第14話
先週中に投稿したかった…
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〝忘れられた森〟――。かつて栄華を誇った、とある種族の亜人が暮らしていたと言われる森で、そこには、数多くの朽ち果てた遺跡が遺されている。
ご丁寧に脅迫文と一緒にしてあった地図を頼りに、〝食人主義者の祭典〟のアジトに向かって、スグルたち7人は走り続ける。
出現するモンスターは、ほぼすべてを、片っ端から先頭を駆けるタカが一刀のもとに切って落としてしまう。撃ち洩らしたり、運よくタカの剣閃を掻い潜ったモンスターがいても、そのすぐ後ろにいるシュウとユウの2人が丁寧にカバーする。
実際に目の当たりにすると、〝牙狼の騎士団〟の実力は本物だった。団長であるタカはもちろん、シュウとユウの2人も椿に匹敵するほどの力を持っているだろう。
――全く。何が助ける、だよ。自分の実力考えてから言えって感じだよな。
前を走る3人の力を見て、スグルは思わず苦笑してしまった。
「すごいですね。ほとんど一撃ですよ」
琴葉が感嘆する。
「〝牙狼の騎士団〟といえば、規模も実力もエバーランドの中では、トップクランの1つだからな」
椿がスグルたちに説明してくれる。
「シュウ先輩とユウ先輩まで、あんな強いとは思わなかったな、スグ」
「聞こえてんぞ、コラ」
ボソッ、とスグルに話しかけてきた龍司の声を、耳聡く聞いていたシュウが、両手斧を背負いなおしながら、振り向きざまに怒鳴りつける。
「ロールが上級ロールでこそないが、俺達はクランの団長と副団長とチーム組ませてもらってるんだからな。お前らなんかとは実力が違うんだよ、実力が」
巨大なカエルのような姿をしたモンスターを両手持ちのハンマーで吹っ飛ばしたユウも、振り返ってシュウに続いて怒鳴ってくる。
ちなみにシュウとユウのロールはそろって、〝戦士〟――。エバーランド内でもかなりオーソドックスなロールの1つである。間接的な攻撃手段などは一切持たず、ロール固有の特殊なアビリティも持たないが、その代わりに様々な武具が装備可能であり、強力な威力を持つ戦闘アビリティを多数習得し、圧倒的な近接戦闘能力を誇る。
タカは魔剣士、シュウとユウは戦士、そして今はここにいないがマサも、スグルが覚えている限りでは、確か武器としてグローブを装備していたので、おそらくは近接戦闘を得意とする類のロールであると思われる。つまり、このチームは〝牙狼の騎士団〟の中で、最も近接戦闘に特化したチームなのだろうか。
そこまで考えて、ふとスグルは1つのことに思い至り、聞いてみた。
「先輩たちは、戦闘中の回復どうしてたんですか?」
「ウチは回復役が少ねーから、ほかのチームにまわしてんだよ。俺達は完全にアイテムで回復してる。今年の勧誘じゃ、回復系のロール来てくれなかったからな」
「あ……、え~と。そのぉ……すいません」
琴葉が申し訳なさそうに俯く。
「いや――、こっちこそ悪かったよ、あの時は……」
スグルと龍司が琴葉が気にする必要はないと、声をかけようとした――。しかしそれよりも早く、ユウが申し訳なさそうに、謝り、シュウもバツが悪そうな顔をする。恨みを持っているだろうと思っていた半年前の出来事について、意外にもシュウとユウの方から謝罪を受けて思わず、スグル、龍司、琴葉の3人は顔を見合わせる。
「もうすぐ着くぞ、気を引き締めるろ」
半年前のわだかまりが溶解していき、和やかな雰囲気になりつつあった瞬間、先頭のタカが前を向いたまま、咎めるように言う。言われてスグルが前方に視線を向けるとそこには、何年もかけて風化していったのであろうレンガ造りの門があり、その奥には、植物のツタに覆われた、古めかしい遺跡が、スグルたちを待ち構えていた。遺跡にあるほとんどの建造物は、風化し崩れてしまっていたが、中央に建つ崩壊を免れているドームのような建物の中に、7人はタカを先頭に飛び込んでいった。
ドームの中は、何もない空間が広がっていた。まるで石でできた学校の体育館のようなところだった。所々に開いている、サッシもガラスも張られていない、窓のような場所からそそがれる太陽の光が、何もない空間を照らし出している。
「おまえら……、何で来てんだよ」
薄暗くて、よく見えなかった、部屋の奥のほうからマサの、唸るような声が聞こえてきた。スグルたちが駆け寄り、縛られている状態のマサを見つけ、縄を解いてやる。
「罠ってことぐらい、わかるだろうが!何でノコノコ来てるんだよ」
縄を解かれている間も噛み付くようにマサは喚いていた。
「じゃぁ、逆に聞くが……、お前ならどうしてた?」
縄を解き終わってから、タカがマサに尋ねるとマサは、それは……その、と言いよどむ。
「マサ先輩、大丈夫ですか」
タカの質問でおとなしくなったマサに、椿が無事を確かめるように聞いた。
「いきなり、麻痺喰らわされて、縛られていただけだから、LPも減ってないし問題は――って、椿?何でお前らまでいるんだよ」
そこでやっとスグルたちの存在に気がついたようで、マサは説明を求めるようにタカに視線を向けるが、タカは知るか、というように首をすくめる。
しかたなく、スグルが説明しようとしたところへ、別の声が響いてきた。
「これはこれは、お早いお付きですね。なかなか勇敢な方たちのようだ」
深く、芯に響いてくるようでありながら、何処か少年のような幼さも残す、不思議な声音だった。
スグルたちが、声のした方に振り返ると、入り口に背の高い、黒いコートに身を包んだ男が立っていた。白い透き通るような、まるで陶磁器のような肌。すべてを飲み込むような黒いつややかな髪。彫の深い、整った顔立ち。何処をどう見ても、美しいという表現しか出てこない姿であるはずだ――。なのに、スグルはその男から不快感しか感じることができなかった。
「お前が〝闇の福音者〟か。ずいぶんと小賢しいと聞いてたんだがな。人質に見張りも立ててないとは。どうやらずいぶんと大袈裟なうわさだったようだな。お陰でなんの苦労もなくマサを助けることができたぜ」
タカが怒りを押し殺した、静かな声で言う。
「助けることができた?これはおかしなことを言いますね」
パチン。男が指を鳴らすと、30人ほどの人影が、男の後ろに現れた。全員、手に手に剣や斧などの武器をもった、たくましい亜人だ。
「ここを抜けて、初めて助けることができた――というんではないでしょうかね?ああ、それと。あなた方はもう1つ勘違いしているようですが、その人の役目はあなた方をここまでおびき寄せること。なので、見張りなんて必要ないんですよ」
「それはなぜだ?人質を使ってこちらの抵抗を封じたほうがいいのは自明のはずだ」
椿が問いただすと、男はそんなこと、とでも言うように冷たい笑みを浮かべた。
「〝食人〟とは儀式なのです。ただの殺戮とは違う。無抵抗の相手をただ殺して食するのではない。相手よりも自分の力が上であることを示し、その相手を自分の中に取り込むことで相手の力をも自分に取り込むのです」
「じゃぁ、もう1つ聞かせろ。なんで俺達を狙った?」
「決まってるじゃないですか。身を守るためですよ。あなた方が街の中で大声で私達〝食人主義者の祭典〟を討つ、と言い合ってるのを耳にはさんだもので」
マサが男に質問していると、タカが静かにスグルたちに近づき、小声で話しかけてきた。
「まず、俺達4人が突っ込んで後ろの亜人を全部引き付ける。そしたらスグルとかいったか。お前と椿の2人であのクソ野郎をブッ倒せ。残りの、お前ら2人は回復と回復役を護衛しろ」
「でも、あの人数ですよ。いくらタカ先輩達でも……」
「なにも全員倒すわけじゃねぇ。時間を稼ぐ。後ろの亜人はあいつの言葉に操られているようなもんだ。奴を叩ければ、操っている本人が消えれば操り人形は無力になる。だから最低でも奴をこの場から逃走させろ」
そこまで言うと、タカはスグルたちに反論する機会さえ与える間もなく、両刃の長剣を腰の鞘から引き抜いた。その刀身は紅く煌めき、スグルは〝紅狼〟というタカの二つ名を思い出した。
「さて、そろそろおしゃべりはお終いとしよう。俺達にも予定があるんでな。ボチボチ帰らせてもらうぜ」
「クフフフ。生憎とそれではこちらの予定が狂ってしまうのでして……。考え直してはもらえないですかね?」
答える代わりにタカたち〝牙狼の騎士団〟の4人はその場から、さながら狩りをする狼のごとく駆け出した。それを迎え撃つように男の後ろにいた亜人達が、飛び出してきた。
「とりあえずお礼代わりに一発かましといてやるぜ。くらいやがれ。〝|あらゆるものをなぎ倒し進む拳〟」
マサが気合と共にグローブを装備した右の拳を目にも止まらないスピードで打ち出すと、拳の先からうっすらと見える巨大な手が出現し、先頭にいた豹のような四肢を持った亜人3人をまとめて後ろに吹っ飛ばした。
「スゲ……。威力もだけど、技の名前もスゲェ……」
「あの圧倒的な威力の拳が、マサ先輩の上級ロールである〝拳闘士〟の特徴だよ」
タカたち4人の後ろで機を窺がいながら、龍司のつぶやきに琴葉が答える。
「でも、あんなに人数差があるんですよ。大丈夫でしょうか」
いつでも回復魔法が唱えられるように、集中力を切らさないようにしながらも、心配した様子で琴葉が言う。
「心配いらないさ。タカ先輩とマサ先輩は私が知る限り、こういった多対一の戦闘でこそ真価を発揮するからな」
椿の言葉が言い終わらないうちに、今度はタカが真紅の刃を上下に振るった。
「地獄の魔狼は劫火を纏い、眼前の敵を喰らい尽くす。〝魔狼の顎〟」
上下に振るった剣先から、紅い炎に包まれた狼の首――いや、狼を模った炎が巨大なアゴを大きく広げながら、敵に突っ込んだ。その姿は北欧神話において、最高神オーディンをひと飲みにしてしまった、魔狼そのものだ。
炎の狼に算を乱した亜人達をの集団に4人は臆することなく突っ込んだ。シュウとユウが巨大な斧とハンマーを振り回し、出来た一筋の隙間をスグルたちは迷うことなく駆け抜け、冷笑を浮かべたままの男と対峙する。2人の背後で、回復役である琴葉を守りながら、龍司と〝牙狼の騎士団〟の4人が亜人たちの攻撃を懸命に防いでいる。
「ほう、単純に突撃してくるだけかと思いきや、小癪にも作戦を考えていたんですね。他の方が私の部下を足止めしておいて、あなた方が私を討ち取る――ということですか」
「フン、部下ではなく操り人形であろう。そんなことより、いいのか?1人孤立してしまっているぞ?」
「クク。クフフフフフ。人の心配より、あなた方こそいいのですか?この状況は……いわゆる挟撃というやつではないんですか」
「ハッ、関係ねーよ。お前を倒せばいいんだからな」
「クフフウ。おもしろい。本当に愉快な方達ですね。せっかくだ。お名前を聞かせて頂けますか?」
「雨獅子スグルだ」
「雪銀椿」
短く名乗りながら、剣を鞘から抜く。
「私の名はファルマー。〝闇の福音者〟などと呼ぶものもいますがね……。天上から追放され、地に堕ち悪魔と化した天の使い、堕天使の血を引く亜人です」
堕天使――。整った顔立ちや美しい姿をしていながら不快感を感じさせていたのはそう言う訳か、とスグルがは内心で納得した。
ファルマーは話しながらいつの間にか手に大型のナイフ〝悪魔の肉包丁〟を構えていた。
「それでは自己紹介も済んだところではじめるとしましょうか」
そんな言葉を聞く前にスグルと椿は地面を蹴って、ファルマーのところに走り出していた。
だが、2人が一歩を踏み出した瞬間、ファルマーは、なんの予備動作もなく、一瞬でスグルたちの間合いに、滑るように飛び込んできた。スグルには、まるでファルマーが5Mほどを瞬間移動したようにすら感じた。
「スグル君!」
思わず立ち尽くしてしまっていたスグルは、椿の言葉で我に返り、目の前に迫っていたナイフの刃を、すんでのところで剣で受ける。その隙を突いて、横に周った椿がファルマー目がけて剣を水平になぎ払う。だが、ファルマーは驚くほどの身軽さで、ナイフを受け止めていたスグルの頭上を1回転しながらヒラリと飛び越え、後ろに周ると、そのままスグルを蹴り飛ばし、椿もろとも、吹っ飛ばす。
「おやおや、威勢がよかったわりに実力のほうはがっかりですね。これでは本気を出すまでもないですよ」
スグルと椿が起き上がるのを、余裕の表情で待ちながら、肩をすくめるファルマー。
「余裕でいられるのも今だけだ」
スグルと椿は起き上がるとアイコンタクトで、ファルマーの左右に周り、挟み撃ちにする。
――獣王矛刃――。
――椿吹雪――。
スグル、椿のアビリティの中で、最も速く手数の多い技を、左右から同時に浴びせる。しかし、ファルマーはそのすべてを見切り、かわし、ナイフで受けると、ナイフを水平に構えて片足を軸にして、独楽のように回転する。スグルも椿も慌てて、剣でガードするが、技を出し終えた直後で、態勢が崩れていたこともあり、踏ん張りが効かず再び吹き飛ばされてしまう。
「痛ぅ。なんという速さだ……」
剣を支えに椿が起き上がる。
「クフフフ。私の力をあなた方の常識で測らないでください。私は半分とはいえ、かつては神に寵愛され、堕天となった後は、悪魔の総帥として君臨した堕天使の力を、血を半分受け継いでいるのですよ」
言葉の通り、ファルマーの力は想像をはるかに超えるものだった。剣のスピードを見れば、スグルの知り得る中で最も優れた剣士である椿の剣技を、片方でスグルの相手をしながら無傷で受けきったのだ。
「そろそろ、こちらから行きましょうか」
言い終わると同時に、ファルマーは、滑るような移動でスグルに襲い掛かる。必死に攻撃を防ぐスグル。相手はナイフ1本であるのに、剣と盾を使い防御しても少しずつガードの隙を付かれ、ガリガリとLPゲージが削られていく。
その隙をみて、反対側に吹き飛ばされていた椿が後ろから、攻撃を仕掛けるが、まるで後ろが見えているかのように、正確にその攻撃をかわしていく。それどころか、2対1の状況であるにも関わらず、ファルマーの攻撃を2人で防ぐのが精一杯だ。
「どうしたんです。攻撃を防ぐばかりじゃ、私を倒すなんてできませんよ」
蔑むような嘲笑を浮かべながら、ファルマーはナイフを振るう。スグルや椿の身体を切りつける。肉包丁の正しい用途として。
「所詮、人間というのは愚か者なんですよ。罠と知りながらノコノコやってきて、喰われる。その愚かな行為の理由を信頼とか言うらしいですけどね。それは理由というより言い訳ですね。愚か者の強がりに過ぎません。それは人間の明確な弱点ですよ」
その言葉とともに振り下ろされたナイフをスグルは剣ではじき返した。
「そんなことはない。タカ先輩の……、シュウ先輩の、ユウ先輩の思いを愚か者の強がりなんて言うのは、許さない」
「その通りだ。仲間を想う気持ちを、仲間を信頼する心をバカにすることは許さん」
スグルの目に、椿の目に今まで以上の強い光が灯る。
「許さない?クフ。クフフフフ。許さないとどうなるんです?今だって2人掛かりで私の攻撃を防ぐので一杯一杯じゃないですか。
信頼。そんなもののせいであなた方も喰われることになるんですよ」
と、ファルマーは再び圧倒的なスピードによる連続攻撃を仕掛けようとしてきた。
だが――。先ほどまでのように、一方的に攻撃することはできなかった。ファルマーが攻撃する瞬間、スグルと椿が同時に動く。片方がファルマーの攻撃を受け止めた瞬間にもう片方が攻撃する。さっきまでスグルと椿は互いの動きを確認して、次の動作を決めていた。よってスグルと椿の動作にわずかなタイムラグが生じていた。だが、今は2人が同じ呼吸で動いている。
まるで1つの意識が2人の人間を動かしているように――。
ふと気が付くと、スグルの剣と椿の剣が柔らかな光で繋がっている。気が付いたのはスグルだろうか、椿だろうか。スグルには、椿には判らなかった。
まるで1つの意識を2人が共有しているかのようで――。
意識が重なっているかのようで――。
「「信頼は、他人を想う心は人間の最も強い武器だ」」
スグルと椿の声が重なる。重なり合って奏でられる。
――さながら2重奏のように。
「なんだ、その光は?それに何なんだ、その動きは。声を掛け合ってるわけでも、アイコンタクトをとっているわけでもないのに……」
理由など知らない。ただ判るだけだった。スグルは椿の次の動作を、椿はスグルの次の行動を。互いに知っているだけだ。だから片方が攻撃すれば、もう片方がその隙を埋めるように動く。
相手が攻撃してくれば、片方が防いで、同時に片方がその隙を付く。
今までは、互いの動作を確認して、別々に動いていた。よって圧倒的な速さを誇るファルマー一人にすら対応できなかった。しかし、どれほどファルマーが速くとも、あくまで1人である。一瞬のうちに1つの行動しか取れないのは自明である。よってスグルと椿が、全く同時に違う動作をすれば、どうしても対処が遅れる。
ファルマーがナイフを振り下ろせば、スグルが盾で受け止め、同時に椿が剣を突き刺す。
スグルが剣をなぎ払うと、ファルマーはそれを弾き、ナイフを振り下ろすが、椿がそれを受け止める。2対1という状況を限りなく活かして、ファルマーの速さに対抗する。
「「くらえっ」」
スグルの紺碧の剣閃と、椿の真白の剣閃が同時に、ファルマーの胸部に、交差しながら襲い掛かる。かろうじてファルマーはそれを受け止めようとするが――。キィィンという澄んだ音が響き、ファルマーの手から〝悪魔の肉包丁〟が弾き飛ばされた。LPもほとんど残っていないだろう。




