中世から来た魔女は、楽しむ。――5
スマホを購入し、マンションに戻ってきて、俺はリビングダイニングのソファで、エリーにスマホの使い方をレクチャーしていた。
「液晶画面に触れるのをタップ、タップしたまま指を滑らせるのをフリックという。で、キーボードをこうやって滑らせるとフリック入力ができる。やってご覧?」
「う、うん」
エリーが俺の真似をして、メモアプリにフリック入力で文字を打ち込む。
たどたどしい手つきだが、あ・い・う・え・おの五文字を入力できた。
「次はアプリを使ってみよう。ひとまず、俺に貸してくれるか?」
エリーからスマホを受け取り、俺はアプリストアを開いた。
俺の隣に座るエリーに液晶画面を見せながら、アプリストアから便利なアプリをいくつかインストールしていく。
「養一、アプリってなに?」
「スマホで使える道具みたいなものだ」
「アプリはどうやって手に入れるの?」
「いま俺がしてるように、ネットを介して入手するんだよ」
「なにもないところから道具が手に入るの!? ど、どうなってるの!?」
エリーが紅潮した顔をズイッと寄せてくる。キンモクセイみたいに甘い匂いが、俺の鼻をくすぐった。
「アプリが物体じゃなくて情報だから。そして、世界中のスマホやパソコンがネットで繋がっていて、情報のやり取りができるからだよ。情報にかたちはないから、ネットで簡単にやり取りできるんだ」
「物体じゃなくて情報? ネット?」
大量の『?』をエリーが浮かべる。
プスプスと、エリーの頭から湯気が上がるエフェクトが見えた。理解が追いつかず、混乱しているのだろう。
「たとえば、テレビは別の場所の出来事を映せるだろ? あれは、映像を情報に変えられるからできることなんだ。現実世界の出来事や物体は、工夫すれば情報に置き換えることができるんだよ。そして、ネットってのは世界規模の情報通信網のことだ」
「じょーほーつーしんもー?」
「中世ヨーロッパにはギルドってものがあっただろう? あれは商人とか職人とかの限定的な繋がりだったけど、この時代では情報でのやり取りができるようになったから、世界規模のギルドを作れるようになったんだ」
「は、半分もわかってないと思うけど、現代の技術がとんでもなくスゴいことだけはわかった!」
中世出身のエリーにとって、ネットの概念は理解しづらいようだ。電気すら発見されてない時代なんだから、仕方ないだろうけど。
「まあ、世界中の人々が繋がれるようになったってことだけわかってくれればいいよ」
アプリのインストールを終えた俺は、LINEを開き、初期設定をしていく。
「世界中の人々が?」
「ああ。もちろん、俺も悠莉もエリーも、繋がれる」
スマホを返した俺は、自分のスマホを取り出し、液晶画面に指を滑らせる。
「百聞は一見にしかず。実際にやってみようか」
仕上げにタップして――エリーのスマホが通知音を上げた。
「ふわっ!?」と、エリーが肩を跳ねさせる。
仰天する仕草に笑みをもらし、俺はエリーに促した。
「その、緑色の丸をタップしてご覧?」
「え、えっと、こう?」
エリーがアイコンをタップすると、LINEが開く。
表示された画面に、エリーが目を見開いた。
『養一:スマホデビューおめでとう! これからもよろしくな、エリー!』
LINEのグループチャットに表示されているのは、俺からのメッセージ。
通知音がすぐさま鳴り、悠莉からのメッセージも届く。
『悠莉:エリーちゃん、スマホ買ってもらったの!?』
『養一:驚いたか、悠莉! エリーはきっと、すぐにスマホを使いこなせるようになるぞ! なにしろ天才だからな!』
『悠莉:親バカ! とにかくおめでとう、エリーちゃん!』
悠莉が、万歳する猫のスタンプを貼り付ける。
次々に表示されるメッセージを、エリーが食い入るように見つめていた。
「スマホがあれば、たとえどれだけ離れていようと繋がれる。一緒にいられるんだ。エリーはひとりじゃない。俺たちが、ひとりにさせない」
「養一……悠莉……」
液晶画面に、エリーの涙がこぼれ落ちる。
エリーはくしくしと涙を拭い、覚え立てのフリック入力で、メッセージを作成した。
『エリー:養一も悠莉も大好き! ふたりに出会えて、わたし幸せ!』
『養一:ぐはぁっ!』
『悠莉:ぐはぁっ!』
あまりの愛らしさに俺と悠莉が悶えるなか、エリーはスマホを胸に抱いた。
俺たちの繋がりが、宝物だと言うように。




