表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/55

中世から来た魔女は、勉強する。――2

 ベーコンエッグとトーストは、エリーに大好評だった。


 エリーは終始(しゅうし)幸せそうに『おいしい♪ おいしい♪』とありつき、あっという間に(たい)らげてしまった。


 あれだけおいしそうに食べてくれたら、作った甲斐(かい)があるというものだ。


 朝食をとり終えた俺は、エリーを手招きしてソファに座らせる。


『いまからテレビを見よう』

『テレビってなに?』

『あれだよ』


 可愛らしく首を傾げるエリーに、俺は正面にあるテレビを指さす。


 コテン、とエリーが逆方向に首を傾げた。


『あの薄くて黒い、窓みたいなもの?』


『そうだ』と答えながら、中世の人間にはテレビが窓に見えるんだなあ、と面白い発見をする。


『テレビを見る……鑑賞するってこと? あれは芸術品なの?』

『いや。まあ、百聞(ひゃくぶん)一見(いっけん)にしかずか』


 俺はテーブルのリモコンをとって、エリーにニヤリと笑ってみせる。


『驚くなよ?』


 電源ボタンを押すと、パッとテレビの画面に、朝の情報番組が映される。


 エリーが『ふわっ!?』と体を跳ねさせた。


『ま、窓が別の場所と繋がった!?』


 あわあわとするエリーは、ニュースを読み上げるアナウンサーに『お、おはようございます!』と挨拶(あいさつ)する。


 驚きながらも律儀(りちぎ)に挨拶したエリーに、俺は思わず吹き出した。エリーは純粋で、礼儀正しい子だなあ。


『エリー、あれは別の場所と繋がっているんじゃない』

『そ、そうなの?』

『ああ。実際、あのひとはエリーの挨拶に無反応だろ?』


 当たり前だがエリーに挨拶を返さず、アナウンサーはニュースを読み上げ続ける。


『確かにそうだね。けど、それならどうして、ここからあのひとが見えるの?』

『テレビは、離れた場所で起きている出来事(できごと)を映し出しているんだよ』


 エリーが頭の上に、大量の『?』マークを浮かべた。


『ど、どういうこと?』

『エリーが挨拶したあのひとは、別の場所でニュースを――この世界で起きている出来事を伝えている。テレビは、あの場所で起きている光景を、俺たちに届けてくれているんだよ。テレビはそういう道具なんだ』

『ほわぁ……』


 エリーが感心したように口を大きく開ける。


『魔女のわたしが言うのもなんだけど、魔法みたいだね!』

『文明の利器(りき)ってやつだな』

『けど、別の場所で起きていることを、離れているわたしたちにどうやって届けているの?』

『電波を用いてるんだよ』

『電波? 聞いたことない言葉』

『中世ではまだ発見されてないからな。この世界にはエネルギーっていう力があって、現代の人間はエネルギーを上手(うま)く扱えるようになったんだよ。さっきの冷蔵庫やIHクッキングヒーターも、電気っていうエネルギーで稼働(かどう)しているんだ』

『エネルギーってスゴい!』


 エリーが胸元で両手をグーにし、フンスフンスと鼻息を荒くしている。


 中世の人間にとって、現代の機器を受け入れるのは難しいだろう。その昔、日本にカメラが伝わった際、『カメラに撮られると魂が抜ける』なんてデマが広まったくらいだし。


 けれどエリーは、俺の説明に反論も反発もせずに受け止め、テレビに映る情報番組を、興味深げに眺めていた。半端(はんぱ)なく素直な子だ。


 いや、もしかしたら、教えてくれたのが俺だからかもな。この時代に飛ばされて、最初に味方になった相手だし。仮にそうだとしたら小躍(こおど)りしたいほど嬉しいな。


 俺が口元を緩めているあいだにも情報番組は進み、水族館特集がはじまった。


 水族館の魅力を語る人々や、ライトアップされた水槽(すいそう)星屑(ほしくず)のように水槽を泳ぐ、色とりどりの魚たちが映し出される。


『みんな笑ってる……それに、とってもキレイ』


 エリーは映し出される光景に釘付けになっていた。


『気になったのなら、いつか水族館に連れていくよ』

『いいの!?』


 エリーがパアッと顔を輝かせる。


 だが、直後には『あ……』と呟き、シュンと肩をすぼめた。


『どうした、エリー?』

『わたし、ヨーイチにお世話になってばかりだし、贅沢(ぜいたく)言ってもいいのかなって思って……』


 うわあ! メチャクチャいい子だ! 本当は行きたくて(たま)らないのに、俺に気を(つか)って遠慮(えんりょ)するなんて!


 感動すら覚えながら、俺はエリーの頭を撫でる。


『遠慮する必要なんかない。エリーはこれまでにいっぱいつらい思いをしてきただろ? だからこそ、これからは幸せに暮らさないといけないんだ。つらい思いを帳消(ちょうけ)しにして、おつりが来るくらいにな。エリーが喜ぶなら、いくらでも連れてくよ』


 俺は右手の小指を差し出した。


『エリーも小指を立てて?』

『こう?』

『で、俺の小指と絡めるんだ』


 俺の小指とエリーの小指が絡まる。


『これは指切りげんまんって言って、約束の(あかし)なんだ』

『約束……』

『ああ。約束だ。俺はエリーを水族館に連れていく。そのときは、一緒に楽しもうな』


 絡められた小指と、俺の顔を交互に見て、エリーがふわりと微笑んだ。


『うん、約束! ありがとう、ヨーイチ!』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ