手紙の内容
星川さんとアンソニーさんが、野球部に来て一週間が経った。
この一週間でうちの野球部が大きく変わってきてる。
まずアンソニーさん
この人凄い
言葉は分からないけど、熱意が伝わるし
本当に良く見てくれる
中心選手の、ダイ(大沢)やガブ(三沢)はもう教える事ないだろっと、思ってたが、まだ伸び代はあるんだと言わんばかりに指導する
そして、俺から見ても、絶対にこの先試合に出ることは無い文化部掛け持ちの一年にも声を掛けて、奮起させる
「君達のサポートは絶対に必要だ、試合に出るだけが、野球じゃない」
「裏方あってこそのチームだ、俺はアメリカでは裏方の仕事だ、でもそのサポートした選手が活躍すると、凄く嬉しい」
「君達イチネンセイにもその気持ちを味わってほしい、そして、その献身的なサポートは絶対に君達の将来の役に立つ!」
と、言葉をかけた。
そして、それを訳した星川さんが付け加える
「私からもよろしくお願いします、野球って楽しいですよね?ガッツリ野球に携われるの今だけかもしれないです、一緒に楽しみましょう」
星川さんからしたら一個上の先輩に向かって、満面の笑顔で一年を盛り上げる。
本当に中三?
この、アンソニーさんと星川さんの言葉に感銘を受けたのか、一年は休まなくなった。
平日は文化部を優先してる感じだったが、今週はみんな休まず来てる。
明らかに一年のモチベが上がってる
この野球部が明らかに変わってきてる、もちろん俺も含めて
アンソニーさん、星川さんが来たことにより、野球部が進化し始めた。
名取監督一択時代からするとありえない
名取監督は試合が始まったら采配は上手いと思う、でも、もう歳のせいか、選手の状態把握が衰えてると思う。
ノブが怪我してるのを気付けてない、他にも思い当たる事は山ほどある。
あと、固定観念が強い
その点考えると、アンソニーさんはフラットに見てくれる。
んで、星川さん
やばい、かわいい、かわいすぎる
色々、かわいい点が多すぎるので省略する。
そして、ただの通訳じゃなかった
野球のスキルが高い
もちろん細身女子なので、力は無い
でも、まさかノックまで打てるとは…
しかも技術的に上手いし、楽しそうにノックを打つ、自然とこっちも楽しくなる
そして、俺や他のみんながファインプレーすると本気で喜んでくれる
あの笑顔で「ナイスプレー!凄い!」と、言われて、やる気が出ない奴はいないだろう
ポーカーフェイスのウッチャン(羽堂)でさえ、褒められたら嬉しそうにしてた
嫉妬しそうな事だが、星川さんの笑顔がみんなを幸せになるのであれば、俺は本気で嬉しい。
ただ、星川さんに見られたくない一面を見られた
前の日曜日の昼休みの事だ、購買横の自由ルームで弁当食ったあと、グラウンドに向かうと、ベンチにいる女子達から声をかけられた。
その内の一人、柴田はづきとは小学校からの付き合いで仲が良い、もちろん恋愛対象ではない、向こうもそうだ。
最近はギャル化しつつある、が、バトミントンの上手さは衰えてない
呼ばられた時にチラッと見えたのが、星川さんが
となりのベンチの影にいるのは見えた。
うわっ、なんか嫌だな
はづきといつものような会話をしたら、仲良すぎて変な誤解されてしまう
呼ばれてシカトはまずいので、とりあえず、はづきの元に行く
「ホームラン打ったらしいじゃん」
え?もう知ってるのか、唐突で照れてしまった
野球の事で良い言われ方するのが初めてだったからかもしれない。
でも、星川さん以外の女子から野球を褒められるのは嬉しくない
ましてや、試合見に行くとか言われるのが一番つらい
もし、見に来てくれて俺が審判だったらどう思うんだよ
俺の苦い思い出は、はづきも分かってるはずなんだけどな
来週、ここで練習試合あるけど見に来るなよ、今度の練習試合はうちが審判だ、またやらされるかもしれない。
来るにしても、俺ではなく他のやつ目当てにしてくれ
そっか、来週練習試合か…
バッティングと共に何か掴みかけてると感じる
早く試合に出てみたい、今度の練習試合が楽しみ
アンソニーさんなら、少しは出場させてくれるはず!
でも、問題も起きた
そう、当たり前だがグローブ問題だ
今のグローブは正直キツい、モロ外野用ってのもあるが、グローブそのものがあまり良くない
頑張って手入れはしてるが、蘇生は難しい
道具のせいにするな!とか言われそうだけど、そうゆう奴に貸して、じゃあやってみん?って言いたくなる。
外野用とゆうか、ギリ外野ならイケるって感じ
試合に出ることは無いと思ってたので、諦めてた。
どうしたもんか…
案の定、アンソニーさんから指摘された
無理、買えない
お金がないわけではない、お年玉もらったり、たまにバイトしたり、お小遣いをやりくりしてコツコツ貯めた。
でも、これを一気にグローブで吐き出してしまうと、そのあとが辛い
アンダーシャツとかも最近小さくなってきた、サイズアップしなければならない
スパイクもいつまでも持つか…
あと、地味に痛そうなのが遠征費
グローブを買って足りなくなったら、母か姉に無心するしかない状況
とてもグローブを買う気にはなれない
最後の切り札、母方の祖父母が俺と姉に甘々なので、おねだりするのも考えてみた。
おそらくニコニコ買ってくれるだろう
でも、万が一父親にバレたら激怒間違いない
そしたら、もう野球を続ける事は不可能になる
うーん、グローブは我慢してこれで頑張るしかない
まあ、悩むのがバカらしくなるくらい、買えない
なので、もういいや
逆に言えば、グローブさえ我慢すれば、あとは楽しくて仕方がない
野球人生で一番楽しいかも
バッティングは、アンソニーさんと星川さんのアドバイスでタイミングの取り方や構え方等、少し変えたら更に良くなった。
自分自身手応えをかなり感じる。
サードの守備もなんとか形になってきている。
毎日泥んこになってる
洗濯面倒いけど、楽しくて仕方がない
今まで、泥んこになるまで練習したことはない
外野手の控え、いや、玉拾い専門だから外野にいる人だったから…
そんな中、ノブの診断結果と今後の話をされた
予測は出来てはいたが、チーム内に不安感が走る。
みんな、ノブに気遣って、俺らが頑張ると言ったが、やはり不安だ。
この新チームは強い!
ただ、それは都立高校のわりには、だ
ノブ(佐藤)の他に、キャッチャーのドリ(有村)にウッチャン(羽堂)、大ちゃん(大沢)、ガブ(三沢)の五人のクラブチーム上がりと、軟式上がりだけどセンス抜群のゴー、この六人を中心とした新チームへの期待はでかい
でも、一人かけてしまうとたちまち崩れかける
そう、強豪私立との圧倒的な差は選手層だ
おそらく、強い学校は他人の怪我はむしろチャンスだろう
でも、うちはそれを補える選手がいない
ノブがなんとか回復しても、おそらく今までのようなパフォーマンスを期待できないのは俺にでも分かる
大会を勝ち進むと日程が厳しくなってくる高校野球
もう、ノブ頼りでは勝ち進む事はできない
このメンバーがベストな状態で初めて強豪私立にワンチャン勝てるかもって思ってた。
あとは、中心選手以外の俺を含めた部員達の底上げに期待するしかない、アンソニーさんの手腕にお任せするしかない。
自宅を出て、コンビニで弁当買った後、そんなこと考えながら自転車を漕いでたら、あっという間に学校に着いた。
ん?駐輪場に明らかにソワソワしている怪しい女子がいる、しきりに周りをキョロキョロしてる、警察がいたら絶対職務質問されるな
あれ?星川さんじゃん
うちのジャージだから近くまで行かないとわからなかった
そういえば、ゴーの姉ちゃんのお下がりを貰ったって言ってたな
大人っぽいから普通に似合ってる
なんなら三年生に見える
慣れないあだ名で挨拶してみる
一瞬笑顔になったが、なぜか顔がこわばっている
こっちに来いと言われた
殺されるんじゃないか?
ってくらいの目力で見てくる
手をグイグイ引っ張ってくるので、黙って後をついていく
前を歩く星川さんは、相変わらずしきりにキョロキョロ
左右キョロキョロ、一回振り向いて後ろを見た時に俺と目が合ったら「ハッ」みたいな感じで慌てて前を見た
それ以来後ろを見ない、後ろ見ないで右左キョロキョロ
これでは後ろがガラ空きなのでは?
ずいぶんと歩く、人気のないところを探しているのはわかるが、ここまで奥に来る必要はないと思う
結局、グラウンドの真反対の校舎の裏側まで来た。
あれ、このシチュエーションってもしかして…
え、まだ早くないか?
もちろん返事はオーケーだがっ!
星川さんが立ち止まった。
バッグを置き星川さんが、こっちに向いて
「止まってください!」
止まってるよ
「そのまま動かないで!」
手をかざしてくるので、言われた通りに静止してあげる
うーん、なんか言い回すセリフが間違ってるような気がする
緊張してるせいなのか、今日はすごくポンコツに見える星川さん、まっ、それはそれでかわいい
バッグをガサゴソして何かを取り出し、俺にズイッと差し出してくる
グローブが入ってそうな袋だ、それに手紙、ファンシーな封筒に入ってる
え、ラブレター?今どき?
と、思ってたら
「手紙は私の母親からです、先に読んでください」
えっ?なんでお母さん?
もちろん一度も会ったことない、お父さんはお会いしたが
早く読め!見たいな顔してる星川さん
恐る恐る、かわいいシールを綺麗に剥がし封筒を開けて手紙を取り出す
読む
春樹竜斗様
素敵なお名前ですね
初めまして、いつもお世話になっております、星川杏子の母でございます
突然の事でさぞ驚かれたと思いますが、どうか最後までお読みください
今、一緒にグローブが渡されてると思います
このグローブは以前に私の息子、杏子の兄が使用していた物です
私は野球の事はよくわからないのですが、ポジション変更のため、このグローブは使用出来なくなり、杏子が譲り受けたとのことです
しかし、杏子には少し大きいサイズらしく、譲り受けたものの、どうやらタンスの肥やしになっていたとの事
私の夫、杏子の父親も野球に携わってる仕事をしてますので、既にグローブは持っています
なので、このグローブは使い手がいない状態です
春樹さんがポジション変更でグローブが必要になると聞いた杏子は、このグローブを是非差し上げたいと私に申し出てきました
家族で話合った結果、このグローブは春樹さんに使ってもらうのが一番良いと結論を出しました
このままタンスに眠らせるよりも、日の目を見せてあげたいと私も思います
元々の持ち主の杏子の兄も快諾しています
遠慮されるかも知れませんが、どうかこのグローブのためにも貰って頂けるとこちら家族は嬉しい限りです
杏子は少し不器用で、思い立ったら一直線の猪のような我が娘ですが、とても優しい子です
もし、春樹さんでなくて他の人でも同じ行動を取ったと私は思います
ですが、グローブを渡すと決めた時から本日まで、すぐに使えるようにとグローブを手入れしている杏子の姿を見てきましたが
その時の表情をみると、こればっかりは相手が春樹さんだからこその表情なのかなぁと感じました
母親として、娘のこんな表情を見たのは初めてだからです
お礼の品等は、全くもって必要ありません
娘の真心こもったグローブを使って、楽しく野球する姿を見せてくれたら私達家族は満足です
頑張ったご褒美として、杏子にハグでもしてあげてください
半分アメリカ人のような杏子は、ハグは挨拶として認識しておりますので、心おきなくしてあげてください
それが、杏子への感謝の意となります
恥ずかしかったら握手でもいいですよ
もし、既にグローブをご用意されてたり、肌に合わなかったらお返しください
杏子は野球一家で育った野球人です、理由を述べてくだされば納得するでしょう
最後に
杏子の勝手な暴走だと誤解されないためにも、母親の私がペンを取って経緯を説明させて頂く運びになりました
ご理解の程よろしくお願い致しまして、失礼させていただきます。
星川涼子
PS
この手紙の内容は杏子には内緒でお願いします
将来、二人の披露宴の時にネタに困ったら使ってもいいですよ 笑
その時までは、私と春樹さんの秘密事でお願いします
いつか、お会い出来る日を楽しみにしております
PS長すぎましたね
それではまた
ふぅ
凄いありがたい話だ
お母さんが何故手紙を書いてくれた意味も理解した
このまま、星川さんから直だと、遠慮とゆうか何か無理してるんじゃないかと思ってしまったはずだ
この手紙のおかげで遠慮なく譲り受けることが出来る
星川さんのお母さんは凄いな
星川さんが俺のことを好き、を前提なのが少し笑えたが…
手紙を読み終え星川さんを見る
なんて書いてあるの?教えて?と言いたげなチワワのような目をしてくる
誘惑に負けないようグッと堪える、お母様との約束は絶対だ!
この手紙は披露宴で使うので、大事に丁寧にバッグにしまった
今度はグローブを袋から取り出す
おおー!
凄い綺麗だ!
お兄さんのお下がりとのことなので、勝手に使い込んだグローブを想像してた
でも、これは…新品同様ではないか!
多少、紐が削れてる部分があるので、本当に使用してたのは間違いないだろうが、おそらく数回しか使ってない
しっかり手入れされてある、グローブの皮はいい感じでしっとりしてる
ワックスの匂いもする
とにかく綺麗
一生懸命手入れしてくれたのが伝わってくる
もう言われなくてもハグしたい
早速、手にはめてみる
凄くいい、ほどよいやわらかさと硬さが融合していて、ポケットもしっかり出来ている
さすが野球一家の仕上げ方と言うのであろうか
これは、もう……
使いやすいか、超使いやすいの二択で間違い無い!
サイズもちょうど良いし、ウェブ(網の部分)も目隠し使用なので、投手になったとしても、このまま使える気がする
感動した
星川さんは相変わらずチワワのままだ
今度はグローブの心配をしてるのかな
お母さんに言われた通り、遠慮なくハグしよう
挨拶、挨拶
あれハグってどうやるんだ
いいか、どうにかなる
少しかがみ、星川さんの身長に合わし、顔を星川さんの横へ、両手を背中に回してみる
こ、こうでいいのかな…
あ、近付きすぎたかな、星川さんのドキドキが身体を伝わって聞こえてくる
星川さんの綺麗な顔がすぐ横にある、女子独特の良い香りもする
グローブだけではなく、今まで俺に尽くしてくれたことを思い出す
自然と背中に合わせてた両手に力が入って、ギュッとなってしまった
星川さん嫌な思いしてないかな、と思った瞬間
星川さんの両手が俺の腰あたりを巻いてきてキュッとしてくれた
あれ、これってハグ?
恋愛ドラマでよく見るシーンのような気がしてきた
ま、いっか、しばらくこのままでいいかな
中学の時に彼女がいたことはあるが、こんなハグはしたことない
初めての経験
とゆうか、これ色々順番おかしくなってないか?
キーンコーンカーンコーン
校舎の裏側にいるので、音はかすかだがチャイムの音が聞こえてきた
ハグ終了の合図にも聞こえてきたが、お構い無しで続行
と、思ったんだが、ちょっと待った
このチャイムは俺たちには直接は関係ないんだが…
時間的に、集合時間の三十分前を意味する
あ、やばい、準備しないと
泣く泣く、ハグを切り上げグラウンドに向かうことにした。
グラウンドまでの道中、二人で色々話した
星川さんがハグの最中、キュッとしてくれたことで、俺の中で壁が取れた感じだ。
お母様の手紙も後押ししてくれている
自信が持てるようになった
確実に二人の距離が近くなったはずだ!
このグローブのデビュー相手はもちろん星川さんにお願いした。
グローブ最高!感触バッチリ
俺、よくあのぺちゃんこグローブで頑張ってたわ、自分を尊敬する。
そして事件は昼休みに起きた。
リナがぶっ込んできた
あのハグをガッツリ見られてた
星川さんがポンコツのせいでしっかり尾けられてた。
リナが、ハグシーンを誇張して再現してくる
いや、誇張じゃないな、だいたい合ってる気がする
星川さんは恥ずかしそうに下を向く
その姿にキューン…ってしてる場合じゃない、何か言い訳をしないと……
言い訳したのが、俺の過ちだった
公開処刑が始まる、しかも後輩達の前で
こうなると、全てリナのペース
取調室で、刑事に照明を当てられ自白に追い込まれた気分だ
でも、遠回しではあるが、自分の気持ちが少し星川さんに伝わったと思うと、処刑も悪くないなと感じた。




