『婚約者』
「エルディング様、誠に申し訳ございません。姉との婚約を破棄してください!」
──と。
突然現れ、突然そう言ってきた相手は、リティア・ リア・ルイーシャとその姉、エスティナ・ファラ・ルイーシャ。
「何故に婚約破棄など……?」
レイゼンは怪訝な表情を浮かべる。
それに対して、エスティナは唇をかんで、うつむいてしまう。
代わりに妹のリティアが長机に身を乗り出して発言した。
「姉は、『真実の愛』を見つけたのです!!」
──その場にいた全員が固まった。
◇◇◇◆
翌日。
「いまどき、『真実の愛』か」
手土産の焼き菓子をつまみながら、お忍びの服装で石の家に来店した次期剣王ファリスタは、笑いを堪えられずにいた。
「真実の愛、って」
「いつからか流行り、いつのまにか廃れたはずなんですが」
「まだ、残ってたんだね〜」
庶民にも、貴族にも、『真実の愛』は古臭い恋愛観である。当時は支持されることもあった、が。
「私は、アレ嫌いなんですよ。親に決められた相手だからって、それをなかったことにして、『僕は彼女と幸せになるんだ』って」
ファリスタの前に、ストローを添えたアイスコーヒーを置いたルシアスは、美貌の眉を寄せている。
「だが、子爵。あのルイーシャ嬢だぞ? あのご令嬢が『真実の愛』などでダーイングとの婚約を一方的に断るか?」
「そこなんですよね〜。あの妹の方ならまだしも、エスティナ様が?……って、私も同じ考えです」
両者は社交界で、彼女の話を耳にしているし、軽い挨拶くらいは交わしている。
正直な感想は、『ありえない』。
「ルイーシャ伯爵家でお家騒動でも起きているんでしょうか?」
ウィスタードが直立不動の姿勢で、眼鏡に手を添える。
今回の一件は、どうにもおかしい。
特に、妹のリティアの態度が。
──なんせ。
「お姉様に代わって、私と婚約してください、とおっしゃっていましたね」
ライアは、紅茶の杯のふちを指でなぞる。
ミルクティーの乳白色には何もうつらない。
「……その妹君は、頭がお花畑なのか? 蝶ちょでも、とんでるのか?」
ファリスタは、心の底から呆れていた。




