
ストレートは速いが、これくらいなら上位打線は崩せるかもしれない
でもエースだ、始まれば更にギアを上げてきそう
竜斗は、投球練習にタイミングを合わせて鋭い素振りをしている。
そして、バッターボックスに入る
三塁側なので、私と目が合う
コクッと頷いてくるので、私も頷いて返す
二人のアイコンタクト、愛コンタクト
ルーティンにしたい
「プレイボール!」
派遣審判のおじさんの声が響き渡る
今日は三塁側なので、左打者の竜斗の顔が正面に拝める
初球来る
「ストラーイク!」
あれ?初球からいかなかった
甘そうなストレートだったので、てっきり振るかと思った
次、お、カーブだ
ピクッと反応する
「ボール!」
その後カウントが進み、ツーツー
ここから、竜斗は練習の成果を発揮する
二球続けてカットしてファールにする
でも、普通に打てそうなボールなんだけどなぁ
球数投げさそうとしてる?
いや、ないな、だって竜斗は女心わかってないもん
意味不明
あ!もしかして…カーブ狙ってる?
だとしたら、次来そう
キャッチャー大好き女子の配球コンピューターが作動する
「春樹さん!ファイト!」
打席に入り直す竜斗に叫んでみる、相手はただの声援だと思うだろ、女子だから!
ファイトなんて女子っぽい言葉叫んだことない、竜斗気づくかな…
すると、竜斗は小さくコクっと頷いた
よし、多分伝わった
これで、カーブじゃなかったらごめんなさい
ピッチャー投げた!
ヨシ!カーブキタ!
と、思った瞬間
クヮキーーーン!
ボールを真芯で捉えた綺麗な金属音が鳴り響く!
その瞬間、思いっっきりすくい上げた打球が、ものすごい勢いでロケットのようにライト上空へすっ飛んでいく
それこそ、ピカって光って消えていきそうな勢いで
グラウンドルールで、フェンスから上のネットに当てればホームランなので
誰がどうみても、確信ホームラン
わお!すご!
ん、ん、ん、あれ?
だ、打球が、ね、ネットを軽々越えた!
こ、校舎に…あれ?あれあれあれ?
そのままスゥーッと四階建て校舎の上を通り越していく
からの、遠くの方で「カシャン」フェンスかなにかに当たる音
嘘でしょ…
え、どしよ、なにこれ、やばい
やばいよ、この人、何やってんの?
本当にやばい、マジでやばい人好きになってしまった
グラウンド内は騒然、試合中なのに相手野手は口を大きく開けている
相手バッテリーは、まだ打球方向をみて立ち尽くしている
派遣審判も職務を忘れてる
そりゃそうなる
え、ちよっと待って、ちょっっっと待って、これを最初から狙ってたの?
確かに、監督はぶち当てろと言ったよ
打球を、あの角度にするにはカーブをすくい上げるのが一番いい
しかも、ツーストライクからのフルスイング
え、バカなの?本当に狙うか?
相手、そこそこのピッチャーだぞ
てか、ぶち当てるどころか通り越してんじゃん!
相手監督は、腕を組んだまま立ち尽くしている
ザマミロ
うちの監督は「あぶねー焦ったよ」
弁償しなくて済んでほっとしている
あ、出迎えなきゃ
ビジターだから控えめにね
竜斗がホームを踏んで帰ってくる
淡々と帰ってきて、私と普通の?ハイタッチ
「狙って打ったの?」
近いとなぜかいつもタメ口になる私
「あ、うん、監督に言われたからさっ」
「え、普通いきなり狙わないでしょ!」
「あ、そう?でも、俺もムカついたからさっ」
「う、うん、わかった、ヨシヨシ、ナイスホームラン!」
まだ、ムカついてそうなので少しなだめる
だから、試合前静かだったんだ、闘志を沸かしてたのね
「あっ、えっと、今回打てたのも、杏子のおかげサンキュね」
ニッ
ズキューーーーーーン
杏子、杏子って言ったよね
疲れも相まってヘナヘナになる
リナさんがごちそうさまの顔してる
怒りの打線が、更に火を吹く
連打が続き、初回四得点!凄い!
で、今度はうちの守り
三塁側なので、サードのダーリンをすぐ近くで拝める
ムフ
三塁側最高!三塁側神!
先発はダテちゃんこと大館さん
体は大きくないが、ピッチャーらしい体型をしている
ノブさんの影に隠れてはいるが、なかなかいいピッチャーだと思う
いや、トニーの指導の元、いいピッチャーになってきている
変化球が得意、七色の変化球
ドリさんが、ダテちゃんの時はサイン七種類あるんだよって教えてくれた
あと、体力お化け、130球位なら平気で投げる
期待通り、七色で初回無失点!
相手の監督がマジで焦り出す
選手に八つ当たりのようなゲキを飛ばしてる
「今日はずっと大館さんで行くの?ガチなら最後は春樹さん?」
トニーに聞いてみる
「いや、ハルキは使わない、そこだけは決めている」
「そうなんだ、なんかもったいないね」
竜斗のピッチングを見たかったので、嫌味ぽくなる
「キョーコ、ハルキのことはもっと長い目で見ないとだめだよ」
ウインク、ニッ!
「へぇー」
でも、なんか…トニーの壮大なプランを少し垣間見えた気がする
トニーは凄いからな、メイド大好きだけど…
七回裏ツーアウト
得点は十対二
もちのロンでうちが勝ってる
最後、大館さんの決め球、スライダーが決まった!
これでコールドゲームで試合終了
本当に逆コールドやっちゃったよ
練習試合なのに、吠える大館さん!
たぶん、コールドにしちゃいますよ、と言われて一番ムカついたのは大館さんだ
見事です!七回二失点!魂の108球!
これは大収穫!二番手ピッチャーがここまで投げてくれると、チームは更に自信がつく
好投したのは、理由がある
トニーが大館さんの腕の角度を少し下げたからだ
これで、得意のスライダーとシンカーのキレが増し、更に低めに決まりやすくなった
ストレートの球速は若干落ちたが、ツーシームとカットボールがより動くようになった
フォーム修正は勇気いるが、よくついてきてくれた
トニーも凄いな、ケバいの嫌いみたいだけど
相手監督さん、相手をリスペクトできない人に優秀な人はいません
今日のコールド負けはあなたの全責任だよ、選手のせいにするなよ
試合後、トニーが帰ろうとしたので、声をかける
「どうやって帰るの?駅まで遠いみたいだよ」
「うん、知り合いが校門の前のコンビニまでタクシーで来てくれるから」
やっぱり!父かなドキドキ
「そうなんだ、帰り支度まだかかりそうだから、私送るよ」
そりゃ行くわ
「春樹さん、前のコンビニまでトニーを送ってきます、それまでバスに乗らないでくださいね」
近くにいた竜斗にプレッシャーをかける
「え?あ、そうなの?わ、わかった」
ホントに意味わかってんの?不安、アホだから心配
トニーを送る
送っていいってことは…父じゃないってことだよね、もし父だったらトニーは全力で断るよね
でも一応聞いてみる
「ねえ、迎えに来る人って、私の知ってる人?」
「うん、知ってる人だよ」
マジかよ父か…
あ、そっか、私はメイド喫茶のこと知らないと思って余裕かましてんだ
「どこに行くの?」
「秋葉原のメイドカフェだよ」
「え?」
「なにをそんなにビックリしてるんだい?」
「え、女の子がメイドの格好してるとこだよね?」
「そうだけど?」
あ!トニーはメイド喫茶行ってること、恥ずかしく思ってないんだ
そりゃそうだ、確かに女の子がメイドのコスプレしてるけど、いやらしい店ではない
普通に、コーヒー飲みながらメイドの人達とおしゃべりしたり、楽しんでなにが悪いんだ?
的な発想だ!
それもそうか
外国人のトニーならではだ
日本の文化を楽しんでるだけだ
だとすると、父が迎えに来てても何も言わないはずだ
「もしかして、迎えに来るのって私のお父さんだったりする?」
ん、それを言った瞬間、少しビクッとしたトニー
「ナオユキ(父)?ちがうよ、キョーコ覚えてるかい?二年前までボストンにいたコヤマだよ」
「小山?」
えっと誰だっけ?
てか、なんでビクッとしたんだ、気になる
で、誰よ
あ!松本選手の通訳の人だ!
そう、大投手松本選手が二年間だけ父の所属するチームにいた!
私も何回か会ったことある、思い出した
「通訳の小山さんだ!」
「そうだよ、今はナオユキのチームにいるんだよ、違うな、ナオユキがコヤマのいるチームに入ったんだよ」
ウインク、ニッ
「ヘェー」
それは知らなかったな、でもこれで顔見れば嘘ついてないかわかる
「小山さんに誘われたんだ」
「まぁ、そんなとこだね」
コンビニの駐車場にタクシーがいる
あれかな
近くに行くと、後ろのドアがカチャっと開く
中に一人乗ってる、ドアオープンして見えてきたのは紛れもなく小山さんだ
「小山さん、お久しぶり」
冗談のつもりで英語で話かける
「やぁ、キョーコ、噂は聞いてるよ!なんでも凄い選手が彼氏なんだって?」
「へ?」
んのやろ!
トニーを睨むと両手を少し開いて上げて首を左右に少し振る
小山さんも英語で返してきたから、私が睨んでる理由はわかってる
からの、僕知りません状態 バレバレ
「彼氏じゃないですよ、アホな外国人の話まともに聞かない方がいいですよ」
日本語で話す
「ははは、そうなんだ、じゃあまた今度ゆっくりとね」
小山さんは社交辞令を述べ、トニーを連れてメイドの待つ秋葉原に消えてった
まっ、でも父じゃなくて良かった
父が絡んでないのであればもうどうでもいい
トニーは独身、仕事はしっかりやってるから、あとはメイドだろうがキャバクラだろうがSMクラブだろうが好きにすればいい
さて、ついでにミンティア買ってこ
隣に座るからね、バリボリ食いまくってから行くか
ミンティアを買ってコンビニを出ようすると、四人くらいの男子高校生ぽいのがコンビニの前を通る
一人を囲むように歩いている
あれ、あれ?あ!
真ん中にいるあの四角い顔は…
工藤さんだ!
慌ててコンビニを出る
え?なんで?なんでここにいるんだ?
てか、なんか囲まれながら歩いてた
輪の中心とゆうより…なんか包囲されてる感じ
おそらくトラブルだ!
どしよ、携帯でリナさんに言おう!
携帯を取り出し、リナさんにかける!
トゥルルルル、トゥルルルル、トゥルルルル…
出ない!
あとは番号知らない
どしよどしよ
あっ、行っちゃう
とりあえず、あとを尾けるか
尾行開始!と、思ったらすぐ近くのマンションの脇にスッと曲がって入っていった
既に人の通りが少ないところを更に脇に入った
これはまずい
正直、工藤さんがどうなろうと人間的にどうでもいい
でも、このままシカトするのは後味が悪い
そろりそろりと近づく
ヌッと顔だけ出して様子を伺う
マンションの裏側の奥で何やら話をしている
聞こえないなぁ
工藤さんが詰められてるのはわかる
でも、まだすぐ殴られるとかは無さそうだな
一旦戻って助けを呼ぶか
それとも警察?
どれが正解かわからない
「お姉さん何やってるの?俺達になんか用?」
えっ!
振り返るとまた違う男子高校生が!
私服だからわからないけど、おそらく高校生
ちょっとヤンチャめなジャージを着ていて、髪は両サイド刈り上げてある
うわ、やばいピンチ!
「いやその、工藤さん何か悪いことしたんですか?」
ビビりながらも確信に迫る
「え、工藤の知り合い?もしかして彼女?」
と言ったあと、工藤さんの方を見て私を見て
「違うか」
ほっ、あんなやつの彼女と思われたら最悪だ
いや、ほっとしてる場合じゃない!
「ふぅーん、お姉さんも桜水か」
私のジャージの背中の文字を読み取る
そして、思案顔
「わりぃお姉さん、通報とかされちゃうと困っちゃうからさぁ、話終わるまで付き合って」
と、言うと、私の背中を押して奥に進ませる
や、やばい、どうしよ、巻き込まれる
極度の緊張が私を襲う
助けて
竜斗助けて
奥に着く
「工藤、この人お前の知り合いらしいな」
工藤さんと目が合う、工藤さんの引きつってた顔が更に引きつる
「何この子」
と、他の三人に囲まれる私
「いや、なんかそこで俺らの事覗いててさぁ、何か呼ばれても困るから連れてきた、桜水だって工藤の同級生かな」
「ふぅーん、そうなんだ」
♫ ♫ ♫ ♫
突然私の携帯が鳴り響く
コナンの主題歌の着信音
その音でリナさんからの着信だと気づく
みんな、その音に気を取られてる
その瞬間!
工藤さんが、隙あり!とばかりに前にいた私を軽く突き飛ばすと逃げ出した
私はそのままバランスを崩して、最初に声をかけてきた男に、もたれかかるように転んでしまった
しかも、この細い道を塞ぐように
そう、普段だったら踏ん張れたかもしれない
でも、今日は疲労からか転んでしまった
そして、他の三人が私をよけて追いかけようとする
「待て!もういいよ、あんなやつもういいだろ、女を盾にして逃げるやつだぞ、マジでゴミだわ、ほっとけ」
この人がリーダー格なのかな
「お姉さん、大丈夫か?」
と、リーダーの人が言うとそっと手を伸ばして、私を立たせてくれた
「怪我ない?」
「あ、はい、大丈夫です」
「ごめんね、巻き込んじゃって、俺ら前から工藤に頭きててさ、やっと見つけたから話をしてたんだ、ほんとごめんね」
「あ、いえ」
他の人が私のポケットから落ちたミンティアと携帯を拾ってくれて、汚れをはらってから渡してきた
この人達、そんな悪い感じしないな
♫ ♫ ♫ ♫
また、携帯が鳴る
リナさんだ
どうしていいかわからず、そのままにしておくと
「出ていいよ、あ、通報は勘弁してね」
私はコクッと頷いて電話に出る
「もしもし」
「杏子!今どこ?なんかあった?」
声の主はリナさんでは無い、竜斗だ!声色が焦ってる
「は、春樹さん?なんで?」
「え、春樹?」
後ろでざわつき始める男子四人
どう説明しようか悩んだ時だった
携帯を耳にあて、目の前を走ってく竜斗が!
通りすぎそうなところを、急ブレーキしてこっちを見る
そして、奥にいる私達に気付く
電話をポケットに入れ
鬼の形相でこっちに向かってくる
「お前らなにしてんだ?場合によっちゃあ殺すよ」
そう、この怒鳴るよりも恐ろしい口調で、ゆっくりとこっちに歩み寄ってくる
リーダーはともかく、他の三人はビビりまくってる
だめ、竜斗待って、焦るどしよ、緊張で声が出ない
「ハル!待て俺だ小杉、小杉だよ!」
え?知り合い?
「ん?カズヤか?」
「そうだよ、まず落ち着け!勘違いするな!話を聞け」
「なんだよ、カズヤか」
竜斗の顔が落ち着きを取り戻す
竜斗はこのカズヤさんをある程度は信頼してるのがわかった
「杏子、おいで、怖かったろ大丈夫か?」
手を広げて待つ竜斗、いつもの優しい顔に戻ってる
怖かった、どうなるかと思った
でも、一番怖かったのは…アンタだ
私の緊張が一気に溶ける、フラフラと竜斗に歩み寄り
ガバッと竜斗に正面から抱きついた
泣いてはいない、ただただ竜斗の胸に顔を埋める
顔を左右に振り温もりを感じまくる
くぼみを避けてね
竜斗は手を私の腰に回して軽く抱き寄せ、もう片方の手は優しく髪を撫でてくれてる
「なんだ、ハルの彼女か」
カズヤさんが聞いてくる
「まぁ、そんなとこ、大事な人に変わりはない」
わお!今のうちにもっと甘えちゃお
てか、今日は杏子と呼ぶ率高めだよね!
顔をスリスリして、スーハー匂いを嗅ぎまくる
「それより、カズヤ説明してくれ、何があったんだ?」
すると、カズヤさんが説明を始める
私も聞きたいので、スーハーを一旦解除
代わりに竜斗の腕に絡みついて、顔をカズヤさんに向ける
詳細
まず、この四人は同じ中学出身の同級生
そして、カズヤさんは、今日私達が試合した相手高校の高校生、もちろん野球部ではない
他の三人は、なんと!工藤さんが桜水の少し前に通ってた私立高校の高校生
工藤さんがその私立高校を辞める際、学校にこの三人の余計な事を言ったおかげで、三人とも停学処分になりかけたらしい
そう、いつもの根も葉もない嘘で
なんとか弁明して、停学は免れたとのこと
怒ったこの三人が工藤さんに復讐しようと企てるが、カズヤさんが止めに入った
次は停学どころじゃなくなるからだ
なので、ぐっと堪えて今日に至る
カズヤさんの高校の友達が、この近くに住んでおり
そこで合わせて五人で遊んで、その後、渋谷に遊びにいく予定だったと言う
カズヤさんは、先にその友達の家に来ていて
後から、その三人が駅から向かっていたところ、たまたま、駅に向かう工藤さんとバッタリ会った
学校辞めたのは一年以上前なので、もう怒りは沈んでたが、ここで会ったがなんとかで、どうしてそんな嘘をついたのか聞いてやろうと思った
カズヤさんは連絡を受けて、この現場に来たところ私が覗いてたってってこと
なるほどね
カズヤさんと竜斗の関係性は聞けなかったが、今はいっか
この四人の中学校は、桜水の駅の反対側に位置するらしいので、なんかしら繋がりがあるんだな
いつものコミュニティの狭さってやつ
てか、助けに来てくれたのが竜斗で良かった
「また工藤か」
竜斗が苦い顔をする
「そうだ、しかもあいつ、そこの彼女突き飛ばして逃げってたぞ、どうしようもないゴミだ」
「そうだな、でもまずカズヤ!」
竜斗がまた少し怒る
「な、なんだよ」
「杏子を巻き込んだのお前じゃないか!」
「あーうん、申し訳ない、謝る、許してくれ、なにか通報されるかと思って、こいつらの話終わるまで待ってもらおうとしたんだ」
「まぁ、カズヤは女に手を出すような奴ではないのわかってるけど…」
「春樹さん、この人達、私が転んだ時に優しく心配してくれたの、だからもう怒らないで、許して上げて、ね」
怒りを沈めさせる意味で、私からもお願いする
「わかったよ、で、カズヤ、工藤の件なんだけど、もう手を引いてくれないか?」
「え、まぁ、こいつら次第だけど…」
「こっちで工藤の件、解決しなきゃいけないことがあるんだ、それ終わったら俺が責任もって、カズヤ経由で詫びを入れさせるから、頼む」
竜斗が、逆にその三人に頭を下げる
「はい、わかりました、俺らはもういいんで、お任せします」
この三人の謎の敬語、それに必要以上に怯えてるのが気になる
「ありがとう、決着つけるわ」
「ハル、まだ工藤となんかあるのか?」
「うん、ちょっとな」
「まだ野球続けてたんだろ、うちで試合してたんだろ?また暴れるなよ、みんなに迷惑かかるぞ」
「大丈夫だ、もう暴れない、ちょっと考えがあるから」
「わかった、悪かったな、にしてもハル、めちゃくちゃデカくなったな、勝てる気しねーわ」
「はは、なんかな、勝手に大きくなってくわ、じゃあみんな待ってるからそろそろ行くな、また連絡するよ」
「わかった、可愛い彼女もごめんね、ハルの事頼むね」
「あ、いえ、頼まれます」
私達は、カズヤさん達と別れ戻ることに
怖かったけど、なんか嬉しかった
おかげで私達の関係がまた一歩前進した気がする
現にこうして、腕を組んだまま歩いている
もうちょっと甘えてみよ、頭を竜斗にもたれかけてみる
エヘヘヘヘ、いい感じだよね
コツン
え?
頭コツンされた!
「キョウちゃん!危ないことしちゃだめ!尾行して覗くなんてだめだ!すぐに俺らを呼びにくれば良かったじゃん!心配したんだからな!」
「ご、ごめんなさい」シクシク
「まぁ、いいけど」
なんかイラッ
「てかさぁ、今はそのまま甘えさせてくれてもいいじゃん!怖かったんだから!」
「え?え?また逆ギレ?」
「違う!教育です!女心を学ぶ教育!こうゆう時はさ、甘えてるんだからヨシヨシでよくない?で、後日優しく言えばいいでしょ!」
「あ、そうか、じゃあヨシヨシ」
「もう遅い!だいたい来る時のバスなによ!」
「え?今度はなに?」
「おかげで、監督の横になっちゃったじゃん!」
「あー、座る席のこと?」
「あー、じゃない!それ以外何があるの!私は春樹さんの隣りに座るために今週頑張ってきたのに!フンッ!」
「そうなんだごめん」
「もう!」
「じゃ、じゃあ帰りは一緒に座ろ」
「本当に?」
「本当」
「席空いてなかったら?」
「どかす」
「わかった許す」
腕を掴み直す私
機嫌直った
「でも、春樹さん、工藤さんはなんでこんなところいたんだろうね、試合見に来たのかな?」
「うーん、それしかないな」
「考えがあるって、言ってたけど…工藤さんのことどうするの?やっぱりこのまま放置ってわけにはいかないもんね」
「そうだなぁ、このまま大人しくしててくれるならいいんだけど、何か起きてからじゃ遅いからなぁ、先手打った方がいいと思う」
「そうだよね、良い作戦考えてあるの?」
「うん、ちょっとね、第三者引っ張り出してみるわ」
ん?第三者?誰のことだろ
「あとは、なんで試合を見に来てたのか…だな」
確かにそうだ、なんでだ、未練あるのかな
「こら、携帯泥棒!こっちは心配して待ってんのに、なに腕組んでイチャついてんだ!お騒がせ夫婦が!」
リナさんがコンビニの前で待っててくれた
「悪い、ちょっと色々あってよ、もう大丈夫だから戻ろ」
と、言って竜斗が携帯を返す
「あ、待ってみんなも来てるから」
リナさんがコンビニの方を見る
すると、ゴー君、ガブさん、ドリさん、ノブさんがコンビニから出てきた
ガブさんがカプリコを持って走り寄ってくる
「大丈夫か!杏子ちゃん!迷子になったん?超心配したんだけど!」
「あの、ガブさん、超心配してる人はカプリコ買わないと思うんですけど」
当然の返しをする私
「あは、ちゃうちゃう、これはさっ、こうやるの」
カプリコを地面に置いて転がす、クルクル回る、止まる
「こっちだ!」「こっちに杏子ちゃんいるぞ!」
カプリコが止まった方に走り出す、もちろんカプリコを拾って
みんなシカト、そうガブさんがボケる時はシカトする流れが出来てる
クルッと回って
「ちょちょ、止めてよー」
と、言って戻ってくる
みんな笑いだす
そんながガブさんは今日4打点
打席の時とボケてる時の差が酷すぎる
特大のホームランは打つくせに女心がわかってないアヤツは3打点
「で、どうした?迷子?」
ドリさんが肉まんを食べながら質問してくる
なんか、みんなコンビニを満喫してない?
「みんな、心配かけた、悪かった」
竜斗が頭を下げるので、私も一緒になって頭を下げる
ペコリ
「とりあえず、監督が待ってるだろうから戻ろう、あとは学校戻ってから話すわ」
竜斗が促し、みんなでバスに戻る
帰りは直帰した人がボチボチいたので、楽に竜斗の隣りをゲット
座ると
「あー、そうだ!」
竜斗が、足元に置いたバッグをガサゴソする
殺す
「ちょっと!春樹さん!私が隣りなのにイヤホン付けて音楽なんてありえない!」
「え?いや違くて」
と、言いながらそーっと袋を取り出す
あん、勘違いした
「おいおい、今度は前で夫婦喧嘩おっぱじめたぞ、忙しい奴らだな」
リナさんが、後ろからボソボソしてくる
「はい、コレあげる」
竜斗が、袋を渡してくる
イヤンなによ!
「中、見てもいいかしら?」
先週のエプロンもらった母の真似をしてみる
「どーぞどーぞ」
見るどころか、ブツを袋から引っ張りあげる
うわぁ〜お
ピンクのリストバンドが出てきた!しかも、竜斗にあげたグローブと同じメーカー、スラッガーだ!
スラッガーのロゴが可愛い
竜斗センスまる
「わお!かわいい!ありがとう!やったね!」
「てか、どーしたのコレ?」
「いやその、昨日さぁアンダーシャツ買いに行ったんだ、そしたらなんか可愛いのが売ってたから買った、似合うなって思って…今週頑張ってくれたしご褒美ね、あとほら、涼子さんだけにあげたら怒るかなって思って」
おい、最後の一言は余計だ
竜斗、そうゆうとこだぞ!
確かに私も何かくれとは思ったがっ
でも、超嬉しいから許す!
本当に嬉しい
もう!母にエプロンとか、私にリストバンドとか…
そんなお金あったら、自分の野球用品のために貯めておけばいいのに
この前、さおりさんからこっちは聞いてるんだぞ
しかも、これたぶんアンダーシャツのついで、ではない
私のために探して選んでくれてる
みんなが行く、私も行く、近くのサトスポ(佐藤スポーツ)には、このピンクのスラッガーは売ってなかった、売ってたらこんなかわいいやつ、とっくに自分で買ってる
アンシャツ買うだけなら、サトスポ行くはず
だとすると、通販か、どっかもっと大きいお店に買いに行ってくれたんだ
嬉しすぎる!
二個セットのリストバンドが入った袋をギュッと抱きしめる
「お、なにそれー、あ!リストバンドかわいい」
後ろで立ち上がり、私達の座席に首をおき、話しかけてくるリナさん
「いいでしょ、もらったんだぁ、エヘ」
リナさんにリストバンドを見せびらかす
「えーいいなぁ、あ!二個あるじゃん!一個よこせ!オソロにしようぜ!」
「だめ!絶対だめ!」
リストバンドの袋をギュッと胸で隠す
「は?この前ピカチュウあげただろうが!」
「あんな黄色いやつと一緒にしないで!」
人生で初めてピカチュウをけなした瞬間だった
ピカチュウさんごめんなさい、私はもう大人の階段登ってるの、そのうちあなたのことは用無しになります
「くそぉ、ゴーくん、あんなピンキーなんかよりいいやつ買って!この変態夫婦ムカつく買って!」
リナさんが後ろに引っ込んだ
「ちょっとゴーくん!聞いて!買って!」
「うるせーなぁ、音楽聴いてんだから邪魔すんなよ!」
「ねぇ!行きもそうだけど、私隣にいるのにイヤホンしないで、このっ!」
「おい、イヤホン抜くなよ!」
「じゃあ買って!」
「うっさいなぁ、わかったよ!」
「おしっ!ってまたイヤホンしないでよ!」
「うっさいなぁ、お前がいつも横でギャーギャーうるせーからだろ!」
確かに
「10分黙ってたらイヤホン外すわ」
「わかった」
「……」
「てめえ!何笑ってんだよ!」ボスッ!
リナさんが通路挟んで反対側に座ってるマッキーさんの座席に蹴りを入れる
えっと、もって三秒でした
後ろの喧嘩に笑ってると、ワイルドスピード村田がバスを発進させた。




