中世から来た魔女は、約束を果たす。――1
起床した俺とエリーは、洗面所で並び、シャコシャコと歯を磨いていた。
俺に引き取られた当初、エリーは歯磨き粉の風味に目を白黒させていたが、いまは平気な様子で、一本の一本丁寧に歯を磨いている。
口をゆすぎ、ミントの香りで口内をサッパリさせてから、俺はエリーに尋ねた。
「今日の朝ご飯はなにが食べたい?」
「えっとね? そのことで養一に相談あるの」
同じく口をゆすいだエリーが、俺を見上げつつ頼む。
「朝ご飯を作るの、わたしに任せてもらえないかな?」
意外な提案に、俺は目をパチクリさせる。
「構わないけど、どうしたんだ?」
「わたしはこれからも養一のお世話になるから、助けになることをしたいと思って」
健気すぎる返答に、俺はジーンとした。
自分が世話になるからといって卑屈にならず、できることはやりたいという姿勢! 素晴らしい!
俺が感動していると、エリーが胸元でギュッと拳を握る。
「クックパッドってところでレシピを調べたから、自分の力で作れるよ! もちろん、まだまだ養一から習いたいけど」
エリーがフンスフンスと鼻息を荒くした。一目でやる気満々とわかる仕草だ。
クックパッドを利用すれば、料理のレパートリーも充分だろう。俺はニッコリ笑ってエリーに答える。
「わかった、任せるよ。ありがとうな、エリー」
「えへへへ」
俺に頼られて嬉しいのだろう。エリーが両頬に手を添えて、ユルユルな笑顔を浮かべた。
「ただし、今回は隣で見守らせてもらうぞ。エリーのキレイな肌に傷がついたら困るからな」
「あ、あぅ……よろしくお願いします」
エリーの顔がリンゴ色になった。
着替えを終えてキッチンに移動し、エリーはミントグリーンのワンピースのうえにエプロンを装着した。
何度見てもエリーのエプロン姿は可愛らしい。こんな嫁がほしいものだ。
「じゃあ、はじめるね?」
エリーが冷蔵庫から具材を取り出す。
卵にみりん、白だし、味噌と豆腐。さらにレンジとトースターが置かれた棚から、顆粒だしと乾燥わかめ。
「和食か?」
「うん! 玉子焼きとお味噌汁だよ」
どちらも日本の朝食の定番。一日のはじまりにぴったりな品目だ。
「養一は日本人だから、やっぱり和食がいいかなって」
「エリーの気遣いが身に染みる……!」
感激する俺にクスクスと笑みを漏らして、エリーは調理台の上にある棚から金属製のボウルを取り出し、卵を手にした。
コンコンとボウルの縁で卵にヒビを入れ、エリーは殻を割ろうとする。
「はわっ!?」
しかし、初心者には卵を割るだけでも難しいものだ。力加減を間違えたのか、エリーはぐしゃりと殻を潰してしまった。
「ご、ごめんなさい!」
「殻さえ取り除けば大丈夫だよ」
菜箸を手に取り、俺は卵液に混ざってしまった卵の殻を丁寧に除いていく。
「少しずつ上達していけばいいんだ。失敗しても気にしなくていい」
「うん……ありがとう」
俺と立ち位置を入れ替え、再びエリーは卵割りに挑戦した。
慎重に卵に力を込め――パカッと殻が開く。
ボウルに落ちたキレイなお日様に、エリーがパアッと破顔した。
「やった!」
「上手いぞ、エリー! よくやった!」
俺がグリグリと頭を撫でると、にへーとエリは頬を緩める。
卵を割り終え、続いてエリーはみりんをボウルに投入する。
計量スプーンを真剣な目で見つめながらみりんを計るエリーを眺め、俺は想像した。
これから、エリーとふたりで調理することもあるだろう。考えるだけで幸せになる。素晴らしい未来が俺を待っているのだ。
俺の口元は自然と笑みを描いていた。




