『酒に溺れる蛇と獅子』
「結婚式どうでした?」
「世界で二番目に美しい花嫁でしたよ。ピリカさんにご紹介いただいたエルメーヌブランドのウェディングドレスは、とても繊細なデザインのレースをふんだんに使っているのに、軽やかで。新郎も『天の御使い』そのものと、顔を真っ赤にしていました!」
世界で一番は、自分の未来の花嫁だ。
実はまだ、コレという縁はないのだが、いつか、指輪とウェディングドレスを贈りたい。
妹に付き合って、ドレスをいくつも見たが、純白だけでなく淡い色も捨てがたい。
ヴィエッタ女史は、装飾品や髪色に合わせて、コーディネートを何通りも試していた。
無論、新郎も。
引き出しから、何十種類もの飾り釦が出てきた時。
新郎の何かを諦めた表情が印象に残っている。
◇◆◇◇
「そ、っかぁ。おめでと」
先程から、ザイルの様子がぎこちないことは、目が泳ぎまくっているので、すぐにわかった。
「何か、ありましたか?」
自分を負かした青年はギクッ、と肩を跳ね上げ、赤毛の尾までゆらし、動揺を微塵も隠せていない。
わかりやすい。
「ロッゾ卿、話せないことなら、無理にはお聞きしませんが。話して楽になることでしたら、このレグにお聞かせください」
「内緒だぞ?? 内緒だかんな?!」
レグは、真剣に耳を傾ける。
……ダーイングのヤツ、婚約者にフラれた。
ザイルが蚊の鳴くような声で告げた、とんでもない事情に。
「すいません。おかわりください。──キツいやつ」
呑むしかない。コレは酒の力で記憶から消すしかない。
自分で言っておきながら、早くも前言撤回したかった。
「オレも、同じの」
ザイルも、もうヤケになっていた。
ピリカは「アンタ達、仲良いね」と、シェイカーに度数の高い酒を注ぐ。
手際よく混ぜ合わされる銀の容器の中身。
ゴブレットに注がれた二杯に、ニンジンスティックを刺したピリカが「はい、キツいやつ。『暴れ馬』、お待ちどうさま♪」
ザイルとレグは、苦笑いして、同時に出された酒を一気に飲み干した。
そして、同時にカウンター席に頭突きをかました。
ピリカは「あれ、キツすぎた?」と、一口呑んだが。
「……ん〜? キツいかな、コレ? 今度、ギリクの旦那に味見させてみるか」
(※後日、改良版『暴れ馬』を呑んだギリクは椅子ごと倒れた。ほんの少し舐めただけの他の面子も撃沈した)
『暴れ馬』を一瞥したスプルスは、刺さっているニンジンスティックを抜くと、ちびり、とかじった。
「──……。ピリカ、これの元は『デュラハン』か?」
「え!? わかるの、おじいちゃん!」
「昔、一度だけ呑んだ。オリジナルは、黒ブドウを使っていたが、コレは?」
「黒ブドウと赤ブドウの配合種。『ゴエティア』だよ」
「知らん種類だな。しかも、コレは酒ではなく劇物だ。呑ますなら薄めたほうがいい」
「旦那が倒れるとは、思わなかったの!」
「……『ゴエティア』は、どこで栽培されている?」
「それが、市場でたまたま見つけたの。出所は、わかんない。供給が少ないのかな?」
……この独特な匂い、嫌いだ。
どこかで、嗅いだことがある気がするが。
思い出せん。




