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モンスター協奏曲  作者: 東京小町
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11/46

後輩からの説教


「ふぅ〜〜」


 達成感なのか、なんなのかわからないが、高校生らしからぬ吐息が出る。


「おつかれー」と、仲間が帰路に散っていく


 今日は水泳はやめておこう


 疲れた


 ゴーが「マダヤ行くべ」と誘ってるから、ジュースをガブ飲みでもしよっかな


 しかし、あの娘は凄かった

 凄かったで合ってるのか?


 今日はまず、自分にとっては大きな転機になった。


 ホームランの感触が残ってる両手を見ながら思う


 左のがいい…正直思い当たることはあった


 中一の時に逆振り、ようは左で振るようになってから感触は自分なりに良かった


 中学の部活仲間とバッティングセンターに行った時のことだ


 ゴーとヤス(工藤)もいた


 いつも素振りしてるし感触良いから、試しに左で打ってみようかな?

 打って見ると、やはりいい

 ゴーも「左のがいいんじゃね?」と、言ってくれた。


 よし、じゃあもう一回と思って左でやってたら

 今度はヤスが来て

「うわ!ハルの野郎、かっこつけて左で打ってるぞ!」

「おめぇ、右で打てないのに左で打てるわけないだろぅ!」

 と、思いっきりバカにされた。


 それ以来、左で打とうとするのはやめた


 その時は背が大きくなく、パワーもなかった、なので左に変えたところでと、納得してしまったからだ。


 すっかり忘れてた左での打撃


 素振りだけはしといてよかった


 まさかのあの娘、星川さんが気づいてくれた


 星川さんが俺の手を取り引っ張ってくれて、トス上げてくれた


 そして、自分が打てるようになり、めっちゃ嬉しかった!


 でもそれよりも…


 俺が打てるようになった時の星川さんの笑顔がたまらなかった。


 俺には「女と野球」でかなりのトラウマがある

 もしかしたら、高校に入って彼女が出来ない理由はそれかも知れない。


 そんな俺を星川さんはもしかしたら、トラウマから解放してくれるのかと思った、いやそんなトラウマなんて忘れるくらいの魅力があるのかな


 あんな綺麗で、目がキッとしてるけど、お高くとまってるわけでもない、お嬢様って感じもしない


 キッとしてるかと思ったら、顔がクシャってなる笑顔


 俺がモノマネしてたら、爆笑してくれる、それもガチでだ、ウホッウホッってなんか変な笑い声がするが、それも魅力的に思えてしまう。


 あのキレ方も凄かった、鼻が大きく膨らんでた

 それも可愛かった。


 あの時、タメ口で指示された

 なんだろ、怒られてる感じになるんだけど、なんか…


 ちょっと気持ち良かった、俺ってドMかも知れない


 いや、星川さんにだけドMかな、あの顔で怒られるとたまらない、むしろ怒らせたくもなる。


 そして、あの綺麗なフォームからのバッティングピッチャー


 あれだけ打てたのは、星川さんが打ちやすい球を投げてくれたからだ、普通は投手本職の人だってボール球は出る


 でも、星川さん30球ぐらい全部ストライクだった。


 マジで何者?


 それで良いイメージ出来たから、ノブから特大ホームランを打てたのは間違いない。


 途中、エグイ質問を俺に投げかけた後、グローブを持つ左手を逆手にして腰に当て、右手は耳に当て、俺の返事を待つ仕草…


 可愛かった、キュンって言葉の意味を初めて知った。


 キュンとしたからこそ、本音を全部ぶちまけることが出来た。


 したら、あの笑顔で、「オーケー」って…口を動かすだけで、声には出さない


 もう完全に堕ちた瞬間だった


 今まで、もちろん一日で人を好きになったことはない


「今日会ったばっかりだぞ!」って自分に言い聞かせ、相手は中三だぞ犯罪とちゃうんか?とかなんとか理由をつけて理性を保とうとした。


 リナに「好きになっちゃった娘を怪我させたくないもんね」の好きになっちゃったを、全く否定出来なかった。


 否定して、彼女に俺は好きでは無いと思われたくなかった。


 ってことは、たぶん…いや、確実に好きだわ


 でも、好きを自覚すると、ついてくるネガティブ思考


 補欠だったらカッコ悪いよね、嫌われるよね


 今日監督に星川さんの前で公開処刑された、黙々と打つしかなかった、めっちゃ恥ずかしかった。


 今日上手く行っても、またダメで補欠のままかもよ


 ノブに惹かれてるよね、お似合いだよね


 ベンチで仲良くしてたよね


 みたいな類いのことだ。


 自分に自信がないから、気後れしてしまう

 前を歩くリナを止め、アレを話することにした。


 

「朝さぁ、星川さんが俺のことを見とれてたって、リナ言ってたけど、あれ勘違いだよ、ノブのことだと思うよ、俺の隣りにいたから」


「ふーん、やっぱり聞こえてたんだ?で?だからどした?なんで今言う?」


 あれ、怒ってるのか?


「いや、別にどうってわけじゃなくて一応誤解を解いたほうが…」


「ハイハイそれで?俺のことじゃなくてー、ノブのことを好きなんだよー、俺は傷つきたくないから引っ込みまーす!ってか?」


「ハルちん、今日一日何見てた?最後あんなことになってるのに、まだこの期に及んでそんなこと言う?」


「オメエはバカかよ!知らねーよオメエの過去なんか!」

「えっと、なんだっけ、えっと、あそだ、悲劇のヒロイン気取りか?」


 あの、俺一応先輩なんだが、「オメエ」や「バカ」はひどくない?


 と、心の中で思ったがリナはガチギレ無敵状態だ


 ゴーとコバもいたが、危険を察知して学校前のマダヤ商店にコバを連れてゴーは駆け込んだ。


 きっとコバに聞かせたくなかったんだな


「ハルちんさぁ、ネガティブもうやめなよ」

「ゴーくんから、少し聞いたことあるよ」

「でも、それキョウちゃんと比べちゃだめだよ」


「キョウちゃん今日何してくれた?あ、なんかラップみたい」

「ハルちんのために何してくれた?、あの娘まだ中三だよ、今日きたばっかりのアウェーだよ」


「かわいそうに、最後泣いてたぞ!ガン泣き!どんだけ勇気振り絞ったかわからないの?あ、な、た、のために!」


「私だって、ハルちんが審判やってるのを当たり前で見てた、そこは謝るスイマセン」


「みんなだって、心打たれたから動いたんでしょ?」

「当の本人が、心打たれてないってどゆことよ?」


「いや、俺だって心打たれよ」


「は?じゃあなんでウジウジしてんだ?心打たれるは、オメエだけは違う打たれ方しなきゃだめだろが!」

「なに?ただみんなと一緒に感動しただけ?」


「え、あ、うん、いやその、それだけじゃ…」


「あの娘の顔見たか?、ハルちんと話したり笑ってる時の顔、ハルちんと楽しそうにバッティング練習してる時の顔!」


「そりゃ、ノブさんのこともわかる、確かにベンチで仲良さそうにしてた、私もオイオイとも思った、ハルちんキョロってたし、でもあの時ノブさんに見せてる顔とハルちんに見せてる顔は全然違う!」


「あの娘、キョウちゃんはさぁ、出来ないんだよ!好きな人に隠すことがっ!ついつい顔に出ちゃうの!まだ中三だからなのか、ただブキッチョだからなのかはわからんけどね」


「気づいてないとか言わせーねからな?」


「あ、うん」


 正直、わかってた、あの娘の俺にだけ見せてくれる笑顔のことだ


「で?ハルちんは?」


「は?」


「は?じゃねーよ、あ?好きになっちゃったんでしょ?」

「会ってまだすぐだから、とかいらねーからね」


 これはもう、白状するしかない


「う、う、うん」


「聞こえねー、ワンモア!」


「うん、その通り!」


「ったく、まぁ合格にしてあげる」


「ハルちゃんもさぁ、変なこと言ってこないでよ、こっちは、ソッとしとくつもりだったんだから」

「まぁ、あん時否定しなかったし、キョウちゃん見てる時の顔なんて、今まで見たことない顔だから、わかりやすっ!だけどね」


 くそ、返す言葉がない


 全部返せなかった、全部刺さった


 てか、こいつ、チョイチョイ「オメエ」とか、あと最近ハル「ちん」って呼ぶこと増えたな


 俺先輩だぞっ!


「はぁースッキリした!二人ともわっかりっやすっ!」


「いやぁ、でもこの二人不器用そうだからなぁ、先が思いやられるわ」

「でも、今日出会ったばっかりだからね、これからが楽しみだねムフフフ」


 こいつ、完全に楽しもうとしてるな


「あ!ハルちゃん、キューピットにうまい棒おごれ!」



 ゴーとコバが待つマダヤに向かった


 マダヤとは!山田屋商店


 学校の真ん前にある、駄菓子、文房具、わけわからんプラモデル等が置いてある昔ながらの商店だ。


 最近は二代目に代わり、手作りお弁当を始めた

 そしたら、そのお弁当が大ブレイク!学生はもちろん、地元の人間に大人気だ、そのおかげで今でも頑張って営業している。


 中に入ると、ビールケースをひっくり返したイスにベニヤの机、そうイートインスペース、そこでゴーとコバが凍ったスモモをガリガリとほじって食っていた。


 俺は知っている、この時ばっかりはコバの目が見開くことを


「おっちゃーん、コレとコレとコレとコレ!ハルちゃんにつけといてー」


 リナの声が店内に響く


 そう、これからが楽しみ


 今は、告白してすぐ付き合いたいとかの段階ではない


 もしかしたら、この先告白する機会がないかもしれない


 でも、今回はリナの説教で、俺は前に向いて歩いて行けそうだ!


 補欠がなんだ!せっかく掴んだレギュラーを取れるかもしれないチャンス!まずはそこからだ!


 リナには感謝、駄菓子なんて安いもんだ!


「おっちゃんなんぼ!」


 ん、あれなんか高いな…ってアイツ!ペヤングも買ってやがる!


 まぁ、今日は許そう


 そういえば、ノブはどうなるのか


 今日、色々あったから記憶薄くなってたけど、あいつ泣いてたもんな


 正直、最近変だなぁとは思ってた

 具体的にわからなかったから、俺も放置していた。


 勝手にアイツを別格扱いしてたからなぁ


 反省しても遅いけど、反省するしかない


 泣かすまで、追い込んだのは俺らみんなだ。


 もし、ノブが投げれなくなったらどうなるんだろう


 今の投手陣で、どこまで踏ん張れるのだろうか


 あ、この考えがノブを潰したんだった

 コバの成長に期待するか…


 あとは、ヤス(工藤)だな


 審判やれと指示してきたのはアイツだ

 あの流れで審判を頼んでくるとは、俺自信も思わなかった。


 言われた時、聞いてた一年が「えっ?」って言ったら、ヤスは「なんだよ」みたいな感じで睨みをきかせてた。


 一年を守るためにも俺は快諾した。


 ほんとは感触掴んだから、紅白戦に出たかった。


 ヤスは、いつも俺を落とそうとしてくるのはわかっている。


 そういえば、最後いなくなってたな


 ムカついて帰ったか

 もう中学の時みたいにならないの、わからないのかな


 今後の動きに不安が残る


 でも、星川さんに変なこと吹き込むようなら、さすがに俺も黙ってない





 家に帰って部屋に貼ってあるポスターを見る。


 白衣の中はミニスカート、長い生脚をさらけ出し腰に手を当てカバンを担ぎ、ポーズを決めている「神様」のポスター、ドラマの宣伝用だ


 別に拝むために貼ってる訳ではないが、運良くゲット出来たので…ね、貼るよね


 って、神様、今日の出来事がご褒美?


「少し」って言ってたからな


 ホームラン?星川さんとの出会い?


 どっちだ


 もうご褒美終わり?


 ポスター剥がそうかな

 鉄道カレンダーの横に貼ってある、ポスターを眺めて思った。


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