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第13話


 総督府で依頼を受けるのは初めてで緊張したが、いつも酒場のマスターから依頼を受けるのとなんら変わることはなかった。


「総督府からの依頼って言っても普通の依頼とあんま変わらないんスね。ちょっと拍子抜けですよ」

「滅多なことを言うんじゃないよ、龍司君。危険度は間違いなく普段のクエストより高いのだから」


 総督府から出てくるなり、そんなことを言う龍司を椿がたしなめる。


「そうは言っても、これからどうするんです?」


 実際、カルチャクスを拠点にしてまだ2週間くらいなのだ。ターゲットである〝食人主義者の祭典〟の居場所どころか、カルチャクス周辺の地理さえ完全に把握していない状態である。


「琴葉君の言うとおりだ。まず何をおいても情報が必要だ。わかっていることが少なすぎる」

「そうですね。大まかでもいいから、とりあえず敵のギルドの規模や、潜伏してそうな場所を知らなきゃ話にならない」

「じゃぁ、とりあえず酒場に戻って、もう1度話を聞くっすか?」


 龍司が首をかしげる。


「そうだな。情報収集の基本は酒場だしな」


 酒場に向かおうとした椿が、何かを思い出したように立ち止まった。


「どうしたんです、先輩?」

「いや、そういえばそろそろ、剣の手入れをしておきたいと思っていたのを思い出してね」

「あ、オレもだ。ちょっと切れ味悪くなってきたし……。でかいクエスト受けたんだから武具工房で手入れしてもらいたいですね」


 スグルがシュラン、と腰の鞘から剣を抜き、刀身(とうしん)を眺める。


「アイテムも色々補充しておきたいところッスね。……それじゃ、こうしましょう。俺と琴葉はアイテムの補充にいってきますから、先輩とスグは工房で剣の手入れしておいてください。終わったらさっきの酒場集合ってことでどうっスか?」


 少し悩んだ後、龍司が提案する。――少しだけ、余計なことを考えていやがるような気もするが、剣を装備しているのはスグルと椿なので文句は言わずにだまっておく。

 

 龍司と琴葉の2人と一端別れて、この街に来てから利用している工房へとスグルと椿は向かう。思わず2人きりになってしまい、先週の日曜日と同じように会話がないまま、黙々と歩を進める。またもや、わ~、なにかしゃべんねーと、とスグルがテンパッていると、椿が前をむいたまま、つぶやいた。


「やっぱり、不安かい?」


 その言葉を聞き、スグルは立ち止まってうつむいたまま、言葉を搾り出した。


「……不安です。でも――、えらそうな言い方になるかも知れないですけど、でも先輩の気持もちも、少しはわかったつもりです」


 そこで、言葉を切り、振り返ってスグルを見つめる椿の顔を正面から、見つめ返す。


「だから……、だから、オレは絶対に先輩をゲームオーバーにはさせません。たとえオレが何回ゲームオーバーになろうとも――先輩だけは絶対に守ります」


 いつものスグルが、横からこのやり取りを見たら、何を身の程知らずなことを言ってるんだ、と笑ってしまっただろう。椿の実力はスグルの実力を、悠々(ゆうゆう)と上回っているのだ。

 だが、同時にこれは、この気持ちは絶対に譲れない、スグルの本心だった。


 そんなスグルの思いを感じ取ってくれたのだろうか。椿は嘲りや皮肉をまったく感じさせない、柔らかく(いつく)しむような微笑をうかべた。


「……ありがとう、スグル君。君のその思いは凄くうれしいよ」


 と、そこで一瞬押し黙った後、今度は困ったような笑顔を作り、でも、と言葉を続ける。


「でもな、スグル君。それは私だって同じだぞ。私だって、君や龍司君、琴葉君を守るためなら、何度ゲームオーバーになっても、例え100回ゲームオーバーになっても構わない。絶対に守ってみせる」

「そ、それは困りますよ。それじゃ、それを食い止めるためにオレは何回ゲームオーバーになればいいんですか?」


 スグルが言い終わると同時に、プッ、と2人同時に噴出し、道の真ん中であるにも関わらず、笑い会う。道行くNPCのキャラが、何だ何だという具合にスグルと椿を見る。


「たしかに、これでは堂々巡りだな」

「そうですよ。延々とゲームオーバーにならなくちゃいけないですよ」


 ひとしきり笑い合った後、再び工房へと歩き出す。


「ならば、互いに互いを守りあおう」


 椿の結論にスグルはうなずく。

すると、同時に胸のうちにあった不安が軽くなった気がした。


「それに――」

「それに……、何です?先輩」

「なんでもない。さぁ、早く工房に行くぞ」

「ま、待ってくださいよ」

 

――それにゲームオーバーになって、転校することになったら、せっかく君が誘ってくれたデートを台無しにしてしまうからな

 椿は、スグルに聞こえないよう、小声でつぶやいた。



スグルと椿の剣、そして預かっていた龍司のダガー(琴葉の武器は打撃属性の杖であり、折れたり、ヒビが入りでもしない限り手入れは必要ない)の手入れを終えた後、酒場に着く直前で、タイミングよく龍司と琴葉の2人と合流し、スグルたちは4人そろって酒場に向かって歩いていた。


「どうするんすか、タカさん。このままじゃマサさんが――」

「シュウ、少し黙れ。どっちにしても行くしかないんだ」


 切羽詰(せっぱつま)ったような話し声が酒場から聞こえてきた。

 さっき聞いたばかりの声だ。


「……なんで、またあいつらなんだよ……」


 龍司が、珍しくため息をつく。


「……別の酒場に行こう……」


 スグルが疲れたように言って、酒場に入る前に回れ右をしようとした時……。バンッ。酒場の扉が勢いよく開き、中から〝牙狼の騎士団〟が飛び出してきた。


「……また、お前らか」


 心底うんざりしたように、団長のタカが言う。


「悪いが、今度は急いでるんだ。とっととどいてくれ」

「なっ――。今まであんたたちのほうから絡んできただけだろ。それなのになんだよ、その言い草はっ」


 龍司が怒ったように言うが、どうやら本当に急いでいるらしい。何も言わずに、そのままスグルたちの脇を通り抜けていく。


「待ってください。タカ先輩。マサ先輩はどうしたんです?」


 そのまま去っていこうとしたタカたちに椿が聞く。そこで遅れながらスグルも気がついた。スグルたちの横を通り抜けたのは3人だけだ。そして、酒場から聞こえてきた、切羽詰ったような話し声。


「……少し別行動取ってるだけだ。関係ないだろ」


 一瞬立ち止まり、舌打ちして椿の質問に答えた後、もう一度、早足で歩き出す。


「タカ先輩!」


 もう一度、椿が叫ぶ。


「~~~っ。……〝食人主義者の祭典〟の連中にさらわれた。まさか、こんな街中でおまけに真昼間から手を打ってくるとは思わなかった。……くそったれ」


 吐き出すような言葉と共にタカが1枚の紙切れを放ってよこした。スグルが受け取り、4人で覗き込む。

 〝食人主義者の祭典〟からの脅迫状だった。内容は簡潔で2時間の間に〝忘れられた森〟にある、奴等のアジトまで来い、というものだ。


「……どうするんです?」


 椿が顔を上げ、静かにタカを見つめる。


「……マサが捕らえられている以上、行くしか選択肢はない」


 苦々しくタカがつぶやく。その後ろではシュウとユウがこぶしを握り締めている。


「待ってください。罠に決まってるじゃないですか」

「だったら、どうしろと言うんだ!すまない、100%罠だから、と言って見捨てるのか?」


 それは……、と琴葉が言いよどむ。

 沈黙――。


「行くぞ。シュウ、ユウ」

「オレたちも行きます」


 歩き出すタカたちの背中にむかって、スグルが静かに言った。


「……何をバカなことを言ってる」


 タカたち3人の足が止まる。


「オレたちも行きます」


「誰がお前たちの力なんか借りるか」

「足手まといなんだよ、引っ込んでろ」


 ユウがスグルに向かって怒鳴りつける。シュウもスグルたちを睨みつける。


「オレたちも行きます」


「100%罠だって言ってんだろうが。普通にやったって危ない相手なんだ。……、それなのになんでそんなことを言う?」


 スグルの繰り返される言葉を聞いてタカが聞き返す。

 そんなこと決まっている。スグルは笑顔で、さも当然のことを言うように静かに言った。


「先輩たちが困ってるからですよ」


 龍司はヤレヤレ、と首を左右に振り、琴葉は真剣な面持ちでうなずく。椿は苦笑いを漏らす。


「シュウ先輩とユウ先輩には言ったじゃないですか。困ってるやつがいたらオレは助けるって――、勇者になるって」


 スグルはステータスウィンドウを表示して、自分のロールをタカたちに見せた。


「…………勝手にしろ」

 タカがつぶやき、走り出す。無言のまま、残る6人もその後を追う。

 向かうは〝忘れられた森〟


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