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中世から来た魔女は、楽しむ。――2

 三〇分後。蓋を開けると、湯気とともに(かぐわ)しい香りが、フライパンから立ち上った。


「いい匂いー♪」

「あとはコクと香り付けにバターを一欠片(ひとかけら)投入して完成だ」


 エリーがバターを加え、「完成ー!」と万歳(ばんざい)する。


「さあ、皿に盛り付けよう」


 俺がスーププレートを手渡すと「うん!」とエリーが受け取り、おたまでラタトゥイユをすくう。


 スーププレートにラタトゥイユを盛り、エリーはご満悦(まんえつ)な表情をした。


 俺のほうを向いて、エリーがスーププレートを両手で差し出す。


「じゃあ、どうぞ!」

「ん? 一緒に食べないのか?」


 二枚目の皿を渡そうとしていた俺は、エリーの発言に戸惑(とまど)う。


 エリーは眉を下げながら笑った。


「わたし、養一に食べてほしくて作ったから」


 なんとも健気(けなげ)で嬉しいが、どこか遠慮(えんりょ)している気がする。俺が風邪を引いたことを引きずっているのかもしれない。


 余計(よけい)気に()んでしまうかもしれないのであえて指摘せず、俺は苦笑した。


「せっかくだし一緒に食べよう。はじめて作った料理だから思い出になる」


 それに、


「ひとりより、ふたりで食べたほうがおいしいだろ?」


 エリーはキョトンとしてから、ふわりと柔らかく微笑む。今度は心からの笑顔だった。


「うん! そうだね!」


 俺が渡したもう一枚の皿に、エリーが鼻歌を(かな)でながらラタトゥイユを(よそ)った。





 リビングダイニングに移動して、俺とエリーは手を合わせた。


「「いただきます」」


 俺はスプーンでラタトゥイユを口に運ぶ。


 咀嚼(そしゃく)する俺を、エリーが少しだけ不安そうな目で見ていた。


 しばし味わい、俺は口を開く。


「うまい」

「本当!?」


 エリーがパアッと顔を輝かせた。


「ああ。よくできてるぞ。エリーも食べてご(らん)?」


 エリーもラタトゥイユを口にして、目を丸くする。


「……おいしい」

「だろう? これ、エリーが作ったんだぞ? エリーはちゃんと料理ができる子なんだ」


 俺が笑いかけると、エリーの頬を涙が伝った。


 思わぬ涙に、俺は動転する。


「エ、エリー、どうした? なにか悲しいのか!?」

「ううん。嬉しいの」


 涙を(ぬぐ)い、エリーが口元を緩めた。


「養一がおいしいって言ってくれて、はじめて養一の役に立てたんだって思えて、とってもとっても嬉しいの」

「……そんなことない」


 俺は首を横に振る。


「え?」と、エリーが戸惑いを見せた。


「はじめてじゃない。エリーは、俺が風邪を引いたときに看病してくれたし、仕事をする俺を気遣(きづか)ってくれただろ?」

「けど、養一が風邪を引いたのはわたしの所為(せい)だし、気遣うだけでなにもしなかったよ? わたし、養一になにもしてあげられなかったよ?」

「俺はいっぱいもらってるよ」


 申し訳なさそうに眉根(まゆね)を寄せるエリーに、俺は穏やかに伝える。


「エリーが笑ってくれるたび、お礼を言ってくれるたび、胸の奥がポカポカするんだ。エリーの笑顔は俺に元気をくれる。俺は充分(じゅうぶん)お返しをもらっているんだよ」


 エリーが「あ……」と(つぶや)き、なおも涙を流しながら、


「ありがとう、養一。大好き」


 タンポポみたいな、優しい笑顔を咲かせた。

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