中世から来た魔女は、約束を果たす。――9
トンネル水槽を出ると、ちょうどイルカショーが開催される時間だった。
俺たちはイルカプールに移動し、観覧席に座ってイルカショーを楽しんでいた。
ドルフィントレーナーの女性が左手を挙げると、ステージ近くにいた二頭のイルカがプールに沈む。
ややあって、水飛沫を上げながらイルカたちが飛び出し、宙づりにされたボールを尾びれで弾いた。
隣に座るエリーが「ふわぁ!」と歓声を上げる。
「スゴいね、養一!」
「ああ。見事なもんだ」
「でも、イルカさんたちは、なんでトレーナーさんの言うとおりに動いてくれるのかな?」
「あのイルカたちはトレーナーによる訓練を受けているんだ。さっきトレーナーが左手を挙げたけど、それがジャンプのサインになっているんだよ。イルカはそのサインを理解して動いているんだ」
「とってもお利口さんなんだね!」
エリーが目を丸くして感心した。
たくさんの芸を披露したあと、トレーナーが観覧席に笑顔を向ける。
「では、ふれあいタイムを行いたいと思います! この子たちとふれあいたいひとは手を挙げてください!」
観覧席の子どもたちが一斉に手を挙げた。
エリーが頬を紅潮させる。
「イルカさんたちと触れ合えるの!?」
「みたいだな。エリーも参加したらどうだ?」
「う、うん!」
緊張した面持ちでエリーが手を挙げた。
観覧席を見渡していたトレーナーが、エリーに目を留める。
「それでは、緑のワンピースを着たそちらの女の子にお願いします!」
「わ、わたし!?」
「そうです! 金色の髪がキレイなあなたですよー!」
「やった! やったよ、養一!」
トレーナーに指名されたエリーが、見るからにワクワクした様子でこちらを向いた。
エリーにつられて笑顔になりながら、俺は手を差し出す。
「よかったな、エリー! 一緒に行こうか!」
「うん!」
満面の笑みを浮かべ、エリーが俺の手をとった。
ステージに上った俺たちを、トレーナーがにこやかに迎える。
「お名前を訊いてもいいですか?」
「エ、エリーです」
「エリーちゃん、イルカさんたちにジャンプしてもらいませんか?」
「できるの!?」
瞳を輝かせて身を乗り出すエリーに、トレーナーがニッコリ笑った。
「できますよー! 左手を勢いよく挙げてみましょう!」
「は、はい!」
エリーがバッと左手を挙げると、サインに気づいたイルカたちがザブンとプールに潜り、先ほどのように空高くジャンプしてボールを弾く。
観覧席から拍手と歓声が上がった。
「ふわぁ! ス、スゴい!」
エリーが嬉しそうにピョンピョン跳ねる。微笑ましいエリーの仕草に、俺もトレーナーも目を細めた。
ジャンプを終えたイルカたちが近づいてきて、エリーに頭を差し出す。
「言うことを聞いてくれたイルカさんたちを褒めてあげましょう!」
「はい!」
エリーが頭を撫でると、イルカたちはキュイキュイと鳴いた。エリーがふにゃりと頬を緩める。
「えへへへ、いい子いい子♪」
イルカと触れ合えてエリーはご満悦だ。そんなエリーを眺めていると、こっちまで幸せな気分になる。
イルカの癒やしとエリーの癒やしの相乗効果だな。メチャクチャ和む。
俺がほっこりしていると、トレーナーがこそっと耳打ちしてきた。
「可愛らしいお子さんですね」
どうやら俺たちは、親子と勘違いされているらしい。
それはエリーが幼く見えるからだろうか? それとも俺が老けて見えるからだろうか? 後者だとしたらショックだなあ。
俺が複雑な気分になるなか、エリーはニコニコ顔でイルカを撫でていた。




