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#58「証明が為の戦い・拾」

◇陽翔学園 体育館――


「ふぅ……何とか着いたナ」


 重い扉を押し開ければ、約300人ほどの生徒が学内唯一の避難場所を埋め尽くしていた。その全てが、豪喜が担ぐ青年を鋭い目で睨んでいる。弱った獲物にトドメを刺すかのように、殺気に満ちた目が向けられる。


「こいつ、あのスパイじゃん」

「随分とボロボロじゃん……今なら私達でもやれんじゃね?」

「おいそこの段ボール頭! そのまま動くなよ! この俺がそいつの息の根止めるまでな!!」

「行くぞお前ら! 異種族に待つ結末ってのを教えてやるぞ!!」


 室内の活気が一気に湧き、それぞれ武器を構えては豪喜に迫る。そんな中豪喜は意識を失う美尊を体育館の端に寝かせる。


「……まぁ無理も無イ。オイラも本来はそっち側の人間だからナ。ミコト、お前には何の恨みも無いというのにヨ、オイラったら周りに流されるがままに殺すような真似をしてしまっタ。恨まれて当然の事をしてしまったんダ。

 でもヨ、お前はそんなオイラを恨む事をしないで、むしろ自分が原因だからってどんなにボロボロになっても目の前の現実から逃げずに戦うって言ったんダ。

 そんな誰より心の優しく強いお前を、オイラは死なせたくねェ。スパイなんて知ったことカ。オイラはオイラの守りたいもののために拳を振るウ」


 右手を床に付け、美尊の周囲に白い壁を生成し、囲う。生徒達が驚いた直後、豪喜に同じような冷たい視線を向ける。


「あんた……スパイの仲間だったとはな!」

「裏切り者は一人じゃなかったって事か! ま、やる事は変わんねぇけどな!!」

「さテ、独り言はこの辺にしテ……有言実行といこうカ」


 両拳に力を込め、迫る生徒の波を迎え撃つように突進し、右拳を振りかぶった。


「オイラの覚悟(アンサー)を、真なる事実(アンサー)にするために、ナ」



◇


「こんなの……こんなのっ、あゆちゃんじゃないっ!」


 無数の斬撃の跡が廊下に激しく残り、床には血の池が生まれている。この血を流したのも、私に背を向けて立つ彼女――海月あゆだという事実に、私は耐えられそうになかった。たとえその血が自分を襲おうとした敵だとしても、同じクラスの人が何の躊躇いなく人殺しをする姿を、見ていられなかった。


 絶望している私に、あゆちゃんが振り向き、目が合った。


「その通りだ。遠野歩夢は人類を凌駕する力を得たのだ。故に、人間を超えた存在となった。派王である俺の手をとった事によってな」

「……!」


 男の声。普段のあゆちゃんからはとても発せられるものではないほどに低く、恐怖を与えてくるような声。身体の芯から萎縮していくのが分かる。脳がこの者には抗えないと理解しているからだ。


「恐いか? 人間を逸脱し、強者の頂に足を踏み入れた幼馴染が、それほど怖いか?

くくっ、それでいい。力無き者は大人しく事実を飲み込む事しか出来ぬのだからな」

「……っ」


 それを分かっていても、悔しさが心の淵(ふち)からこみ上げてくる。元のあゆちゃんを取り戻す力のない自分に情けなさを覚える。無力さだけがずっと残り続け、私を蝕んでいく。


「……そう、だね。私には力が無い。だって、ずっと誰かが庇ってくれて、私はずっとそれに甘えて、逃げてばっかりなんだもん。そんなんじゃいつまでも立派な魔術師になれないなんて、分かってる。私だけじゃない。誰にだって分かる事だよ。

 でも、諦めたわけじゃない。力が無ければこれから手に入れればいい。その時が来たら、必ず貴方の元へ行くよ。そして貴方を倒して、あゆちゃんを助ける!」


 だけどその目を逸らす事はしない。戦う力なんてなくても、戦う理由くらいは作れるはずだから。きっと美尊君もあゆちゃんも皆、きっかけは違えどそうやって覚悟を固めてきているはずだ。


「……良い目だ。無力であろうと抗う意思を感じる。その目を裏切るな。裏切らない限り、貴様にはいずれ抗う力が芽生える。

 貴様の予告状、確かに受け取った。派王を相手にこれほどの大口を叩いたのだ。せいぜい俺を失望させてくれるなよ」

「……後悔は、させないから」


 ふっ、とあゆちゃんは笑みを浮かべると、背を向けて歩き去った。段々と背中が遠くなっていく。でも、今はそれでいい。


「……これから頑張らなきゃだ。これまで逃げてきた足を逆に向けないと、ね」


 深呼吸で心を落ち着かせ、重くなった足を体育館に向けて踏み出す。


「あと少しで助けるからね、美尊君」


 制服の胸ポケットに右手を突っ込み、星のついたヘアピンを髪に留める。陽光に反射によるものか、ほんの一瞬だけ煌めいた。

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