いつの間にか巻き込まれてる重大事件
その後何度か兵士たちに見つかったものの、そのたび隠れ、あるいはカムナが音楽の魔法で兵士たちを昏倒させ、何とか逃げることができた。
というか別に追いつかれてもカムナが歌えば逃げられるのだから、急ぐ必要はなかったのでは?
そう言ったら「爺様のように耐性があったり、君みたいな魔力ポンコツが混ざってたらどうするんだ」と正論で返された。
正論だけど魔力ポンコツってなんだよ。
「少年のように魔力が無さ過ぎる故に魔力に鈍感で、そのせいで魔術の効果も鈍くなる人間だよ。普通は魔力があるほど魔術耐性は高くなるから、一種の変種だね」
「変種とな」
何だそのもはや人類とは別枠みたいな扱い。
しかしもしかしてそれ貴重な才能なのでは?
そう聞いたが、少し耐性がある程度で完全無効化とかはできないし、むしろいくら鍛えても耐性が伸びないことが約束されているので、少し珍しいな程度の変種らしい。
ちょっと「俺にこんな隠された力が!」的な展開を期待したのに秒で終わった。
「アルフ爺さんに耐性があるのは魔力があるからなんだろ。じゃあ魔法とか使えるんじゃないのか?」
「前も言っただろう。魔術の知識は魔法ギルドが独占していて、一般人は学ぶことも知ることもできないんだよ。爺様なら立場的に望めば可能だったろうけど……」
「まあかじったことはあるがな。飽きた」
「……」
アルフ爺さんの言葉にカムナが口と目を歪めて「このクソ爺」と言わんばかりの顔してる。
最近慣れてきたせいかカムナが表情豊かだなあ。
変な顔が多いけど。
ちなみに歩きながらアルフ爺さんの話も少しずつ聞いたが、石工だというのは半分本当だったらしい。
何でも今では大公なんて地位に居るけど、元は父親と大喧嘩して家出みたいに出奔した身だとか。
そして石工ギルドに知り合いがいたので、匿ってもらいながら仕事をしていたと。
どんだけアグレッシブなんだよ。
父親と大喧嘩して家出というのはなんかアルフ爺さんらしいけど。
「いや本来なら家督を継ぐはずだった兄ともそりが合わなくてな。あんな家で一生を終えるのはごめんだと縁を切る覚悟で出たわけだ」
「あー」
確かにこの爺さん気に入らなかったらとことんやりあうタイプっぽいしなあ。
むしろ職人気質な石工とかよくやれてたな。
「でだ。わしが若い頃は凪の時代が終わりそれなりに経っておったが、対処法が確立しておらんせいか突如現れた魔物に街が占拠されるということが度々あったのだ。だが当時もこの国は呑気に内戦なんぞしておってな、人同士で争っていて街の解放なぞろくに進まん」
「そこで義勇兵を率いて魔物から街を解放していったのがこの爺様というわけだよ。その後もさっさと内戦を終わらせろとばかりに、先々代の王の側について快進撃。この国では珍しい正統派の英雄として民衆からも大人気というわけさ」
「え? この爺さんが?」
「この爺様が」
「なんじゃその疑いの目は」
いやだって全然そんな英雄って感じしないし。
というかそれ「気に入らんやつはぶん殴る」が魔物や王様の敵にも適応されただけでは。
しかし街を解放していった。ということはもしかしてリオの街で出て来たフーハンたちに「鬼」と呼ばれていたのは。
「まあ目につく限り皆殺しにしてやったからなあ」
「あー」
そりゃ鬼とも呼ばれるだろう。しかし街が占拠されたということは、住人にも犠牲者がかなり出ただろうしなあ。
多くの犠牲を出しながら解放した街に、性懲りもなくフーハンが出て来た挙句に我が物顔で振る舞っていたからあんだけキレたわけか。
「まあそんな経歴の大公様だから、今回の反乱に加わってるなんて宣伝は、ほとんどの人間が信じてなかったわけさ」
「あーなるほど。じゃあ何で一人で逃げてんだ? 大公なら配下の軍とかいるんじゃないのか?」
「うむ。見事に裏切られたな」
「ええ……」
え? 仮にも大公様の配下が裏切ったの?
それ具体的にどのあたりの部分まで?
末端の兵とかは平民だから「大公はそんなことしない」派だろうし。
「もう家令も副官も結託して、わしに薬を盛って監禁し勝手に名前を使って好き放題よ。そこまでするなら完全に廃人にするか殺さんあたりが甘かったがなあ」
「ええ……」
「この国はそういう国だと言っただろう」
本当にやりたい放題過ぎてドン引く俺に、冷めた声で言うカムナ。
家令って使用人の長だよな。
そんな家の中取り仕切ってる人間まで裏切ったのかよ。
話しを聞く限りアルフ爺さんに人望がないわけでもないだろうに。
「まあそういうわけでな。本気を出せば裏切者を潰して自軍の奪還もできたのだろうが、もう色々と疲れた」
「あー」
要するに「もうこんな国の面倒見てられるか!?」とキレたんだな。
確かに自軍取り返してもそれからまた面倒そうだしなあ。
「まあせめて最後にこの内乱を止めるきっかけ程度は作ろうかとな。ジレントの人間にはそれなりに伝手がある故に、このままジレントに亡命して『わしそんな反乱に加わっとらんもんね!』と宣伝し、やつらの大義名分を奪ってやろうかと」
「そんな軽いノリでいいのか」
「その軽いノリで全てがご破算になりそうだから、彼ら必死に兵を差し向けてるんだよ」
そうだった。
ん? ちょっと待てよ。
俺もしかして今一国の命運を左右しかねないことに協力してる?
「良かったね少年。この国の歴史書にちらっと名前が載るかもしれないよ」
「本当にちらっとしか載らなさそうだな」
なんなら載ったとしても「大公は旅の吟遊詩人の助けを借り亡命を成功させた」みたいにカムナ主体で書かれて、俺の存在消えてるやつだろ。
わざわざ書く必要もないし。
「いや。今後少年が有名になれば『実はあの人間が』とピックアップされるかもしれないよ」
「いや別にされんでいいわ」
別に俺有名人になりたいわけじゃないし。
そんな話をしながら、俺たちはジレントの国境沿いに広がる森の奥深くへと進み続けた。




