中世から来た魔女は、楽しむ。――7
「養一、これはなに?」
俺に渡された機器を、エリーが興味深げに眺めていた。
「それはコントローラーといって、ゲーム機で遊ぶための道具だ」
「『ゲーム』は『遊び』のことだよね? そっちはわかるけど、『機』ってどんな意味?」
「機械のことだ。現代では機械を使い、テレビでゲームができるようになったんだよ」
テレビ台にしまっていたニン○ンドースイッチを取り出し、テレビに接続する。
テレビにホーム画面が映り、俺はソフトのなかから、ぷよ○よを選んだ。
ぷ○ぷよを選んだのは、暴力シーンがないからだ。
魔女狩りに遭ったエリーは、異端審問官に殺されかけている。あの頃の記憶を呼び起こさせないため、アクションや対戦は避けるべきだろう。
「これからするのはパズルゲームだ。とりあえず、俺がやるのを見ててくれるか?」
頷くエリーの隣で、俺はひとりプレイをはじめる。
CPUとの対戦が開始され、ぷ○ぷよが上から落ちてきた。
「この丸っこいやつを、色が合うようにくっつけるんだ。同じ色が複数くっつくと、こうやって消える」
「ふわわっ!? これ、養一が動かしてるの!?」
「ああ。コントローラーを使ってな」
エリーがテレビ画面と俺の手元を交互に見る。好奇心が刺激されたのだろう。エリーの目はキラキラ輝いていた。
「で、丸っこいのが消えたら、相手のエリアに丸っこいのが追加で落ちる。自分のエリアにある丸っこいのが、てっぺんまで届いてしまったら負けだ」
「なるほどー」
その後、連鎖(これの説明もエリーにした)を駆使してCPUに勝利した俺は、エリーにコントローラーを渡した。
「エリーもやってみないか?」
「う、うん」
緊張した様子でコントローラを握り、エリーがCPUとの対戦をはじめる。
「え、えっと、この棒で丸っこいのを動かして、同じ色をくっつけて……」
俺が教えた操作方法を呟きながら、エリーがぷよ○よを操る。
エリーの体は、スティックを右に倒せば右に、左に倒せば左に傾いた。初心者がよくやる、コントローラーと体が連動して動くあれだ。
レースゲームとかアクションゲームとかでは見かけるけど、ぷ○ぷよでなるとは思わなかったな。
思わずクスクスと笑みを漏らしてしまったが、ゲームに夢中になっているのか、エリーは気づかない。
やがて、エリーが一連鎖をしてみせる。
「や、やった!」
「上手いぞ、エリー! その調子だ!」
俺とエリーは、パチン! とハイタッチした。
五分後、イージーモードながらもCPUに勝利し、「やったーっ!」とエリーが万歳した。
「ゲームって面白いね! 丸っこいのを連続で消せたら、なんでかわからないけど気持ちいいよ!」
「はじめてにしては上出来だったぞ。次は俺と対戦してみないか?」
俺が言った瞬間、紅潮していたエリーの顔が一気に青ざめる。
「よ、養一と対戦!? わたし、いけないことしちゃったの!? 養一と争うなんて嫌だよ!」
どうやら、対戦を『争い』――『ケンカの類い』と勘違いしてしまったらしい。心優しいエリーゆえの考え方だ。
俺は苦笑して説明する。
「ここで言う対戦は『争い』じゃなくて、鬼ごっことかと同じ『じゃれ合い』だよ」
「怖いことじゃ、ないの?」
「怖くもつらくも痛くもない。勝っても負けても楽しいだけだ。対戦ってのは、仲がいいからやるものなんだ。一緒に楽しむものなんだよ」
エリーの表情から怯えが消え、代わりに明るさが現れた。
「じゃあ、わたし、養一と対戦する! 養一とわたしは仲良しだもんね!」
「今日も俺の天使が可愛い……っ」
それから二〇分が経ち――俺は愕然としていた。
「バ、バカな……!」
連呼される『ばよ○~ん』のボイス。次々と消えていくエリーサイドのぷ○ぷよ。
おじゃ○ぷよが雪崩のように降ってきて、一瞬で俺のエリアが埋め尽くされる。
「やった! 勝ったーっ♪」
無邪気に喜ぶエリーは、なんと二〇連鎖を達成していた。プロでも目が飛び出るレベルだ。
はじめは手加減していたが、途中から本気を出さざるを得なくなり、それでもここ三戦は俺がボロ負けしている。
エリーの才能を俺は身をもって感じた。学習力と成長速度が桁違いだ。チート能力と言ってもいい。
「俺では、もはや手も足も出ない……!」
「ふわっ!? か、勝ったらダメだった!?」
コントローラーを落として天を仰ぐと、エリーがアワアワと慌てる。
「養一、わたしのこと、嫌いになっちゃう?」
「そんなわけあるか。ビックリしているだけだよ」
心配そうに上目遣いするエリーに、俺は笑いかけた。
「エリーはもっと自分を誇っていい。ゲームをはじめたばかりなのに二〇連鎖できるやつなんて、きっとエリー以外にいない。スゴい才能だ。エリーは俺の自慢だよ」
優しく頭を撫でると、エリーはホッと息をつき、ニパッと破顔する。
「養一にそう言ってもらえて、わたし、嬉しい! ゲームって楽しいね!」
「俺も楽しかったぞ。いい息抜きになった。またやろうな」
「うん! 約束!」
俺とエリーは笑い合い、小指と小指を絡ませて、指切りげんまんした。
ポケットのスマホから通知音が鳴ったのは、そのときだ。
スマホを確認すると、LINEのアイコンが映っている。
LINEのチャット画面を開き、俺はハッとした。
『清香:そちらに用事があって向かうのですが、よかったら、明日、お茶しませんか?』
メッセージを見て、俺は呟く。
「清香先生、こっちに来るのか。久しぶりだな」
「清香先生って、誰?」
頬を緩める俺に、エリーがコテンと首を傾げる。
俺は答えた。
「聖清香さん――俺を救ってくれた、恩師だよ」




