中世から来た魔女は、約束を果たす。――4
「ふわぁっ! 海だぁ!」
水族館を目指し、海沿いの自動車専用道路を車で走る。
空はカラリと晴れ、太陽の光で海はキラキラと輝いていた。絶好のドライブ日和だ。
助手席のエリーは窓に貼り付き、どこまでも広がる青い海に見入っている。
「音楽でもかけるか」
隣ではしゃぐエリーを微笑ましく思いながら、俺はカーオーディオを手早く操作する。
軽快なリズムの楽曲がスピーカーから流れはじめた。
「これが現代日本の音楽?」
「ああ。J-POPって呼ばれてる」
「とっても賑やかな音楽だね!」
流れてくる楽曲に、エリーが楽しそうに体を揺らす。
見ているだけで癒やされる。本当に、エリーの側にいると飽きないな。
エリーは次々と流れてくる楽曲が面白いのかニコニコ笑っていて、俺はそんなエリーの様子に口元を緩めていた。
数曲陽気な曲が続いたあと、どこかもの悲しい雰囲気のイントロが流れた。
back numberの『fish』。女性の切ない失恋を歌ったラブソングだ。
エリーは体を揺らすのをやめ、流れてくる楽曲に聴き入る。その表情が徐々に曇り、眉根が寄っていく。
一番のサビが終わったとき、エリーがクシャリと顔を歪め、頬に涙を伝わせた。
俺はギョッとする。
「ど、どうした、エリー!?」
「だって、この曲、とっても悲しいから……!」
ボロボロと涙をこぼしながら、エリーがグスッと鼻を鳴らした。
確かに、『fish』はフラれた女性の心境を綴っており、泣ける歌として有名だ。
おそらく、エリーは感受性が極めて強くて、曲に登場する女性に感情移入してしまったのだろう。
二番に入ってもエリーの涙は止まらない。むしろ、ますます激しくなっていく。
「つ、次の曲に行くか!」
『fish』は名曲だが、エリーには合わなそうだ。
俺は慌ててカーオーディオを操作した。
続いて流れてきた曲は――
「『Butterfly』か」
木村カエラの『Butterfly』だ。
俺はホッと息をついた。
『Butterfly』は曲調も歌詞も明るい、結婚式ソングの定番だ。エリーが悲しい気持ちになることはないだろう。
案の定、エリーは泣き止み、口元に微笑みを浮かべ――Aメロの最後にさしかかったとき、カアッと顔をリンゴ色にした。
んん? またしても不可解な反応なんだが?
「顔が赤いぞ、エリー。体調でも悪いのか?」
「ふわっ!? そそそそんなことないよ!」
エリーがビクッと肩を跳ねさせて、ブンブンと勢いよく首を振る。
「た、ただ……想像しちゃって……」
「想像? なんの?」
尋ねると、エリーの顔はさらに赤くなった。
モジモジと指と指を合わせ、「あぅ~~……っ」と可愛らしく唸る。
エリーは感受性が高く、曲の登場人物に感情移入できる。『Butterfly』は結婚式ソングだから、想像するとしたら――
「花嫁になったとこ?」
「ほわぁっ!!」
エリーが目と口をまん丸にした。
「ここここの話は終わりっ!」
「そう言われると余計に気になるんだが」
「終わりったら終わりなのぉ――――っ!!」
珍しくエリーがむくれている。頬をぷくっと膨らませる仕草はフグみたいで愛らしいが、これ以上追求してエリーに嫌われたら堪らない。
俺が「わかったわかった」と苦笑すると、エリーは胸を撫で下ろした。
それにしても、やっぱり気になるな……花嫁になったところをエリーが想像していたとしたら、隣にいたのは誰なのだろう?
俺はウェディングドレス姿のエリーを思い描く。その隣にいる人物を想像し、なぜだかモヤモヤした気分になった。
なんだこの気持ち? エリーを誰かに渡したくないから? いわば親心ってやつか?
残念ながら、モヤモヤの正体に俺は気づけなかった。




