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モンスター協奏曲  作者: 東京小町
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19/46

奇跡の名前呼び

 

 私と春樹さんのハグがバレたランチを終え、リナさんと手を繋なぎ、ルンルンでグラウンドへ


 後ろから足音が聞こえてきた

 と、思った瞬間


 ボンッと体同士が当たる音がした


 すると、リナさんの手が私から離れ、前に崩れ落ちる


 そしてつんのめるように転んだ


 え、何?と、思ったがすぐに状況を理解してリナさんに駆け寄る


「大丈夫ですか!」

「アイテテテテ」


「ちょっと!」

 私が思わず叫ぶ


「なんだよ、邪魔なんだよおめえら、幅とってタラタラ歩いてんじゃねーよ」


 いやいやいやいや、そこまでこの道細くねーよ


 あの工藤が、私達を追い抜きざまにリナさんに体当たりして突き飛ばしたのだ


 中庭からグラウンドまでのアプローチ通路だが、土入れ等のため、軽トラも入ってくるのでそこまで細くはない


 しかも、中庭からグラウンドまでは緩やかな下り坂

 自然と歩く速度は早まる


 タラタラ歩いてない!


「ねえ!高校生にもなって女の子に手出して恥ずかしくないの!」


 こんなクソ野郎には敬語なんかいらね


 イラっとしたのか、Uターンしてこっちに歩いてきて

 私達の前にしゃがんできた


「お前さ、彼氏(おとこ)がいるからってグラウンドに気安く遊びに来てんじゃねーよ」


「イチャイチャは家でやってくれよ、こっちは真剣に野球やってんだからよ」


 リナさんに向かって暴言を吐いた


「ふざけ…」

 文句を言い返そうとしたら


 しゃがんでた工藤さんが強制的に立たされる


 背後から襟足付近の練習着を掴まれグイッと引き上げらた


 春樹さんだ!


 だいぶ前の方歩いていたが、異変に気づいて駆けつけてくれた


「おい、工藤、おまえそれ本気で言ってるのか?」

「野球真剣にやってないのはお前だろ」


 大声でもなく、静かに低音だけど不気味な声色

 大声で煽るより遥かに怖い


 いつも工藤さんのことは、やっさんとかヤスとかあだ名で呼んでるが、今は違う


 春樹さんが首根っこを掴んだまま、工藤さんを反転させ対峙する


「おい、なんとか言えよコラ」


 こ、怖い、守られてる方の私だが、怖いを通り越して恐怖を感じる


 いつもあの優しい目ではない、睨むでもない、なんだろ目がすわってる感じ、あと体全体から放たれる怒りのオーラ


 工藤さんは恐怖からなのか、固まってる、何も言えない

 首根っこをほどくのがやっと


「どうした!」

 ゴー君もコバさん連れて駆けつけてきた


「おいヤス!お前なにしたんだ!」

 と、ゴー君も詰め寄るが


 春樹さんが、スッと手を出してそれを遮る(さえぎる)


「ゴー、リナと杏子を頼む、見てやってくれ」

 ん?あれなんか今…


「えっ?何言ってんだよハル!俺も文句…」

「ゴー!二人を頼む」

 春樹さんが再び遮る

 ゴー君も気迫に押された


「大丈夫か!」

 ゴー君がこっちに来て様子を見る


「大丈夫だよ、ちょっと擦りむいただけ」

「それより、ハルちゃんが…」

 リナさんの言葉を理解したゴー君とコバさんが、アイコンタクトをして非常事態に備える


 今度はマッキーさんが、大さんと羽堂さんを連れてやってくる

「大丈夫か?何があったの?」

 羽堂さんが優しく私に聞いてきた


 私はみんなに起きた事を話した、工藤さんの暴言も込みで

 すると、しゃがんでた羽堂さんは立ち上がり、大さんと共に工藤さんを睨みつける


「なんだ?何も言えねーのか?威勢がいいのは女相手だけか?」

 春樹さんが更に凄む


 後ずさりする工藤さんに合わせるかのように、春樹さんがグイッと詰め寄る


「おめえ、リナの事けなすなら黙ってねーぞ、俺だけじゃなくお前以外の部員みんな敵になるからな」


「リナは誰よりも早くきてグラウンドの準備して、最後まで残って後片付けをしてくれてる」


「あ、そっかお前はわからねーか、三年生が引退した途端、朝はなにもしねー、帰りは監督が見えなくなったらとっとと帰るもんな」


「そんなクソみてーなやつに何も言われたくねーんだよ」


「確かに、最初はゴーと一緒に居たいから来たのかもしれない、でもそのノリだとゴーの顔を潰すから人一倍頑張ってんじゃねーか」


「野球のルールも一生懸命覚えて、先代のマネージャーさんから聞いたことをノート一杯に書き込んでる」


「そりゃ、手が余ってる時は遊んでる時もある、だからどーした、お前に不愉快な思いさせたか?」


「俺は監督いない時にサボりまくってるお前の方がよっぽど不愉快だけどな」


「イチャイチャしてるだ?いつだよ?こいつらとはいつも一緒にいるけど、練習中はそんなとこ一切みたことねーけど」

「イチャイチャどころか、リナは全部フラット、練習中はゴーを明らかに優先してるとこ見た事ねーわ」


 確かにそうだ、リナさんは自分で「ゴーくんファースト」って言ってたが、そんな状況見た事ない


「一年仕切ってるのも、誰かがやらないとモチベーション低い一年はついてこれない、むしろ邪魔になる、からのあえてヒール役になってやってる、本当は俺らがやらなきゃいけないのに」


「まぁ、お前は弱そうな一年捕まえて従えてるだけだからわからねーよな」


 春樹さんが一呼吸入れてから


「リナは!今、お前が吐いた暴言を絶対に言われたくないからここまでやってくれてんだぞ!」

「それをオマエ、簡単に口にしやがって」

「てか、お前に説教してもしょうがないよな、クソだからなんも響かねーよな」


「ハル、てめえ最近ちょっと外人コーチにかわいがられてるからって、調子に乗ってんじゃねーぞ!」


 うわ、ださっ、返す言葉がそれかよ


「あー、やっぱりそれか、俺に(まと)にかけきらなくてリナと杏子に当たってんのか?」


 ん?呼び方!はっ、キュンしてる場合じゃない


「いいや、だったら話は早い」


「まず、リナに謝れ、5秒な、いいか5秒だぞ」


 目が完全にやばい目をしてる春樹さん、やばい!


「おい、オメエ暴力時間起こしたら、この野球部終わるぞ」

「はっ?既にお前怪我させてんじゃん」


「てか、工藤さぁ、そんな心配いらねーぞ?お前のせいでこうなってるんだから、死ぬまでボコるからよろしく〜」


 春樹さんがユラユラしだした


「はい、いくよー5ー!」


「やめろハル!」

 ゴー君とコバさんが飛びかかるが、簡単に振り払う


「ゴー、わりぃちょっと邪魔しないで、こいつと俺の問題だから」


「よ〜ん」

「さ〜ん」


 これ、多分脅しじゃない、あれ?えっ!

 数えながら工藤さんのバッグをガサゴソして、グローブ型付けハンマーを取り出した


「あ、そうそう、あんとき素手で殴り倒したら、俺骨折ったから、今回はこれ使うわ、いつもこれで一年にポカポカやってるもんなぁ」


「にぃ〜」


 だめ、春樹さん


「春樹さん!だめっ!」


 私が渾身の声で叫ぶが効かない


「いーち」

 だめっ


竜斗(りゅうと)!だめっ!竜斗やめて!」


 自然と下の名前で叫んだ

 なんでだろ、自分でも不思議


 でも、おかげで春樹さんの動きが止まった!


 すると、工藤さんが


「すいませんでした!」


「お前誰に謝ってんだよ、リナに謝れや」


 工藤さんの首をわしづかみにして、リナさんの前に投げ捨てた


 工藤さんは怯えきった顔でリナさんに


「すいませんでした」

 と、頭を下げる


 すると、春樹さんがすかさず工藤さんに蹴り!

 の、寸前に大柄の大さんが春樹さんに抱きついて止めてくれた


 慌てて工藤さんは校舎の方に立ち去った

 その工藤さんに向かって、手に持ってる型付けハンマーを投げつける!が、当たらず脇に転がった



 場は凍りついたまま



 春樹さんが、やっといつもの優しい顔に戻った


「ゴー、リナとキョウちゃんは大丈夫か?」

「お、おう、リナはちょっと擦りむいたけど大丈夫だ」


「そか」


 春樹さんは、そのままその場を立ち去ろうした


 私は、あの怖さに引いた?

 引いてない、心配になる、逆に守りたくなった


 この人は自分がどんな扱いされても怒らないのに、仲間が侮辱されるのは許せないんだ、そこは尊敬する、でもだめっ


 それに、このままじゃ春樹さんが、みんなと気まずくなる…



「コラ、春樹竜斗!ちょっと待て!」


 春樹さんが振り向く


「あんた!やりすぎ!いい?あのまま工藤さんに暴力振るったらリナさんが責任感じるんだよ!」


 私は、立ち止まってる春樹さんにグングン近付いていく


「怒るのはわかる!私も悔しかったもん、リナさんが傷つくのが許せない!」


 目の前に行って、しっかり目を見て怒る!


「でも、だめっ!春樹さん!あなたがもしこれでいなくなったり野球部が廃部に追い込まれたら、みんなどう思う?」


「私はまだこのチームに入って間もない!でも、このチームが無くなるのは悲しい!それに、あなたがもし警察とかに捕まってあなたがいなくなったら、私は、私は…」


 だめ、涙出てきた、私もろいのかな


 思わず春樹さんに抱きついてしまった


 まだ、怒ってる最中なのに…でも止まらない、どうやら私にも怒ると燃える系の血が流れてるのかもしれない


「ねえ!あなたがいなくなって、悲しむ人がいるのわかる?私もそう、チームのみんなだって!春樹さんいなくなったら…私は…私は悲しいよ」


 春樹さんの胸に頭突きをしながら私は泣き崩れた


 この人を守りたい、あの尋常じゃないキレ方、過去に何かあったんだと思う、でも私は知らない、守り方がわからない、でも…でも、どうにかしてあげたい



「あのー、あのー、モシモーシ、サーーセーン、盛り上がってるところ大変申し訳ないんすけどぉ」


 ん、リナさん?


「あのぉ、えっと被害者私なんすけどぉ、ほったらかしやめてもらえます?」


「え?あ、はいサーセン」


 春樹さんに抱きつきを解除して我に返る私


 リナさんは立ち上がり、私と春樹さんに近づいてくる


 すると、私を抱き寄せるリナさん

耳元で「なにどさくさに紛れて抱きついてんのよ、この変態中坊がっ!あとでうまい棒な」

 そして、ポンポンと私の肩を叩く


「ゴーくん、ごめんちょっと浮気する」


「キョウちゃん、ちょっと借りるね」


 リナさんは春樹さんに近寄り

 春樹さんの手を取り、両手で握りしめた


「ハルちゃん、ありがとう!」

 ただ、それだけ言って、握りしめる



 少し間があったあと



「でも、大事な人に心配かけちゃだめ!」


 ボコッ!

 春樹さんに肩パンをいれる


「イッタ」

 春樹さんにやっと笑みがこぼれる


「ハル、お前馬力ありすぎ、止めるの大変だったわ、二人でラグビー部に転職するか?」

 大さん、本当に来てくれてよかった


「でも、ヤスはどうしたもんかなぁ」ゴー君


 確かになんか、このまま終わりそうな雰囲気ではない気がする


「とりあえずさっ、部員全員で注意していくしかないな、ハル、お前は一旦イエローカード!ちょっと大人しくなっ、後は俺らに任せて」

 うん、大さん任すからお願い


 そして、春樹さんが重い口を開く


「みんな、ごめん、迷惑かけた」


「あいつはさっ、昔からこんななんだよ、俺が目立つのがムカつくみたいでさ、俺は自分のことだけなら我慢できるんだけど、俺のせいで仲間が傷つけれるのは無理なんだよね」


 そうだったんだ…昔からって…そうだよね


 実はこの工藤さんと春樹さんは一番付き合いが古い


 小学校からの仲だ、ゴー君は小5の時に工藤さんと春樹さんの小学校に転校してきてるので、後からの付き合いになる


 ちなみに!大さんこと、大沢さんも小学校は一緒

 だけど、中学校は別みたい


 にしても、なんなんだろうか、工藤さんは…春樹さんのこと子分とかに思ってるのかな…


 確かに、いちいち突っかかてくる気がする


 ただ、工藤さんはそもそも嫌な奴振る舞いしてるので、春樹さんだけではなく、部員みんなからも避けられている


 なのに練習は来る、メンタルおばけかっ


 あ、昔、骨折るまで殴ったとはどうゆうことなんだろうか…



「なんだ喧嘩か?大丈夫か?」


 また誰か来た、まぁしゃあないか、こんなところで揉めてればそうなる、誰?ん?


 キャッチャーのドリ(有村)さんとガブ(三沢)さんだ!


 ドリさん、なんかこの前の審判の格好してる、ちなみにこの後紅白戦はない


「ドリ、お前何やってんだよ!どこかで審判するのか?」

 羽堂さんが笑いながらツッコむ、羽堂さんとドリさんは桜水中の隣の地区に位置する同じ中学校でしかも同じクラブチーム

 小学校も一緒らしいので、仲良し


「いや、喧嘩のレフリーやろうかと思って!」

「いやいやドリ!まぁ今ある道具の中では一番近いか!」


 羽堂さん、いつもクールに決めてるけど、しっかりツッこむのね


 ガブ(三沢)さんはゴルフクラブを持ってる!


「お前どこ中だよ!あーん!」

 と、ゴルフクラブを肩に担ぎヤンキー歩きでコバさんに近寄る!がっ、そのままスルーして歩き去る!


「おい、終わったか?」

 ゴー君が言うと慌てて笑いながら戻ってくる


 いつものギャグなんだな


 ガブさんは、ゴー君が転校するまでの同じ小学校で、中学校は桜水からは近い地区の学校、そしてマッキーさんの先輩、だけどガブさんはクラブチームなので、付き合いは全くなかったらしい


 そう、この野球部はコミュニティがけっこう狭い


 都立高校ってこんなものなのかな?


「ガブさん、なんでバットじゃなくてゴルフクラブなんですか?」

 質問してみる、初絡みかも


「あ、これ?ちょうど素振りしてたから」

 そう、ガブさんはお父さんがゴルフのレッスンプロなので、影響で休み時間にトスのネットを使ってゴルフしてる


「違うだろ、いつも肌身離さず持ってんじゃねーか、だってプロゴルファー猿だもんな!フハハハ」


 春樹さんが自分で言って爆笑してる


 確かに坊主だからそう見える、ウケる


「なにおー!この!ガブっちょ!」

 と、言うと春樹さんの両脇を両手でモミモミする


「や、やめろ!」

「ガブっちょ!ガブっちょ!」


 そう、だからガブと呼ばれてる


 ドリさんとガブさんのおかげで場が和んだ

 きっとこのために来てくれたんだ


「てかさー、私が被害者だったの、全員忘れてるよねー!」


「うるさいなリナ、お前もガブっちょしちゃうぞ?」

 手をモミモミしてスタンバイする


「キャーー!」

 リナさんも悲鳴あげるんだ!


 そのままグラウンドの方に逃げってった


 ガブさんは追いかけるフリして、今度はゴー君にガブっちょしてる


 みんな大爆笑



 このチーム、面白いしみんな良い人、工藤さん除いては



「さ、そろそろ行こう」

 副キャプテン大さんのかけ声で、みんなグラウンドに向かって歩きだす



 春樹さんの横にくっついて歩いていると、その反対側に羽堂さんが来た


「ハル、こうゆう時はさっ、合コンでストレス解消が一番いいよ!今度誘うから来るか?」


 なぬ?


 おい羽堂やめろ!私だって合コンの意味は知ってるぞ、帰国子女だからって舐めんなよ


 心の中が沸騰しそうになる 


「あ、うん」


 え?今「うん」って言った?「うん」って言ったよね!


 あっったまきた! ボスッ!


 羽堂さんにバレないように、春樹さんの太ももの裏側にグーパンした!


 ホントに頭きたから、少し振りかぶって本気でやった


「うっ」ってなる春樹さん


 トニーよ、あなたが目をかけてる大事な選手に申し訳ない、午後は使い物にならないかも、フフ


「女子高、普通の都立、それから年上の専門学生、どれがいい?みんなかわいいよ、あ、俺の知ってる女子高の子は少し重そうだなぁ、付き合うなら気合い入れないとだめだよ」


「あ、そうなんだ、わかった」ボスッ!

「うっ」


 何が、「わかった」だボケ!


「ちょっと羽堂さん!春樹さんを変な遊びに誘うのやめてもらえますか!」キッ!


 春樹さんの体挟んでるから、少し顔だけ出して羽堂さんを睨みつける


「変な遊びって…酷いなぁ杏子ちゃん、それに顔怖すぎ!鼻広がってるよ、可愛いお顔が台無しじゃん」


 慌てて鼻だけ隠す


「ははは、冗談だよ!反応見たかっただけ!大丈夫、ハル来たら俺モテなくなっちゃうから誘わないよ」


 確かにそっか、いやいや納得してる場合じゃない


「じゃっ」

 お邪魔虫は消えまーす、みたいなノリで走って行った



 二人でトボトボ歩く



「さっきはその、ありがとう!名前で呼ばれてビックリした、家族以外で呼ぶ人いないからさ」


「あ、いえ、止まってくれて良かったです」


「あの、その、もし、良かったら、リュウトって呼んでくれてもいいよ」


 春樹さんめっちゃ照れてる…呼びたいけど…


「みんなと違う呼び方だと、目立って恥ずかしいですね、まずは心の中からでいいですか?」


「心の中?」


「そう、心の中、これからは心の中で春樹さんを呼ぶ時は、竜斗(りゅうと)って呼びます!いつか本当に呼べるように練習です」


「心の中で呼ぶ時なんてあるの?」


「何言ってるんですか!メッチャありますよ!呼ぶだけじゃなくて、春樹さんの事を考える時もです」

「今頃、竜斗は何やってんだろうなぁ、みたいな感じで」


 ん、なんか私、普通に恥ずかしいこと言ってない?


「なるほどね、うんわかった!まずは心の中で呼んでね」


「はい、かしこまりです」


 やった、野望まであと一歩だ!


「じゃあ、俺も心の中で杏子って呼んでいい?」


 ん、え、ウソ!キャッ


「はい!喜んで!」

 あ、いつものやつ出ちゃった


 そんな、甘い会話をして歩いて…


 ん、まてよ、さっきの解決してない!


「あ!春樹さんは合コン行く人なんですか!また誘われたら行くんですか?」


「いや、あれはそのあんまり聞いてなかったんだよウッチャンの会話…考え事しててさ、相槌(あいづち)を打っただけなんだよ、殴られて気づいた」


「本当ですかぁ?」


 怪しいので、ジッと顔を見てみる


「ほ、本当だよ」


「怪しい」


「キョウちゃんが睨んでくるからドキドキしてるだけだよ」


 ん?ドキドキ?


「とにかく!春樹さんは合コン禁止!」


 ほっぺが膨らんでるのが自分でもわかる、鼻はわからん


「わかった、合コン絶対行きません!」

「ヨシ、約束ね」

「はい、約束します」



 グラウンドの入り口に着いた


「じゃね」

 竜斗が軽くバイバイみたいな手振りをしてベンチに向かった

 早速、心の中で「竜斗」と呼び始める


「うん」

 私も手を胸の前で小さく振る



「お熱いですなぁ、グラウンドでイチャイチャすると工藤パイセンから嫌味言われますよぉ」


 リナさんが、得意の背後からヌッと現れた


「イチャイチャしてないです!」

「あ、リナさん大丈夫ですか?」


 話を逸らす意味と捉えられるかもしれないが、本気で色々な意味で心配なので質問してみる


「うん、ちょっと擦りむいただけだから大丈夫」

「あ、それは良かったです……」


「あ、うん、工藤に言われる分にはね、へーき、でも正直ショックだったかな、でもあの時さ、大さんも羽堂さんも立ち上がって抗議の目をしてくれたから救われた!あまり絡みない人も味方してくれるんだなぁって、だから大丈夫だよ」


「本当ですよ、みんなリナさんには感謝の気持ちでいっぱいですから!それに工藤さんだってパニクって出た言葉だと思いますよ」


「うん、そだね、まぁ工藤にはどう思われてもいいけどね」


「でさぁ、さっきの何よ」


 ん?


「春樹たんわ〜合コンいっちゃだめ!めっ!プー!プンプン!」


 チキショ、やっぱり聞かれてたか


 しかも、顔が酷い!

 ほっぺを目一杯膨らまして、鼻が研なお子みたいになってる!


「そんな顔してません!」


「からの〜あなたぁん、いってらっしゃい ウフン」

 胸を手でユサユサしてるリナさん


 誇張が酷すぎる


「あったまきた!ガブっちょしてやる!」


「キャ、変態中坊こないで!」

 二人でホームベースの周りをぐるぐるする


 突然、リナさんが止まった


 真顔で、「キョウちゃんあっち見てみん」

 と、アゴでしゃくってくる


 そっちの方向を見てみると、中庭から監督と工藤さんが二人で歩いてくる


 なに?


「あいつさぁ、やらかすとさぁ監督味方につけてしれっと戻ってくるんだよね」

「監督と一緒だと何も言えないからね」


「じゃあ、工藤さんはさっきの件、自分のいいようにチクったってことですか?」


「それはないかな、工藤は小賢しいから、自分のボロが出るような事は言わないよ」

「ただ、盾にしてるだけだと思う」


「なるほど」


「前にコバが工藤にキレたことがあるのよ、その時も監督を盾にして練習に戻ってきたからね」


「え、コバさんが?」


「うん、あいつ大人しいじゃん?だから工藤の奴さ、いじり倒してたんだよね」

「したら、ガチギレ、あのコバの目がガッツリ開いてたもん」


「えーー、でもコバさんがキレるなんてよっぽどですね」


 ん、あれ、じゃあさっきの麦茶ブファの時はキレたのか?目がクワッだったもん


 やばっ


「いきなり持ってたボール投げつけてさぁ、叫びながら近づいてったのよ、そこをゴーくんとマッキーがなんとか止めて、ゴーくんが工藤を謝らせた」


 だから工藤さんが揉め事起こすと、コバさんも駆けつけるのかぁ

 てか、なんて叫んだんだろう、まだ声聞いたことないから気になる。


「そん時は、練習後の片付けの時だったんだけど、工藤はそのままバックれてさ、次の練習どうするのかなぁ、辞めてくれねぇかなぁ、なんて思ってたらさ、ナトっちゃんと登場、今日みたいな流れだね」


「そうだったんですね、でも工藤さんはそこまでなってるのになんで練習に来るとゆうか、野球続けるんですかね、練習もちゃらんぽらんだし、嫌われてる、これじゃあ野球部にいる意味ないような気がします」


「そこなのよぉ、みんなも不思議がってるもん、ただハルちゃんが言うには、工藤も野球が相当好きなんだって、ちゃらんぽらんなのは、真面目にやってレギュラー取れなかったら恥ずかしいからじゃないか説が有力だって」


「素直になれないだけなんですかね」


 なんか、哀れすぎてかわいそうにもなってきた


「あとね、工藤はさっ、最初私立高校に行ってるのよ、そこでいじめられて編入してきたらしいよ、なんでも中学ではいきがってて、そのノリで高校行ったら速攻シメられたらしいね」


 閉める?チョイチョイ出てくるなこのフレーズ、後で調べてみよ


「それはダサいですね」で、合ってるかな


「からの、桜水に来てまたいきがり出したって事だね」


「なるほどですね、でもさっき春樹さんが閉めたからもう大丈夫ですよね」


 閉める使ってみる、合ってたかな


「まぁね、当面は平気だと思うけど…」


 お、合ってたぽい

 てか、昔見たヤンキードラマにこのフレーズ出てたような…


「あと心配なのが、工藤はさぁ、ナトっちゃんに空気入れるの得意なんだよ」


「空気?」さすがにわからないから聞いた


「あ、うんとね、間違えた情報って言えばいいかな」

「ようは、工藤はナトっちゃんにあることない事を言って信じ込ますのが得意なのよ」


「あいつ、三年生引退した途端、ナトっちゃんにスリスリでさぁ、それで秋の大会六番バッターゲットだぜ!だよ」


「だからかっ、データみてもおかしいもん」


「でしょ、ま、とにかく工藤には要注意、てかホント辞めてくんねーかな、いや死んでくんねーかな」


 リナさん言い過ぎだけど、さっきタックルされてるからしゃあないね

 確かにまだ何かありそうだし



 そして、工藤さんがしれっと参加する午後の練習が始まった。

 

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