中世から来た魔女は、ひとりじゃない。――6
日が暮れるまでさまよい歩き、気づけばわたしは、この前養一が連れてきてくれた、公園にいた。
あのときは子どもたちが遊び回っていたが、いまは誰もいない。
夜の公園にあるのは、暗がりと虫の声だけだった。その状況に、自分はひとりぼっちなのだと思い知らされ、涙が溢れる。
わたしはベンチにうずくまり、震えた。
もう、養一と一緒に暮らせない。
もう、悠莉と一緒にお風呂に入れない。
水族館に行く約束も果たせない。
スマホを失い、ふたりとの繋がりも絶えてしまった。
二度と養一には会えない。会ってはいけない。そんなこと許されない。
わたしは、養一の迷惑にしかならないのだから。
それでも、神さまにひとつだけ願えるのなら――
「養一の……側にいたい……っ」
「なら、側にいてくれ」
わたしは勢いよく顔を上げた。
「やっと見つけたぞ、エリー」
歪んだ視界に、一番会いたかったひとが映った。
わたしの前に、養一が立っていた。
○ ○ ○
額の汗を拭い、荒い呼吸を整える。
憔悴してはいるが、エリーの体に傷はない。どうやら、事件に巻き込まれたわけではないらしい。
俺は胸を撫で下ろし、エリーに手を伸ばした。
「大丈夫だったか、エリー?」
「――――嫌っ」
その手がはらわれ、俺は瞠目する。
エリーが俺を拒む理由がわからない。呆然とする俺の前で、エリーはボロボロと涙をこぼしていた。
「わたしは……養一と一緒にいちゃ、ダメなの……」
「そ、そんなわけないだろ! なんでそんなこと言うんだよ!?」
「だって、わたしを育てるのにはお金がかかるんでしょ!? 養一の生活を妨げてしまうんでしょ!?」
思わず声を荒らげた俺に、叫ぶようにエリーが答えた。
エリーの叫びを聞いて、俺は悟る。
おそらくエリーは、ネットで知ってしまったのだ。自分を育てるのに、かなりの費用がかかることを。
エリーは、自分の養育費で俺の暮らしが困窮するのを恐れた。だから、俺から離れようと考えたのだろう。エリーは優しい子だから。
俺はエリーを宥めようと、穏やかな声で説く。
「確かに、エリーを育てるにはお金がかかる。けど、貯金は充分あるんだ。俺の生活が不自由になることはない」
「でも! わたしが迷惑かけてるのは変わらないよ! わたしを育てるためのお金で、養一はいっぱい楽しいことができるんでしょ!?」
「前にも言ったと思うが、俺はエリーが迷惑をかけてるなんて思ってない。エリーは俺の看病をしてくれたし、いまは家事を手伝おうと頑張ってくれてるじゃないか。それに、エリーの笑顔は俺の癒やしなんだ。俺にとってエリーは、お金なんかよりも大切な、かけがえのない存在なんだよ」
「でも……でも……っ!」
エリーは渋った。俺がどれだけ労っても、養育費がかかることに変わりはないから、仕方ないと思う。
だから、俺は打ち明ける。エリーを助ける理由を伝える。
「俺さ? 子どもの頃、イジメを受けていたんだ」
「……え?」
エリーが唖然と呟いた。
「ひとりぼっちになって、自分はこれからどうなってしまうんだろうって、途方に暮れていた。そんな俺を清香先生が助けてくれた。だから、俺は教師になったんだ。俺みたいに苦しむやつは、いてはいけないから」
サファイアの瞳を、俺は真っ直ぐ見つめる。
「エリーは、イジメを受けていた頃の俺と同じなんだ。ひとりぼっちで途方に暮れている。それなのに、放っておけるはずないだろ? 我が身可愛さに子どもを見捨てて、そんな教師になんの価値があるんだ」
もし、それでも納得できないなら、
「いつか誰かを救ってくれ。清香先生に救われた俺のように。清香先生が救ってくれたおかげで、俺はエリーを救えたんだから」
エリーの目が見開かれた。
「この社会で生きられるようになって、エリーが誰かを救ってくれたら、そんなに嬉しいことはないよ。俺は、誰かを救いたくて教師をやってるんだからな」
エリーの唇が震える。
「わたし……養一の負担になるよ?」
「負担だなんて思わない」
「養一に迷惑かけちゃうよ?」
「迷惑だとも思わない」
「なにもできないんだよ?」
「これからできるようになればいいさ」
俺はエリーに笑いかけた。
「だからさ? 側にいてくれよ、エリー。俺はエリーと一緒にいたいんだ」
「…………うん……っ」
エリーが俺に抱きつく。
もう絶対に離れたくないと言わんばかりに、ギュッと抱きしめてきた。
泣きじゃくるエリーを、俺は包み込むように抱きしめる。
「帰ろう、エリー」




