モンスター誕生
空は晴天、気温17度、ほぼ無風
コンディション的にはバッチリ
試合前練習も終わり、両チームベンチ前に整列する。
今日は練習着ではなく、試合用ユニフォーム着用
胸には大きく「桜水」と横に配列されている
肩には、桜と水をモチーフにしたロゴが貼り付けてある。
公式戦ではないので、背番号はついていない
初めて見るね
試合用ユニフォームを来たみんながいつもより割増で素敵に見える。
特に竜斗、先攻のトップバッターなので、ヘルメットとレガース、肘当てのフルキットを既に装着して整列している。
これがまたあなた…カッコ良すぎる。
スタイルが良すぎるので、このフルキット姿がたまらない
ユニフォームが少し小さいのか、胸筋で少し「桜水」の文字がモリッってなってるのもイイ
それにヘルメットを被ると、ほぼ坊主とスポーツ刈りの間の短髪頭が丸々隠れるので、竜斗の顔立ちの良さが際立つ
短髪頭だと、やはり子供ぽく見えてしまう竜斗
てか、正直短髪似合ってない
なので、これが隠れるともう満点だ
クゥ〜たまらん!
あ、坊主頭選手権でうちのトップイケメンはガブさんだと思う
マジで似合ってる、それを分かってるのか、いつもゴリゴリの坊主だ
ガブさんは、ふざけなきゃイケメン
そう、男版リナさん
「行くぞっ!」
副キャプテン大さんの号令でホームベース前に選手達が向かう
「あれ、ハル何番打つのかな?」
「1番だって!」
「うそ、いきなりかよ」
「ハル、初球先頭打者ホームラン頼む…って無理か」
すぐ後ろの立ち見の他の部活の男子達の会話が聞こえてくる
「どうかな?相手ピッチャーゴツい左じゃん、さすがに無理じゃね?」
他の部活動でもさすが男の子、ある程度は分かってらっしゃる
「でも、ノブからホームラン打ったんだべ?ノブは全国クラスだろ、だったら初球は無理でもなんとか打てるんじゃないか?」
「ノブは腰やってたからなぁ」
「でも、普通テニスコートまで飛ばせるか?」
「うちの顧問の話だと、推定140メートル弾だってさっ」
「マジか!もうメジャーじゃん、さすがにそこまで飛んでねーべ」
「いや、用務員の村田さんから聞いた話だと、ライトのフェンスを越えてホームランゾーンの一番深いところが115メートル位なんだって」
「で、テニスコートあそこだぞ」
「ありえるわ」
マジか、ありえる
私も心の中で会話に入ってしまった。
それが本当だったら金属バットとはいえ、大変なことになる。
「学校創設以来だってさ、テニスコート弾」
そりゃそうだろうよ
「うちの顧問が着弾点に印つけてんのよ、なにか記念碑でも立てんのかよって、したらうちら練習できねーよ邪魔で」
ウケる、伝説だ
「よろしくお願いします!」
挨拶が終わり、相手チームが守備に散り、投手がマウンドに登り投球練習を開始する。
重そうなストレートの他に、エグそうな変化球を投げてる。
手強そう
さぁいよいよだ!ドキドキ
私が緊張してどうする!
竜斗はネクストバッターズサークルでバッティング手袋をはめたあと、バットを持ち軽くスイングしてる。
竜斗は緊張してるのかな、そりゃそうだよね
高校生初、いや、この多くの観衆の前での打席なんて生涯初めてだよね
投球練習が終わりに近づく
竜斗はゆっくりバッターボックスに向かう
右手にバット、左手はヘルメットに当て向きを調整している。
「ハルー!
「ハルキー!」
「ハルファイトー!」
「春樹頑張れよ!」
など、黄色い声援と男子の野太い声援が交差する
凄い人気だ
でも、これはプレッシャーに感じるだろうなぁ
私は私なりの応援をするぞ!
「春樹さん!」
すると、私の声に反応して振り向く
「春樹さん!楽しんで!」
「楽しんでね!」
彼に「頑張って」は、合わない、頑張ることさえ許されなかった暗黒時代から抜けて、やっとスタートラインに立てたのだ!だからまずは楽しまないと、みんなが野球を初めた時のように…
あれ?
竜斗が「まだ大丈夫かな」的な感じでグラウンドを見たあと、私を見ながらこっちに走ってくる。
ベンチの真ん中辺りにいた私も、隣にいたぬま子(小沼)さんにスコアブックをぶん投げ、急いで駆け寄る。
何か確認したいことがあるのかな?
ネクストの前辺りで落ち合う
なんだろ
すると、竜斗が私の右肩に左手を添える、そして顔を私の顔の左に持ってきて
「めっちゃ緊張してた、ありがとう、行ってくるね」
と、耳元でささやいた
!
「うん、まずは、楽しんでね!行ってらっしゃい」
今度は私が少し背伸びをして、竜斗の耳元でささやいた
竜斗は少しはにかんで、再びバッターボックスに小走りで向かう
………
えっとぉ〜、これやったね
やった、このギャラリーの前でやっちゃたよ
しかも、母もいる、父もいる、義理姉もいる、なのにちょいイチャついた
は、恥ずかしい、後でなんと言おうか
てか、これはこれで伝説になりそうで困る
竜斗がいけない、うん私のせいじゃない
で、そろそろリナさんがいつものヌって来るんでしょ!
って来ない、あれ?リナさんグラウンドを真剣に見てる。
来るかと思ったら、来ない…
いつもの冷やかしが無いと…余計に恥ずかしい
でも、リナさん以外の部員達も竜斗の打席を真剣に見てる。
そだ、集中集中!竜斗の初打席しっかり見なきゃ!
投球練習が終わり、キャッチャーがセカンドに送球し、ボール回しが行われている。
竜斗はバッターボックスの足場を決め、準備に入る。
何もかも初だ、まずはじっくり見てこうね
ボールがピッチャーに戻る
「しまってこー!」
キャッチャーがお決まりのセリフを吠える
ピッチャーがサインにうなずく
大きく振りかぶる、体格が余計にデカく見える
竜斗はバットを垂直に構え、右足でタイミングを計る
左バッターの竜斗の表情は、一塁側のこちらからは見えない
投げた!
えっ!と、思った瞬間だった
クァキーーーン!
ものすごい金属音がグラウンド内に響き渡る
「バカーー!」思わず声に出た!
普通初球からいかないでしょ!
案の定、初めて見る変化球に体勢を崩され、打球はいかにも上がりすぎの角度で放たれた
相手センターがレフト方向に走る、そして止まった
あーー、センターフライかぁ、まぁあの体勢でよく飛んだ方だ、しっかり振り切ったからだね
すると、センターがクルッと後ろを向いた
ん?え?ええ?
失速して落ちてくるはずのボールが全然落ちてこない、風は無風に近いのに
ボールは楽々とグラウンドのホームランゾーンを飛び越えていく
ええ?どゆこと?
ガコン!
私達がいつもお弁当を食べるあずまやの屋根に直撃した
ボールは屋根の上で弾み
ゴン!
もう一回屋根に当たった
コロコロコロ、ポテッ、コロコロコロ
屋根の上を転がりそして落ちた
え!えええーーー!嘘でしょ…
何これ…どんだけ飛んでるの?
左中間だよ?左バッターだよ?
体制崩されてるよ?
私は、な、何を見せられてるの?
私はスコアブックを落としてしまったが、拾う気になれない
手がプルプル、足はガクガク、全身鳥肌
竜斗はもう二塁を回ってる
二塁塁審の村田さんは、ベースをちゃんと踏んでるか確認しなきゃいけないのに打球方向に向かって立ち尽くしている
とゆうか、相手チーム、うちのチーム、審判、ギャラリー、全員が「は?」状態
竜斗はホームランに気付き、走る速度を落として三塁を回る
「うおおおおおおお!すげーーー!」
サッカー部の男子が騒いだのを皮切りに、一斉にみんな騒ぎ出す
「見たかよ今の…鳥肌もんだよ」
「左バッターがあそこにあんだけ飛ばすなんてありえねーだろ」
「いや、右の引っ張りでもあそこまで飛ばせるかよ、しかも泳いでたぞ」
「ハルー、すごすぎっ!」
ベンチにいる部員やギャラリー達が色めき立つ
ネクストで固まってたゴー君が口を大きく開けてこっちを向く
トニーは頭に両手をのせ、アンビリバボー状態
「キョウちゃん!ボーっとしてないの!早く出迎え!ほら!一番に出迎えな!」
リナさんに言われ、私は慌ててベンチの前に出る、みんな私に遠慮して待っててくれてた
竜斗はホームベースを踏み、ゴー君と握手してこちらに向かってくる
あ、先越された
ま、ゴー君は次打者だからしゃあない
竜斗が満面の笑みで私に近寄ってきた
「ナイスホームラン!ねえ!私達の憩いの場を壊さないでよ!」
「ハハハハ、壊れてはねーだろ、でもちょっと泳いじゃった」
「キョウちゃんがパワーくれたからあそこまで飛んだな、うん、サンキュね」
私達はちょっと見つめ合ったあと、竜斗が両手を前に出してきたので、それに添えるように手を合わせたら、ガシッと握られ近くに寄せられ
「今度、お礼にどっか好きなとこ連れてってあげるから考えといてね」
と、私の耳元で言ったら手を離しベンチに入り、待ってるみんなとハイタッチを始めた
んとーー
一旦整理
今の、手をギュッとしてからの寄せはハイタッチで周りには通るよね?
うん、ハイタッチだハイタッチで乗り切ろう
問題はその後だ!
好きなとこ連れてってくれる?
え、デートか?いや、みんなでってこと?
でも、みんなに聞こえないように言ってたよね
てことは…おデートですか?ん?ただのお礼か…?
好きなとこ?
スポーツ用品店!…ってバカ!そんなとこで済ませようとするな私!
だめだ、今は整理できない!
ベンチでは、ハイタッチ会が終わり
「マッキー!ホームランボール確保よろ!誰か持ってちゃうかもだから急いで!」
リナさんが指令を出す
マッキーさんが、「ラジャ」と言わんばかりに敬礼して走り出す
「ナトっちゃん!試合球新しいの出すよ!」
監督はまだボーっとしてる
「おい、三途の川渡ってんじゃねーよ!」
「起きろ!」
リナさんが記念球確保のため、暴言を吐きながらテキパキ動いてる
今回も私をイジってくれない
チッ なんだよ、イジってよ!
イジってくれないと、ただただ恥ずかしいじゃない!
名取監督は、アホみたいなホームランだけに固まってるのではない、こんな選手を今まで控えにしてたことに自分でショックなのであろう
表情がそんな感じしてる、あとは今日の反省も込みかな
うん、大いに反省してください
危うく、この超人ホームランを見ることが出来なかったかも!なんだから!
その後もこちらの攻撃が続くが、ゴー君、羽堂さん、ガブさんが倒れチェンジ
さすが野球を今後も続ける相手三年生投手、しっかり切り替えてきた。
さ、今度は守備だ!竜斗のサードの守備に期待!
だが、もうかなり進化している、はっきり言って全く心配してない。
マウンドに登るのは、ご存じラクダみたいな目を持ち、眠たい顔して投げるコバさんだ!
相手と同じサウスポー、なんだけど…
体格が違いすぎて、少年野球の子供みたいに見えてしまう
がんばってね!と、親心が芽生える
投球練習が開始
ぱすっ
ぱすっ
頼りないミット音がかすかに聞こえる
相手は、ズバン、スパァン
こっち、ぱすっ、ぽすっ
ネクストで待つ相手打者が、これは打てる!って感じでバットをブンブン振り回し始めた。
フフフ、狙い通り
このコバさんを舐めてはいけない
まず、独特な投げ方をする
テイクバックが極端に小さく、猫パンチみたいな投げ方をする
名付けてコバニャン投法!
リナさんとよく一緒に、コバさんの投球に合わせて二人で両手を前に出して「ニャー」と言って遊んでる
このコバニャン、マジで打ちづらい!
私も打たせてもらったことがあるから分かる、ボールの出どころがわかりづらい
それに、追い討ちを掛けるような沈んじゃう球
「沈む球」ではなく「沈んじゃう球」
マジで合わない!体が前に来てボールの上を叩いてしまう
変化球も厄介、沈んじゃう球だと思って手を出すと、手元でバイバーイって感じで横に逃げていく
そう、球速が変わらないのだ
振り回すと、餌食になり内野ゴロの山を築くことになる
おそらく内野守備のいい練習になる
これらを見越して、トニーは先発させた
一石二鳥作戦!使い方合ってるかな、四字熟語勉強中
さあ始まる
コバさん、ランナーいなくてもセットポジション
眠たい顔してセット!からのモーションに入る
コバ!ニャン!
ガキン!
サード正面にゴロが飛ぶ
ツーバウンドして竜斗のグラブに収まる、そう手紙付きグローブね
ワンステップ踏んで、ギューーーン!からのズバン!
ファーストミットから煙が出そうな勢いで収まる
バッターまだ塁間の真ん中くらい
これには、ギャラリーも腰を抜かしそうな驚き、そしてザワつく
ファーストの福山さんが、ミットから手を抜きヒラヒラさせて手を痛がってる
ふふ、早くあれ出ないかな、したらみんなもっと驚くよ!ムフフ
コバ!ニャン!
カキン!
今度はショート方向に弱いゴロ
左バッターがバイバイボールの餌食になった
羽堂さんが前に来てランニングスローで華麗に魅せる
ちょっとカッコつけすぎじゃね?
ボール回しを後ろ向きに走りながら受け取る
うーん、いちいち動きが女癖が悪そうに見えてしまう
そして…
次の打者が三塁線にゴロを打つ!
キタ!初回でキタ!
逆シングルで竜斗が取る!ザザーーっとしてからの右足で踏ん張ってノーステップ!
ギューーーーーーーン!ズバン!
普通にアウト
はい、ロングギュン一丁上がり!
このロンギュン大好き!
これにはみんな拍手喝采!なんなら相手ベンチも拍手してる
「ハル〜惚れちゃうぞぉ」と、ムカつく声援も飛ぶ
おいおい、さっきのうちらのイチャコラ見てなかったのか?
惚れても無駄だぞ!
試合は続き
竜斗がイカれてるホームランを打って以降、こちらは凡退の嵐でランナーが全く出ない
このピッチャーいいな、てか竜斗はよく打ったな
三回ツーアウトで打席が竜斗に回ってきた
みんな期待に胸が膨らむ
でも、相手は勝負してくるかな
初球は見逃した
「ストラーイク!」ノブさんがドヤ声でコールする
すると、竜斗は「え?」見たいな仕草で球審のノブさんをチラッとした
すると、ノブさんが「な、なんだよ」と言うが完全にキョドってる
竜斗は鬼のような選球眼の持ち主、うん今のボールなんだね
その後、ストライクが来ないでフォアボールを選んだ
相手に警戒されまくりなのでしゃあない、四球もヒットと一緒だ!
ギャラリーは落胆している、ふん!にわかファン達めっ!
二死一塁、バッターはゴー君
ここでやっと名取監督の見せ場が来る
踊るようにブロックサインを出す
これがドリフのオープニングの踊りに似てる
ちょっと笑える
サインの内容
ランナーはシグナル青
バッターはシグナル赤
ようするに、盗塁のサインだ、ツーアウトだから当然のサイン
ただ、相手は左だ、初球からは難しいよね
牽制球きた!頭から戻る!セーフ
立ち上がってベルトに溜まった土を落とす竜斗
そしてスルスルとまたリードを取る
ピッチャー投げた!が、竜斗は動かない、まぁさすがにね
そして、三球目、走った!
三年生キャッチャーから矢のような送球が行く!
「セーフ!」村田さんがドヤるが、そこまでしなくても普通にセーフです
パワーと爆肩ともう一つの竜斗の武器が俊足だ
走塁練習も積んできてる、コツを掴むと鬼のように進化するこの人はマジで怪物だ
どさくさに紛れて、ゴー君と羽堂さんが四球を選んだ
二死満塁でバッターガブさん
ガブさんこと三沢さんはこれまたエグい
いつもふざけているが、打力が凄い
中学時代はクラブチームで全国優勝している、そのチームで三番を打っていた。
当然、特待生レベルなのだが、全て蹴り倒し桜水高校に来た。
なぜ?
とゆうか、こんなんばっかりの部員だらけの我が桜水高校野球部
そりゃ期待されるわ
リナさんメモによると
ガブさんは、マジでプロゴルファーになりたいらしく、本当はゴルフ部がある高校に行きたかったらしい
だが、高校野球好きのお父さんの勧めで野球を続けることになったが、ゴルフの練習も適度にやりたいため、都立を選ぶことにした
そして、ノブさんが桜水進学の噂を聞きつけてガブさんもやってきた
確か、大さん(大沢)さんもノブさんに吸い寄せられてだ
ノブさん、あんたはカブトムシが集まるくぬぎの木かっ!
さぞ、名取監督は喜んだであろう…ってこの件何回目だよ
さぁ、ガブさん打ってよ!
さっきトニーに、相手の三年生投手の攻略方法を真剣に聞いていた。
野球になると真面目になるガブさん、めっちゃアドバイスに納得していたので期待ができる。
カウント、2ボール1ストライク、カウントを取りに来た変化球を思いっきり叩いた!
カキーーーン!
綺麗な放物線を描く打球
もう打った瞬間確信出来た、相手レフトは諦めてる
ボスッ
ホームランゾーンの土手に突き刺さる
飛距離こそ竜斗には及ばないが、これぞ完璧なホームラン!
てか、満塁ホームラン!しかもツーアウトから!
さすがに相手投手は堪えたみたいで膝に手を付いてうなだれる
三年生捕手もガックリしてる
おそらく、都立高校の下級生に二本も献上するとは思いもしなかっただろう
くさいところに手を出してくれない、からの三四球後の満塁被弾、これは引きずるな
ギャラリーは歓喜だが、ベースを回ってるガブさんは淡々としている
「練習試合だよ?みんな喜びすぎだって」と、言いたそうな顔してる
ベンチの中に入ってきても、高校生らしく静かにみんなにハイタッチ
トニーと握手を交わす、いいね
監督とも握手、が、「まぐれだな」と言われた瞬間
「監督!今日はそれ言える立場じゃないでしょ〜!ガブっちょ!」
やめろ、監督死ぬぞ
すると、そのままの勢いで近くにいた私に襲いかかる…キャー
と思ったら、寸前で直角に曲がってドリさんにガブっちょやってる
「静かにしろ!」と、リナさんにメガホンでポカポカ叩かれてた
嬉しいの我慢してたね
ふと思った
これで佐藤ノブキャプテンが戻ってきたらこのチーム…
結構強いんじゃ…
試合は続いて
コバさんは五回二失点!上出来かな
6対2で試合は折り返す
ギャラリーは全く減ってない
あずまや付近はむしろ増えてる、テニス部の顧問がまた印でも付けてるんだろうか
休憩と、グラウンド整備のため十五分ほど試合が止まる
ギャラリーもトイレ休憩に走る
休憩も終わりに近づき、ふとプチスタンドを見てみると
ん?いつのまにか、うちの母と義理の姉、あ、まだ違う、竜斗のお姉さんのさおりさんが隣り合わせだ
しかも、なんか談笑している
母がなにか余計事をしゃべくってないか、超〜不安になる
「キョウちゃん!見て!ジャーン!」
呼ばれたので、振り向いてみると
リナさんが手にボール、もう一方の手にはサインペンを持ち、そのサインペンを顔の辺りで振り振りさせている
「休憩中、ダッシュでマダヤでペン買ってきた!今日購買やってないからさぁ」
「これ、さっきのハルちゃんのホームランボールね、でさ、これで何かメッセ書いてあげなよ!」
おおーナイスアイデア!でも…
「でも、迷惑じゃないですかね?まっさらのがよくないですか?もしかしたら、自分で何か書き残したいかもだし」
「何言ってんの!試合中にグラウンドでイチャイチャする変態カップルなのにそこ遠慮する?」
「タッチでも試合中はイチャイチャしてなかったよ」
うっ、そうなのか、私達は漫画以上に変態なのか…
てか、まだカップルではない
「大丈夫だよ、ハルちゃんはぜっっっったい喜ぶから、ほら書いてあげな」
「わかりました!では、喜んで書かせていただきます!でもなんて書けばいいかなぁ」
「んー、あ!またイチャイチャしようねー!でいいんじゃない?」
「もう!あれはイチャイチャじゃありません!アドバイスを送っただけです」
「ふぅーん」
すると、リナさんが私に顔を近づけてくる
そして
「こんな感じのアドバイスの送り方ないよね」
と、耳元で囁いてきた
うー、確かにドラマでも見た事ない
「てかさー、さっき女子トイレで噂になってたよキョウちゃんのこと、あんな子うちにいたってけ?とか、ハルの彼女なのかなぁ?って」
「私、絶対聞かれる流れじゃん?だから噂話が聞こえてきたから速攻逃げたもん、おかげでまだオシッコしてない、マジ漏れそう」
「試合終わるまで持つかなぁ」
いや、持たんだろそれ
「でもさ、キョウちゃんはヤリ逃げ出来るからいいよね」
「ヤリ逃げ?」
「そう、だって普段は学校にいないわけじゃん、だから人前でブチュブチュしたって、教室とかで冷やかされないし、白い目で見られないじゃん」
「だから、イチャイチャブチュブチュヤリまくりスティ」
「ちょっと!なんか増えてません?ブチュブチュはしてません!」
「じゃあイチャイチャは認めるのね」
うっ
「でも、遠くから見たらブチュブチュに見えたかもよぉ」
「えっ!そそそうかなぁ」
「義理姉とか…あ、さっき野獣発見したからパパも来てるよね?なのによくやるよホント、さすがの私でも恥ずかしくて出来ないわ」
ショボーン
「ま、パパはともかく、他になんか言われたら、こんなのアメリカでは普通です!で、通しちゃえば?」
「あ、ナイスアイデアです!」
「ナイスアイデアじゃないよ!この変態!見てるこっちが恥ずかしくなって、イジる気にもならなかったわ!」
「あ、はい、反省します、サーセン」
って、私が悪いの?竜斗のせいじゃん!
まあいい、未来の旦那のためだ、ここは私が的になろう
「ホレ、早く書きな、試合始まるよ、日付け忘れないでいれてね」
と言い、リナさんはベンチの端に行った
なんて書こっかなぁ
「マッキー!マッキー幾らだったぁ?って、マジラップ!ウケる」
あーもう気が散る!
って、マッキーさんに買いに行かせてたんかい
自分で買ってきたみたいな言い方だったじゃん!
「170円ね、おーけ、ちょいまち」
今度は私の後ろをスタスタと通り名取監督の元に行った
「ナトっちゃん!マッキー買ったから金ちょーらい」
「は?そのマッキーじゃねーよ、てか買うかよ、落ちてたら拾うわ」
「ペンのマッキーだっつーの!」
「冗談いらないから、早くくれ、暇じゃねーんだわ私」
「うっさいなぁ、部で使うんだから必要経費だろうが必要経費!早くよこせ」
「え?あ、うーんと500円!」
え?おいおいおい
マッキーが大幅値上げされてんじゃん
心の中で突っ込ませないで、何書くかブレる
「は?なによ?私が500円って言ったら500円なの!いいナトっちゃん!手間賃と輸送費もかかってるからこの値段なの!世の中はそうゆう仕組みなの!わかる?」
人生の大先輩に向かって何を言ってんだか
「最初から素直にだせや、どれどれ、あ、500円玉あるじゃん、はよくれ」
監督の財布を覗きこむリナさん
「サンキューナトっちゃん!愛してるよ!嘘だけど」
無事カツアゲを終わらせて、また私の後ろをスタスタ通り、自分のバッグから財布を取り出すリナさん
「えっと、あるかな、100円玉確保!と、あ、50円玉もあるじゃーん、ん、まさかの10円玉が1枚たりない、おお、5円玉2枚あるじゃん!ラッキーピエロ!」
「はい、マッキーちょうどね、サンクス」
「あ?5円玉馬鹿にすんじゃねーよ、ご縁があるんだぞ!しかも2枚だ!たぶんよっちゃんイカ当たるよ」
おいおい、輸送と手間したのはマッキーさんだぞ、全部ピンハネかい!
もう、なんにも浮かばない
そうね、ここはシンプルが一番だよね
書く面積狭いし
ナイスホームラン!
by kyoko
そして、ちょっと可愛くしちゃおっと
これは変な意味じゃなくて可愛さアピールね
「うわ!こいつハートマーク書いてやがる!キモッ」
ヌっと現れた!
「ちょっと見ないでくださいよー!」
「見られて困ること書くなよ!飾っとくボールだぞ!」
確かに
「キョウちゃん、頭ん中どんだけお花畑なのよ?」
「キョウちゃんてさぁ、野球上手くて、英語ペラペラなのに…恋愛絡むと超ポンコツだよね!」
「ポンコツじゃない!」
「おいポンコツ娘、ポンコツって英語でなんて言うんだ?」
「もう!あったまきた!」
「うるさい!試合始まるぞ!いつまでも遊んでるんじゃない!」
名取監督に叱られた
「サーセ……」あれ?
リナさんは無言で名取監督の元へ行くと
「や、やめろ!」必死にタップする名取監督
ヘッドロックかけちゃったよこの人
てか、マジで死ぬぞ
でも、監督なんだか嬉しそう
え、まさかの監督もドMか?
このチームドMだらけ
さっ試合再開
中休みのタイミングで、投手交代してきた相手チーム
レベルが落ちると言われてたが、さっきの相手監督の言葉は詐欺じゃね?と思うほど、けっこう良い投手が出てきた。
あっけなく攻撃が終わる
こちらもコバさんから、梨田さんに投手交代
守備陣も大幅に代わる
竜斗はサードからレフトに移動
コバニャン投法のおかげで、サードゴロが鬼のように飛んできたから、もうお腹いっぱいなので、平山さんに譲った格好だ
八個捌いて、ノーエラーだからオケ!
レフトを守る竜斗のグローブを見ると
あれ、座布団外野グローブ使ってない、そのまま私の愛のこもった内野グローブで守ってる
よっぽど気に入ってくれたんだな、ふふふ
トニーに呼ばれ、ブルペンで一休み中のコバさんの元へ
歩いてると、ギャラリーの会話が耳に入る
「あれ、そういえば工藤いなくね?」
「あ、いないわ」
「珍しいな、死んだか?」
「死んではねーだろうけど、いない方が確実にやりやすいべ」
「だな、なんであんな奴を野球部は飼ってるんだろうな」
「工藤がサッカー部に移籍してきたらどうする?」
「やめろよ、したら俺辞めるわー」
工藤さん、嫌われすぎ
野球部のみならず、学校全体レベルじゃん
どうやったら、そうなるわけ?
あー、でもそうね、わかるわ
一カ月でここまでムカつくんだもん、そりゃそうだわ
コバさんに労いの言葉と今後のアドバイスや練習方法を確認して、ベンチに戻る。
相手攻撃が終わり、こっち守備陣がベンチに戻ってくる!
チャーンス、ターイム
さっきのボールを持ち、竜斗にそろーり近付く
自分で思った、この今の動き、私変態ぽい!
ベンチに座って、スポーツ飲料を飲む竜斗
背後から近寄り、ユニフォームの袖をクイックイッとやる
ん?と振り返る竜斗
立ってる私に向かって上目使いで
「なに?どうしたの?」
くぅ〜食べたくなるわ!
どうして、そんな表情が出来るんだ
時折りみせる、私を殺しそうな色んな表情
イケメンぶってないから余計に刺さる
この人は、おそらく自分がイケメンだと言う事を全く理解していない
そこが、羽堂さんとまるで違う
女たらしの羽堂よ、もう一段階上を目指したいならば、竜斗の弟子になれ
あ、いかんいかん
「これ、受け取ってください!」
ん、これ日本語あってるか?
なんかラブレター渡すみたいになってるぞ
「え、どれどれ」
「このボールって俺のホームランのやつ?」
「あ、はいそうです、あのその、落書きしちゃいましたサーセン!」
「え?」
ボールを捻るように見回す竜斗
「ははは、いいねぇこれ」
「ハートマークだ」
「あの、その、消してきます!」
ボールを取ろうとすると
「だめ!このままでいい、これがいいんだ、ありがとう」
ボールを私から取られまいと隠す
「一生大事にするね、ありがとう!」
ズキューーーーーン
はあ、なんか貧血かも
あれ、鼻血出てないよね私
「まーた、イチャイチャしてるー!」
ヌっときた!
「あ、ハルちゃん!もう一本ホームラン打ったらぁ」
「キョウちゃんが、ほっぺにチューしてくれるって!」
「はへっ?」
変な声でた
「ちょっとリナさん!そんなこと…」
一瞬それも悪くないなと思ってしまった
「お、まんざらでもない顔したぁ、このエロ女」
「もう!エロください!」
あ、なんか間違えた
エロくない!って言いたかったのに!
「ウケる!ハルちゃん、エロくださいだって」
完全に固まる竜斗
「いや、違うんです!私は…」
「じゃ、ほっぺにチューよろしくぅ」
被せてくるリナさん
この腐れキューピット!また飛んでもない方向に矢を放つから、おかげで最悪なことになってるじゃん!
「リナ!そそそそんなこと言ったってなぁ」
平静を装って、冗談を受け入れる感じにしようとしてるが、完全に動揺しまくってる竜斗
「アハ、キョどるなハルちゃん!ほっぺにチューはアメリカじゃあ挨拶みたいなもんだよ、普通だよ普通」
「ねぇキョウちゃーん」
普通じゃねーし、ここは日本だ、試合中だ
「じゃ、じゃあ」
未来の旦那よ「じゃあ」ってなによ、「よろしくお願いします」ってか?
さっきやらかしてんのよ、うちら
これで、そんなことしてみろ、炎上するぞ炎上
少しは考えろや
「ってことで、では!あとは二人ごゆるりとぉ」
空気を気まずくさせて、帰ってくゴミキューピット
「あ、ああの、もももももうすぐ打席回りますよ、準備してください」
チキショ、しっかり意識し始めてんじゃん私
「う、う、うん!」
こりゃ打てねーな、めっちゃカチコチじゃん
むしろ初回より緊張してないか?
まぁ、二本目なんてそう簡単には出ないよね
この回、打席が回ってきたが、「チュー弾」は打てず、四球を選んだ
そして、七回裏の守備に走っていく竜斗
そんなチューなんてすっ飛ぶプランをトニーが打ち出してきた
「マツヤマ、休んでるところ申し訳ないが、ブルペンキャッチャーの準備してくれ」
ドリ(有村)さんと交代した松山さんに声をかける
まだ、投手は大舘さんが残ってるから使うのかな?
来週先発だから無理に投げさせないって言っていたけど
「キョーコ、ハルキに投げさせるぞ!次の回は打席はないだろうから、ブルペンに行ってもらう、ハルキに指示してくれ」
え?えーーー!
やっぱり、トニーは投手でも考えてたの?
「本気?」と、聞き返す
そう、まだマウンドの傾斜付きでは投げたことないし、変化球もない、真っ直ぐと動く真っ直ぐだけだ
「あー、本気だ、本当は来年の春まで解禁するつもりなかったんだが、予定を変更する」
「え、なんで?今日はそんな焦らなくてもいいんじゃない?」
「いや、キョーコ、このギャラリーを見てみろ、練習試合なのに誰も帰らずに見てくれている、ただ試合は段々落ち着いてきてる、そろそろ刺激が欲しいと思ってね」
「そんな、刺激になるかな?」
「あー見てろ、また大騒ぎになるぞ、私もプロのスポーツマンだ、育成も大事だが、観客の期待に答えるのも仕事のうちだろ」
と、ウインクしてドヤるトニー
「ヘェー」
竜斗と会うまでは、このウインクがカッコよく見えたが、今はこれ見てもスンってなる
守備を終えた竜斗にブルペンに行くよう指示する
「春樹さん、ブルペンで松山さんが待ってるので準備してください、九回に行きますよ」
「マジ?本当に?」
トニーが来た
「ハルキ、クローザーで行くから準備だ、オオダテも待ってるからプレートの使い方など教わってくれ」
「ブルペンでの球数は制限なし、とにかくプレートとマウンドの傾斜に慣れてくれ、ただキャッチャーは松山だが、まだスピードは上げないでくれ、キョーコの時と同じスピードでたのむ」
「イエス!オーケー!」
無駄に通訳が要らないよう配慮してくれる竜斗
早速ブルペンに向かった
トニーが私に向かって、クイックイッっと親指でブルペンの方向を指してくる
お前も一緒に行けってことね、かしこまり
一瞬、トニーが行けばいいのにと思うが、ブルペンに行ってしまうと、他の選手を見ることが出来ない、出来なくはないが、おろそかになってしまう
そこはさすがトニーだ、よくこんな人に向かってやる気がないとか嘘でも言えたな
また、少しイラッとしてきた
先に歩いていた竜斗に追いつく
帽子をちょこんと頭に乗っけて、グローブを脇に大事そうに抱えて、テクテク歩く竜斗
その横をチョコチョコ歩く私
足が長いから歩く歩幅が広いのか、歩くスピードが速い
竜斗に合わせようとすると、たまに小走りになる私
それに気づいて、歩く速度を緩めてくれる
ふふ、いちいち優しい
「緊張してますか?」
顔がそんな感じだったので聞いてみる
「え!あ、うん、もう一回打席回ってくるかな」
はい?
おい、今はそっち緊張する場面か?いつまでチュー引っ張って緊張してんのよ、中二かっ!
「いや、じゃなくてピッチングの方…」
「え!そっち?」
どう考えてもこの状況ならそっちだろ、初登板なんだぞ!
「はい、でも春樹さんならきっと上手く出来ますよ」
「うん、ピッチングやってみたかったから楽しみだよ」
「ふふ、なら大丈夫そうですね」
「あ!ホームラン打たなくても、三振取ったらあり?」
「え?なにがです?」
「いやその」
顔をまた近づけてきて、小声で言ってくる
「ほっぺにチュー」
「はい?」
この人が羽堂さんみたいに女好きになれば、チューなんてあちこちからしてもらえる、いやチュー以上の事もいくらでも出来るはず
そう、竜斗はモテることに気づいてない、なので女性慣れしてない、からの無邪気に子供みたいに中二みたいになって、ほっぺにチューごときに喜んでしまう
ふふ、まぁそこが可愛いところ
「もう!しょうがないなぁ、今日は全てに初が付きますからね、いいですよ、でも今日だけですからね今日だけ」
可愛いので、ついつい大人ぶって許してしまった
「おっし!やったぁ」
子供かよ
ま、私にいつも投げてるスピードでは、三振は取れないだろう
てか、急に女性に目覚めないことを祈る、頼む羽堂さん、合コンは誘わないでくれ、ホントコロスよ
プチスタンドの前を通過してブルペンに到着
「え、ハル投げるの?」
「ハルの横にいるあの子何者?」
など、聞こえてきた
何者とは?ハルのなんなのよ!か?
まぁいい、とりあえずは竜斗のピッチング練習に集中
やはり最初はマウンドに戸惑い、ボールが上手くコントロール出来ない
あっちこっちいく
残念でした、これではチューはありませんね
てか、試合を壊してしまうんではないか?
逆の緊張が襲ってくる
ピッチャーの出来で試合は左右される、大乱調だととんでもないことになる
大舘さんが、歩幅やプレートの使い方などをあれこれアドバイスしていく
すると段々、ボールが構えたところに決まりだす
そうだった、この人はコツを掴むと超人になる
なぜか、右打席だけはコツを一生掴むことは出来なかったが、他は全てモノにしていく
なんなら、他のスポーツも上手い
サッカーして遊んでる姿を見たが、普通に上手い
なぜ、野球を続けてたのか、本当に理解不能…結果野球を続けててくれたから出会えたんだけどね
ドンッ!
ミットがすんごい音を出した
「うわお!」
声でたわ
大舘さんは言葉を失ってる
エゲツナイボールが、松山さんの低めに構えるミットに収まった
松山さんが少し後ろに押されたんじゃないかと錯覚するくらいだった
凄いボール、これはやばい
あ、だめ、違うわ
「春樹さん!スピード上げちゃだめ!」
「やば、そうだった、つい、ごめんごめん」
また、スピード落として練習を再開
こっちの攻撃が少し長めだったので、良い練習が出来た。
もう、マウンド捌きは問題ない、牽制球はまだ無理だけどね
攻撃が終わり、竜斗はブルペンからそのままレフトの守備に走って行った。
そして、いよいよ最終回
こっちの攻撃が終わると、とうとう竜斗初登板だ
今日は「初」だらけ
ただ投手をやるのは全く想定外
初打席初ホームラン、初ロンギュンでこっちはお腹いっぱいだったのに…
おかげで、初回のような緊張感が、なぜかまた私に押し寄せてくる
この最終回は、三人目で打席が回ってくる
なので、実質さっきのブルペン練習で終わりかな
一応、ブルペンで大舘さんと松山さんが待機している
竜斗がまた練習に来るのを待っているんだが、竜斗が試合で大乱調だった時、すぐ準備する意味合いもある
さて、どうなることやら
この回から、相手はまたピッチャーを代えてきた、おそらく一年生
んで、乱調なのか元々のスキルが低いのか、四球祭り
この回先頭から二者連続四球
無死一、二塁で竜斗に回ってきた
どうせまた四球だろう
そう、初回に特大ホームランを打たれたので、それ以降まともな勝負がこない、逃げてはないんだけど、甘いコースに投げるくらいだったら四球でオケみたいな感じになってる。
なので、ホームランの他は二塁打一本打ってるが、あとは三四球、からの六打席目なう
案の定ボールツー
つまらん、さすがにつまらん
ギャラリーも部員も私も気持ちが切れかかったその時だった
クァキーーーン!
え?
竜斗のいつもの爆音が鳴ったと共に、打ち返された打球はもの凄い勢いでライト上空に上がる
ギューーーーン
ボールがミサイルみたいにすっ飛んでいく
「うーわ、完璧だわ、これ、どこまで飛んでくの?」
つい、こんなセリフが出るくらい、喜ぶ前にあっけにとられた
高く上がるが、初回よりも完璧に捉えて、思いっきり引っ張ってるため、打球の勢いは全く落ちない
また場外ホームラン確定
今度はスリーランホームラン!
あとはどこに着弾するのかをみんなは見てる
着弾するまでが、スローモーションのように感じる
バキッ!バキバキバサハザバサ
ヒュー、ストン、コロコロコロ
嘘でしょ…
テニスコートのこっちからみて、左側にあるイチョウの木にボールはぶち込まれた
紅葉に染まった黄色い葉っぱがチラチラ揺れて落ちているのが、遠くても肉眼で確認出来る
これ、高さ的に、テニスコート弾より飛んでる気がする
てか、木が無かったら…校舎まで届いてたんじゃないか?
本日二回目のみんな固まる
すると、拍手が起きる
今度はもう圧巻すぎたので、みんな拍手、拍手喝采
プチスタンドではスタンディングオベーションが起きている
これはもう、嬉しさ通り越して感動するわ
てか、よく気持ち切らさずに打ったよ、凄い集中力とメンタル、本当感心する
ん?あれ、あ!
これって、アレだよね?
リナさんを見ると、私を見てテヘペロしてる
まさか本当に打つとは思ってなかったー!のテヘペロだ
うそー、マジで?どしよ
竜斗は初回よりも明らかに嬉しそうにダイヤモンドを回っている
拍手喝采が嬉しいのか?いや、これたぶんアレだろ
とりあえず、初回同様ベンチから少し出て一番で迎える準備をする
今回だけ、隠れるのは不自然だし、私は普通にアレ関係なく一番に出迎えたいし、さすがにこの場では…しなくていいでしょ
竜斗ホームイン!
竜斗はすぐメットを外し、こっちに満面の笑みで向かってくる
なぜすぐメットを外してるんだ…マジかよ
私の前に来て、軽くしゃがむ、持ってたヘルメットで私達を隠そうとする
いやいやいやいや、それ隠れてねーから
竜斗は「早くぅ」みたいな顔してる
「……」
うーん、だめ出来ない
「ちょっと!こんなとこで出来るわけないでしょ!」
「えーそっかぁ」
明らかにしょんぼりしてる
「しないとは言ってないでしょ!ここじゃダメ!今度ね今度!」
子供を落ち着かせる感じになってるので、ついついタメ口になってしまう
「じゃあさ、三振の分は追加していい?」
「もう!わかった、わかったから、ほらみんな待ってるよ」
その場を早く済ませたいので、軽く返事をして、竜斗の後ろに回り込み、背中をポンと押す
三振はないんじゃないかな、まぁ、みんなが見てないところだったら、正直いくらでもしてあげたい
は!私、やっぱりエロいのか?
でも、最近よくこうやって、無邪気で可愛いところや、ひょうきんなところも、よく見せてくれるようになった、最初の頃は真面目でクールな人だと思ったけど、ちょっと嬉しい誤算
そして、初回のような近くに来てささやいたり、手をギュっとしてきたりして、キュンとさせてくれる一面もある
んもー、みんな好き、好きでたまらん
ブチギレは怖かったけど
みんなが拍手で出迎えるベンチに向かう竜斗
それをゆっくりと後から追う
みんなに祝福されてる竜斗を見ると、私の顔は笑顔になる、おそらくとびっきりの笑顔、なんならちょっと涙出てる
本当よかった、楽しめてるね!
みんなの祝福も終わり、竜斗がほっと一息いれる
暇なく、トニーがやってくる
「ハルキ、すぐブルペン行ってくれ、今度は八割から九割の力、余力を少し残す位の感じで投げてくれ」
「え、パワー解放するの?」
「あーそうだ、投げるからにはな、マウンドに上がる時は俺も行くから、キョーコはハルキと一緒にブルペンからマウンドに来てくれ、その時細かい説明する、あとブルペンの球数数えてくれ」
「オーケー」
パワー解放ってことは、あれ
三振取れちゃうじゃん!ムフフ
あれ?なんで私が喜んでるんだ?
竜斗がブルペンに向かったので、私も後を追う
ベンチに座ってるリナさんの後ろを通ろうとすると、
「なんだよつまんなーい、意気地なしじゃん!チュッチュー見れるかと思ったのになぁ」
このくそ天使がっ
無言で、後ろからヘッドロックかましてやった
ブルペンでの、パワー解放
ズバァン!
エゲツナイボールが松山さんのミットを襲う
やばい、凄すぎる
これで、まだ余力残してるのか
もう既に、ノブさんのスピードを遥かに超えてる
ズダァン!
この音に惹かれるように、ブルペン横のフェンスに人だかりが出来始めた
ん、あれ、なんか見たことある人がいるような…
気のせいか、うん、ここは高校、いるわけないよね
球数チェックしなきゃ!
とうとう最終回の攻撃が終わり、マウンドに向かう
クローザー春樹竜斗の登場だ!
なんか、登場曲ほしいな
一緒にマウンドに向かうってなんかいいね
たぶん最初で最後だと思うからしっかり味わっておく
マウンドでトニーとキャッチャーのドリ(有村)さんと内野陣と落ち合う
「キョーコ、パワー解放して何球投げた?」
「十球だよ」
「オーケー、じゃあハルキ、とりあえずはブルペンと同じように余力を残して投げてくれ、ただ最後の一人だけにはフルパワーを見せてくれ」
「オーケーです」
ワオ!フルパワー見れるのか!楽しみ
「アリムラ、ボールと判断されないくらいのギリギリのところを毎回位置を変えて構えてくれ、ボール球は一切なしだ、球種はストレートとカッターのみ、コンビネーションは任すが、カッターはけっこう動くから、それを計算してボールにならないように構えてくれ」
「え、ストレート系だけですか?大丈夫ですかね?」
ドリさんが当然の質問をする
「問題ないから安心しろ、受けてみればわかる」
「内野の連携どうします?牽制できるんですか?二塁入るサインとかまだ合わせてませんけど」
羽堂さんが不安そうに尋ねる
「この点差だ、牽制はいらない、好きなだけ走らせていい、但し、俺はランナーは出ないと思うがな」
「よし、あとはみんな頼んだ!」
「ハイッ!」
内野陣が散る
うん、私も出ないと思う、出る時はドリさんがフルパワーを取れなかった時だ
トニーと二人でベンチに帰る
なんか、外国人コーチが通訳従えてマウンドから帰るとか…メジャーみたい!
ちょっと気持ちいいかも
投球練習が始まる
ズドォン!
グラウンド内が静まりかえる
今グラウンドにいる全員がこのエゲツナイ投球練習に心奪われているのがわかる
おそらく、野球を詳しくない人でさえ、高校生離れしたこの速さに驚いている
そう、うちの母とか、竜斗のお姉さん等の女性達でさえ何も言葉にせず、黙って見ている
これから打席に入る相手打者は、もう既に心折れている顔だ
「キョーコ、付いてくるかい?」
スピードガンを出してきたトニーが、そのスピードガンをバックネット裏に向けている
バックネット裏で計測するってことか
「行くっ!」
もちのロンだ
「ねえトニー、バックネット裏からだと少し距離あるけど、ちゃんと測れるの?」
バックネット裏に向かいながら素朴な質問をしてみる
「あー問題ない、このスピードガンは高性能だ、買うのにためらったが、買っといてよかったよ、こんな選手と出会えたんだからなっ、まっ、代償は、俺の預金口座はもう子供レベルの金額しか入ってないってことだ!」
ウインク、ニッ
「ヘェー」
投球練習が終わった
いやいよ始まる、今度は投手デビューだ!
私達は少し三塁側にずれる
トニーが、スピードガンを構えて照射の準備に入る
竜斗がぎこちなくセットポジションに入る
ランナーいなくてもセットポジション
とゆうか、まだ振りかぶり方がわからない
夫婦の共同作業の投球練習の時に、少しづつ二人で考えながら作ったのが今現在のフォームだ
軽くふぅーと吐いたのがここからでも見えた
そして、何か呟いた、なんだろな
竜斗の左足が上がる、しっかり軸足に体重が乗る
綺麗なフォームで、右腕からボールが放たれる!
バァン!
ちょっとミットの鳴りがイマイチ、しかもミットが寸前で動いた
カットボールだ!私の現象と一緒だ
けっこう寸前で動くから、大変なのだ
しかも、フルパワー一歩手前、これはドリさんがミットをうまく鳴らせなくても仕方ないだろう
おっと、慌ててトニーのスピードガンを見る
周りから覗かれてもわかりにくいように、マイル表示設定のままだ
スピードを見る
「嘘っ」
声出た
「カッターでこれ?しかも全力じゃないよ?そのガン壊れてない?」
キロ換算すると150キロを楽に超えている
「ははは、じゃあ次もよく見てるんだな」
いや、壊れてないのはもうわかってる、実際に速いのだから
続けて二球目
ズドォン!
今度は構えたところが動くことなく、豪速球が吸い込まれていく
ストレートだ!
竜斗の指先からミットまで糸を引くようなボール
コバにゃんとは逆で
「浮き上がっちゃう」ボールだ
スピードガンを望く!
「はううっ!」変な声でた
なんかもう凄すぎる
これ、もっと身体の使い方マスターして、投手の身体作りをしたらどうなるんだろうか
ここまで、速い球を投げられるのは幾つかの理由がある
トニーが教えてくれた
まず、長年水泳で鍛えられた肩回りの筋肉と柔軟性
それから、バッティングが下手くそなのを理由に補欠ばっかりしてきたので、肘と肩が元気いっぱいなのだ、使いっぺりしてない、からの、ジムに行ける時間が適度にあり、その鍛えてた部位や内容が、知らず知らず野球にマッチしていた
それから、外野の補欠だったので、フリーバッティングの玉拾いをする事が多く、その都度、返球するのに遠投が出来てたってこと
あとは、ここ一ヶ月しっかり共同作業してきて、フォームが固まってきたのもあるかな
トニーが最初の頃に補欠で良かったなんて言ってたが、これを聞くと納得が出来る
一人目を三球三振に斬る
ボールが回されてる
ん?あ…
竜斗がベルトの辺りで、右手の人差し指で1を作り小さくフリフリさせて、バックネット裏にいる私にサインを送ってくる
「バカ」
真面目にやれって思ったが
150キロを超えるボールをコントロールドンピシャで投げてる人に真面目にやれはないなと、クスッとしてしまった
二人目も三球三振
竜斗は2を作ってる
ふん、いいわよ!喜んでやってやるわ!
私も2を作って答える!
満面の笑みの竜斗
まぁ、嬉しそうでなにより
って、私も気づけば満面の笑みをしてる
で、最後の一人だ、フルパワースーパーサイヤ人になる竜斗
いや、ふざけてる場合じゃない
ふと思った
これ、やばくないか?
ここまでのスピードボールを投げる人はプロならそこそこいると思う、高校生もどこかにはいるかもしれない
でも、そのスピードボールを持っていて、ここまで精密機械のようなコントールの持ち主はそういないと思う
竜斗の一番の武器はこのバクってるコントロールの良さだ!
これはどこで会得したのかわからない
とゆうか、だいたいボールが速い人はコントロールがアバウトなのが常でしょ
この今までの六球全て構えたところ
カットボールのキャッチングはドリさんのミスだ
いわゆる「失投」がない
さかのぼれば、ブルペンからコントロールミスがない!
そして、忘れてはならない
この人は、本日特大ホームランを二本もかっ飛ばしている
なにがやばい?そうこの人は高校野球で収まらなくなるのではないか
もっと、もっと、上の世界でプレーするかもしれない
したら、私はどうなる
竜斗は超一流になったら、私を捨てる
そして、変なチャラそうな女子アナと結婚するのではないか…
ムムム
いや、まだ付き合ってもないのに何言ってんだろ
さぁ、ついにパワーが開放される
おそらく全球ストレートだ
カットボールはドリさんがまだ受ける自信がないと思うから
てか、ストレートだけでオケ、抑えられる
セットに入る
ふぅーと、力を抜く感じの深呼吸をしてる
足が上がる、フォームはいつもと変わらないが、気迫がこもってるのが伝わってくる
投げた!
ズバァン!
ミットに収まる瞬間、小太りのドリさんの無駄な肉がプルンと振動で震えた
と、思うくらいの衝撃音
スピードガンを見る
「………」
これってあと少しで…
言葉を失う
しかも、コントロールドンピシャ
二球目も同じ速度のズドン、ドンピシャ
そして、本日最後になるであろう三球目が投じられた
ズダァン!
バットも出ない出る暇もない見逃し三振
竜斗は3を作った
私は放心しながら3を返す
トニーのスピードガンのマイル表示は、三つの数字の明かりが灯ってる
もちろんドンピシャ
もしかしたら…
私とトニーはとんでもない怪物を目覚めさせてしまったのかもしれない
今はマウンドで満面の笑みで3を作ってる子供だ
この人が更に進化した時はどうなってるのだろうか
この先、ノブさんから変化球を教わるだろう
竜斗のことだ、最初は下手だが、コツを掴んだらおそらく全国レベルのノブさんの変化球も超えてくる
これから、身体作りや投球練習で更なるスキルアップもある
投手だけでみても、こんな投手が高校で終わるわけない
いや、終わってはダメだ
目覚めさせた、召喚させた、私が言うのもなんだが
竜斗を一番舐めてたのは私だったかもしれない
ここまでになるとは全く持って思いもしなかった
しかもたった一か月で…
とんでもない人を好きになったわ、私
本当に女子アナに奪われる日がきてしまう
「キョーコ、このスピードガンの数字はハルキには黙っててくれ、約束出来るか?」
え、なんでだろ、まぁトニーのことだ、なんか考えがあるんだろう
「オーケー」
「君達が愛し合ってるのはわかっている、でもこれだけは黙っててくれ、よろしく頼む」
「はいっ?」
思わず日本語で返した
うん、やっぱり私は日本人だね !
じゃねーよ
え、なんでトニーにバレてるの?
冷静に考えると普通にバレバレなのか?
外国人枠で勝手にトニーにはバレてないと確信してた
って、あれ愛し合ってるって言ったよね?
フフフ、竜斗も私のこと愛してるってわかっちゃう位なのかな…
キャッ
あれ、こうゆうところがお花畑屋さんなのかな
ん?ってことは部員みんなにもバレてる?
これリナさんに言ったら
「嘘でしょ?今更バレてないとでも思ったの?バカじゃん!」とか言われそう
ま、でもバレてるならバレてるでいいや
どうせ付き合ったらバレるもんね
私ちょー前向き!
うーん、私ってやっぱりポンコツ娘なのかな…。




