中世から来た魔女は、約束を果たす。――6
サービスエリアを出発してから一時間、俺たちは水族館に到着した。
「ここが水族館……!」
エリーは見るからにはしゃいでいる。もしも犬だったら、尻尾をブンブン振っていることだろう。
クスクスと笑みを漏らし、俺は券売所でチケットを買った。
「さあ、行くか」
「うん!」
俺に促され、エリーが入り口に向かって走りだす。
「あまり急ぐと転ぶぞー」
「大丈夫!」
興奮を抑えきれないのだろう。幼い子どもの父親になった気分で苦笑し、俺はエリーのあとを追った。
エリーと俺は館内に入り――いきなりジンベエザメの水槽が現れた。
「ほわぁっ!!」
毛を逆立てる猫みたいに驚いて、エリーがぴゅーっと俺のもとに戻ってきて、さっと背中に隠れる。
「ななななにあれ!? も、もしかして悪魔!?」
中世らしい……というより魔女らしい感想に、思わず吹き出してしまった。
クツクツと喉を鳴らし、俺はエリーに説明する。
「あれはジンベエザメ。れっきとした魚だよ」
「ででででも、スッゴくスッゴく大きいよ!? あんなに大きな魚がいるの!?」
「ああ。だけど怖がる必要はないぞ? ジンベエザメが水槽から出てくることはないし、ああ見えておとなしい性格だから」
「ほ、本当?」
「本当だ。海で出くわしても、襲われることはまずない」
俺の背に隠れながら、エリーは怖ず怖ずとした様子でジンベエザメを窺った。
水槽ではジンベエザメが悠々と泳いでいる。気球を連想させる穏やかな泳ぎだ。
眺め続けて慣れたのか、エリーが俺の背から出てきて、少しずつ水槽に向かう。
エリーが気になったのか、それとも偶然か、ジンベエザメが近づいてきた。
エリーはビクッと身を強張らせるが、ジンベエザメが襲いかかることは当然ない。
相変わらずのんびりした動きでエリーのもとを離れ、再び水槽を回り出す。
そんなジンベエザメをジッと見つめ、エリーが水槽に触れた。
「本当だ。とってもおとなしい」
「怖くないだろ?」
「うん。怖いと思ったのは勘違いだったんだね。なんだか可愛く見えてきたよ」
強張った体と頬を弛緩させて、エリーはジンベエザメに見入っていた。
エリーの横顔を眺めつつ、俺は思う。
俺も、はじめて会ったときはエリーを怖がった。けど、エリーは全然怖くなかった。臆病で、だけど人懐っこい、可愛らしい女の子だったのだ。
いまではエリーのいない毎日なんて考えられないほどなのだから、人生はわからないものだよなあ。
しばらくのあいだ、俺とエリーはジンベエザメを眺めていた。
会話はなかったけれど、心地のいい時間だった。




