『The wish of the white knight・・・』
ライアは、瞳を伏せて濡れていく石畳を見つめていた。
彼女が濡れないように、ギリクが傘をさす。ただし、自分は気にせずに雨晒しのまま歩き続ける。
「先生は。寂しがりです」
「・・・知ってる。普段は仏頂面で、平気な顔してる癖に、ひとりになるのを嫌がってんだから扱いにくい、じい様だ」
ギリクは、紺色の短髪をガシガシ、とかいてライアの言葉に賛同する。
「ドラゴンは、シャングリラの竜種の末裔で・・・。先生には、とても大事な子たちです。だから約束が嫌いな先生が約束をしてまで、守ろうとしていたのに」
「・・・歴史が事実を忘れさせても、約束は健在だ。約束って鎖に縛られてじい様は、最後には、ガカンの郊外とやらに行くだろうな」
もちろん、ザイルも向かっている頃だろう。
先に馬車で出て行ったヴァルクル公爵と女王陛下は、レイラインの収束点から、『飛躍』して現地に向かうはずだ。
「スプルスのじい様が作った塔を使って、先回りなんて、ヴァルクルのご主人様も肝が座ってんな」
ライアとギリクは、点々と残っているスプルスが通った路を追っている。
それは、スラム街に続いていた。
──、深い闇と犯罪の匂いがする魔窟に。ギリクは歯を剥き出して、腰の魔銃にふれた。
「地獄への観光旅行だ。石ころ嬢ちゃん・・・離れんなよ」
強い風が吹き、ギリクが手放した傘が曇天の空に舞い上がった。
◇◇◇
くさい。臭い。臭い。同胞の腐った肉の匂いがする・・・。
──憎い。
約束された平穏を奪われた同胞よ・・・。その怨嗟を晴らしてやろう。
祖たる竜種の一翼が──、この国で白騎士と呼ばれた、この私が。
この二つの剣で、等しく肉片に変えてみせよう・・・。
我が女王よ。赦したまえ・・・貴方の竜は、じきに・・・また狂ってしまう。
「ワタシハ、狂っても。約束を・・・」
青年の顔が薄らと記憶に浮かんだ。
「アルザック・・・。おまえとの約束を・・・。破った者を・・・ワタシハ、許せない」
スプルスは、泣いていた。
竜種という存在であることから、逃れられない自分の性に、呆然としながら涙していた。
その周囲には、財布でもいただこうと近づいた哀れな犠牲者が転がっている。
かろうじて、息はしているが──体のあちこちに朱線が引かれて、「痛え、いてえ・・・」と口々に喚いていた。




