『用心棒を連れて』
ライアは、ギリクとふたりでスプルスの痕跡を追いながら、ガカン村郊外に向かっていた。
「嬢ちゃん。今のじいさま、止められそうか?」
「止めるのが、役目なので・・・」
眉毛を八の字にして、笑うライアの頭を、ギリクは掴んで、わしわしと乱暴に撫で回す。
「つれえなら、そんときゃ俺がやる。だから、そんな顔すんな。ガキの頃からの悪い癖だぜ?」
「えへへ・・・」
「だから、笑うなってぇの」
ギリクとライアは付き合いが長い。
それこそライアが本当にコロコロと石ころのように小さい頃からだ。
「空気が湿気ってきたな」
「雨が来ますね」
ギリクは、ライアを見下ろしながら、豪雨の夜を思い出していた。忘れられないあの夜を──。
「なあ、嬢ちゃん。覚えてるか?」
「覚えてますよ。あのあと、食べさせてくれたごはん・・・すごくおいしかたですもん」
「じいさまのメシは、壊滅的に終わってるからな。台所にゃ絶対に入れられねえ」
「はい。出禁です」
そう、スプルスの料理の腕前は食の道から門前払いされているとしか思えないほどで・・・、そんなスプルスに育てられていた数年間、ライアが生き延びれたのは本当の本気で運が良かったとしか思えない。
ギリクが食べさせた黒パンにバターを塗っただけのトーストを、ボロボロ泣きながら「おいしい、おいしい」と、しゃくりあげながら頬張っていた時には、スプルスを表に呼び出して、地面に直に座らせて、「今まで何食わせてた?」と洗いざらい白状させた。
それ以来、『料理は絶対にしない』、とスプルスに約束させた。
なぜなら。
『竜種』は、『約束』を絶対視する存在だからだ。
スプルスも、例外なくこれに当てはまる。
そして、今回・・・『ドラゴン種保護条約』という約束が破られてしまった。
スプルスは今、理性よりも本能のまま、怒っている。
まだ、狂ってはいないが、それもどこまで理性が保つかわかったものではない。
「馬鹿をやった奴が、どうなろうと知ったこっちゃねえが。じいさまを迎えに行かなきゃなんねえからな・・・クソめんどくせえ」
ギリクが、ごきり、と首を鳴らすと通行人が怯えて、離れて行った。
その大きい背中の後ろをライアはうつむいて歩く。
その時。
ぽつり、と一粒の滴が、石畳に染みを作り始めた・・・。




