中世から来た魔女は、勉強する。――3
情報番組が終わり、俺はエリーを車に乗せて出かけた。
『ヨーイチ、どこに行くの?』
『主に子どもたちが遊ぶ、公園って場所だ』
そして、その理由は、
『エリーに見せたいものがあってな』
助手席のエリーが、『見せたいもの?』と小首を傾げた。
マンションから少し離れた場所にある公園には、休日というだけあって、たくさんの子どもが遊んでいた。
滑り台を順番に滑る子ども。
芝生を走り回り、サッカーボールを蹴り合う子ども。
母親と一緒に花の冠を作る女の子。
父親と一緒にキャッチボールする男の子。
その様子を、俺たちは四阿から眺めていた。
エリーは楽しそうに遊ぶ子どもたちに――平和を享受する子どもたちに見入っていた。
俺がエリーに見せたかったものは、この光景だ。悲しみも憎しみも争いもない、平和な世界を見せたかったんだ。
俺とエリーがいる四阿に、サッカーボールが転がってくる。
「すみませーん! それとってくださーい!」
サッカーボールを蹴って遊んでいた男の子が駆け寄ってきた。
いきなり走ってきた男の子に戸惑ったのだろう。エリーの体が強張る。
『心配ないよ、エリー。ボールを渡してあげな?』
サッカーボールをエリーに渡し、ポンポンと優しく肩を叩いた。
『ど、どうぞ』
俺に励まされたエリーは、おっかなびっくりではあったが、サッカーボールを両手で男の子に差し出す。
サッカーボールを受け取った男の子が、笑顔を浮かべた。
「ありがとう! お姉ちゃん!」
男の子の言葉はわからないだろうが、感謝の気持ちは伝わったのだろう。駆けていく男の子の背中をジッと見て、エリーはふわりと微笑んだ。
『ステキな笑顔……あんな顔をするひと、わたしの時代にはいなかった』
『現代日本では争いはまず起きないし、世界も確実に平和に向かっている。まだ環境が劣悪な国はあるけれど、多くの人々が彼らを救おうと活動している』
俺はエリーに提案した。
『なあ、エリー? きみもここで生きてみないか?』
『……わたしのお母さんはね? わたしが七歳の頃、魔女だってバレたの』
答えの代わりに、エリーが昔語りをはじめる。
『お父さんはお母さんを裏切って、教会に告発した。その所為で、わたしたちは異端審問官に追われる羽目になった。わたしとお母さんは異端審問官に捕まらないように各地を転々としながら、薬を売ってなんとか暮らしていたの』
『……そうか』
『けど、ついにお母さんが異端審問官に殺されて、それからはずっとひとりで逃げていた。ずっとずっと、ひとりぼっちだった』
『……そうか』
つらかったな、とか、さみしかったな、とか、軽々しくは言えなかった。エリーが負った苦しみは、俺の想像より遙かに大きいだろうから。
訳知り顔で慰めるなんて真似、失礼すぎてできなかった。
『わたしの時代には、ひもじい思いをするひとが溢れかえっていたの。争いや疫病が頻繁に起こっていて、誰かが死んじゃうのは当たり前だった。昨日隣にいたひとが今日いないなんて、ありふれたことだった。けど、ここは違うんだね。とっても暖かくて、とっても穏やか』
それに、
『ヨーイチが、側にいてくれる』
エリーが俺を見上げる。
青い瞳には、わずかに涙が滲んでいた。
『ねえ、ヨーイチ? わたし、ここで生きていけるかな?』
『生きていけるさ。生きていけるようにしてみせる』
俺は右手を差し出す。
『俺が手伝うからさ? 一緒に生きていこう』
エリーの頬を涙が伝った。
小さな小さな手が、俺の右手をそっと握る。
『うん! よろしくお願いします!』
泣き笑い顔で、エリーが頷いた。




