中世から来た魔女は、勉強する。――1
エリーを引き取った翌日から、四月末の連休+開校記念日+ゴールデンウィークで計一週間の、連休がはじまった。
現代日本の生活に慣れさせないといけなかったので、エリーにつきっきりで面倒を見られるこの一週間は、都合がいい。
『氷がないのにひんやりしてる!?』
『それは冷蔵庫っていう、食品を保存するための道具だ』
『火がないのにベーコンが焼けている!?』
『これはIHクッキングヒーターっていう、加熱調理するための設備だ』
『ほわぁ……現代日本ってスゴいんだね!』
キッチンにて朝食の支度をする俺の傍らで、昨日と同じ水色のワンピースに着替えたエリーが、キラキラと瞳を輝かせて家電製品を眺めている。
どうやらエリーは好奇心旺盛のようだ。いちいち驚く様子が可愛らしくて、俺の頬が緩む。
昨日の夜を境に、エリーは大分明るくなった。おそらく、信じられる味方ができて、孤独から解放されたからだろう。
もしひとりぼっちのままだったら、家電製品にも恐怖を示していたかもしれない。
興味津々とキッチンを見回すエリーを微笑ましく思いながら、俺はフライパンに卵を割り落とした。
ベーコンからにじみ出た油により、ジュワッ、と小気味よい音が上がる。
フライパンから漂う食欲をかき立てる香りに、エリーが鼻をヒクつかせ、そわそわしはじめた。
『できあがりが待ち遠しいか、エリー?』
『うん! この時代の料理は、わたしの時代のものよりも、ずっとずっとおいしいから!』
『まあ、文明レベルが段違いだからなあ』
『それにね? ヨーイチの料理を食べると、胸がポカポカして幸せな気持ちになるの! だから、スッゴく楽しみ!』
見ているだけで癒やされる、ヒマワリみたいな笑みをエリーが咲かせる。
手放しで褒められて、俺はむず痒い気分になった。
熱くなる頬を誤魔化すため、俺は話を逸らす。
『現代日本はいいとこだぞ? 国民の生活を国が保証してくれるから、生活が困窮しているひとは生活保護が受けられるし、障害を負っても福祉制度が援助してくれる。国民が健康的な生活を送れるように、公衆衛生も完備されているしな』
『せーかつほご? ふくしせーど? こーしゅーえーせー?』
単語の意味がわからなかったらしい。エリーがコテンと首を傾げる。
『簡単に言えば、「最低限の幸せな生活が送れるよう、国が応援してくれる」ってことだ。少なくとも、現代日本に住んでる限り、餓死することはまずない』
俺が説明すると、エリーが目をまん丸にした。
『ス、スゴい! わたしの時代では、貧困も死も当たり前で、領主は領民から搾取することしか考えてなかったのに……!』
エリーが、感心に切なさを一滴垂らしたような、複雑な笑みを浮かべる。
『現代日本はとても優しい場所なんだね……わたしの時代とは大違いだよ』
エリーの笑みに含まれる切なさは、自分の生活を思い出してのものだろう。
一五世紀は中世の後期。その頃ヨーロッパでは、疫病や飢餓が蔓延し、巨大権力は腐敗し、不満を爆発させた民衆が暴動を頻発させていたとされる。
暗黒時代と称される中世のなかでも、特に過酷な時期だ。
俺と出会ったときに着ていた、ぼろ切れのようなエリーの衣服が、そのむごたらしさを物語っている。エリーはこれまで、地獄のような日々を送ってきたのだろう。
だからこそ、俺は思う。
エリーを現代日本で生きられるようにしてあげたいと。
だからこそ、俺は願う。
エリーには現代日本で幸せになってほしいと。




