通訳ご乱心
「おっ、もう時間だ!」
「紅白戦の準備に入れー!」
監督の号令が掛かると、春樹さんを囲ってたみんなが散って行く。
春樹さんは、ハァハァ言いながら、汗を拭って空を仰いでいる。
はい、かっこいいです。
かっこいい、かわいい、優しい、細マッチョ、シュッ
今のところ減点はない、例え減点があったとしても、合格点を割るようには思えない。
ハーフ顔でもなく、純日本人顔でここまで綺麗な顔の人を私は見たことがない
もちろん、私の好みと言う盛り盛り採点なのもわかっているが、それを差し引いてもだ
「私好み」十五歳にして初めて理解した自分の趣味
周りがアメリカ人が多かったから、このタイミングで自分の趣味に気づいたのかな
いや、春樹さんと出会ったからだな
会わなかったら、一生気づかなかったかもしれない
あ、でもマジで顔だけで選んでません!
それはホント!
監督がチーム分けを始める
佐藤さん以外の投手三人はチーム関係なく球数でリレー方式、佐藤さんはもちろん休み
トニーはプチスタンドに向かった。
プチスタンドはベンチの上にあるので、高い位置にある
全体見えてちょうどいいんだな
そのプチスタンドでは、佐藤さんと父が話をしてる
おそらく月曜日の病院の件を打ち合わせしてるはず
私は、春樹さんのチームの方のベンチにさりげなくいるつもり
チーム分けを耳を大きくして聞いている
チーム分けが終わって、作戦通り春樹さんのチームの三塁側ベンチの端で観戦することにした。
私の反対側のホーム寄りの端の方で打順と守備位置を工藤さんが決めている
なぜ工藤さん?と、思ったが…まぁいいや
てか、なぜポジションが被ってる工藤さんと春樹さんが同じチーム?
監督はやっぱりアホなのか?
確かに三塁側チームのセンターが空いてるので、工藤さんか春樹さんが守るのであろう
でも、それは実戦的ではない
それは一年生が補えばよくね?
と、思ったが、まぁまぁまぁまぁ
私がそこを気にする必要はない、と、納得いかない心を落ち着かせる。
工藤さんが決めている打順や守備の発表は、なんかボソボソ言ってるので聞こえないが、メンバーは分かったので、こっちのチームの顔ぶれをデータで確認する。
すると、工藤さんが春樹さんになんか言ってる
春樹さんも納得したかのように、その輪から外れて倉庫に歩いて行った。
ん?なんだ?道具持ってこい!なのかな?
パシリに使うなよ
あれ、倉庫から出てきた、ん?様子がおかしい
帽子を逆さまに被り、面を片手に持ち、反対の手で、カウンターをカチカチ回し、極め付けのあのなんて言うんだろ、ハートの形に似たでっかい亀の甲羅みたいなやつ!
現在はインナープロテクターが主流なので、あまり馴染みはないが見たことはある
その亀の甲羅を担いでいる春樹さん
ってことは…審判?
なんで?
一旦整理
確かに、当たり前だが紅白戦如きに本物の審判なんて呼ぶ事はない
塁審なんかもいらない、そこまで真剣にジャッジする必要はない
監督がやれば?うーん、まぁおじいちゃんだし、視力どうなんだか不安だし、ファールチップなどが当たって怪我でもされたら大変そうだし?
佐藤さんは休みだけど、このチームのエース、やはり怪我でもされたら大変だ
じゃああと、誰が?
それで、春樹さん?今覚醒しようとしてるのに?
いやいやいやいや、おかしいでしょ?
モヤモヤする中、試合開始
二回まで、進んだ
春樹さんは誰とも代わらないで、審判をしてる
「ストラーイク!」って声と、たまに面を取ってキリッとした顔を見せるとクラッときそうになるが、さすがにイライラが勝ってきた。
向こうチームも、一年生が一人余ってるが、特別ルールで打席には立たせてもらっている。
なので、佐藤さんを除けば春樹さんだけ出場してない!
佐藤さんが、父の所を離れ三塁側ベンチに来て、私の隣りに座る
「星川さん!あの人と親子だったんだね!」
「いろいろありがとう、初日から心配かけて申し訳ない」
「あ、いえ」
心はイライラしてるが、営業スマイルで対応
話してみると、面白い人だ
エースで、顔もなかなか良い…が、ちょっと老けてる。
なので、勝手に無口で温厚な人だと判断してた
チームの紹介とかをしてくれるんだが、たまに冗談なんかも混ぜてきて、ゲラの私はすぐ笑ってしまう
すぐ私が笑うから面白いのか、佐藤さんもさっきの涙を忘れるかのように話をしてくるので、ついつい会話が弾んでしまった。
ん?あれ、なんか審判の春樹さんがこっちをチョイチョイ見てくる
ちゃんと審判しなさい!あれ、違うよね、んと、審判してる場合じゃないだろ!
ほんとにチョイチョイ見てくる
あー、佐藤さんがまだ心配なんだな
楽しそうに笑ってるから、もう大丈夫だと思いますよ
心の中で審判にささやく
思い切って佐藤さんに聞いてみることにした
「なんで、春樹さんがずっと審判なんですか?交代しないんですか?」
「え?うん、うんとね」
なんか言葉を選んでるな佐藤さん
「ハル、春樹はさっ、審判うまいんだよ」
「ストライクゾーンの際どい判定なんて神なんだよ、本職の審判顔負け!」
「だから、練習試合でもこっちから審判出さなきゃいけない時はやってもらってる、ほら下手な審判やって、悪気なくても、こっち有利の判定しちゃったら気まずいでしょ」
え?練習試合も?は?
「毎回ですか?いつからですか?」
「うーん、ずっとだね、ほら一年の時にやらさられるじゃん、その時の三年生のキャプテンに上手いって言われてからかな?」
「そのキャプテンからグローブもらってるぐらいだから、結構可愛がられてたんだよね」
……ってことは、ずっとじゃねーか!
ずっと審判やらせてんのかよ
そりゃ、試合出ないんだからデータないわ
器用貧乏?とはこのことか?
誰もなんも思わないのかこのチームは?
「でも、紅白戦や練習試合にそんな神ジャッジ必要ですか?例えそれがどっちかに偏ってしまったとしてもですけど」
ちょっと嫌味な質問してみた
「うーん、春樹も嫌な顔しないからさっ、自然とそうなっちゃうんだよね」
イライラが再沸騰してきた
練習試合は、毎回こっちが審判を用意するわけじゃない
おそらくホームグラウンドの時とかだけだろうけど
にしても、ちょっと理不尽過ぎる!
「だからかわからないけど、ハルはメッチャ選球眼いいんだよね、ボール球は絶対振らないんだよ」
のんきだなキャプテン、選球眼良くても試合出てないんじゃ意味ないんだよ!それ練習の時の話だろ!
おかしいよ、納得いかない
春樹さんは相変わらずチラチラこっちを見てるし
すると、反対側ベンチからドMの牧野さんがやってきた、かわいそうだからドMは一旦外そう
牧野さんが「キャプテン、リナっぺがなんか用事があるみたいで呼んでます」と、佐藤さんに声を掛ける
同級生にはリナっぺって呼ばれてるのか
「え、あそ、わかった、すぐ行く」
「じゃ、星川さん」
キャプテンの佐藤さんは反対側のベンチに向かった。
「星川さん!リナっぺから伝令です!」
ん?なんだ?伝令?キョトンとしてみる
「ホント、伝令ですからね?俺が言ったんじゃないですからね」
わかったよ、早く言えよ、蹴られてーのか?
こっちはイライラしてんのよ
「大馬鹿野郎!だそうです、ジャッ!」
伝令がリナ監督の元へ戻る
向こうのベンチを見ると、仁王立ちで腕を組んでこっちを見てるリナさん
なんだぁ?なんかしたかな?
いや、今それどころじゃない
それより、審判の件を父とトニーに報告しよう
向こうのベンチの上にある、プチスタンドに向かう。
ベンチ前にいたリナさんが、ファイティングポーズをして待ってる。
けど、プチスタンドに用があるのでウインクしてスルーする、撃たれたーって感じで倒れるリナさん
ウケるけど、イライラは収まらない
父とトニーに報告したけど、選球眼がいいことに食いついてる。
そこかよ
父は、「まぁ今日は様子見だよ初日だし、たまたまかもしれないし」
なんて呑気な発言をする
毎回審判やらされてるって言ってんだろーが!
このくそオヤジ!
心の中の反抗期マックス
父に言えば、監督に何か言ってくれるんじゃないかと思ったけど、だめだこりゃ
ま、報告するだけはした、あとはしょうがないと言い聞かせてベンチに戻る
五回が終わると、とうとう終了の合図が入った
部員達がグラウンド整備の準備に入る。
太陽も沈んできたし、投手の球数を考慮するとしょうがない。
でも、春樹さんだけ出てない!
審判上手いからしょうがない?
は?だったらなんでみんなお礼を言いに行かない!
春樹さんは黒板点数ボードを消している
誰もお礼を言わない、一年生もだ!
しかも、さっきはフリーバッティングも時間切れで出来てない!
佐藤さんのクールダウンの相手をしてたら、順番を飛ばされたからだ!
監督は、いつものことのように帰り支度をしてる
なんで、みんな春樹さんのこと軽く見るの?
左で覚醒の時は、みんなの愛を感じたのに、偽りか?
春樹さんが優しいからみんな甘えるの?
春樹さんが、嫌な顔しないから?
アホか
毎日アホみたいに素振りしてるのに…
試合なんか出なくていいよー審判やるよー
と、でも?
せっかく覚醒しようとしてるのに!
みんな、なんとも思わないの?
なんだこのくそチーム!
「××××××××××××!」
大きな声、しかも英語でちょっとだけ汚い言葉を叫んだ!
父親の前なので、ちょっとだけ
「××××××××××××!」
もう一回心の底から叫んだ
英語なので、みんなは何を言ってるかわからない
みんなキョトンと固まってる
いいよぉ、そのまま固まってて
グラウンド整備なんか始めないで
自分のグラブをカバンから引っ張り出す
ベンチの端にあった、丸いボールケースを見つけ中身を確認、15、6個入ってる、オケ
それを担いで、黒板の前で固まってる春樹さんの元へ走る、何気にボール重いけど走る!
途中、監督の前を通る時に
「どうした?もう終わり…」と、言われてる最中にキッと睨んで牽制する
監督更に固まる
黒板の前に到着
「春樹さん、メットとレガースとバット用意して!」
「え?」
「早く!」
陽が暮れちゃう、早く
「メット!」頭を指さしながらタメ口で叫ぶ
「バット!」
「うん、分かった」
審判道具を一旦倉庫に置きに行こうとしたので
「それは、その辺ぶん投げといて!」
「え?」
「いいから!そんなの一年生にやらせなさい!」
「あ、はい」
昔、母に女はキレると無敵になれるのよ
と、教えてもらったことがある、今がそれだ
おそらく、私は初日でクビだ
通訳ごときが、むほん?をおこしたのだ
それでもいい、春樹さんに頑張ってもらいたい
そのためなら、どうでもよくなってる
あ、来年からこの高校入るんだった、クビになったら気まずくない?
いいや、どうでもいい
お父さんごめんなさい、クビになる娘をお許しください
なので、やれることやってやるぞ
マウンドについて、ドンッ!と、ボールケースを置く
近くにいた小林さんに
「ちょっと、キャッチボール付き合ってください!」
急いで肩を作る
小林さんはあの顔通り黙々と、キャッチボールに付き合ってくれる
私が、いわゆる女投げではなく、しっかり投げてることに、驚いたのか、みんな更に固まってる
そうそう、そのまま固まってて
でも、小林さんは淡々とキャッチボールを続けてくれる
人選正解!大人しい人はこういう時も淡々だ!
春樹さんの準備ができた
バット、ヘルメット、レガース、手袋
レガースは右足、右肘に肘当て、うん、よし!ちゃんと左打席用になってる!
完璧!かっこいいよ!
状況的にバットだけで充分かと思ったが、みんなに遊びと思われたくなかった、だからフルセットの装備を指示した
からの、身長が高いので雰囲気ムンムン
さすがにキツイかなと思ってマウンドの前から投げることにした、みんな固まってるからキャッチャーは、いない
右打席に入ろうとする春樹さんに
「左!」と言おうとしたら
あ、そか!みたいな感じで左打席に入り直す
いいよ、オケ
「ちょっと待って!」
リナさんがバッティングピッチャーを守る防球ネットを牧野さんとガラガラ押してきた
それと一緒にボールのカゴをぬま子さんが持ってくる
「キョウちゃん、怪我したら大変じゃん?」
さすがリナさん早い!確かに私が打球を受けて怪我したら元も子もない、ボールももっと欲しかった
帰り際、春樹さんに向かって、リナさんが声をかける
「ハルちん、好きになっちゃった子を怪我させたくないもんね、これで遠慮なく打てるよ」
春樹さん、見るからに照れてる!
え、否定しないの?否定しないの?
ちょっとクビになること後悔してきた!
ブルブル
二人だけのフリーバッティングを始める
オリャ!ついつい声が出る
カキーン!
いきなり快音、ライト方向に鋭い打球が飛ぶ!
そのまま続ける、5球終わったところで、春樹さんに本音を大きな声で聞く、みんなに響き渡る声で聞く
「春樹さーーん!将来審判になりたいんですかーー?それともーー、試合に出たいんですかーー?」
私は耳に手を当てて返答を待つ
ちょっと間があったあと
「俺はーー!試合に出たーーい!たまに審判するのはいい!でも!俺はーー、試合に出たーーい!」
「審判するためにーー!練習してるわけじゃなーーい!」
いいよーオッケー
それだよそれ、みんな聞こえたか?
私は涙を我慢して、投げる
「一年!外野行ってボール拾え!」
「いつもハルちゃんに世話になってんだろうが!」
裏の監督リナさんが指示を出す
一年生が慌てて外野に散っていく
「ヒャッホー」と、奇声をあげながらゴー君がサードの守りにつく!
私は感謝しながらも投げ続ける
快音が静寂のグラウンドに響き渡る
「まっつん、アップ付き合って!」
佐藤さんが2番手捕手の松山さんを相手に肩を作り始めた
誰も佐藤さんを止めない
トニーも父も監督も、腰に爆弾?を持ってる佐藤さんを止めない、見るからに雰囲気に飲まれてる
二年生達が、自分の守備位置に走る
正捕手の有村さんが、黒板前のぶん投げてある審判道具を身につける
みんな、紅白戦の続きをやってくれるのかな?
マジで涙出てきそう
でも、さすがに暗くなってきた
「ナトっちゃん、照明入れて!鍵あるでしょ!つけて!」
リナさんが表の監督に睨みを入れる
「………」監督固まってる
「早く!照明!」
このグラウンドには照明がある
もちろん、プロ野球球場みたいな光力はない、だが、練習なら充分だ
「おい、早くしろや!」
名取監督が、慌てて自分のカバンをガサゴソし、鍵を出し、ベンチ裏の照明スイッチをオンにする
照明がボワっと灯りはじめる
「ナイター申請出してませんよ!」
と、時間みてそろそろ終わりかなと、グラウンドに来てた部長が言う
「は?空気よめやー」リナさん
「でも、申請いれないと照明落ちますよ?」
「だったら、さっさと申請してこいよブッチ!」
ブッチ?部長だからか?
「早く!ダッシュ!」
もう、誰が監督なのかマジでわからない
すると、監督が部長を呼び、手をヒラヒラ横に振る
そして、電話をかける
「照明点灯大丈夫だ!」
「サッスー!ナトっちゃん!」
「爺の一声!」
「ナイター開始!」
ホント、この人、なんなの、口の効き方から何まで変なのに!先輩一生ついていきます!
あ、クビか
そんな中、私は黙々と投げ続け、春樹さんは快音を連発する
「ありがとう、交代しよう」
佐藤さんが近寄ってきて、私の後方のマウンドに登る
私は、深々とお辞儀をする
深々なお辞儀初めてしたかも
私の前に置かれてたネットは、小林さんと審判の格好をした有村さんが、黒子のようにガラガラとどかす
外野の玉拾い一年生も引き上げてくる
試合形式のシート打撃が始まる!
「3打席な!」と、佐藤さんが春樹さんにボールを向けて声をかける
私は緊張から解放されて、ハァと空を見上げる
「キョウちゃんおいで!」
一塁側から手を広げてリナさんが待ってる
この瞬間、堪えてた涙が一気に溢れた
小走りに走り、リナさんの胸に飛び込む
「私、やっちゃいました!すいません!」
リナさんの胸で泣く
「おーヨシヨシ、キョウちゃんは悪くないよ」
頭を撫でてくれるリナさん
しばらく、オンオン泣いていると
「キョウちゃん!試合始まるから見てあげな!」
と、言われて振り返り、グラウンドを見た瞬間だった
クァキーーーン!
もの凄い金属音が鳴った
白球がもの凄い勢いで上に上がる!もの凄い勢いで暗く染まった空に向かってすっ飛んでいく、照明の光と重なってボールの行方を失う
どこ?ボールどこ?どこ?
「危なーい!」
ライトの大沢さんが、はるか後方に向かって大声を出す
桜水高校のグラウンドは都内の公立校なので、大して大きくない
なので、ホームランはちょくちょくあるみたいだが…
でも、そんな次元ではなかった…
ポーーン
グラウンド後方…かなり後方にあるテニスコートでボールが弾んだ
まだコートに残ってたテニス部に大沢さんは大声を出したのだ
嘘でしょ…なんであんなとこでボールが弾むのよ……
みんなも唖然、監督は口が空いたまんま
私は人生で一番固まってるかもしれない、涙が一気に乾いた
試合形式だったので春樹さんは全力で走ってるが、二塁を回ったところでホームランに気づいて速度を落とす
ベンチにいた、ぬま子さんは、「これ甲子園でも余裕でホームランじゃね?」と騒ぎだす
守備についてる二年生達は、まだ呆然と立ち尽くし、テニスコートの方を見ている
打った春樹さん本人が驚きながら回ってきて、ホームイン!そして満面の笑顔が溢れた
「ノブーお前の球筋は散々審判で見てきたからな!」
「変化球混ぜないとまた打つぞ!」
春樹さんがおどける
マジ楽しそう
「フンっ」
佐藤さんが、今度は松山さんと入念な対策をマウンドで交わす
春樹さんが、息を整え終わると試合再開
2打席目は、低めの変化球を泳がされ平凡なライトフライ
まぁ、経験浅い春樹さんに佐藤さんの変化球は酷だ
「突っ込んでるぞ!」
名取監督が近寄ってくる
「ハル、佐藤はストレートが強いが、更にやっかいなのが手元で曲がる落ちるの変化球だ!しっかり手元までひきつけろ!センター方向に意識持て!お前のスイングスピードは今や誰よりも早い、少々遅れてもしっかり持ってける、自信持っていけ!」
と、ゲキが飛ぶ
「はい!」
春樹さんが高校生らしく返事する
3打席目、際どいところにあえてストレートをもってくるがしっかり見逃す
審判の有村さんはさすがキャッチャーだ、しっかり「ボール!」と判定する
今度は変化球、監督の言われた通り、しっかり溜めて弾き返す!
打球は上がらなかったが、左中間に鋭い打球が飛ぶ
抜けた!と、思った瞬間レフトの牧野さんが、打球がワンバウンドしたあとギリギリに追いつく
え?あれ、工藤さんじゃない、なんで?
てか、牧野さん凄い
春樹さんは、抜けた!と、思ってもう一塁を回ってる
ここからは、牧野さんの返球との競争
春樹さんの走るスピードがグンッと上がる
二塁に審判はいないので、ピッチャーの佐藤さんがセカンドにジャッジに行く
ザザァー!
春樹さんのスライディングが綺麗に決まった!
「セーフ!」
「うぉー!」一斉にみんなが騒ぐ!
私はリナさんに抱きついてまた泣く
たかが、練習の一時、でもこの一体感はすごい
くそチームなんて言ってごめんなさい
みんなでハイタッチで迎えられる春樹さん
私も急いで行ってハイタッチで迎える
手のにおいは嗅ぎません
すると、みんなが私のところにきてハイタッチしてくれた!
みんなでグラウンド整備
私も、もちろんトンボをかける
あれ、伝令の「大馬鹿野郎」ってなんだったんだ?
ん?その伝令を飛ばした人は、うちの父となんか話してる
「え、キョウちゃんパパなの?」
「マジウケる!」
「マジ美女と野獣じゃん!」
やめろ
頼むから、人の父親を野獣とか呼ばないでくれぇ
てか、「美女と野獣」は親子に使うワードじゃねぇ
疲れたので、心の中のツッコミもキレが悪い
ガハハハと、父も楽しそうにしてるから、まいっか
あと、あれゴー君、あのタスキどうしちゃったんだ?
気づくといつのまにか外してた、いつからだ?
色々気になることが解決してないが、疲れたので一旦忘れる
そして、照明が落ちる
普通、初日からこんな色々あるものなのか?
とりあえず、みんなの対応と監督が握手してくれたことを考えるとクビは免れたかな
泥だらけになったオキニのジャージの裾を見て
明日はもう少し服装を考えようと思った。




