中世から来た魔女は、楽しむ。――3
ラタトゥイユを食べ終え、調理器具や食器を洗ったあと、俺は午前中に買ってきた、小学校の算数の教科書を取り出す。
「さ。今日も勉強をはじめるか。エリーは小学校卒業レベルの漢字力を身につけたし、教科書の内容も理解できるはずだ。今日は算数に挑戦してみよう」
「……あのね、養一。わたし、考えたの」
ノリノリで教科書を見せる俺に、エリーが真剣な表情をした。
「今日は、わたしひとりで勉強してみる」
「え? 大丈夫なのか?」
「養一の言うとおりなら、わたしはひとりでも教科書を読めるから、大丈夫だと思う」
エリーがグッと拳を握り、「それに」と続ける。
「わたしは甘えすぎたくないの。養一の邪魔をしたくない。養一は、養一の仕事をしてほしいの」
確かに、エリーはかなり上手く日本語を扱えるようになった。ひとりでも、教科書があれば算数の勉強はできるだろう。
それに、滞っている、実力テストの問題作成をできるのはありがたい。
エリーの気遣いに感謝しながら、「わかった」と俺は頷く。
「エリーの厚意に甘えるよ」
「うん! お互い頑張ろうね!」
「ああ!」と返事をして、少し名残惜しいが、俺はリビングダイニングをあとにし、仕事部屋へ向かった。
○ ○ ○
睡眠不足の解消・体力の回復・エリーの気遣いが相まって、問題の作成はサクサク進んだ。この調子なら、休み明けのテストに間に合うだろう。エリーには感謝しかない。
その後、昼食をとり、俺はエリーの勉強の成果を確認していた。
「相変わらずエリーは、俺の想像をあっさり超えていくなあ……」
エリーの勉強ノートをめくりながら、俺は感嘆の息をつく。
「足し算と引き算は覚えるだろう。もしかしたら、かけ算も習得するかもとは思っていたが……割り算に、倍数と約数、分数までマスターするとは、思ってもみなかった」
倍数・約数・分数は、小学校五年生で習う範囲だ。これらを午前中だけで、しかもひとりで習得したとは信じられない。
「ちゃんとできてる?」
「完璧だ。テストを受けても高得点を取れると思う。エリーはやっぱりスゴいな!」
「えへへへ」
俺に頭を撫でられて、エリーはご満悦な顔をした。
喜ぶエリーを眺め、俺はかねてより計画していたことを実行しようと決める。
「ひとりでも頑張れたエリーに、ご褒美をあげよう」
「ご褒美?」と、エリーが頭の上に『?』を浮かべる。キョトンとするエリーも可愛らしい。
口元を緩め、俺は告げた。
「エリーに渡したいものがあるんだ」




