プレゼント
あーダルい
濃厚な土日を過ごしてしまったあとの月曜日
机の上で突っ伏している、顔は通路側の方ね
死んでる顔を誰かに見られたくない。
ホームルーム前の、先生が来るまでのおしゃべりタイムなんだけど、そんな気はサラサラおきない。
昨夜、サザエさんブルーってのを初体験した。
噂に聞いていたが、本当にサザエさんを見て、明日からまた学校じゃん、って萎えてしまった。
中学校に来るのがダルい
体力的に疲れててダルいよりも、精神的の方が強い
高校生達と濃厚な二日間を過ごしてしまったので、今更中学校に来るのが馬鹿らしく感じてしまうし、つまらない
クラスの女子達の井戸端会議は雑音に聞こえる
男子達のガキっぽいふざけあいにはイラっとくる始末
人生二周目のような感覚だ
月曜日は野球部定休日なので、今日は高校に行くことはない
それが、ホッとしてるのか物足りないのか、どっちなんだか…
はぁ、今頃春樹さんは何してんだろ
私の知らない可愛い女子と教室で仲良く喋ってんのかな
それともあのギャル達とイチャイチャしてるのかも
ムー、ダメだ余計なこと考えるのやめよ
通路と反対側の方から
パカパカ、シュッシュ、ゴシゴシと聞き慣れた効果音がしてきたので、顔を整えてそっちを見てみた。
すると、隣のお猿君がグローブを手にはめ、パカパカと開け閉じしながら磨いてる
見たところ内野用だな、大きさ的におそらくサードか
そのグローブを見て、昨日あった出来事を思い出す
内野ノックが終わり、トニーと春樹さんで話し合いが行われた
守備の感触等のことがメインだったが、私が気になったのはグローブのことだ
トニーが内野グローブを持ってるか聞いたところ、当然だが持ってはいないとの事、それは別に問題ではない
続けて、トニーが用意出来るかい?と聞いた
用意出来るかい?を高校生に聞くってことは、親に買ってもらうことは可能かい?って聞いてることにもなる
部室や、倉庫に使わなくなった誰かのグローブが転がってたり、豚の貯金箱にお金があるとかなら話は別だが…
春樹さんは即答で「無理です」と答えた
「自分はこのグローブでやります、ダメですか?」
と、続けて言ってきた
別にダメではない、ルール違反でもない
ただ、この先やはり外野グローブだと、やりづらい部分が出てくるはず、なのでグローブは守備位置で分かれている
でも、用意出来ないんではしょうがない
トニーも、深くは追求せず納得した
確かにグローブは安くない、硬式用だとウン万円もする
でも、即答の「無理」が気になる
普通ならもう少し考えるのではないか?
なので、最初は経済的に厳しいのかと思った
実際、春樹さんは野球道具には一切お金をかけてないのが土日でわかった。
今のグローブだって貰い物、どこのメーカーなのかもわからなくなってるくらい、メーカーラベルはボロボロ、形はせんべいみたいにぺちゃんこ
ぺちゃんこを好む人もいるが、おそらくそれとは違う
スパイクも店で売ってる最低ランクのやつ
私は野球も好きだが、野球道具フェチでもあるので見たらある程度わかる
リストバンドはしてるの見なかった
おそらく最低限の道具しか使わないし、持っていない
ただ、不思議に思ったことがある
水泳とジムに通ってるってことだ
他のみんなは近くの区営スポーツセンターのジムに行っているみたいで、そこだと学生証みせれば200円
春樹さんは、そこには付き合いで行く程度
メインは高校生には高級な水泳ジム通いと聞いた
自転車も見たけど、結構よさげなやつだった
私なんかのやつよりも全然高そう
と、なるとなぜだ?
経済的理由なら矛盾が出る
「星川、野球に興味あるのか?」
私のグローブを見つめる目線に気づいたのか、お猿君が聞いてきた。
ここは、まだ素性は明かさないでおこう
「あ、ううん、ほら、もうみんなは部活引退してるでしょ?なのに偉いなぁと思って」
「あー、俺は高校でもやるから、邪魔にならない程度に脇で練習させてもらってるんだよ」
なるほど
桜水高校には土日に三年生は一切来なかった、ってことは大学とかでやる人は一人もいないんだな。
てか、お猿君野球部だったんだ
あれ、名前なんだっけ…
あ、小林だ
ん、小林?いや、まさかな
顔似てないし、小林なんてよくある苗字だ
とゆうことは、このお猿の小林君は、春樹さんの後輩ってことか
春樹さんもこの中学の野球部出身、このお猿君と二歳差
たぶん…いや確実にこの小林君は春樹さんのことを知ってる、あ、ゴー君とかもか
他にも野球部とか、それ以外でも春樹さんを知ってる人間は多数いるはず
やば、ウザがってる場合ではない、愛想良くしとかなければ!
うーん、ってことは通訳やったり、キレたり、バッピやったり、ノックやったりしてたのが、この中学生達にバレるのも時間の問題か…
まぁ、悪い事してる訳でない…うん
胸張ってこ
そのお猿小林君が、パカパカやってるそのグローブのメーカーラベルに目がいった
「Slugger」と書かれている
スラッガー…日本の野球用品メーカーだ
ん?どこかで見たような…
あ!そだ、兄が持ってたグローブと一緒のメーカーだ!
兄は昔からこのメーカーが好きだった
好きな日本の選手が使ってたから
父のミズノゴリ押しを断ち切り、このスラッガー製を使ってた。
今はアメリカでも、日本の野球用品メーカーは大人気
ネット販売で手に入るし、スポーツ店で注文しても空輸で二週間もあれば届く
ただ、このスラッガー製をアメリカで使ってるのはさすがにあまり見ない
思い出した!あれ…どこにしまったけなぁ
兄が前に譲ってくれたのを思い出した。
高校入学時に内野用グローブを新調した兄
ただ、入学してすぐ外野にコンバート、当然グローブがまた必要になる
今回の春樹さんと逆だが似た話
さすがに父も条件を出した
ミズノだったら用意してやる!
の、言葉に屈して、そこからはミズノを今でも使ってる。
当時、内野用と外野用両方持って行っていたが、途中から完全に内野は無いなと判断したのか、譲ってくれることになった。
でも、当時とゆうか今でもなんだが、私には少し大きい
譲ってもらった時は、そのうち使うかなと思っていたが、結局使用することなく野球を辞めてしまった。
確か、内野オールラウンドだったから、サードを始める春樹さんにピッタリかも
しかも、まだあまり使ってないから綺麗だったはず
ってことは…
え、も、もしかして、いきなりプレゼント?
「あの、これ、よかったら使ってください」
「ありがとう杏子さん、じゃあお礼に…チュ」
とか、なったりしてぇ!どしよ、あ、ラッピングしちゃう?
「…かわ!おい星川!」
はっ!
お猿小林君の呼びかけに正気に戻った
いけない、最近よくどっか飛んじゃう
「星川なにニタニタしてんだよ、気持ち悪いなぁ」
はぁ?気持ち悪いだと?この美人を捕まえてそりゃないだろ
クソ猿めっ!訂正しろ!
とは、言えず
「あ、ごめんね小林君、アメリカでの事思い出しちゃってた、テヘ」
と、愛想良くしとく
「ふーん、変なやつだな、アホ面丸出しだったぞ」
こ、コロス
私の愛想良しを返せ!
日光に売り飛ばしてやる!
授業が始まったが、落ち着かない
そのグローブをどこにしまったか全く思い出せない
帰国した際、私の野球道具はまとめて段ボールに詰めてあったんだが、そこには入ってなかった
あればとっくに思い出してる
他の段ボールにまだ入ってるのかなぁ、私の荷物には無かったよなぁ、父親の荷物に混じってるのかなぁ
いや、確か前のアメリカの家では私の部屋にあった…かな
あー早く帰って、探したい!
今日学校何時間だっけか?
はい、ガッツリ六時間です
チーン
時間割りを見てまた突っ伏してしまった私
いやぁ、まだ一時間目
くぅ〜帰りてぇ
熱出しちゃうか
「おい、星川、おい起きろ」
うるさいな猿君、今はほっといてくれ
「こら!なに寝てんだ星川!まだ時差ボケが抜けてないのか!」
コツン!
教科書でコツンとされた!
痛っ、地味に痛っ
日本の教育者はすぐ暴力を振るうと聞いていたが
昨日?一昨日?の名取監督も、この人の名前忘れたけど社会科の先生も
噂は本当だった!
「寝てたんじゃありません、考え事してたんです」
あがいてみた
「どっちにしろ授業を聞く態度ではないだろ!」
ですよね
「すいません気をつけます」
横で猿は笑ってる
まぁ、危険を呼びかけてはくれたんだから、許す!
授業は再開
あー、学業もしっかりしないと!
チンプンカンプンから脱出しないと
今日の授業が終わった
ダッシュで帰宅!
帰国した際、すぐ使わない荷物は段ボールに入れたまま物置きにしまってある。
まずは、物置きから捜索開始だ!
部屋に入って、ベッドにリュックをぶん投げ、制服姿のまま物置きへ!
物置きの扉あける!
うん、なんか汚れそう
閉める!
部屋に戻る!
汚れてもいい服に着替える!
物置きへ!
物置きの扉あける!
「杏子〜何バタバタしてんのよぉ、今日高校はないんでしょう〜あ、もしかしてデートかしらぁ」
と、リビングから聞こえてくる母の冷やかしはスルーする
さてと、おっぱじめますか
片っ端から、段ボールを開けていく
なんか、途中見ちゃいけない物が出てきたが、そこはそっと蓋を閉じといた
ないなぁ、どこいったんだろ
「なにしてんの杏子、こんなとこでフリマ開いたって誰も買いにこないわよ」
母が物置き周りの惨状を見て、ため息混じりで近寄ってきた
「何か探してるの?」
物置き前に置かれてる蓋が開いてる段ボール群を見て聞いてくる
「うん、お兄ちゃんからもらったグローブを探してるんだよね」
「私の野球関係の段ボールに入ってないの」
「秀太から?グローブもらってたなんて知らなかったわよ」
「うん、三年前くらいかな、もらったきり使ってないんだけどね」
「あらそう、だったら置いてきたんじゃないのぉ?」
母も探すのを手伝い始めてくれた
物置きの段ボールは全て出して見たため、蓋が開いてる段ボールをもう一度確認し、無いとフタを閉め物置きに閉まってくれてる
あ!それだめ…あ、開けちゃった
そう、あの見ちゃいけない段ボールだけ蓋が閉まっていたため、当然母は開ける
フリマには到底出せない中身を見た瞬間、右の眉が少し上がる
でも、そっと何事も無かったかのように蓋を閉め、少しだけぶん投げるように物置きに閉まった。
私は見て見ぬフリを決めた
「杏子、あなたそう言えばアメリカの友達から色々プレゼントもらったでしょお別れの記念に、それを閉まった段ボールどこなの?その中とかに入ってなかったわけ?プレゼント類を部屋で見ないけど、まだ閉まったままなんじゃないの?」
……………!
は!思い出した!
クローゼットの奥で、私の2軍ジャージ山積みの下敷きにしてる段ボールだ!
確かぁ、グローブが余ってるのに気がついて、プレゼント類の段ボールに入れたわ、アメリカの友達との別れが悲しくて泣きながら詰めてたから、すっかり忘れてた!
泣きながら詰めた段ボールを開けずに、クローゼットの奥で眠らせてるなんて…私には情はないのであろうか
「お母さん!あざす!」
急いで部屋へ!
「コラ杏子!店終いしてからにしなさい!」
ですよねー
「はぁい」
渋々、フリマを閉店させる
部屋に戻り、クローゼットの奥から段ボールを引っ張り出す!
当然上に積まれてた、2軍ジャージは雪崩を起こす
うん、そうなると思った、でもあとにします
段ボールを置き、膝立ちして蓋を開ける
いざご開帳!
あった!ありましたよー!
早速引っ張り上げて、グローブに思わず話かける
「おまえーこんなとこに隠れてやがって!おかげで物置き全部ひっくり返して大変だったんだぞぉ、その結果私と母は無駄に傷つき、父は自身の下落中だった株をさらに大暴落させちゃったんだからね!このっ!」
グローブを眺める、うん、やっぱりまだ綺麗
続けて手にはめてみる
やはり、私には大きいが、おそらく春樹さんにはピッタリだと思う
数年ほったらかしだったので、少し硬くなってる
けど、少し叩いて、油塗ればすぐ使えるかな
ヨシ!プレゼントだ!
って、ちょっとまった
少しスンッてなった
はいどうぞと、簡単にプレゼントしていい話なのか?
うちは、親の許可を取ればいい
でも、春樹さんはいきなりグローブをもらってどう思うだろうか?
経済的理由で買えないんだとしたら、プライドを傷つけてしまうのでは?
いや、そうでなくても、中三女子からポンと渡されるグローブを素直に喜んでくれるだろうか…
こっちは良くても、春樹さんからしたら迷惑な話かもしれない
うーん、どうするのが正解なんだろ…
これはもう、人生と女の先輩の母上に聞くしかない!
グローブ抱えてリビングへ
母はソファーにねっ転がり、手をグーに握りソファーをリズムよく叩いてる
テレビはついてるが、見てなくてBGM代わりだ
母は普段、はしたない格好はしない
こりゃ機嫌悪い
とゆうか、おそらく…
父が夜帰宅したら、どう血祭りに上げてやろうか作戦を練ってる感じだ
父よすまぬ、私の記憶ボケのせいであなたはスナイパーに狙われてます、おそらく今日が命日になることでしょう
って、知らねーわ、あんなモンあんなとこに置いておくのが悪い!
「杏子グローブあったの?」
さすがスナイパー、こちらの気配に気づいたか
「うん、それでちょっと相談があるんだけど」
このグローブをどうするかの経緯を全て話した
もちろん変な妄想話は、してない
「なるほどねぇ」
母は真剣に考えてくれてるみたいだ
「まず、聞きたいんだけど、そのグローブはもう本当に使わないの?」
「うん、お兄ちゃんは使わないからくれたし、私には大きいし、自分のオキニのグローブあるし、お父さんはミズノじゃないから絶対使わない」
「ってことは、うちに置いてあっても、ただの持ち腐れね、実際段ボールの奥に眠ってたわけだし」
「このグローブって幾ら位するのかしら?」
「うーん、新品で4万円位かな」
ちょっと間があいた
「そうね、差し上げるのは問題ないわね、杏子はもちろん、お父さんも秀太もそっちのが嬉しいでしょうから」
「その、春樹君側の家庭事情なんだけど、こっちが気にする必要ないと思うわ、確かに聞くと経済的事情ではないと思うけど、なら尚更こっちが下手な詮索しない方がいいわよ」
「こっちは純粋に使って欲しいから差し上げるだけ、ね」
「うん、わかったけど、春樹さんいきなりもらってドン引きしたり、プライド傷ついたりしないかな」
「そうねぇ、プライドはわからないけど、少なくとも遠慮したりは、するわよねぇ、お下がりとはいえ、そのグローブまだ綺麗だし、値段も春樹君は分かるだろうから」
「でも、言葉一つでその遠慮は解消できるわ」
「え、どうやって?」
「ここは、大人の出番かしらね、杏子このグローブいつあげるつもり?またいつものようにトンテンカンテンやるの?」
「うん、ちょっと硬いからお手入れするから…今度の土曜日がいいかな、土曜日は朝から練習だからアップ前にそっと渡せそうだし」
「わかったわ、じゃあグローブと一緒に渡してほしい物があるから土曜日までに用意しておくわね」
「え、渡す物ってなに?」
「まだ内緒、杏子は真心こめてグローブ手入れしてあげなさい、上手くなーれ上手くなーれってね」
「う、うんわかった」
母は、真心は伝わるのよといつも言ってる
料理の美味しくなーれと一緒かな
母の言う通りだ、私の下手な詮索はいらない
春樹さんには春樹さんの事情がある、今のところは野球出来てるんだから、私が気にすることではないし、もしかしたら、事情を本人から聞く時がくるかもしれない、それまではそっとしておこう
うちに偶然、眠ってるグローブがあるからプレゼントするだけ
あとは、母の渡す物に期待してグローブ手入れしてあげよっと
となると、リナさんにも相談する必要ないな
連絡先教えてもらったから、聞くのもアリかなと思ったけど、ここは一旦やめておこう
「お父さんには私から言っておくから、杏子は秀太に連絡して伝えなさい」
「はぁい」
あ、今日佐藤さんの診断結果が出るんだ
父が付き添うみたいなこと言ってたから、明日の朝聞いてみよ。




