中世から来た魔女は、テストを受ける。――7
昼休み。俺は北條と青矢を誘って食堂に向かった。
交流のため、俺は普段から生徒たちと昼食をとっている。北条と青矢も二つ返事で俺についてきてくれた。
「今日も先生はお弁当なのですね」
「料理上手ですよねー、先生は」
廊下を歩きながら、俺の手提げ袋を目にした北條と青矢が、感心したように言う。
そんなふたりに、俺はニヒルな笑みを見せた。
「ふっ、今日の弁当は俺が作ったものじゃないぞ?」
「えっ? じゃあ、誰が?」
「彼女でもできたんですか? ついに茜井先生と結ばれたんすか?」
「なぜそこであいつの名前が出てくるか問いただしたいが、いまはこれで許してやろう」
軽めのデコピンを見舞うと、「あ痛っ!」と青矢が額を押さえる。
俺と青矢のやり取りに、北条がクスッと笑みを漏らした。
ひとつ息をつき、俺は手提げ袋を持ち上げる。
「これを作ってくれたのは断じて彼女じゃない。彼女以上に大切なひとだ」
「「……はい?」」
北条と青矢がポカンとした。
食堂につき、北条はサワラの西京焼き定食を、青矢はカツカレーを注文した。
ふたりが料理を待っているあいだに俺は席を確保する。
ややあって、トレイを持ったふたりがやってきた。
「さて。どんな献立だろうな」
席についたふたりの前で、俺はワクワクしながら弁当箱の蓋を開ける。
弁当箱のなかには、玉子焼き、唐揚げ、タコさんウインナーにマカロニサラダ、彩りにプチトマトが並んでいた。
さらに、ご飯の上には桜でんぶでハートが描かれ、「おしごとがんばって」と海苔で認められている。
エリーの心遣いに目頭が熱くなった。
ああ、頑張るぞ! エリーのおかげで、俺、頑張れるぞ!
「……見るからに愛妻弁当ですね」
「先生、結婚するんすか?」
「いや、しないぞ? どうして結婚なんて話になるんだ?」
「「この弁当を見たら誰だってそう思いますよ」」
ジト目になったふたりが声をハモらせ、溜息をつく。
なぜ俺は、残念なひとを見るような目を、教え子たちから向けられなければならないのだろうか?
「結局、このお弁当は誰が作ってくれたのですか?」
「知人から娘さんを預かっていてな、その子が作ってくれたんだよ」
北條の問いにさらりと嘘をつく。
エリーの素性も、俺が警察から預けられている状況も、生徒たちには明かせない。そこで、黛校長・悠莉と相談し、『エリー=知人の娘』ということにしたのだ。
俺は続ける。
「それで、その子――エリーについて、ふたりに相談があるんだ」
「「相談?」」
北條と青矢が揃って首を傾げた。
「表沙汰にしないでほしいんだが、エリーは近いうちにここに編入してくる。ただ、エリーはかなりの人見知りでな。クラスになじめるか不安なんだよ」
「なるほど。その子がなじめるよう、俺たちにサポートしてほしいってことですね?」
「ああ。頼めるか?」
訊くと、北條と青矢が明るい顔で頷く。
「もちろんです! わたしたちにお任せください!」
「みんな仲いいほうが学校生活は楽しいですからね」
「ふたりともありがとう。助かるよ」
ふたりが快諾してくれて、俺はホッと息をついた。
「お返しに、あとでジュースでも奢るよ」
「んー……俺はジュースよりその弁当が気になりますね。よかったら、唐揚げひとつもらえませんか?」
「……あん?」
思わずドスの利いた声が出た。
青矢がビクリと肩を跳ねさせる。
「エリーが作ってくれたおかずをよこせと? 青矢、きみはそう言ったのか?」
「進くん、謝ってください! いまの先生は我を忘れています! 早く!」
「すすすすいません、先生! 正直、なんで謝らないといけないのかまったくわからないけど、とにかくすいません!」
北条がアタフタして、青矢がペコペコと頭を下げる。
たとえ教え子であっても、エリーの手料理は譲れないのだ。




