爺さんの正体
本職の兵士の機動力を甘く見ていたかもしれない。
あの後話し合う暇すらなく街を追われ荒野へと走り出したわけだが、撒いても撒いても兵士たちが追ってくる。
いや。どう考えても同じ部隊の兵士とは思えないので、もしかして複数の兵士たちから追われているのか。
既に国中に指名手配とかされてるんじゃないかコレ。
「一体何をやらかしやがったこの爺!?」
ほぼ一日中逃げ続けて、俺たちは荒野を抜けて草原地帯に辿り着き、まばらに生えた木の影で休憩をとっていた。
いやマジで夜更けに逃げ出したのに日が出ても逃げ続け、そろそろ日が沈む頃合いだぞ。
自分がこんなに長時間歩き続けるとか知らなかったし、知りたくなかったわ。
「ハッハッハ。わしがやらかしたのは否定せんが、おまえさんたちまで追われてるのは、交渉すると見せかけて逃げたからじゃろう」
「え……あー。言われてみれば」
「ごまかされるな少年。そもそもの発端はその爺だ」
「……そうだった!」
あの兵士連れのおっさんが来たのは、アルフ爺さん絡みだと聞いたばっかりだった。
ついでに神父様が解錠教えてくれた時に言ってた「もしかすれば旅先で人助けのために、勢いで貴族に逆らって投獄されるかもしれませんし」という言葉がほぼ当たってたことを思い出す。
まさか神父様はこの手のトラブルに巻き込まれるの予想してたのか。
「まあここまで来ればジレントまではあと少しだ。気張れ少年」
「ええ……。というかジレント共和国? までもっとあるんじゃなかったのか?」
確か前にカムナが「このペースなら一ヶ月」と言ってたような。
もしかしてアルフ爺さん基準では一ヶ月はあと少しなのか。
老い先短いんだから時間は大切にしろよ。
「街を経由せずにこの国の実効支配地域から抜けられるという意味ではもう少しだよ。見ての通り草木がちらほらと生え始めてるだろう。ジレントとカンタバイレの国境には、広範囲に深い森が広がっていてね。そこに入ってしまえば逃げるのも楽になるということだよ」
「えーと。もしかして厳密に国境線ひいて警備とかしてないのか?」
「厳密にやるには森が邪魔だし国境線が長すぎるね。まあそれでもジレント側は魔術師の手が有り余ってるから厳重だ。その点はたびたびジレント側からカンタバイレへと抗議が入ってるね」
「あー……」
それ要するに、カンタバイレ側の警備がガバガバだから、不法な越境が多いという事か。
というか吟遊詩人のカムナはともかく、俺国境越えられるのか?
身分を証明するものとかいらないの?
「その辺りは私の同行者という事で通るよ。これでも何度かジレントには行ってるし、実績はあるから融通はきくはずだ」
「ええ……。そんなんでいいのか」
もしかして俺がイメージしてる、城塞が建ってて兵士が厳重警戒してる国境って間違いなのか。
いや場所によってはあるのかもしれないけど。
「ともあれ。本格的な休憩を入れるのは森に入ってからの方がいいだろうね」
「あーまあ俺は大丈夫だけど」
「ああ。アルフレド大公閣下もそれでいいね?」
「誰!?」
なんか突然カムナの口から飛び出した名前と爵位に思わず叫んだ。
いや少し考えれば分かる。分かるけれども。
ちょっと飲み込むには大きすぎるからちょっと待って。
「……何故このタイミングで言ってしまうかのう」
「隠す意味もないだろう。それにいい加減に少年の『何故何教えて』という目線が鬱陶しいんだよ」
「俺そんな目してたの!?」
確かに「カムナって神父様みたいに物知りだなー」とは思ってたけれども。
そんな鬱陶しくなるほど教えてオーラ出してたか。
というか問題はそこではなく。
「……大公?」
「ああ。前に言っただろう。今この国で起きている内乱の原因。幼子な王の母親が実権握ってるのが気に食わない連中が、大義名分のために担ぎ出した死に損ないの大公閣下だよ」
「……それ俺が聞いてもいいやつ?」
「もう手遅れだから諦めるしかないね」
そう肩をすくめながら言うカムナ。
確かにアルフ爺=大公なら、それ追っかけてるおっさん部隊に認知された時点で手遅れだな!
でも仮にアルフ爺さんが大公でも現在に至る背景が全く分からないんだが。
「まったく。おまえさんら黒の民は、情報通なくせにどこにも所属せんから警戒されるんじゃ。味方にはなりづらいし、万が一にも敵になれば恐ろしい」
「旅芸人を装った草なんて私たち以外にも掃いて捨てるほどいるだろう。それに武人肌で政争嫌いな大公閣下が、あんな内乱に加わるはずがないという噂は市井の民にも流れてたよ」
「そうか……。そう思われる程度には、わしの行いは評価されていると喜ぶべきか」
そう呟くと、何やら考え込むように目を閉じるアルフ爺さん。
というか石工名乗ってたのは結局何だったんだ。
あれでカムナも正体にあたりがついたみたいだし、まさか大公なのに本当に石工やってたのか。
「さて行くかの」
「説明なし!?」
そして何やら決意したように膝を叩いたと思ったら、立ち上がり歩き始めるアルフ爺さん。
いやこれ以上情報詰め込まれても俺も困るけれども。
「話なら歩きながらでもできるじゃろう。今は一刻でも早くこの国を出んとな」
「……まあいいけど」
確かに話し込んでいる内に兵士たちに見つかったら本末転倒だ。
荷物を背負い直すアルフ爺さんに続いて、国境沿いにあるという森目指して歩き出した。




