中世から来た魔女は、楽しむ。――6
「今日は肉じゃがという料理を作ります」
「はい! 先生、よろしくお願いします!」
エリーにスマホを買った日の翌朝。朝食を終えた俺とエリーは、エプロンをつけてキッチンに立っていた。
ちなみに、今日のエリーは白いシャツにピンクのカーディガンを羽織り、ベージュのロングスカートをはいている。可愛くも落ち着いたコーディネートだ。
「初の日本食でエリーには馴染みがないと思うが、とてもおいしいので安心してくれ。なにを隠そう、俺の好物でもあるしな。エリーも気に入ると思う」
「養一の好きな料理なら、わたし、頑張って作るね!」
「むんっ」と拳を握って張り切るエリー。
微笑ましい仕草に癒やされつつ、俺は材料を冷蔵庫から取り出し、カウンターに並べた。
「まず、ジャガイモとニンジンの皮を剥き、ジャガイモは角切りに、ニンジンは乱切りにする」
「うん!」
俺とエリーはピーラーでジャガイモとニンジンを剥いていく。
はじめて使うピーラーで皮を剥きながら、エリーは「ほわぁ……!」と感心していた。
「ピーラーって便利だね! 包丁を使わなくても、簡単に皮を剥けるなんて」
「これも人類の英知が編み出した発明品だな」
皮を剥き終わり、続いて俺はネギを手にした。
俺の肉じゃがでは、タマネギではなくネギを使う。タマネギには特有の匂いがあるが、ネギにはそれがなく、甘みがタマネギ以上に出るからだ。
加えて、白滝をお湯で洗っておく。こうすることで、白滝の嫌な臭いを消すことができる。
「よし、下ごしらえは終わりだ。続いて具材を炒めていくぞ」
フライパンにサラダ油を引き、エリーに木べらを渡した。
エリーは「はい!」と元気よく返事をして、IHクッキングヒーターの前に立つ。
「最初は豚肉から炒める。豚肉に焦げ目がついてきたら、ジャガイモ、ニンジン、ネギ、白滝を投入する」
具材を炒めたエリーが、先日作ったラタトゥイユと同じ要領で、豚肉から出た油を具材に絡ませた。
「油を絡ませ、しばらく炒めたのち、醤油、白だし、砂糖、日本酒を加える。あとは蓋をして四〇分煮込むだけだ」
「水は入れないの?」
「ああ。野菜や白滝から出る水分を使う。無水調理という調理法で、具材の味が凝縮された肉じゃがになるんだ」
はじめて知った調理法なのだろう。「へぇー!」とエリーが目を丸くした。
「そうだ! 愛情も入れないといけないよね!」
調味料を加えながら、「おいしくなーれ、おいしくなーれ」とエリーが繰り返す。ラタトゥイユを作った際に教えたポイントを、エリーは律儀に守っていた。
その姿を眺めながら、俺はしみじみと思う。
娘がいたら、こんな感じなのかなあ。
肉じゃがは、煮込んだあと一旦冷ましたほうが、具材に味がしみておいしくなる。
肉じゃがを冷ますあいだ、俺とエリーはそれぞれ勉強と仕事に励んだ。
正午前に肉じゃがを再び温め、俺とエリーはリビングダイニングで昼食をとる。
「「いただきます」」
俺たちは手を合わせ、俺は箸で、エリーはスプーンでジャガイモをとった。
ジャガイモはきつね色になっており、見ているだけでヨダレが出てくる。
俺とエリーは同時にジャガイモを口にして、顔をほころばせた。
「うん。よくできてる」
「ジャガイモがほこほこで、甘辛くて、野菜のうま味を全部吸ってるね!」
「気に入ったか? エリー」
「うん! 日本食っておいしいね!」
エリーが肉じゃがをおかずに白米を頬張り、「んーっ♪」と幸せそうに目を細める。見ているこっちも幸せになる笑顔だ。
「ふたりで食べるとよりおいしいな。ひとり暮らしが長かった分、こうしてエリーと食事するのは癒やしになるよ」
「わたしも、養一と一緒にご飯食べられて幸せ」
俺とエリーはほっこりした気分で笑い合った。
「これで料理のレパートリーが増えたな。午前中しっかり勉強して、小学校で習う算数もマスターした。偉いぞ、エリー」
「えへへへ。褒められちゃった」
撫でられた猫のように目を細めるエリーに、俺は提案する。
「エリーはいつも頑張ってくれてるから、午後は息抜きをしよう。現代の娯楽でな」




