中世から来た魔女は、楽しむ。――4
エリーを車に乗せて、走ること約一〇分。俺は目的地の駐車場に車を止める。
エリーは車の窓から、目的地の建物を眺めていた。
「着いたぞ、エリー」
「ここはどこ? 養一」
「携帯ショップだ」
俺の目的地は、大手携帯会社の支店。そして、その目的は――
「エリーにスマホを買ってあげようと思う」
「スマホって、養一と悠莉が使ってる、板みたいなあれ?」
「ああ」とポケットからスマホを出すと、エリーがしげしげと見てくる。
「現代人にとって、スマホは手放せないほど重要なものなんだ。これ一台あれば、連絡を取り合うだけじゃなく、情報収集・代金支払い・時刻の確認、それに、カメラっていう発明品の、代わりにもなる」
「こんな薄い板でそこまでできるの!?」
「そのうえ、スマホは電子書籍っていう本にもなるんだ。しかも、たった一台で、何十・何百・何千冊もの本が読める」
「それ一台で、何千冊も!?」
「驚くのも無理はない。電子書籍が発表された当初は誰もが疑ったからな。けど、いまでは紙の書籍並みに普及している。電子書籍が紙の書籍を追い越す日も近いだろう」
「ス、スゴい! 文明って本当にスゴいんだね!」
心から感嘆したように、エリーが両手をグーにして、「おおっ!」と口を丸くした。
「スマホはそれだけ便利なんだ。エリーもきっと気に入る」
「けど、そんな便利なものをわたしがもらっていいの?」
エリーが申し訳なさそうに肩をすぼめる。エリーは俺に気を遣うところがあるから、今回も遠慮しているのだろう。
俺はニカッと歯を見せた。
「もちろんだ。エリーは毎日勉強を頑張っているし、俺のために家事も習ってくれてるしな。これくらいのご褒美はあるべきだよ。値段もそこまで高くないし」
「本当に、いいの?」
「ああ。スマホがあれば連絡を取り合えるし、エリーがもらってくれれば、俺も悠莉も安心できる」
俺の話を聞いて、エリーの顔つきから不安がとれる。
明るい表情で、エリーがコクリと頷いた。
「養一と悠莉が安心してくれるなら、わたし、スマホが欲しい!」
「うんうん。遠慮しすぎないくらいがちょうどいいんだ」
俺は目を細め、さらさらな金の艶髪を、慈しむように撫でた。
自動ドアをくぐって携帯ショップに入ると、エリーが興味津々な様子で店内を見渡した。
はじめて見るものに、好奇心が刺激されたのだろう。
キョロキョロと視線を廻らせるエリーに、営業スマイルを浮かべた店員が声をかける。
「いらっしゃいませ、どのようなご用件でしょうか?」
「ほわわっ!?」
急に声をかけられて驚いたのだろう。エリーが俺の背中に隠れた。
俺や悠莉には心を開いているが、知らないひとに対してはまだ怯えが残っているらしい。人見知りというやつだ。
俺は苦笑して、店員に用件を伝える。
「スマホを買いにきたのですが、機種を眺めてもいいですか?」
「構いませんよ。こちらへどうぞ」
接客を心得ているらしい。店員はエリーの人見知りを気にせず、スマホが展示されている一画まで俺たちを案内し、「ごゆっくり」と別の客の対応に向かう。
エリーがホッと胸を撫で下ろして、俺の背後から出てきた。
「さて。どのスマホがいいかな?」
俺はエリーとともにスマホを見て回る。
性能を確かめながら、俺は顎に指を当てた。
「はじめてのスマホだから、性能よりも使いやすさ優先かなあ……エリーは気になるやつ、あるか?」
エリーが「うーん」とスマホを見渡し、「あっ!」と声を上げる。
「これがいい!」
「一世代前の機種だな。気に入ったのか?」
「うん! これ、養一が使ってるのと同じだから!」
エリーが元気よく頷く。
言われてはじめて気がついた。エリーが選んだスマホは、俺と同じ機種だ。
エリーが、二へー、とゆるゆるな笑顔を見せる。
「これだと、養一とおそろいでしょ?」
「エリーはどこまで可愛いんだ……っ!」
エリーが愛おしいあまり、俺は目元を覆ってプルプル震えた。




