中世から来た魔女は、テストを受ける。――6
土曜、日曜と勉強に取り組み、エリーは高一の二学期で習う範囲を修めていた。
このペースなら、テストには余裕で間に合うだろう。
あとはエリーがクラスになじめるかどうかだ。以前、スマホを買いにいったとき、店員と一言も話せなかったから……難しいだろうなあ。
溜息をつきながら、俺は月ヶ丘高校の廊下を歩き、二年一組の教室のドアを開けた。
「みんな、おはよう。席着いてくれー」
思い思いに雑談していた生徒たちが「「「「はーい」」」」と返事して、それぞれの席に戻る。
この二年一組が、俺が担任を務めるクラスだ。
教壇に立ち、俺はホームルームをはじめる。
「みんな、休みは楽しめたか?」
そこかしこから、笑顔や「はーい」との声が上がった。
俺はうんうんと頷いてから、ニヤッと口端を歪める。
「それはよいことだが、勉強からは逃れられないぞ? 木曜日に実力テストを行う。先生、張り切ってテスト作ったから期待しててくれよ?」
それまで楽しそうにしていた生徒たちが、一斉に「うげぇ」と言いたげに顔をしかめた。
「くっ! 先生! あんたには血も涙もないのかよ!」
ひとりの男子生徒が立ち上がり、拳を握って芝居がかった口調で言う。
「安心しろ。俺とて鬼じゃない。きみたちを見捨てるつもりはないさ」
「せ、先生……!」
「補習にはみっちり付き合ってやる」
「鬼ぃ――――っ!!」
男子生徒が頭を抱え、教室内に笑い声が広がった。
二年一組の雰囲気や、生徒たちの仲は良好だ。カーストやグループは存在するが、イジメや差別はない。
だから、エリーがイジメを受けることはまずあり得ないんだが……。
などと考えていると、ひとりの女子生徒がキョトンとした顔で尋ねてくる。
「先生? 黙り込んでどうしたんですか?」
「ああ、悪い悪い。ちょっと考え事をしててな。気にしないでくれ」
女子生徒の不思議そうな表情は変わらなかったが、コクリと頷き、話は流れた。
「さて。俺からの連絡事項は以上だ。きみたちからはなにかないか?」
生徒たちからの反応を待ち、誰も手を挙げないことを確認。
「じゃあ、ホームルームはここまで。一限目の準備をしてくれ」
「「「「はーい」」」」と返事が上がり、生徒たちが席を立ちはじめる。
俺もまた、一限目を行うクラスへ向かおうとして――
「っと、その前にノートを運ばないとな」
足を止め、踵を返し、教卓に積まれたノートを抱えた。生徒たちから提出された、宿題用のノートだ。
「先生、わたしたちもお手伝いします」
「結構重そうですからね」
「よっ」とノートを持ち上げたとき、ふたりの生徒が俺に声をかけた。
ひとりは、黒い艶やかなミディアムボブに、優しげな黒い目をした、中肉中背の女子生徒。
もうひとりは、ライトブラウンのちょっと癖のあるショートヘアに、アーモンド状の茶色い目をした、長身細身の男子生徒。
女子生徒の名前は北條美優、男子生徒の名前は青矢進。このクラスの中心人物とも言える生徒だ。
「おっ、悪いな」
「それは言わない約束ですよ、おとっつぁん」
「先生も歳っすからね」
「失敬な、俺はまだアラサーだ」
半眼になってみせると、北條と青矢はクスクス笑い、それぞれノートを手にとった。
北條と青矢はともに陽キャで、スクールカーストの上位。かといって威張り散らすことはなく、誰とでも分け隔てなく付き合う気さくなやつらだ。
そんなふたりを見ながら、俺は閃いた。
北条と青矢に、エリーと生徒たちの橋渡し役になってもらうといいんじゃないか?




