中世から来た魔女は、勉強する。――2
ベーコンエッグとトーストは、エリーに大好評だった。
エリーは終始幸せそうに『おいしい♪ おいしい♪』とありつき、あっという間に平らげてしまった。
あれだけおいしそうに食べてくれたら、作った甲斐があるというものだ。
朝食をとり終えた俺は、エリーを手招きしてソファに座らせる。
『いまからテレビを見よう』
『テレビってなに?』
『あれだよ』
可愛らしく首を傾げるエリーに、俺は正面にあるテレビを指さす。
コテン、とエリーが逆方向に首を傾げた。
『あの薄くて黒い、窓みたいなもの?』
『そうだ』と答えながら、中世の人間にはテレビが窓に見えるんだなあ、と面白い発見をする。
『テレビを見る……鑑賞するってこと? あれは芸術品なの?』
『いや。まあ、百聞は一見にしかずか』
俺はテーブルのリモコンをとって、エリーにニヤリと笑ってみせる。
『驚くなよ?』
電源ボタンを押すと、パッとテレビの画面に、朝の情報番組が映される。
エリーが『ふわっ!?』と体を跳ねさせた。
『ま、窓が別の場所と繋がった!?』
あわあわとするエリーは、ニュースを読み上げるアナウンサーに『お、おはようございます!』と挨拶する。
驚きながらも律儀に挨拶したエリーに、俺は思わず吹き出した。エリーは純粋で、礼儀正しい子だなあ。
『エリー、あれは別の場所と繋がっているんじゃない』
『そ、そうなの?』
『ああ。実際、あのひとはエリーの挨拶に無反応だろ?』
当たり前だがエリーに挨拶を返さず、アナウンサーはニュースを読み上げ続ける。
『確かにそうだね。けど、それならどうして、ここからあのひとが見えるの?』
『テレビは、離れた場所で起きている出来事を映し出しているんだよ』
エリーが頭の上に、大量の『?』マークを浮かべた。
『ど、どういうこと?』
『エリーが挨拶したあのひとは、別の場所でニュースを――この世界で起きている出来事を伝えている。テレビは、あの場所で起きている光景を、俺たちに届けてくれているんだよ。テレビはそういう道具なんだ』
『ほわぁ……』
エリーが感心したように口を大きく開ける。
『魔女のわたしが言うのもなんだけど、魔法みたいだね!』
『文明の利器ってやつだな』
『けど、別の場所で起きていることを、離れているわたしたちにどうやって届けているの?』
『電波を用いてるんだよ』
『電波? 聞いたことない言葉』
『中世ではまだ発見されてないからな。この世界にはエネルギーっていう力があって、現代の人間はエネルギーを上手く扱えるようになったんだよ。さっきの冷蔵庫やIHクッキングヒーターも、電気っていうエネルギーで稼働しているんだ』
『エネルギーってスゴい!』
エリーが胸元で両手をグーにし、フンスフンスと鼻息を荒くしている。
中世の人間にとって、現代の機器を受け入れるのは難しいだろう。その昔、日本にカメラが伝わった際、『カメラに撮られると魂が抜ける』なんてデマが広まったくらいだし。
けれどエリーは、俺の説明に反論も反発もせずに受け止め、テレビに映る情報番組を、興味深げに眺めていた。半端なく素直な子だ。
いや、もしかしたら、教えてくれたのが俺だからかもな。この時代に飛ばされて、最初に味方になった相手だし。仮にそうだとしたら小躍りしたいほど嬉しいな。
俺が口元を緩めているあいだにも情報番組は進み、水族館特集がはじまった。
水族館の魅力を語る人々や、ライトアップされた水槽、星屑のように水槽を泳ぐ、色とりどりの魚たちが映し出される。
『みんな笑ってる……それに、とってもキレイ』
エリーは映し出される光景に釘付けになっていた。
『気になったのなら、いつか水族館に連れていくよ』
『いいの!?』
エリーがパアッと顔を輝かせる。
だが、直後には『あ……』と呟き、シュンと肩をすぼめた。
『どうした、エリー?』
『わたし、ヨーイチにお世話になってばかりだし、贅沢言ってもいいのかなって思って……』
うわあ! メチャクチャいい子だ! 本当は行きたくて堪らないのに、俺に気を遣って遠慮するなんて!
感動すら覚えながら、俺はエリーの頭を撫でる。
『遠慮する必要なんかない。エリーはこれまでにいっぱいつらい思いをしてきただろ? だからこそ、これからは幸せに暮らさないといけないんだ。つらい思いを帳消しにして、おつりが来るくらいにな。エリーが喜ぶなら、いくらでも連れてくよ』
俺は右手の小指を差し出した。
『エリーも小指を立てて?』
『こう?』
『で、俺の小指と絡めるんだ』
俺の小指とエリーの小指が絡まる。
『これは指切りげんまんって言って、約束の証なんだ』
『約束……』
『ああ。約束だ。俺はエリーを水族館に連れていく。そのときは、一緒に楽しもうな』
絡められた小指と、俺の顔を交互に見て、エリーがふわりと微笑んだ。
『うん、約束! ありがとう、ヨーイチ!』




