中世から来た魔女は、テストを受ける。――9
ついに試験当日。
午前九時、俺はエリーをつれて月ヶ丘高校にやってきた。
日曜日なので、校舎にはほとんどひとがいない。
試験を行う視聴覚室の前で、俺とエリーは待っていた。
「ま、また緊張してきた……」
エリーが赤いプリーツスカートをギュッと握る。その体はかすかに震えていた。
ここまで努力してきた。小テストで高得点をとった。神社でお願いしてきた。
それでもやはり、直前になれば怖じ気づくらしい。まあ、仕方ないだろう。
「心配いらないよ、エリー」
俺はエリーの手に自分の手を重ねた。
エリーが縋り付くように見上げてくる。
「エリーの頑張りを見てきたからわかる。エリーは合格するってな」
「それに」と俺はさらっと告げた。
「身も蓋もない話だけど、試験に落ちても問題ない」
「……ふぇ?」
思いも寄らない言葉だったのか、エリーがポカンとする。
「試験に落ちたら、また勉強してやり直せばいいだけだ」
「……やり直す?」
「失敗しても次がある。死ぬわけじゃない。ここは中世ヨーロッパと違うんだ。ちゃんと明日がやってくる」
ニカッと歯を見せると、エリーがパチパチと瞬きをして、クスッと笑みを漏らした。
「そっか……そうだよね。試験に落ちても、終わりじゃないもんね」
「ああ。だから、落ちたらどうしようなんて考えなくていい。もっと楽しいことを考えよう」
俺は、ピン、と人差し指を立てる。
「試験に受かって学校に通えるようになったら、エリーはなにがしたい?」
「友達を作りたい! 一緒にいろいろな場所に行きたい! いっぱい遊びたい!」
「お? そうなると、俺はお役御免かな?」
「そ、そんなことないよ! わたしにとって一番大切なひとは養一なんだから!」
冗談めかして言うと、エリーはワタワタと両腕を振り回す。
クスクス笑って頭をポンポンすると、冗談だとわかったのかエリーがぷくぅっと頬を膨らませ、ぽすっと体を寄せてきた。
体当たりしたつもりだろうけど、痛くないし、ただただ愛らしい。
「緊張はほぐれたか?」
「……あっ」
俺が冗談を口にしたのが、緊張をほぐすためだと気づいたのか、エリーが目を丸くする。
「むぅ……養一はちょっとだけズルい」
「怒ったか?」
「怒れないから、ズルいの」
困ったように、安心したように、エリーが眉を下げた笑みを浮かべた。
「ありがとう、養一。リラックスできたよ」
「どういたしまして」
俺もエリーに笑みを返す。
「森戸先生、ヴォワザンさん、準備ができましたよ」
ちょうどそのとき、試験の準備をしていた教員が、視聴覚室からエリーを呼んだ。
ピン、とエリーの背筋が伸びる。
そんなエリーの肩に腕を回し、優しく抱き寄せた。
エリーの頬がほのかに赤くなるなか、俺は囁くように勇気づける。
「大丈夫だ」
「……そうだね」
白いブラウスの胸ポケットから、昨日神社で買ったお守りを、エリーが取り出した。
「神さまと養一が、見守っていてくれるもんね」
「ああ! 行ってこい!」
「うん!」
元気に頷いて、エリーが視聴覚室に入っていった。




