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#55「証明が為の戦い・漆」

 陽翔学園1階 廊下――


「何のつもりだっ……桐谷っ!」

「親友の危機から救いに来た。ただそれだけですよ」


 緊迫した空気が更に張り詰める。同時に心に希望が生まれる。何たって僕の親友が来てくれたのだ。この男以上に背中を預けられる人間など、後に先にも存在しない。


「キリタニ……」

「豪喜君、僕が副会長を引き付ける。その間に美尊を連れて体育館に行って。有村先生がそこで怪我を負った生徒を治療している。彼を何としてでも治療してあげて。一刻も……速く」

「ふっ、そう易々とスパイを逃がすものか。貴様ら諸共、この私が葬ってやろう!『死鳥之羽棘(デスピアス)』!!」


 再度ふわりと羽根が宙に舞い、奏刃の身体に容赦なく黒棘を撃ち込む。血が床を染め始める。力が抜け落ちそうになった身体を両足で何とか踏みとどまる。


「っ……そう簡単に、殺させはしませんよ。誰にスパイと言われようと、彼は僕の幼い頃からの親友です。何が何でも守りますよ……」

「英雄気取りもその辺にしておくんだな。これがニチアサなら子供達全員号泣不可避だぞ?」

「英雄だなんて、一度親友を殺してしまった僕が気取る資格なんてありません。ですけど、泣いている子供の心を晴らす事くらいはしますよ。この学園を卒業して……将来、本当の英雄となるためには、ね!!」


 奏刃が刀を足元に突き刺した、その時――華凛の四肢を純白の鎖が巻き付いて動きを縛る。


縛術(ばくじゅつ)・其の一『天鎖(シャックル)』!」


 四方八方から鎖が華凛の全身を縛る中、「今だよ」と奏刃が豪喜に向かって言う。「借りは返すゼ」と豪喜は返して華凛の横を通って体育館へと走り去る。



「……縛術か。属性魔術を専門的に学ぶ1年の時点でこれを習得するとは、鳳天花も目をつけるわけだ。だがその程度で私の動きを封じれるというのなら、私も舐められたものだ。

 ならばその眼に見せるしかないな。貴様如き、一歩も動かずとも殺められるとな――――!!」

 

 背に生えていた翼が消え、無数の羽根となって舞い上がる。両者を囲うように羽根が風に揺られながら踊る。やがて雫と化しては、世界に黒が降り注ぐ。


「禁忌開眼――『雫鳥風凛神楽蜂だちょうふうりんかぐらばち』」


 黒い雨が、奏刃の頬を黒く伝う。雨特有の匂いも、冷たさも、味も無い。ただ黒いだけの、雨が降っていた。


「さぁ、好きなだけ浴びるといい。死ぬ前に最後の水分補給の時間くらいはくれてやる」

「……」


 何も感じない。何も分からない。ただ分かるのは、あらゆる感覚が雨と共に流れ去っていく事だけ。


「――(ぬら)せ、黒雫(くろしずく)


 瞬間、雨が止まる。いや、世界が秒針を止めた。一つ一つ、黒く染まった水滴がはっきり視界に映る。微かに綺麗だと感じたその時――雫は牙を向けた。


「――――っ!!?」


 蜂が毒針を突き刺すかの如く、止まった無数の雫が全て棘となって奏刃の全身を(ことごと)く突き刺した。更に華凛を縛っていた鎖も棘によって破壊され、自由の身となった。


 ――世界が元に戻ったのは、その直後だった。


「ふっ……ウニみたいな格好だな。さっきまで英雄気取りをしていた者とは思えぬな」

「……がはっ」


 黒い雨の代わりに、無数の鮮血が流れていく。脳天から頬を伝い、首筋を通って両肩と腹と背に分かれ、それぞれの道を進んで地面を終点とする。身体のどこから流れようとも、辿り着く地点は同じだった。


「……そこで見ていろ、桐谷。貴様の親友とやらが貴様と同じように死に果てる様をな」


 立ち尽くす遺体を背に、華凛は体育館へと足を運ぶ。豪喜と美尊をこの手で葬るために。学園を、日本で唯一人類が生きる北海道で――残った者達を守る英雄を志す者として。   


 誇り高き陽翔学園生徒会の副会長として。


「――ん?」


 微かに感じた違和感。後ろからだ。背後に少しだけ、熱を感じた。新手か。いや、だとしたら違和感だけで処理するはずがない。ならば知らない力か。或いは――



「はぁぁ……」

「な……にっ……!??」


 振り向いた刹那、華凛は見た。殺したはずの奏刃の右手が、親指と人差し指、中指の3本の指が、紅く燃えているのを。


「行かせません、よ……鳳凰、副会長」

「っ……桐谷貴様、まだ死んでいないのかっ……!?」

「言ったじゃ、ないですか……そう簡単に、殺させはしない、と……」


 3本の指から燃える炎が奏刃の全身を流れる血を伝い、奏刃自身を炎に包む。無数の棘を容赦なく焼き焦がす。


「何が何でも、美尊は僕が守ると……!!」


 痛みに耐えながら、一歩、また一歩と前に踏み出す。勝利を確信して去ろうとした副会長を、追い詰めるように。


「――――『焰竜之鉤爪(ロンゴミニアド)』」


 突進と同時に空を焼く炎の爪が、黒鳥の心臓へ突き出された。


「貴様っ――」


 黒鳥を爆炎に飲み込むと同時に――空が赤く燃え上がった。

 

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