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#57「証明が為の戦い・玖」

「――っ」


 私は見た。見てしまった。空を照らす一瞬の赤を。鮮血が飛び散るように舞う、鋼の残骸を。


 それが意味するものを理解した瞬間、階段を降りる足がぴたりと止まった。


「メイド……さん……」


 私――星野愛菜の視界に、命が枯れる様を映した。再会を約束したというのに、呆気なく遠い夢となって消えてしまった。


 面識なんてほぼ無いに等しい。でも、メイドさんは美尊君の恩人であり、こうして自らを犠牲に私の命を繋ぐ選択をしてくれた、私の恩人でもある。

 いずれは私の友達になっていた未来もあった……かもしれなかった。


「……っ」


 泣きたい。泣けと脳が全身に信号を送る。胸が苦しい。息が詰まる。膝が震える。

 でも堪える。こんな所で泣いていたら、すぐ敵に見つかって殺される。


「……行かなきゃ。美尊君の、とこに……」


 世間からしたら、私は美尊君と同じスパイという扱いなのだ。死を目前にしている今、涙を流す余裕も猶予も残っていない。


「私だって、陽翔学園の学生だもん……戦わなきゃ、前を向いて歩かなきゃ、何も変わらない……!」


 私は豪喜君や桐生君みたいに、何か特別な能力を持っているわけではない。美尊君やメイドさんみたいに殴ったり斬ったりして戦える身体能力もない。


 でも――そんな私にも、覚悟ならある。歩く足も抗う手もついている。魔術もこの数ヶ月で覚えたばかりの基本的なものに過ぎないけど、戦う手段はあるに越したことは無い。


「……待っててね、美尊君」


 意を決して私は階段を駆け降り、1階の廊下を走る。美尊君がいるであろう体育館へ、ひたすら足を動かす。


 ――その途中での事だった。



「ふぅ……もう一人の嬢ちゃん発見……てなっ」

「……!」


 さっきの爆発の影響か、黒く焦げた赤髪に右腕を失った身体に、一振りの刀を左手に持つ青年――メイドさんを倒した男、飯島刀爾(いいじまとうじ)の姿が私の眼前に立ちはだかった。


「中々に強かったぜ、あの嬢ちゃん。まさか異種族でも希少種の機械族(オートマタ)だったとはなぁ。

 おかげで右腕持ってかれちまったが、戦えねぇこたぁねぇ。嬢ちゃんの命も、ここで頂いちまうくらいには、な」

「貴方が……メイドさんを!」

「メイドさん? あぁそういや、あの嬢ちゃん、華江(はなえ)と名乗っていたな。直接本人から名前くらい聞きたかっただろうが……悪りぃな、俺が斬る方が先だったようだな」

「っ……貴方だけは、許さないっ……!」

「抵抗するのも無駄だぜ。もうあんたを逃がす手はねぇ。この鬼ごっこも、終いにしてやらぁ――――」



 天高く掲げられた刀身が煌めく。その美しさを保ったまま、容赦なく私に降り下ろされては、両断する――



「――禁忌開眼」



 瞬間、ぴたりと世界の時が止まった。私も刀爾も、突然の登場に対して空気が凍ったかのよつに動けなくなる。


 それもそのはず。何故ならその人物こそ――



「『斬空穿雨界プルウィウス・パレード』」



 美尊君が殺したと思われていた、あの海月あゆだったのだから。


「あゆ……ちゃん……?」

「あんたっ、スパイに殺されたんじゃなかったのかよ……!」 

「この俺に腑抜けた事を聞くとは随分舐められたものだな。遠野歩夢(とおのあゆむ)は既に派王である俺に取り込まれた。故に、絶対的な力を得たのだ。

 その試運転がてら、貴様らに教えてやろう。魔術の神髄を。強者に立つ者が、どういう存在なのかをな」


 にやりと派王は笑う。直後、刀爾の刀身が音もなく両断され、床に落ちた。直後、落ちた刃は塵と化し、その上に血が降りかかった。


 まるで勢いよくケチャップがかけられたかのように。


「――っ」


 私は見ていられなかった。私の目の前に立つあゆちゃんが、無数の斬撃を刀爾に浴びせている姿を。容赦なく、あゆちゃんが人殺しをしている所を見て、絶望した。


「こんなの……こんなのあゆちゃんじゃ……ないっ……!」


 ぐっと堪えたはずの涙が、溢れ出るように頬を伝った。何もかもが、嫌になった。この世界を憎みそうになった。


 徐々に壊れていくのを、身を以て理解した気がした。

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